ノーベル賞の華やかさの裏で――「研究費カツカツ」現場の声

今週はノーベル賞ウィーク。日本人の受賞も発表されましたが、華やかなニュースの一方、研究の現場では「資金が足りない」という声も上がっています。実際、国からの研究費は年々減少していて、限られた資金が光熱費などの経費に回ってしまうことも少なくないそうです。

研究費削減の波の中で…「クラファン」が研究を救う?

そんな中、国の支援だけに頼らず研究を支える、新しい仕組みも生まれています。アカデミスト株式会社の柴藤 亮介さんのお話です。

アカデミスト株式会社・代表取締役CEO 柴藤 亮介さん

「アカデミスト」というクラウドファンディングサイトを運営している会社です。大学にいらっしゃる研究者の方々が、実現したいことや野望を語っていただく。そこに共感した市民の方々が、「少額の支援」を行うというサイトを運営しています。例えば「千円だとお礼のメッセージが研究者から届きますよ」とか、「五千円の場合はレポート記事に名前載せますよ」とか、特典内容を決めて支援いただくんですけれども。

たとえば「世界で一人しかこのアイデア持ってません」っていう研究アイデアって、なかなかお金がつかずに困っている。じゃあ「新しすぎる」からこそまずは、「どうなるかわかんないけど、やってごらんよ!」という、そういうフェーズの研究が多い。AI、生命科学、宇宙、材料系、化学…大学の様々な研究分野の方々に使っていただいている。

クラウドファンディングでは、支援してくれた人に「リターン」と呼ばれるお礼があるのが特徴。たとえば、「1000円でTシャツ」、「3万円で論文に名前掲載」など、金額ごとに内容が変わります。

まずは研究者が「こんな研究をやりたい」とサイトで発信して、それを見た人が「面白そう」と思ったら支援する。集まったお金は目標額を達成すれば研究者へ。達成できなければ返金されるという仕組みです。

<研究者と個人を支援でつなぐ学術系クラウドファンディングサイト「academist(アカデミスト)」>

クワガタのアゴはなぜ大きい?クラファンで300万円

実際に、この研究者のためのクラウドファンディングのサイトで資金集めに成功した方にも話を聞くことができました。静岡大学・理学部の助教、後藤寛貴さんのお話です。

静岡大学・理学部・助教 後藤寛貴さん

私ずっと「クワガタムシ」の研究をしていて、クワガタムシの研究全体を進めるにあたってのクラウドファンディング。

「大アゴ」ってどんな昆虫でも持ってる器官なので、「なんでクワガタムシだけ、あそこをバカでかくできるのか?」。たぶんそこだけで沢山細胞増殖が起こってるはずなんですけど、なんでそういうことが起こるのかを明らかにしたい。

基礎研究の場合は、国から来る「科研費(文科省が出している)」という研究費があるんですよ。それは無条件でもらえるわけではなくて、研究計画書いて申請して、その審査があって、採択されるっていう流れがあります。それが何年間もらえるっていうのが決まってて、前までもらってたやつは「5年」だったんですけど、それが切れてしまう。今年度からゼロになるので、なんとかしなければいけないっていうのが後押しをしたのも確かです。

目標額は200万円で、結果的に300万円集まりました。ありがたかったですね。本当ありがたいです。

<「クワガタムシの「カッコ良さ」の源を解明したい!」後藤さんのクラウドファンディングでは支援総額
「303万2円」が集まりました(アカデミストのサイトより)>

去年の末から2か月間行ったクラウドファンディングで、184人から300万を超える支援が集まりました。テーマは、クワガタの大きなアゴ(あの大きな部位は、ツノじゃなくてアゴだそうです)。「なぜオスだけ、あんな形をしているのか?」という世界的にも珍しい研究で、クワガタ好きの子どもがいる家庭などからたくさんの応援が寄せられたそうです。

ほかにもサイトを見てみると、「難病の治療を目指す研究」や、「温暖化に強い農業の研究」など様々。写真の撮り方やタイトルの付け方など、研究とは別のセンスも試されそうですが、年間で30~40件ほどが掲載され、そのうち9割が目標金額を達成しているということです。

こうした仕組みが生まれる背景にはやはり、「国の支援がどんどん減っている」という現実。まず大学に配られる「運営費交付金」はこの20年でおよそ13%減少。国の助成金「科研費」も競争が激しく、通るのはわずか3割。試薬を買うのもためらったり、学会の旅費を自腹で出したり、現場はカツカツだと教えてくれました。

煩雑な研究費申請をOBが支える「研究コンシェルジュ」

そこで、クラウドファンディングのように「外に向けて発信する」動きがある一方で、大学の中でも、新しい動きが出てきています。それは、いったん退職したベテランの先生たちを呼び戻して、若手の研究者をサポートしてもらう仕組み「研究コンシェルジュ」と言う制度です。どんなものか、大阪大学・工学研究科・特任教授の谷口 研二さんに伺いました。

大阪大学・工学研究科・特任教授「研究コンシェルジュ」 谷口 研二さん

「谷口先生、お暇?」という風な形で呼ばれてそして来てみたら、「若手の先生方を指導してくれないか」と。いろんな相談に応じますと。「研究資金獲得のための申請書」、そういったものをどう書くか。それから「採択に至るまでの模擬面接」。

本来一番できるのが30代後半~40代。ところがその先生方が本当に忙しくて、研究につぎ込める時間というのは平均的には30%ぐらいになってきてるんですよ。外部資金を獲得するにしても、もの凄くフラストレーションが溜まって、色んな仕事で走り回ってる状態は避けたい。

すごいアイデアは一杯出てくるんですよ。ただ、「運営費交付金」というのは、毎年大学に1%ずつカットされてますよね。そして物価高になってますし、実際に使えるお金がどんどん減ってきてる。日本全体の研究レベルが下がってきそうな気がします。「お暇?」なんて聞かれると、こりゃ行かないかん…。

偶然にも、先日ノーベル生理学・医学賞を受賞した坂口志文さんと同じ大阪大学ですが、こちらは工学部の取り組み。いったん退職した先生が、「コンシェルジュ」として現場に戻り、若手研究者の研究資金をサポート。科研費の申請書づくりには、1ヵ月かかることもあるそうですが、書類づくりなどを手伝うことで、外部資金の採択率がおよそ2・7倍に増えた分野もあったそうです。

その結果、若手が研究に専念できる時間も増えたといいます。谷口さんは、「目に見える成果ばかりを追う風潮の中で、すぐには形にならない基礎研究こそ支えが必要だ」と話していました。

華やかなノーベル賞の裏側には、こうした土台の研究を支える環境づくりが欠かせません。挑戦の芽をどう守り育てていくか、社会全体で問われています。

(TBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」取材:田中ひとみ)

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自動車修理工場の女性社長が「自動販売機のハンバーガー」を開発

トラックなどのドライバーさんのなかには、昭和の頃は、よく幹線道路沿いにあった自動販売機のハンバーガーで、お腹を満たした経験がある方もいらっしゃることでしょう。じつは最近、令和版の「自動販売機のハンバーガー」がじわりじわりと増えているんです。今回は、この自動販売機のハンバーガーを手掛けている自動車修理工場の方のお話です。

ハンバーガー自販機と小林さん

それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。

東京・新宿から中央道の高速バス、または新幹線と飯田線の特急「伊那路」を乗り継いで、およそ4時間の長野県飯田市に「ガレージいじりや」という自動車修理工場があります。敷地内には、トヨタ・パプリカ、マツダ・シャンテをはじめ、昭和の車がズラリ。しかも、工場の前にある懐かしい自動販売機コーナーが目を引きます。

お店の代表・小林由季さんは、埼玉県出身の41歳。小さい頃、ちょうどミニ四駆が大人気だったこともあって、クルマに興味を持ちました。19歳でオートマチック車限定の運転免許を取ると、街を颯爽と駆け抜けていった、白い「マツダ・RX7」に心躍ります。

『カッコいい!あのクルマに乗りたい!!』

そう思った小林さんは、知り合いの自動車関係者に相談すると、軽くあしらわれました。「RX7? アンタ、あのクルマ、マニュアルだし、ロータリーエンジンって知ってるの? 乗りたいなら、自分で自動車が整備出来ないと、まず無理だよ」

愛車のマツダ・シャンテと小林さん

マニュアルもロータリーエンジンも、全くチンプンカンプンだった小林さんですが、乗りたい思いが高まって、マニュアルで免許を取り直し、自動車整備士を目指します。男社会の自動車修理工場で、厳しい試練を乗り越えて、見事、整備士資格を取得。縁あって信州に移り住むと、趣味で借りたガレージで、ノーマルタイヤからスタッドレスタイヤへの履き替えを請け負ったことをきっかけに、2010年、自ら自動車修理工場を立ち上げました。

やがて、工場のスタッフが昭和43年製・スバル360の修復を成し遂げたことから、小林さんも古い車に興味を持ち、旧車が続々持ち込まれて、車雑誌にも注目されます。あれよあれよと、旧車好きならまず知らない人はいない工場に成長。小林さんは雑誌連載企画で、旧車でレトロな自動販売機巡りをすることになりました。

ところが、ここで小林さんは大変なことが起きていたことに気付くんです。

『大きな道路沿いにたくさんあったハンバーガーやうどん・そばの自動販売機コーナーがどんどん無くなっている……』

24時間営業のコンビニエンスストアが増えた一方で、自動販売機は経年劣化、オーナーさんの高齢化も進んで、自動販売機コーナーは次々と姿を消していたんです。そんな折、小林さんはお祖父さまを亡くしたことで、小さい頃、自動販売機のハンバーガーをなかなか買ってもらえなかった記憶がよみがえりました。

『あの思い出の、自動販売機のハンバーガーを残したい。ならば、ハンバーガーを作っている食品メーカーを助けよう!』

自動販売機コーナー

そうひらめいた小林さんは、さっそく自動販売機用のハンバーガーを仕入れます。自動車工場の前に冷蔵機能付きの自動販売機と電子レンジを設置して販売を始めると、ちょうどコロナ禍と重なったことで、テイクアウトのニーズをつかんで大繁盛。各地のレトロ自動販売機で売れたハンバーガーのおよそ4倍を1台で売り上げました。

小林さんはもうイケイケドンドン、自動販売機を増やして各地で大人気となりますが、あまりの売れ行きにハンバーガーメーカーのほうが悲鳴を上げてしまいます。安定した納品が出来ないので、もう勘弁してくれませんか、と言われてしまったのです。代わる製造業者も無く、困り果てた小林さん、思い切りました。

『ハンバーガーを作ってくれる会社が無いなら、自分の会社で作ってしまおう!』

もちろん、小林さんは自動車整備士ではありますが、食品の知識は全くゼロ。体当たりで、様々な食品製造に関する許可や食品衛生を、片っ端から学んでいきます。食品部門の「いじりやフードサービス」も立ち上げ、ハンバーガーを作ってみましたが、パンはパサつき、肉の脂は溶け出し、レタスなどの生野菜は安全性の面で使えません。しかも、自動車修理工場と食品工場の二刀流で、睡眠時間3時間の日々が続きました。

ふんわりバンズのチーズバーガー

それでも試行錯誤を繰り返し、味やソースにもこだわったチーズバーガーに辿り着いて、安定した製造、出荷も出来るようになりました。今は、全国で39台の自動販売機が元気に稼働中。自動車修理工場生まれの自動販売機とハンバーガーは、各地域で話題になっています。

「気合と根性でやってきました」と笑う小林さんですが、やりたいことはいっぱいです。

「レストランもやってみたいですし、クルマのテーマパークがあっても面白いですよね。ハンバーガー片手にみんなに巡ってもらって。夢は大きく持てば、きっと叶います!」

「RX7に乗りたい」から始まった小林さんの夢、今はまだ、その途中です。

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