成田闘争の今
今回は、千葉県の成田空港についてです。現在、成田空港では、3本目となる新しい滑走路の建設と、今ある滑走路を延ばす計画が進んでいます。その土地をめぐって、いま何が起きているのか。この問題を取材した、東京新聞特別報道部の太田理英子記者に聞きました。
成田で再び「土地収用」
東京新聞特別報道部 太田理英子記者
千葉県の成田空港で機能強化を図るために、滑走路の新増設を進める計画が持ち上がっているんですけど、一部の地権者の方たちが、移転に対してまだ受け入れていなかったりとか、あるいは相続の問題などで移転ができない状況にある中で、このままだと、当初予定されていたスケジュール通りに滑走路の供用が始められないという状況に陥っていて、その中で、空港側が土地の強制収用を可能とする土地収用制度というものの活用に舵を切ったということが、今年7月に大きな話題となりました。
「土地収用制度」は、公共事業に必要な土地について、持ち主との合意がまとまらない場合でも、一定の手続きを経て、補償金を支払ったうえで取得できる制度です。
成田空港でこの手続きが申請されれば57年ぶり。長く「禁じ手」とされてきました。
その背景にあるのが、60年前に始まった「成田闘争」です。1966年、国は現在の成田空港がある地域に新しい国際空港をつくることを決定。しかし、地元への十分な説明がないまま計画が進められたとして、農地を失う住民たちが強く反発しました。土地の強制収用をめぐって、機動隊と反対派が激しく衝突し、死者も出ました。
その後、1990年代に入って、国と反対派が公開の場で直接話し合う「成田空港問題シンポジウム」が始まります。
当時、反対同盟の事務局長として、この話し合いに参加したのが、芝山町に住む石毛博道さん(77歳)です。かつては空港建設に反対する側の中心にいた石毛さん。しかし今は、新しい滑走路を進める側にいます。何が変わったのでしょうか、話を聞きました。
反対から推進へ
芝山町・石毛博道さん
シンポジウムで、予想外の結論が出るわけですよね。間違いだったという。申し訳なかったというね。謝ってそれから二期工事の事業認定を取り下げるんですよね。あの決断によって、結局反対していた人たちの気持ちというのが動くんですよね。頭を下げてるものに、拳を上げ続けるわけにはいかないんじゃないかと思う人たちが、だんだん増えていって、そこで反対運動というのは、だんだん収束してくんですよね。そこで初めて話し合いの最後の局面で、共生に基づく空港作りという。そういう新しい考え方が入ってくるんですよね。
国がそれまでの進め方を認めて頭を下げたことで、地元との関係は大きく変わりました。
残された土地については、強制的に取得するのではなく、地域と話し合って解決していく。その後の成田空港は「対立」から「共生」へと方向を変えていきます。
では、なぜ今、さらに滑走路を増やすのか。
成田空港では、今後さらに国際線の需要が増え、現在の2本の滑走路だけでは対応しきれなくなるとして、3本目となる長さ3.5キロの「C滑走路」の建設が進められています。この計画に伴い、芝山町と多古町のおよそ200戸が移転の対象となり、石毛さん自身も、この秋に住み慣れた土地を離れる予定です。
それでも石毛さんが計画を進める側にいるのは、今回は60年前のように国から一方的に押し付けられた空港ではなく、地域側も計画段階から関わり、空港との「共生」を模索してきた経緯があるからです。
ただ、その「共生」をめぐっては、今も意見が分かれています。空港から南東におよそ6キロ。芝山町で60年以上暮らしてきた戸村智さんは、現在の計画に反対しています。
「飛行機をなくせ」ではない
芝山町・戸村智さん
ここは住みやすい場所だからってきたんだよ。音っていうのは、振動波なんですよ。振動もあるんです。騒音もうるさい。うるさいがゆえに眠れない。例えば俺はこの騒音なんて全然うるさいとは感じねよっていう人もいる。でも、もう音はもう勘弁してくださいよ、俺はもう嫌でしょうがないっていう。とかさ、ある人はうるさくて眠れねよって。生活しやすい場所に定住して環境があって、それがあってこそ経済発展なんですよ。
戸村さんが問題にしているのは、空港そのものだけではありません。これからさらに増える飛行機と、長くなる運航時間です。計画が進むと、成田空港で発着できる回数は、現在の年間34万回から50万回へ、およそ1.5倍に増える予定。運航できる時間帯も広がり、空港全体では朝5時から深夜0時半までとなる計画とのことです。
戸村さんたちは、飛行機を一切飛ばさないよう求めているわけではありません。現在受け入れている騒音に加えて、さらに早朝や深夜まで運航が広がれば、住民の睡眠や生活への負担が大きくなるとして反対。現在は、国と空港会社を相手に、機能強化に伴う許可などをめぐって裁判も起こしています。
一方、空港会社側は、これまでに説明会を400回以上開き、計画に必要な土地の9割以上を確保してきたそうです。
それでも取得できていない土地が残っているため、今年7月、最終的には持ち主の同意がなくても土地を取得できる「土地収用制度」を活用する方向へ進みました。しかし、新しい滑走路をめぐって再び「土地収用」という言葉が出てきた今、空港と地域がどう共生していくのかが、改めて問われています。
(TBSラジオ『森本毅郎・スタンバイ!』より抜粋)
