「物流の2024年問題」解決の兆しは
渡辺麻耶が木曜日のDJを担当するFM FUJIの番組『Bumpy』(毎週月曜~木曜、13:00~18:50)内のコーナー「CLOSE UP TODAY」(毎週木曜、17:35~)。5月9日のオンエアにフリージャーナリストの松田宗弘さんが出演し、物流の2024年問題について解説しました。
松田:トラック運転手の時間外労働規制が4月から強化され、輸送力の低下が懸念される「物流の2024年問題」です。4月19日付の山梨新報で報じた記事を解説します。
麻耶:新年度が始まった先月から、「物流の2024年問題」についてテレビや新聞報道が結構、ありましたが、改めてどういう問題なのでしょうか。
松田:「改正働き方改革関連法」が4月から施行され、それまで上限がなかったトラック運転手の年間時間外労働時間が「上限960時間」(月間だと同80時間)へと規制された。しかし、その分労働時間が減り、年間14%の輸送力不足が懸念される――という問題です。目的はトラック輸送業界が長年、低賃金、長時間労働できている構造的な問題の改善でした。
国の調査では、トラック運転手の年間労働時間(2021年度、全国)は全産業平均より約20%割長い2512時間にもかかわらず、年間所得額(同)は446万円で、全産業平均より約9%低かった。労働環境が厳しいからか、数字が大きいほど人手不足を示す「有効求人倍率」は、全産業平均の1.1倍に対し2倍にもなっています。長時間労働、低賃金を裏付ける数字です。
麻耶:輸送力不足となると社会への影響は大きいですよね。国はどうカバーするのでしょうか。
松田:法改正と並行し国は昨年6月、「物流革新に向けた政策パッケージ」を発表しました。この中にいくつもの課題と対策の方向性が盛り込まれています。たとえば、トラックの長い荷待ち時間や、短い納期、孫請けなどにまで広がるトラック業界の多重下請け構造などの「商慣行の見直し」▽トラック輸送から、鉄道や海運など大量輸送機関への転換(モーダルシフト)やDX(デジタルトランスフォーメーション)の活用による「物流の効率化」▽荷主・消費者の「行動変容」へ向けた新たな仕組みの導入と「再配達率」の半減(現行11%→6%)――などです。
麻耶:宅配便や郵便物の再配達率は、昼間、不在のお家も多く、配達の方には大変な負担となるだけに、再配達率の半減はとても大事だと思います。
松田:本当にそうなのです。そこで山梨県も国の動きをみながら、物流を改善するための独自の条例を6月議会に提出することになりました。
麻耶:どのような内容なのでしょうか。
松田:所管する県産業政策課によると、県条例は国の政策を補完する“理念条例”で、再配達率の低減を目的に、不在の時は玄関先などに荷物を置く「置き配」を推進する内容です。また、県は条例と合わせて、「宅配BOX」の導入補助も創設する見込みです。
ただ、「置き配」には運用上の課題もあります。県が3月に設置した「物流の2024年問題検討委員会」の初会合では、物流会社の委員から、「置き配荷物の盗難・破損などへの対応が必要」などの意見が出されました。この懸念は確かですが、「置き配」は治安の良い日本だからこそできる施策で、その推進は胸を張って良いのではないかと思います。
県産業政策課では、今、課題洲出のため関係者への聞き取りも進めています。記事では、検討委員会の第2回会合をGW明けに予定し、条例案の骨子を示す予定と報じましたが、GW明けに同課に確認したところ、開催時期は今月下旬にずれ込むということでした。
麻耶:置き配の普及が期待されますが、低賃金や荷主・消費者の「行動変容」など、困難で時間のかかりそうな問題がまだたくさんありますね。
松田:難問山積です。再配達率の低減は、届け先が家庭の場合に物流を効率化してコストも引き下げる話でした。届け先が企業などの事業所の場合は、「時間指定」などへのこだわりを最小限にして物流コストを下げる――これが国の政策パッケージにある「荷主・消費者の行動変容」で、いずれも、コスト削減の話です。一方、荷主企業の意向などから値上げが難しい「運賃改定」をできるような環境にしていくことが収入アップの観点の話になります。つまり、「コスト削減と増収」によって生まれたお金を、「賃上げ」や「運転手確保」の原資に回す「正の循環」が必要不可欠です。従来は、この両側面が難しかったわけです。
麻耶:諸問題の改善への見通しについて、松田さんはどう思われますか。
松田:この問題に関連する調査を、帝国データバンク甲府支店が荷主企業を対象に実施、3月に結果を公表しました。回答111社のうち荷主としての対応策について、複数回答で「輸送スケジュールの見直し」「運送費の値上げ受け入れ」がともにトップの36%となりました。
この結果を裏付けるように、県トラック協会路線部会部会長の山梨貨物自動車の住吉常務も、「どちらについても、荷主の理解が進んでいる」と話していました。また、帝国データバンク甲府支店の岩渕支店長は、「今回のような変革期に対応できないと、トラック会社は、倒産・廃業、合併や買収などにより、一定程度、淘汰・再編されていく可能性がある」と指摘しました。物流業界が変革期にあるのは確かで、一般消費者への「置き配」の普及や荷主企業の意識・ニーズの変化は、“変革への確かな追い風”と感じます。
Twitterハッシュタグは「#ダイピー」(月)、「#ばんぴーのとも」(火)、「#てるぴー」(水)、「#ばんまや」(木)
※該当回の聴取期間は終了しました。