年金受給開始年齢の上限引き上げ「何歳から受け取る?」専門家が解説

飯田泰之・明治大学准教授

2022年4月から、年金受給開始年齢が従来の「60歳~70歳」から上限が引き上げられ「60歳~75歳」となる。どのタイミングで受給するのがいいのだろうか?RKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』に出演している明治大学・飯田泰之准教授が解説した。

受給開始を遅らせるのは投資として“かなり有利”

今回の制度の改定で、受給開始年齢を現在よりも5年先延ばしにできるようになります。それと同時に、支給の繰り上げ、つまり早く受け取る方の減額率も低下するなど、かなり制度全体が柔軟性を増して「いつから受け取り始めても大丈夫」という形で改定されたイメージです。この年金の繰下げ受給については「もっと長く働かせる気か」という批判の声もありますが、受給を遅く始めるというのは投資としてはかなり有利でもあるんです。

具体的には1か月遅く、受け取り開始を遅くするごとに月々の受け取り額が0.7%増えていきます。つまり75歳まで支給開始を遅らせると、最大で84%受け取る金額が増えるということになります。もちろん中には「その間に亡くなってしまうかもしれない。そうしたら払い損じゃないか」と思う方もいます。しかし、この年金に対する認識は問題です。年金って、貯金みたいにお金を預けてそれを受け取るというタイプのものでもないんですよ。実際のところ年金は保険だと思えばいいんです。「もし自分が思っているよりも長生きした場合に受け取れる保険」として。

“年金は保険”生活全てを支えるのではない

例えば老後の備え、皆さんいろいろな形で考えてると思いますが、その自前で用意した資金が尽きてしまったときに「良かった、年金があるから生活できる」という保険的な意味合いなんです。年金で老後の生活全てを支える、というものではないんですよ。

日本の高齢者の貯蓄消費行動は、国際的に見て非常に特殊なんです。年金を受け取りながら、そのお金を貯金している方がいるんです。しかしこういう方が銀行に預けてもほとんど利息はつきません。一方で、年金の支給開始を遅くすれば、月々ちょっとずつ利回りが上がっていくわけですよね。それなのにほとんど金利がつかない預金を持っている。家計の貯蓄や消費行動を研究する人に言わせるとこうした行動はパズル、つまり、理由が分からず合理的な説明ができないんです。

「なんとなく65歳から」の脱却を

あと、日本人だけではないんですが「年金ってみんな65歳で受け取っているから」と、なんとなくで65歳から受け取り始める方が多いと思います。冒頭お話しましたように、早めに受け取る際の減額率も良くなります。そして75歳まで繰り延べできます。年金は「みんながそうしてるから65歳で」ではなく「ある程度の蓄えがあるので、できる限り先延ばしにする」など、自分で受け取り方を選ぶという視点が重要になってきます。

今回の制度改定は、65歳を超えてもそれなりに収入がある方、または蓄えがある方の間で「もうちょっと支給開始を先延ばしにしたい」という声に押されたところもあるかと思います。選択の幅が広がったからこそ、これから年金を受け取る方は「年金は何のため受け取るのか」「自分にはいくら必要なのか」ということについて、受給タイミングと合わせて考えて、「みんながそうしてるから、自分も65歳」という捉え方からは脱却する必要があると思います。

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田畑竜介 Grooooow Up
放送局:RKBラジオ
放送日時:毎週月曜~木曜 6時30分~9時00分
出演者:田畑竜介、武田伊央
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※放送情報は変更となる場合があります。

大阪から東京まで56日間の“長距離ハイキング”、忘れられないおにぎりの味

先日、大阪・関西万博が開幕しました。今回は、東京と大阪を結ぶ「東海自然歩道」のお話です。

東海自然歩道の起点(東京・高尾山)(写真提供:トレイルブレイズ ハイキング研究所)

それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。

日本初の長距離自然歩道「東海自然歩道」を知っていますか? 郊外の自然を守るグリーンベルトとして、自然や歴史文化に親しみ、健康と安らぎを楽しむ場として、1969年(昭和44年)に当時の厚生省が構想を立ち上げました。東京の起点・高尾山から、神奈川、山梨、静岡、愛知、岐阜、三重、滋賀、奈良、京都、そして大阪の起点・箕面まで、11都府県を結ぶ自然歩道が開通したのは、1974年(昭和49年)のことでした。

東海自然歩道のルート。赤色は主線、黄色は複線(資料提供:トレイルブレイズ ハイキング研究所)

自然と人を結ぶ「トレイル文化」を日本に根付かせようと活動しているのが「一般社団法人 トレイルブレイズ ハイキング研究所」、通称「トレ研」。所長で長距離ハイカーでもある長谷川晋さんにお話を伺いました。

「私たちはアメリカのトレイル文化を実際に歩き、体験し、学んできました。そこから着想を得て、日本の自然や地域性を楽しめる“長距離ハイキング”を広めたいと、2020年にこの組織を立ち上げました。歩く文化が根付き、育っていくことを目標に、活動を続けています」

昨年と今年、「トレ研」主催のイベント『つなぐ東海自然歩道』が、名古屋と大阪で開催され、会場には180人を超えるトレイルファンが集まりました。そのイベントに登壇し、実際に「東海自然歩道」を歩いたハイカーの山中二郎さんをご紹介します。

左:富士山を望み富士山を巡る、右:秋を感じながら三重県を歩く(写真提供:トレイルブレイズ ハイキング研究所)

愛知県在住の山中さんは42歳。神社やお寺、文化財の建築・修理に携わる宮大工として活躍されています。山中さんは、大学を卒業後、会社に就職しましたが、子どもの頃から手先が器用で、物づくりが好きだったことから、いつか靴職人や革細工など手仕事に関わる仕事をしたいと考えていました。

「そんなに物づくりが好きなら、宮大工になれや」と声をかけてくれたのは、宮大工をしていた山中さんの兄でした。26歳のとき、山中さんは滋賀県の工務店に転職しますが、宮大工の修行は時代によって建築の工法が異なるため、覚えることが多く、扱う道具も多く、いろいろと苦労したそうです。現在は独立し、宮大工一筋に歩んできた山中さんがなぜ自然歩道を歩くようになったのか、こんな話がありました。

伊豆大島で生まれ育った山中二郎さんは、自然の中のキャンプやハイキングが大好き。さらに手先が器用なこともあり、アメリカから取り寄せた生地や素材で、ハンモックや寝袋を自分で作っていました。

左:苔むしたトレイルを行く、右:トレイル上は人気も少なく静かだった(©山中二郎)

「アメリカでは、キャンプ用品を自分で作る人が多いんですよ。それをテストしながら、ロングトレイルを楽しんでいる人がいることを知って、長距離ハイキングに興味を持ちました」

2022年、山中さんはアメリカの「コロラド・トレイル」、750キロを踏破。トレイル全線を一気に歩く「スルーハイキング」の魅力に、すっかり魅せられます。帰国後、以前から興味を持っていた1200キロの「東海自然歩道」をスルーハイキングしてみようと、2024年10月6日、大阪の起点・箕面から、東京・高尾山を目指して歩き始めました。

「リュックには、ハンモックや寝袋、着替え、あとは食料を詰めました。道に迷わないようにスマホに地図アプリを入れて、モバイルバッテリーも携帯しました。ロングトレイルの魅力は、自分のペースで歩けること。ルートから外れて、寄り道をしてもいいんです。私は仕事柄、京都や奈良で寺社仏閣巡りを楽しみました。映画『男はつらいよ』の寅さんになった気分で、風の吹くまま、気の向くまま、そんな風来坊のような旅でしたね」

自然歩道を外れて街に出て、食料の補給をしたり、バッテリーを充電したり、たまに温泉につかり、名物料理を食べたり、何もしない日もあったり。それもロングトレイルの魅力のひとつだと、山中さんは言います。

左:キャンプ場でひと息、右:林の中にハンモックを吊るして野宿(写真提供:山中二郎)

静岡を歩いていたある日のこと。人里が近く、野宿できる場所が見つからないまま、気がつけばすっかり夜に……。ルートから3キロほど離れた場所にキャンプ場を見つけましたが、すでに夜7時を過ぎており、管理人さんは帰った後でした。看板に書かれていた電話番号にかけ、「東海自然歩道を歩いているんです」。そう伝えると、「年に一人か二人くらい、うちのキャンプ場に来るよ。いいから、泊まっていって」と、快く受け入れてくれました。

翌朝、キャンプ場に現れた管理人さんが、山中さんを車で東海自然歩道のルートまで送ってくれました。そして別れ際に「これ、食べて行ってよ」そう言って手渡してくれたのは、おにぎりでした。

「あのおにぎりの味は、一生忘れられませんね」

東京・高尾山に着いたのは11月30日……、56日かけて歩いた山中二郎さん。人のぬくもりも、道しるべになっていました。“現代版・東海道五十三次”とも呼ばれる「東海自然歩道」を、あなたも歩いてみませんか?

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