ボブ・ディランの歌詞は「翻訳不可能」⁉ 村上春樹と柴田元幸が語る、シンプルな英語だからこその難しさ

作家・村上春樹さんがディスクジョッキーをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「村上RADIO」。11月3日(火・祝)は、特別番組として『村上RADIO「翻訳夜話」スペシャル~音楽で仮定法を学ぶ~』をオンエア。今回は早稲田大学国際文学館の開館5周年を記念し、10月1日に小野記念講堂で開催された公開録音イベントの模様をお届けしました。

盟友である翻訳家の柴田元幸さんを迎え、進行役の坂本美雨さんとともに「音楽で仮定法を学ぶ」をテーマに白熱の翻訳談議を展開。ビーチ・ボーイズやエディット・ピアフなどの名曲に乗せて英語表現のニュアンスを紐解いたほか、方言・スラングの訳し方やAI時代における翻訳の未来、参加者からのQ&Aまで、言葉と文学の魅力が詰まった贅沢な時間となりました。

この記事では、この記事ではオープニングトークと、前半2曲について語った内容を紹介します。


(写真左から)坂本美雨さん、村上春樹さん、柴田元幸さん



◆Bread「If」

村上)では次いきますね。次は文字通りの「If」。これはもう仮定法以外ではありえないという選曲です。ブレッドが歌います。

<ブレッドの曲が流れる>

村上)この曲は僕が選んだんですけど、これ、歌詞がいいんですよね。

柴田)さっきの「If I Were a Bell」がすごくコミカルな比喩の連発だったとすると、こっちはちょっと教養がかっているんですね。いちばん初めのところが「If a picture paints a thousand words」、もしも絵というものが千の言葉を描けるなら、という言い方。なんで千かっていうと、「A picture is worth~(~の価値がある)」「A picture is worth a thousand words(一枚絵を見せれば千の言葉の値打ちがある/千の言葉と同じくらい多くのことが一枚の絵で伝わる)」という決まり文句があります。それを踏まえてるんですよね。

村上)あとは「If a face could launch a thousand ships(一つの顔が千の船を出帆させられるなら)」これは(ホメロスの叙事詩)「オデュッセイアー」の……。この間、映画「オデュッセイアー」を観てきて、その中でも出てましたね。ヘレネー、すごくきれいな人が千の船を進水させるんですよね。

柴田)ギリシャのあの辺はみんな海に国が面しているから、いくさに行くというと、まず船に乗るわけですね。美女ヘレネーを争っていくさが始まる。そうすると船がバーッと出るっていうことで、「The face that launched a thousand ships」という、その千の船をローンチ、出帆させた顔という決まり文句があるわけです。

村上)あと僕が好きなのは「一度に2ヵ所にいられるものなら、君と一緒に明日と今日にいたい。ずっと君のそばで」。これはロマンチックですね。

柴田)これは気が利いてますね。やっぱりデヴィッド・ゲイツという人は本当に秀才型ですね。

◆Bob Dylan「If Not for You」

村上)次は「If Not for You / Bob Dylan」。これは柴田さんの選曲ですね

柴田)高校の授業で多分みなさん習いますよね。If it were not for~(もし~がなかったら)、そういうフレーズがあるわけですけど。ずいぶん長いですよね。実際には、こういうふうに「If not for」という三語に縮めて、同じく「もし~がなかったら」という言い方に日常ではなることが多いです。まさにそれを使ってディランが「If Not for You(君がいなかったら)」という曲を作っています。

村上)僕が最初にこの曲を聴いた時、まだ高校生か何かで、「If not for you」がどういう意味かちょっとよくわかんなかったですね。

柴田)これは本当にフレーズの意味を知らないとわかりにくいですね。「If it were not for you」が「If not for you」というシンプルなフレーズに直されているということ。そして、この曲でやっぱり見事だと思うのは、ディランは音もすごいシンプルですけど、言葉もシンプルなんですよね。

村上)「If not for you, my sky would fall」は、エディット・ピアフも同じようなことを歌ってましたね。

柴田)確かに。簡単な言葉なんだけど、過激なことを言ったりもするんですね。あと「But it would not be new / If not for you(君がいなかったら、虚しく朝の光を待ってるだろう、朝の光が来ても、その光は君がいないから新しくないだろう)」と。new(ニュー)とyou(ユー)の韻の踏み方とか、こういうのは本当にもう翻訳じゃ全然よさを出せないですよね。

<ボブ・ディランの曲が流れる>

村上)なるほど。本当にボブ・ディランの歌詞って翻訳不可能なものが多いですよね。

柴田)かえって「サブタレニアン・ホームシック・ブルース」とか、難しい言葉を使ってくれるほうが訳しようがあるんだけど、この時期のアルバムとか、「ニュー・モーニング」か、あと「ジョン・ウェズリー・ハーディング」とか、あのあたりのシンプルな構成で作った歌は、本当にシンプルさこそが一番訳しにくい感じですね。

村上)僕が仮定法に興味を持つようになったのは、翻訳をやるようになってからです。仮定法をどう訳すかというのがすごく大事なんだなというのがわかってきたんですよね。
学校の時はあまり興味を持てなかったんですよね。嫌だなと思ってたからね。でも、仮定法を理解してないとうまく理解できないんですよ。

柴田)要するに、そこに書かれていることが事実か事実じゃないかっていうのが、文法のサインからわかるわけですよね。

村上)あとif~で、~wouldとかcouldだとわかりやすいんだけど、前がない場合が多いんですよね。だから、それは仮定法がわかってないとなかなか訳しづらいんですね。

◆The Beach Boys「Wouldn't It Be Nice」

村上)次は柴田さんの選曲でビーチ・ボーイズの「素敵じゃないか」。

柴田)これはですね、「Wouldn't it be nice(素敵じゃないか)」という、ご存知の方も多い曲だと思うのですが、ちょっと珍しいバージョンでお聴きいただきます。

<ビーチ・ボーイズの曲が流れる>

村上)素敵な曲ですよね。

柴田)素晴らしいアカペラ・バージョンで聴いていただきました。これはもちろん「Wouldn't it be nice(素敵じゃないかい)」というところが仮定法ですが、「Wouldn't it be nice if...」まで一緒に覚えていただくと、使い方がすごく広がります。itっていうのはいわゆるあんまり文法用語は使いたくないんですけど、仮主語っていうやつで、長い話をしたいときにとりあえずitと言っておいて、その後詳しく言うという仕組み。「Wouldn't it be nice if...(もしこうこうこうだったら、それは素敵じゃないだろうか)」という言い方ですね。要するに、今はまだ自分たちは子どもで自由が利かないけど、大人になったら何でもできるのにという、そういう楽天的な歌なんだけど、やっぱりビーチ・ボーイズがやるとどこか陰りがありますね。

村上)あの、状況説明をしますと、1960年代の半ばの歌ですよね。当時は結婚しなければセックスはできないということだったんです。だからこの歌では高校生同士のカップルで、このまま大人になれたらすぐに“やれる”のにね。という“やれる”って、言っちゃいけないのか、すぐに仲良くなれるのにね、ということが切実なんですよね。

柴田)そうですね。僕が一番好きなところは「Maybe if we think, and wish, and hope, and pray(もし考えて願って望んで祈ったら), it might come true(実現するかも)」。もうちょっと待てば実現するんですけど……。

村上)might come trueなんですね。

柴田)どこか物事がうまくいかないかもしれないというのが見えちゃってるような響きですね。ブライアン・ウィルソンの生きた人生とか、そういうこともつい考えてしまうので、余計そういうふうに思うのかもしれないんですけどね。

村上)でもこれはやっぱりすごく心がこもった歌だと僕は思います。

柴田)長年聴いていると本当にそう思うようになりました。

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<番組概要>
番組名:村上RADIO「翻訳夜話」スペシャル~音楽で仮定法を学ぶ~
放送日時:2026年11月3日(火・祝) 14:00~15:55
出演:村上春樹、柴田元幸、坂本美雨
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/murakamiradio/
村上RADIO「翻訳夜話」スペシャル ~音楽で仮定法を学ぶ~
放送局:TOKYO FM
放送日時:2026年11月3日 火曜日 14時00分~15時55分

※放送情報は変更となる場合があります。

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潮紗理菜「全部の曲が大好きです!」と絶賛!名誉伝説メジャーファーストフルアルバム『OK集』のタイトルに込めた思いとは?

グランジの遠山大輔と潮紗理菜がパーソナリティをつとめるTOKYO FMの生放送ラジオ番組「JA全農 COUNTDOWN JAPAN」(毎週土曜 13:00~13:53)。10月31日(土)の放送には、名誉伝説のこたにさん(Vo.)とけっさくさん(作詞作曲/Gt.)が登場! 10月28日にCDリリースされたメジャーファーストフルアルバム『OK集』について伺いました。


(左から)潮紗理菜、こたにさん、けっさくさん、遠山大輔



名誉伝説は、ボーカルのこたにさんと、作詞作曲、ギターを担当するけっさくさんによる2人組バンド。2023年5月に活動をスタートし、2025年6月から現在の2人体制となりました。

◆潮、名誉伝説に大興奮!

遠山:本日のゲスト、お二方がいらっしゃっていますので、お1人ずつお声をいただいてよろしいでしょうか。

こたに:名誉伝説のボーカル、こたにです。

けっさく:作詞作曲、ギターのけっさくです。

こたに・けっさく:よろしくお願いします。

遠山:よろしくお願いします。紗理菜ちゃんも満面の笑み(笑)。

潮:もううれしいです(笑)! ここ最近は、この日を楽しみに頑張っていたところもあります。

こたに・けっさく:ありがとうございます。

遠山:今日はTシャツも着てね。

潮:そうなんですよ(笑)。私が(名誉伝説のことが)好きだと言っていたら、ファンの方がプレゼントしてくださって。

こたに:そのTシャツも喜んでいます(笑)。


(左から)潮紗理菜、遠山大輔



◆メジャーファーストフルアルバムをリリース!

潮:名誉伝説は、10月28日にメジャーファーストフルアルバム『OK集』をリリースされました!

遠山:おめでとうございます!

こたに・けっさく:ありがとうございます!

遠山:メジャーファーストフルアルバムということですが、こたにさんはいかがですか?

こたに:先日、タワーレコードで店頭に並んでいるのを見て、やっと実感したというか、「あ……本当に世に出ているんだ」と思って(笑)。めちゃめちゃうれしかったです。

遠山:やっぱり、うれしいものですか?

こたに:うれしいですね。『OK集』は本当に時間をかけて作ってきたので、「やっと聴いてもらえるんだ」っていう気持ちで。あと、Xとかでも皆さんが「この曲が好きだ」とかコメントをたくさんくれて、それを見ながらニヤニヤしています(笑)。

遠山:この『OK集』というタイトルも、めちゃくちゃいいなと思って。「NG集」が一般的かなと思うんですけど、みんなが知っている言葉を、ちょっと違う角度から捉えて表現しているようで、引きもあって「いいな」と思いました。

けっさく:ありがとうございます。

遠山:このタイトルは、どのあたりで思いつきましたか?

けっさく:名誉伝説の初期から作ってきた曲には、誰にも言えず、自分自身にNGを出してきた感情が共通しているというか。本音だったり、願いだったり、弱さみたいなものを自分で肯定して、採用してあげた楽曲を集めたアルバムになっています。

遠山:今回、紗理菜ちゃんのメモが「いつも何倍ある!?」っていうくらい付箋もいっぱい貼ってあって、とんでもない量になってるじゃん(笑)。

潮:もう好きすぎて(笑)。

遠山:このアルバムはどうですか?

潮:名誉伝説さんの大好きなところがギュッと詰まっていて。私は勝手ながら、それぞれの楽曲にテーマみたいなのを感じて、「自分だったらこう考えるな」と自分を重ねながら聴けるなと思っていて……全部の曲が大好きです!

こたに・けっさく:うれしい~。

潮:1曲ずつ語りたいぐらいだけど、時間がない。

遠山:そのメモは、もうコピーして2人にお渡ししましょう。

けっさく:ハハハ(笑)。

こたに:ほしい! めちゃくちゃ読みたいです。


(左から)こたにさん、けっさくさん


次回11月7日(土)の放送はBase Ball Bearの小出祐介さん(Vo./Gt.)、関根史織さん(Ba./Cho.)、堀之内大介さん(Dr./Cho.)をゲストに迎えてお届けします。

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<番組概要>
番組名:JA全農 COUNTDOWN JAPAN
放送エリア:TOKYO FMをはじめとする、JFN全国38局ネット
放送日時:毎週土曜 13:00~13:53
パーソナリティ:遠山大輔(グランジ)、潮紗理菜
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/countdownjapan/
番組公式X:@JA_CDJ

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