ウユニ塩湖で「雨乞いダンス」写真家・上田優紀の過酷すぎる40日ソロキャンプ
上田が登場したのは、ゲストにさまざまな国での旅の思い出を聞く、J-WAVEの番組『ANA WORLD AIR CURRENT』(ナビゲーター:葉加瀬太郎、秀島史香)。ここでは、10月10日(土)にオンエアした内容をテキストで紹介する。
番組は、Spotifyなどのポッドキャストでも聴くことができる。
・ポッドキャストページ
幻の白いクマを追い求めた撮影の旅
上田優紀は1988年生まれ、和歌山県出身。京都外国語大学を卒業後、24歳のときに世界一周の旅に出発し、1年半をかけて45カ国をまわる。2016年よりフリーランスとなり、想像もできない風景を多くの人に届けるために世界中の極地、僻地を旅しながら撮影を行っている。2026年6月には、ヒマラヤ最高峰から南極まで、地球の絶景を記録した写真集『ARCA この星の物語』(小学館集英社プロダクション)を発売した。葉加瀬:カナダに「スピリット・ベア」を見に行かれたそうですね。
上田:そうですね。カナダ北部に生息している白いクロクマです。
葉加瀬:ホッキョクグマとは違う種類なんだけど、白いんだ。
上田:アメリカンブラックベア(アメリカクロクマ)というクマなんですが、特定の地域にだけ、アルビノではないのに毛並みが白く生まれてくる個体がいるんです。現地の先住民であるギットガット族の人たちからはスピリット・ベア、精霊のクマと呼ばれています。それを見たくて、写真を撮影するために現地へ向かった旅でした。
葉加瀬:ただ、行けばそう簡単に撮れるものでも、会えるものでもないんでしょう?
上田:そうですね。クマがたくさん暮らしている無人島で10日間待って、2頭に出会うことができたので、多いほうだと思います。
葉加瀬:当然のことながら、まったく見られない日もある?
上田:そうですね。日が昇ると同時に川をさかのぼって、クマの餌になるシャケがたくさん集まる場所を見つけて、日が暮れるまでずっと待ち続けるんです。それでも、まったく見られない日のほうが多かったですね。
葉加瀬:そりゃそうだよね。
上田:でも、彼らが住んでいる森は1万年前から変わらない森なんですよ。そんな森のなかで1日を過ごしているのがすごく楽しくて。1万年前と同じ風景のなかに自分がいるんだということに、ドキドキというかワクワクというか……すごく楽しい撮影の旅でした。
神話と科学がつなぐスピリット・ベアの物語
スピリット・ベアは、ギットガット族に伝わる神話にも登場するという。上田:彼らは神様がクマをこの世界に生み落として人間の前に遣わすことには意味があると考えているわけです。それは、スピリットベアが白い姿で人間の前に現れるのは、「自然への畏敬の念を忘れてはいけない」という教えを伝えるということ。かつて、この世界が雪と氷に覆われていた時代があり、自然は厳しいものなので畏敬の念を忘れずに接しなさいという教えであり、物語でもあって、彼らはそれを信じているんです。
葉加瀬:うん、うん。
上田:面白いことに、2年ほど前、なぜスピリット・ベアがその地域でだけ白くなるのか、遺伝子的な理由が判明したそうなんです。約1万2,000年前の氷河期には、カナダ北部などが雪と氷に覆われていました。その時代、黒いクマたちは保護色として白くなろうとしたそうです。しかし、気候が暖かくなって森が戻ってくると、今度は黒いほうが保護色になります。そこで、クマたちは再び黒くなったのですが、そのときの遺伝的な特徴が、その地域のクマたちには残っていて。今でも、ときどき白くなる遺伝子が表に出る個体がいるということらしいんです。
葉加瀬:なるほど!
上田:神話にある「雪と氷の時代があったことを忘れないため」という話と、生物学的な理由が重なるところが、とても興味深いですよね。そんなクマを見てみたくて、現地に向かいました。
葉加瀬:写真を見せていただきましたけど、まさに「神聖」という言葉がぴったりですよね。
上田:そうですね。本当に静かな、太古の森のなかに霧が立ち込めていて、深い緑の森の奥から、真っ白いクマがゆっくりと僕に近づいてくるんです。本当に映画のような、神聖な風景でしたね。写真集にも収録しているんですが、そのクマがゆっくりと顔を上げて、カメラ越しに僕と目が合ったんです。その瞬間、生まれて初めて、シャッターを切るのを忘れてしまって。彼らの世界に入ったというか、1万年前の森で、彼らが抱えている世界に入り込んでしまったような感覚になったんです。それは、とても素敵な経験をさせてもらったなと思います。
誰もいないウユニ塩湖で挑んだ360度の水鏡
ほかにも、上田はボリビアにあるウユニ塩湖での撮影に臨み、現地で40日間にわたり、塩湖のなかにテントを張って生活したという。上田:ウユニ塩湖には、実は4回か5回くらい行っています。今は観光客もたくさん訪れていて、美しい風景を楽しめるのは素晴らしいことですよね。ウユニ塩湖はとても広い塩の砂漠ですが、雨が降って水がたまると、「天空の水鏡」と呼ばれる、空を大地に映し出す美しい風景が見られます。ただ、観光客の多くは水がたまりやすい湖の縁に集まるので、目の前には水鏡が広がっていても、後ろには広がっていないという場所で楽しむことになります。でも、この広いウユニ塩湖のどこかに、1年のうち何日かは360度すべてが水鏡になる場所があるんじゃないかと思ったんです。
葉加瀬:それぐらい広かったら、そう思っちゃいますよね。
上田:それで、車で2、3時間かけて湖の中央付近まで行き、テントを張って過ごすことにしました。雨季には雨が降るので、そのあいだの40日間を丸ごと現地で過ごそうと考えたんです。食料と水、テントを持ち込み、広大な塩の砂漠のなかで撮影するという方法を取りました。
しかし、雨季にもかかわらず、最初の2週間は雨が降らず、一度もシャッターを切ることができなかったそう。
上田:ずっと雲を見上げて、いつになれば雨が降ってくれるんだろうなと思ったり、ひとりなので雨乞いの踊りをしてみたりとか(笑)。
葉加瀬:(笑)。まわりに誰もいないウユニ塩湖のど真ん中で、雨乞いのダンス?
上田:そうなんです(笑)。テントをまわりながら踊ってみたりとかしていました。
葉加瀬:それくらいしかすることがないもんなあ(笑)。
上田:それがネイチャーフォトグラファーとして初めての撮影だったんですが、準備不足もすごくあって、現地で撮影するものが何もないような状況だったんですね。本当に雨乞いの踊りをするか、空を見て雲を眺めるか、それくらいしかやることがありませんでした(笑)。
葉加瀬:最終的にはちゃんと撮影できたんですか?
上田:はい。360度の水鏡を見ることができました。それに、観光客の多くは晴れた日に訪れるので、あまり見る機会がないんですが、ウユニ塩湖では雷がものすごくたくさん落ちるんです。僕のテントの近くにも、もちろんたくさん落ちました。雷が落ちる可能性が高い場所にいたのは、僕だったと思います(笑)。みんなは「きれいだね」で終わるのかもしれませんが、僕にとってウユニ塩湖は「怖い場所」でした。でも、それが本当の姿なんだろうと思うんです。
上田:人が見ているから美しい場所というだけではなくて、自然にはそういう厳しさもあるんですよね。40日間そこで過ごさなければ出会えない風景をたくさん見ることができましたし、孤独や雷の恐怖も経験できたのは僕にとって大きなことでした。ウユニ塩湖がどんな場所なのか、写真を通じて伝えるときに、普通に訪れるだけでは出会えない風景を届けられる。その意味でも、とてもいい経験になったと思います。
葉加瀬:すごいね。雷って、写真に撮るとああいうふうに写るんですね。稲妻が大きく曲がって、地面にもぐっと映り込んでいて。
上田:雷はいろいろな形をしていて、それが地面にも映るんです。雷そのものが大地に映り込むんですよ。
葉加瀬:でも、撮影しているときは怖いでしょう?
上田:ものすごく怖いです。身をかがめて、三脚を立てて撮影していました。撮影が終わったあとも、三脚が避雷針代わりにならないかなと思って、テントから少し離れた場所に立てたりしながら過ごしていました。
葉加瀬:先ほども仰っていましたけど、美しい自然と、その厳しさは表裏一体ですよね。自然はとても大きな存在で、我々人間はちっぽけなものだから(笑)。だからこそ、自然を甘く見てはいけないよね。
上田:間違いなく、そうだと思います。
葉加瀬:だからこそ、撮れるものがあるんだなあ。
想像を超える風景を求めて地球の外へ
現在、上田は山への挑戦を計画しているという。七大陸最高峰の登頂を目指しており、これまでに4つの山を制覇。残る3つのうち、年末には南極大陸の最高峰であるヴィンソン・マシフへの登頂を予定している。今後1年ほどで七大陸最高峰を登り、それぞれの大陸でもっとも高い場所から見た風景を並べて、多くの人に届けたいと考えていると語る。葉加瀬:今後、やってみたいことはありますか?
上田:写真集『ARCA この星の物語』の最後に収録した写真は、人工衛星のカメラを使って宇宙から地球を撮影したものなんです。これまで地球のなかをずっと撮影してきましたが、地球の外にも美しい風景があって、未知の世界にあふれていると思います。なので、宇宙に行って撮影したいと思っています。
葉加瀬:エベレストにも登ってしまう人だから、そういうことも考えちゃうよね! どんどん夢が広がっていくんだなあ。
上田:月の風景も撮ってみたいですし、火星にあるオリンポス山という山にも登ってみたいです。エベレストの3倍の高さがあるんですよ。そんなことを考えながら、人生の時間が足りないなと思ったりもするんですけどね(笑)。
葉加瀬:ぜひ、オリンポス山にも登ってください!
上田優紀の最新情報は公式サイトまで。
葉加瀬太郎がゲストの旅のエピソードを聞くJ-WAVE『ANA WORLD AIR CURRENT』は、毎週土曜の19時からオンエア。
