浅田次郎の不思議ワールドへようこそ!借金に苦しみ、死を決意した不動産屋の社長が、ふと足を踏み入れた懐かしい街角。そこには、あの日と同じ「姫椿」の花が咲いていた。
ラジオ日本『わたしの図書室』では1月8日と15日の2週にわたり、浅田次郎の「姫椿」を紹介。バブルが崩壊し、人々が不況にあえいでいたころ。絶望の中で、貧しくても愛と夢に満ちていた昔の自分と出会った男の物語。声優・羽佐間道夫がぬくもりあふれる朗読を聞かせる。
【浅田次郎の「姫椿」】
タイトルになっている「姫椿」は、この物語ではどうやら「山茶花」の別名として登場しているようだ。他人が「山茶花だ」と言っても、銭湯の主人は「いや、あれァ、姫椿ってんだ」と言い張っている。ヒメツバキは、春から夏にかけて白やピンクの花をつけるツバキ科の樹木だが、一般的には「サザンカ」の別名としてもこの呼び名がよく使われている。
「やっぱり今夜にしよう」……。主人公は、バブル崩壊後の不況で、不動産会社の経営に行き詰った中年男・高木。多額の負債を抱え、つきあいのあった銀行からも見放されてしまう。万策は尽きた。家には妻と、まだ成人していない3人の子供がいる。高木は家族を守るため、自分に高額の生命保険をかけ、ある夜、自殺を決意する。そして、乗り込んだタクシーで、死に場所と決めたホテルに向かう途中、偶然、ある町を訪れる。見覚えのある古い銭湯。あ、あの頃と変わらないオヤジもいる。垣根の花はなんだっけ? そう、これは姫椿! そこは、高木がすっかり忘れていた、妻との思い出の場所だった……。冬の夜の寒空の下、絵の具をまき散らしたように咲く赤い花。物語のラストシーンは一幅の絵画のように美しい。
【浅田次郎の人生と作品】
読む者をほろりとさせる人情ものの短編小説、生死の境を超越する独特のファンタジー、そして時代劇や大河小説……。浅田次郎の作品は、ジャンルの多彩さと、懸命に生きる人々へのあたたかい目線、巧みなストーリーテリングが魅力で、愛読者の心を常に放さない。
浅田次郎は、幼いころからとにかく本が大好きで、「自分で書いたらもっと面白いだろう」と中学時代には小説家を目指すようになった。一方で、体を使うことも得意で、高校卒業後は陸上自衛隊に入隊。その後、1991年、39歳の時、「とられてたまるか」で作家デビュー。1995年には「地下鉄に乗って」で吉川英治文学新人賞、その2年後に短編集「鉄道員」で直木賞を受賞する。
自衛隊を舞台にした青春グラフィティ「歩兵の本領」や、幼いころ、父親に見捨てられた過去がある中年男の物語「角筈にて」、一時、働いたことがあるファッション業界の内情を描いた「伽羅」など、自分の体験をもとにした作品も多い。また、「鉄道員」「うらぼんえ」「椿山課長の七日間」など、この世とあの世が交錯する不思議な世界観も特徴のひとつ。先祖が武士だったため、武士もの、時代劇も多い。新選組がテーマの「壬生義士伝」をはじめ、「大名倒産」「柘榴坂の仇討」などは映画化もされた。
しかし、何と言っても、ライフワークは「蒼穹の昴」シリーズ。清朝末期の中国を描いたこの歴史超大作が、今年、ついに完結を迎えることになり、いま、巷の話題をさらっている。
【放送内容】
1月8日・15日(木)23:30~24:00
朗読作品:浅田次郎「姫椿」
朗読:声優・羽佐間道夫
- わたしの図書室
- 放送局:ラジオ日本
- 放送日時:毎週木曜 23時30分~24時00分
- 出演者:羽佐間道夫
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※該当回の聴取期間は終了しました。
