健康への影響が心配される有機フッ素化合物「PFAS」とは

渡辺麻耶が木曜日のDJを担当するFM FUJIの番組『Bumpy』(毎週月曜~木曜、13:00~18:50)。1月9日のオンエアにフリージャーナリストの松田宗弘さんが出演し、有機フッ素化合物「PFAS」について解説しました。
松田:今日は昨年、全国の新聞やテレビで報道された「PFAS」(有機フッ素化合物=ピーファス)が山梨県内でも相次いで検出されているというお話です。山梨新報の12月20日付で報じた記事の解説です。井戸水や水道水への影響が懸念される問題なので、昨年は、全国では頻繁に報道された一方、山梨県内の報道は地味な印象で、「初めて聞く」というリスナーも多いと思います。また、専門的なテーマで1回ではなかなか伝わらないので、今月と来月の2回に分けてお伝えします。今日は「PFASの全体像」、来月は「県内の検出状況と課題」を解説します。
麻耶: それでは、「PFASとは何か」から伺えますか。
松田:発がん性など健康への影響が疑われ、約1万種ある「有機フッ素化合物」(化学物質)の総称です。自然環境への残留性が高く、PFASの中でも「PFOS」(ピ―フォス)とPFOA(ピーフォア)という2つの物質は、影響の大きさから、国際条約で廃絶が決まっており、日本では2010年にPFOSが、4年前の2021年にPFOAの製造・輸入などが原則禁止となりました。さらに、国の「暫定目標値」があり、これは「できるだけそれ以下が望ましい」という、遵守義務のない目標値ですが2020年に決められ、「水1リットル当たりPFOSとPFOAの合計で50ナノグラム以下」となっています。ナノは10億分の1という単位。ところがこの3~4年で、米軍基地や自衛隊基地の周辺の地下水などから、1000ナノ、2000ナノ、中には万単位という高濃度の汚染が判明し、住民の血液検査まで行う自治体が出てくるなど、大きなニュースになりました。
麻耶:なるほど。すでにPFOS、PFOAの2物質は製造・輸入が禁止になっているので少し安心しましたが、今も井戸水や水道水から検出されているのはなぜなのでしょうか。
松田:過去に製造されたPFOS,PFOAがどこに使われ、どこに残留しているのかを知っておく必要があります。PFOSは米軍、自衛隊基地内の消防訓練用の泡消火剤をはじめ、半導体製造や金属加工の工程で使われていました。一方、PFOAは水や油をはじくため、フッ素コーティングされたフライパンや食品包装、防水加工の衣料や防水スプレーなどで利用されていました。製造・輸入が禁止はされていますが、当時の製品を今も使っているところが、どこかにあるかもしれないし、使用後に廃棄物処分されても処分場に残っていて、そこに雨が降れば周辺の地下水へ浸透し、もし、それが上水道の水源であれば上水道へも汚染は連鎖していくわけです。取材に応じた県の担当者は「人が入っていけるところであれば、どこでPFOS、PFOAが検出されてもおかしくない」と答えました。山奥の水源に産業廃棄物が仮に不法投棄されていれば、それが汚染源になりえます。岡山県の吉備中央町では、ダムの上流の水源に、PFASを吸着した活性炭が放置され、雨水を通じPFASが水源に漏出したといわれています。
麻耶: 飲料水への混入は大変な問題ですね。健康への影響について詳しく教えて下さい。
松田: 環境省によると、主な健康影響は、コレステロール値の上昇、発がん性、免疫系との関連が報告されているが、どの程度の量が体内に入ると影響が出てくるのか十分な知見はないそうです。一方、PFOS、PFOAの摂取が原因とみられる個人の健康被害は起きていません。水道水では暫定目標値の1㍑当たり50ナノ㌘の水を毎日2㍑、一生飲み続けても「健康影響が生じないレベル」といいます。
麻耶: 日本の暫定目標値の1リットル当たり50ナノグラムは、国際的にはどのぐらいのレベルなのでしょうか。また、今後、国の規制は強化されていくのでしょうか。
松田: 諸外国を調べると、米国は世界で一番厳しく、昨年2024年4月から、PFOS、PFOAのそれぞれで1リットル中の濃度を4ナノグラムにしました。また、ドイツは3年後の2028年から、PFOS、PFOAほか2物質――合計4物質の合計で20ナノグラムに規制強化します。一方、日本は、私の報道の翌週に環境省が、遵守義務のない現行の暫定目標値を、遵守義務がある水道法上の「水質基準」に格上げすることを発表し、2026年4月から施行されます。水質基準になると、自治体や水道事業者などに定期検査と、基準値を超えた場合の改善が義務付けられます。日本もPFOS、PFOAの規制強化に乗り出したわけで、飲料用の水の安全を守ることは歓迎すべきことです。来月は山梨県内のPFASの検出状況と課題をお送りします。
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