ファーウェイ締め出しはアメリカの対中制裁

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(5月17日放送)に外交評論家・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の宮家邦彦が出演。米中貿易摩擦について解説した。

ファーウェイのショップ=2018年12月9日、中国・深圳(共同) 写真提供:共同通信社

トランプ大統領がアメリカ市場から中国のファーウェイを締め出し

アメリカのトランプ大統領は5月15日、アメリカ企業に対して安全保障上の脅威がある外国企業の通信機器の調達を禁じる大統領令に署名した。名指しは避けつつも中国通信機器大手ファーウェイなどが念頭にあると見られている。

飯田)これはきょう(17日)一面トップが3紙ございまして、毎日新聞、産経新聞、東京新聞と、どうなのでしょう。これは大きなニュースですか?

宮家)これは単なる貿易問題、もしくは技術の、5Gの話などではないと私は思っています。いつも言っていることですが、米中の大国間同士のどちらが世界を仕切るかという覇権争いです。こういうことは、冷戦時代には米ソでありました。その後、アメリカが1人勝ちをした時代が10年くらいあって、更に中国がだんだん追いついて来て、また大国間同士のライバル関係が復活した。更に悪いことに、アメリカが変な大統領になってしまったものだから、アメリカの力が随分落ちたように見えるので、その分、言い方が難しいのだけれど1930年代のように、いろいろな間違った判断が繰り返される時代になってしまったのだと思っています。現在の混乱はその一環としてあるものです。1930年代に日本はABCD包囲網などをやられたではないですか。それと同様、今回はファーウェイだけの問題ではなくて、要するにアメリカの対中制裁ですよ。経済制裁、もしくは締め付けです。この米中の覇権争いはかなり本格化していて、後戻りできないところまで来ていると私は思っています。
日本の経済的な判断はもちろん大事です。情報のシステムをどう構築するのか、コスト、技術はどうするか、しかしそれだけではないというように考えなくてはいけない。もう少し戦略的な判断が必要だろうと。それを企業に求めるのは難しいけれども、国家としては戦略的な判断が必要な時期になっていると私は思います。

飯田)1930年代の事を思い起こすと、ブロック経済で各国が自分たちの陣営で固まろうとした。

宮家)そう。昔の技術だと、やはり目に見える地域的な色彩が強かったですよね。しかし、いまは物理的な地理の問題よりもデジタルの世界、サイバーの世界で中国中心の1つの経済圏、デジタル経済ブロックですよね。それとアメリカ中心の経済圏がある。後は残りの部分があって、それがこれから草刈り場になるということです。

飯田)残りの部分がどちらになるかと。

宮家)ええ。中国はもう既に、グレートファイアーウォールと英語で言うのだけれど、壁を作っているわけです。冷戦時代、鉄のカーテンが昔あったではないですか。今はデジタルカーテンですよ。

飯田)なるほど。

パリで記者会見に臨む(左から)欧州連合(EU)のユンケル欧州委員長、習近平・中国国家主席、マクロン仏大統領、メルケル独首相(フランス・パリ)=2019年3月26日 写真提供:時事通信

簡単に降りられない習近平氏~この争いは10年、20年と続く

宮家)当初アメリカは中国をいい意味で資本主義化して投資をして、中国社会が変わるのを待ったのだけれど、中国社会が変わらなかった。だったら話は別だということで、こうした逆の動きが始まってしまった。中国はもう少し上手くやれば中国社会が良くなったかもしれないと思うのだけれども、こんなことをやられたら、中国人で無くても頭に来ると思いますから、なかなか降りる、譲歩すると言わない。ここで降り方を間違えたら、習近平さんの国内的な、政治的な権威にも関わる話ですから。ガチンコが当分続くということですね。これはあと10年、20年続くといつも言っておりますけれど、ますますその様相を呈して来たと思います。

飯田)第3国は草刈り場になる可能性がある。既に中国陣営に傾いているのかな、みたいな国もありますよね。

宮家)ええ。ヨーロッパにもいますけれどね。イタリアなどは一帯一路に流れて行ってしまった。しかしヨーロッパにもカギになる国があります。例えばドイツとかフランスがどう動くかは極めて重要だと思います。ドイツも必ずしもアメリカに同調してはいません。アメリカも一昔前に比べたらやり方が滅茶苦茶ですからね。だからどっちもどっちです。そういうデジタルの囲い込みと言うか、デジタル経済ブロック化が進んではいけないのだけれども、それを何とか回避できないかと。なかなか難しいですね。

飯田浩司のOK! Cozy up!
FM93AM1242ニッポン放送 月-金 6:00-8:00

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トランプ大統領が5月25日に来日~日米首脳会談は27日に開催へ

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(5月17日放送)に外交評論家・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の宮家邦彦が出演。トランプ大統領の来日の日程、そこから見える現在の日米関係について解説した。

総理大臣官邸 – Wikipediaより

トランプ大統領の来日日程が固まる

国賓として5月25日~28日まで来日するアメリカのトランプ大統領の滞在中の日程が固まった。27日の月曜日に安倍総理大臣と会談、また5月に即位された天皇陛下と外国首脳としては初めて会見し、宮中晩餐会にも臨む。更に総理とのゴルフ、大相撲の千秋楽の観戦の予定もあるようだ。

飯田)25日の夕方に専用機で来日し、26日はゴルフと相撲、27日に首脳会談という日程です。

宮家)これは大サービスでしょう。相撲もある、陛下との会見もある。そして国賓でしょう。アメリカではナルシストなんて悪口を言う人もいるけれど、自己愛の強い彼にとって非常にハッピーなことで、大喜びしてくれるのではないかと思います。アメリカの大統領ですから、それだけの価値があるのですがね。アメリカと日本の関係が非常に良好だということを象徴するような旅になるのではないでしょうか。もちろん、そのなかできちんとした議論をしなくてはいけないのですが、アジアに対して更に関心を持ってもらって、そして日本の中国、北朝鮮に対する懸念というものを何度も何度も擦り込んで理解してもらわなくてはいけない。大事な会議になると思います。

【拉致被害者家族会・救う会合同会議】会議後、会見する(右から)飯塚繁雄さん、横田早紀江さん、横田拓也さん、横田哲也さん=2019年2月17日 写真提供:産経新聞社

拉致被害者家族と面会した初めての米国大統領

飯田)拉致問題ということで言うと、拉致被害者家族の皆様とも面会をするということです。前回来日したときも会っていましたよね。

宮家)いままではリップサービスはしてくれても、ここまでやってくれる大統領はいなかったので、そういう意味でも画期的ではありますよね。

飯田)菅官房長官が先日アメリカに訪問しましたけれども、大統領のみならずアメリカの閣僚たちにも拉致問題がかなり浸透して来ていると。やはりトップがこれだけの関心を示すと、下も付いて来るということはあるのですか?

宮家)それはそうでしょう。普通であれば、トップが言わなかったら、拉致問題はもちろん我々にとっては大事だけれど、アメリカにとっては1つの重要問題でしかないと言ったら言い過ぎですけれども、我々の思うところとは違います。そのなかでトランプさんがあれだけ関心を持ってくれている問題を、下の人は聞かざるを得ないですからね。やらなかったらクビになってしまうから、真面目にやる…そういう好循環ですね。

ペンス副大統領との会談などのため米国へ出発する菅義偉官房長官(中央)=2019年5月9日午前、成田空港 写真提供:時事通信

貿易交渉~日本の優先順位は低い

飯田)一方で日本との間には、貿易交渉がこれから先に控えているわけですよね。

宮家)アメリカにとって、いちばん大きい問題は中国であることは間違いないのだけれど、報道でも出ていますが、自動車などは言って来るでしょう。大統領令を出すとか出さないとか言っているし。

飯田)自主的な輸出制限をしてくれと。それか関税をかけるか。

宮家)そんな大統領令などと言われても、我々の大統領ではないのだから、何を勘違いしているのだと思うけれども、あれも大統領選挙のための戦術ですよ。トランプさんにとっては2020年の選挙をどうやって勝つか、そして4年前に支持してくれた人たちの支持が弱くならないように、それをつなぎとめる為には「日本の自動車が、中国が」などとやって、何とか支持者の関心を高めようとしているのだと思います。

飯田)そのために、貿易交渉のある程度の合意みたいなものを、アメリカとしては早く決着したいというモチベーションがあるのですか?

宮家)そうですね。しかし、貿易問題について誤解を恐れずに言えば、トランプさんにとっては中国がいちばんの問題であって、日本やヨーロッパも大事だけれど、優先順位は低いと思います。だからある程度のものができればいい。ある程度のものと言っても、こちらにとっては大変なことなのですけれど、為替条項だってあるのだから。しかし残念ながら旧NAFTA、アメリカとメキシコとカナダの新合意で、新しい文書ができましたよね。あのなかにも為替条項が入っていますから、それで日本にも攻めて来ると思います。しかし最終的にはすべて中国を念頭に置いたものだと思います。

飯田)そういう意味で言うと、アメリカとしては日本が離反しては困るけれど、という微妙な匙加減をするということですか?

宮家)いつも言うことですけれど、日本はTPPがあって、アメリカがやっと合意したと思ったら抜けてしまったわけだから、TPPまでだったらまだいいのです。それ以上の合意なんてとんでもない話だと。出て行った奴にそんな偉そうなことを言われる筋合いはないですから、そういう意味では強気で行って良い部分もあると思います。

【大相撲五月場所(夏場所)4日目】国技館を視察する米国の警備関係者とみられる一団=2019年5月15日午後、東京都墨田区の両国国技館 写真提供:産経新聞社

防衛政策面に問題はない

飯田)安全保障面で言うと、シャナハンさんという人がいまは国防長官の代行をやっていますけれど、就任するであろうと言われています。6月にも日本に来て、そこでも防衛大臣、或いは総理とも会談をするのではないかと言われています。

宮家)そうですね、これは順当でしょう。そして他に人がいないのでしょう。もう1期目の後半ですから。選挙が近付いているので、下手をしたら辞める人が出てくるわけで、実際にクビになったマティスさんの後でもあり、なかなかなり手が居ない。その流れでは順当な昇格ですが、まだ議会承認が得られていません。それほど強い反発があるとも思いませんけれどね。

飯田)防衛政策の面は大きく変わることは無さそうですか?

宮家)アメリカ国防省と、日本の関係は基本的に良いです。安保条約があって、米軍基地があって、いろいろな問題がある度に日本も言いたいことを言って、直させて来ていますから。良きにつけ悪きにつけ、国防省との関係が安保の問題ではいちばん大事で、幸い上手く行っている。それに大統領との関係も良いのですから、いまのところはスムーズに行っていると思います。

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