生成AIの「学習データ」開示へ 知的財産保護の重要性

8月18日の「おはよう寺ちゃん」(文化放送)では、火曜コメンテーターで上武大学教授の田中秀臣氏と番組パーソナリティーの寺島尚正アナウンサーが、「生成AIに対する知的財産権保護」について意見を交わした。

生成AIに対して知的財産保護の試みをやらなきゃいけない時代 

生成AI(人工知能)の事業者向けに、政府が近く策定する知的財産権保護のための基本原則案が判明した。著作権侵害の懸念が根強いAIの学習データの収集方法などを公開させるとともに、特定の創作物がデータに含まれるかどうかを一定の条件下で開示するよう求める。 

生成AIに関する知財保護に特化したルール整備は初めてとなる。 

対象は、文章や画像などを作り出す生成AIのシステム開発者とサービス提供者とする。海外企業も「システムやサービスが日本向けに提供されている場合」は適用すると明記した。米国のグーグルやオープンAIなどが念頭にある。 

基本原則では、学習データの〈1〉概要公開〈2〉権利者への開示〈3〉AI利用者への開示――を通じ、透明性を確保するよう企業に求める。 

法的拘束力のない努力義務だが、日本向けの事業を展開する海外企業にも適用し、技術革新と権利保護の両立を目指す。 

「田中さん、この動きはどうご覧になりますか?」(寺島アナ) 

「重要ですよね。私の身近なところで言えば経済学なんかでも、生成AIをまるごと使って経済学の論文を書く人がいっぱいいるらしいんですよ。変な意味での意欲性がありますよね。僕なんかそんなの恐ろしくて。私、経済学の歴史をやってるんですけど、生成AIに質問してみるとかなりでたらめな事ばっかり言うんです。使いようによっては非常に便利な側面もあるんですが、他人の情報であるとか、存在しないものを捏造したりしますから。信頼性に乏しいものを、あたかも学術的な真理のように流布してしまうと、それをチェックする方も大変なんです」(田中氏) 

「ええ」(寺島アナ) 

「たとえばこんな話があります。新人文学賞を公募すると1万作品とか応募があって、そのうちの大半がAIを使っている。これ、下読みをするだけでも大変ですよね。膨大なコストがかかっちゃうので、こちらもAIで処理していく。どういったものを基にしてきたのか、と」(田中氏) 

「なるほど。“出典はこれ”とかね」(寺島アナ) 

「開発者側から情報提供されていれば、対抗するAIを作ることも可能だと思います。そういった意味でも、こういった試みは重要だと思います」(田中氏) 

生成AIに関する知財保護に特化したルール整備は、企業活動の過度な萎縮を招かないよう、営業秘密など「機微な情報の強制的開示を求めるものではない」とし、罰則も見送った。 

現行の著作権法は、美術品や記事などの著作物を学習データに利用することを原則認めている。著作物に酷似したコンテンツを容易に作り出せる生成AIの登場に伴い、権利保護を求める声が高まっている。 

「今回は罰則を見送るとのことですが、これでどのくらい影響があるのか、ですね」(寺島アナ) 

「私が所属している学会はそういったものの対策も含めて鍵をかけちゃっています。学会員にはオープンなんですが、一般には見ることが難しい状態。一般の人がアクセスできちゃうと、生成AIが学習データに取り込んじゃいますから」(田中氏) 

「吸い取っちゃうってことですよね」(寺島アナ) 

「別の人が、オリジナルな学術論文から生成AIが出力したものを参考にして論文を作ってしまうと、場合によっては先に公表されたりしたらまずいわけです。それを防ぐためにも、人間側も生成AIに対して知的財産保護の試みをやらなきゃいけない時代になったんだと思います」(田中氏) 

「“出典元を公表する”っていうのは効果がありそうですよね。これを義務化するくらいのものがないと厳しいかもしれないですね」(寺島アナ) 

「そういった対策をしないと、例えば『おはよう寺ちゃん』の音声を基にして似たような番組も作れちゃうかもしれませんね」(田中氏) 

 

 

〈出典〉 

生成AI学習データの公開や権利者への開示など要求、海外企業にも適用・罰則見送り…政府が知財保護案 | 読売新聞

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ボブ・ディランの歌詞は「翻訳不可能」⁉ 村上春樹と柴田元幸が語る、シンプルな英語だからこその難しさ

作家・村上春樹さんがディスクジョッキーをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「村上RADIO」。11月3日(火・祝)は、特別番組として『村上RADIO「翻訳夜話」スペシャル~音楽で仮定法を学ぶ~』をオンエア。今回は早稲田大学国際文学館の開館5周年を記念し、10月1日に小野記念講堂で開催された公開録音イベントの模様をお届けしました。

盟友である翻訳家の柴田元幸さんを迎え、進行役の坂本美雨さんとともに「音楽で仮定法を学ぶ」をテーマに白熱の翻訳談議を展開。ビーチ・ボーイズやエディット・ピアフなどの名曲に乗せて英語表現のニュアンスを紐解いたほか、方言・スラングの訳し方やAI時代における翻訳の未来、参加者からのQ&Aまで、言葉と文学の魅力が詰まった贅沢な時間となりました。

この記事では、この記事ではオープニングトークと、前半2曲について語った内容を紹介します。


(写真左から)坂本美雨さん、村上春樹さん、柴田元幸さん



◆Bread「If」

村上)では次いきますね。次は文字通りの「If」。これはもう仮定法以外ではありえないという選曲です。ブレッドが歌います。

<ブレッドの曲が流れる>

村上)この曲は僕が選んだんですけど、これ、歌詞がいいんですよね。

柴田)さっきの「If I Were a Bell」がすごくコミカルな比喩の連発だったとすると、こっちはちょっと教養がかっているんですね。いちばん初めのところが「If a picture paints a thousand words」、もしも絵というものが千の言葉を描けるなら、という言い方。なんで千かっていうと、「A picture is worth~(~の価値がある)」「A picture is worth a thousand words(一枚絵を見せれば千の言葉の値打ちがある/千の言葉と同じくらい多くのことが一枚の絵で伝わる)」という決まり文句があります。それを踏まえてるんですよね。

村上)あとは「If a face could launch a thousand ships(一つの顔が千の船を出帆させられるなら)」これは(ホメロスの叙事詩)「オデュッセイアー」の……。この間、映画「オデュッセイアー」を観てきて、その中でも出てましたね。ヘレネー、すごくきれいな人が千の船を進水させるんですよね。

柴田)ギリシャのあの辺はみんな海に国が面しているから、いくさに行くというと、まず船に乗るわけですね。美女ヘレネーを争っていくさが始まる。そうすると船がバーッと出るっていうことで、「The face that launched a thousand ships」という、その千の船をローンチ、出帆させた顔という決まり文句があるわけです。

村上)あと僕が好きなのは「一度に2ヵ所にいられるものなら、君と一緒に明日と今日にいたい。ずっと君のそばで」。これはロマンチックですね。

柴田)これは気が利いてますね。やっぱりデヴィッド・ゲイツという人は本当に秀才型ですね。

◆Bob Dylan「If Not for You」

村上)次は「If Not for You / Bob Dylan」。これは柴田さんの選曲ですね

柴田)高校の授業で多分みなさん習いますよね。If it were not for~(もし~がなかったら)、そういうフレーズがあるわけですけど。ずいぶん長いですよね。実際には、こういうふうに「If not for」という三語に縮めて、同じく「もし~がなかったら」という言い方に日常ではなることが多いです。まさにそれを使ってディランが「If Not for You(君がいなかったら)」という曲を作っています。

村上)僕が最初にこの曲を聴いた時、まだ高校生か何かで、「If not for you」がどういう意味かちょっとよくわかんなかったですね。

柴田)これは本当にフレーズの意味を知らないとわかりにくいですね。「If it were not for you」が「If not for you」というシンプルなフレーズに直されているということ。そして、この曲でやっぱり見事だと思うのは、ディランは音もすごいシンプルですけど、言葉もシンプルなんですよね。

村上)「If not for you, my sky would fall」は、エディット・ピアフも同じようなことを歌ってましたね。

柴田)確かに。簡単な言葉なんだけど、過激なことを言ったりもするんですね。あと「But it would not be new / If not for you(君がいなかったら、虚しく朝の光を待ってるだろう、朝の光が来ても、その光は君がいないから新しくないだろう)」と。new(ニュー)とyou(ユー)の韻の踏み方とか、こういうのは本当にもう翻訳じゃ全然よさを出せないですよね。

<ボブ・ディランの曲が流れる>

村上)なるほど。本当にボブ・ディランの歌詞って翻訳不可能なものが多いですよね。

柴田)かえって「サブタレニアン・ホームシック・ブルース」とか、難しい言葉を使ってくれるほうが訳しようがあるんだけど、この時期のアルバムとか、「ニュー・モーニング」か、あと「ジョン・ウェズリー・ハーディング」とか、あのあたりのシンプルな構成で作った歌は、本当にシンプルさこそが一番訳しにくい感じですね。

村上)僕が仮定法に興味を持つようになったのは、翻訳をやるようになってからです。仮定法をどう訳すかというのがすごく大事なんだなというのがわかってきたんですよね。
学校の時はあまり興味を持てなかったんですよね。嫌だなと思ってたからね。でも、仮定法を理解してないとうまく理解できないんですよ。

柴田)要するに、そこに書かれていることが事実か事実じゃないかっていうのが、文法のサインからわかるわけですよね。

村上)あとif~で、~wouldとかcouldだとわかりやすいんだけど、前がない場合が多いんですよね。だから、それは仮定法がわかってないとなかなか訳しづらいんですね。

◆The Beach Boys「Wouldn't It Be Nice」

村上)次は柴田さんの選曲でビーチ・ボーイズの「素敵じゃないか」。

柴田)これはですね、「Wouldn't it be nice(素敵じゃないか)」という、ご存知の方も多い曲だと思うのですが、ちょっと珍しいバージョンでお聴きいただきます。

<ビーチ・ボーイズの曲が流れる>

村上)素敵な曲ですよね。

柴田)素晴らしいアカペラ・バージョンで聴いていただきました。これはもちろん「Wouldn't it be nice(素敵じゃないかい)」というところが仮定法ですが、「Wouldn't it be nice if...」まで一緒に覚えていただくと、使い方がすごく広がります。itっていうのはいわゆるあんまり文法用語は使いたくないんですけど、仮主語っていうやつで、長い話をしたいときにとりあえずitと言っておいて、その後詳しく言うという仕組み。「Wouldn't it be nice if...(もしこうこうこうだったら、それは素敵じゃないだろうか)」という言い方ですね。要するに、今はまだ自分たちは子どもで自由が利かないけど、大人になったら何でもできるのにという、そういう楽天的な歌なんだけど、やっぱりビーチ・ボーイズがやるとどこか陰りがありますね。

村上)あの、状況説明をしますと、1960年代の半ばの歌ですよね。当時は結婚しなければセックスはできないということだったんです。だからこの歌では高校生同士のカップルで、このまま大人になれたらすぐに“やれる”のにね。という“やれる”って、言っちゃいけないのか、すぐに仲良くなれるのにね、ということが切実なんですよね。

柴田)そうですね。僕が一番好きなところは「Maybe if we think, and wish, and hope, and pray(もし考えて願って望んで祈ったら), it might come true(実現するかも)」。もうちょっと待てば実現するんですけど……。

村上)might come trueなんですね。

柴田)どこか物事がうまくいかないかもしれないというのが見えちゃってるような響きですね。ブライアン・ウィルソンの生きた人生とか、そういうこともつい考えてしまうので、余計そういうふうに思うのかもしれないんですけどね。

村上)でもこれはやっぱりすごく心がこもった歌だと僕は思います。

柴田)長年聴いていると本当にそう思うようになりました。

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<番組概要>
番組名:村上RADIO「翻訳夜話」スペシャル~音楽で仮定法を学ぶ~
放送日時:2026年11月3日(火・祝) 14:00~15:55
出演:村上春樹、柴田元幸、坂本美雨
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/murakamiradio/

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