音楽もドラマも消えていく─「アフガニスタンの今」を、国外退避した日本人ジャーナリストが明かす

政権崩壊で混乱するアフガニスタンから自衛隊機で国外退避した、ただひとりの日本人がいた。アフガニスタン人の夫とカブールに暮らし、現地で30年近く取材を続けてきた、ジャーナリストの安井浩美さんだ。なぜ、ひとりだけ退避することができたのか? そのときカブールでは何が起きていたのか。そして、いまのアフガニスタンの風景は? 写真家の藤原新也が訊いた。

ふたりが語ったのは、J-WAVEで放送された番組『J-WAVE SPECIAL 藤原新也 新東京漂流~アフガン救出自衛隊機、たったひとりの搭乗者、その真実』。オンエアは9月26日(日)。

民間機が飛べなくなり…自衛隊機で退避した経緯

アメリカ軍撤退とその直後のタリバン制圧で混乱したアフガニスタン。残された日本人などを退避させるため、現地へ自衛隊の派遣命令が下った。治安情勢の悪化で、退避希望者の空港への移動が難航するなか、8月27日に日本人一名が首都カブールの空港に到着。その夜、自衛隊の輸送機で隣国パキスタン・首都イスラマバードに向け出発した。緊急脱出した唯一の日本人が、安井浩美さんだ。

今回、日本にいる藤原は、パキスタンに退避中の安井さんとリモートで会話を始める。

安井:私は共同通信のカブール支局通信員として働いていますので、ニュースを伝えるためにまだアフガニスタンを出ようと思ってなかったんです。ただ、会社も含めてまわりから仕切り直して避難したほうがいいんじゃないかと言われて。私は共同通信に属しているので何かあったときに困るなと思って、退避の準備をしようと飛行機のチケットを取りに行ったら、民間機が全部キャンセルになって飛べなくなりました。(日本)大使館からも「早く出てください」って言われていたのですが、その方法がないから出られなくて。そのあいだに、日本大使館の方は出国されました。

安井さんも米軍の飛行機で脱出する話もあったが、外交官が対象ということで結局搭乗することはなかったという。

安井:そんなこんなしてる間に日本が自衛隊機を飛ばすことになりました。本当は私だけじゃなくて日本関係で働いているアフガニスタン出身の人も含めて500人くらい出ることになっていたんですけど、悪条件だったり運がなかったり、いろんなことが重なって、結局退避できたのは私ひとりだけでした。
藤原:ほかの人も脱出しようと思ったけどできなかったんですか。
安井:邦人だけを運び出すってことが条件になっていたので、家族を残して自分だけ出るのは忍びないという人もいて。その人は新婚だったみたいで、今回は遠慮して次に民間機が出るのを待たれていると思います。

出国した日本大使館の何人かは、自衛隊機が到着する前に再度カブールに戻り、邦人たちの脱出の段取りをしていたがうまくいかなかった。

安井:(空港付近で)爆発があったりとかして、行く手を阻まれてしまったんです。運が悪かったと言えばそうですが、自衛隊機で退避を決行する日にも飛行機が飛んできていたので、2日か3日のブランクがあるんですけど、もう少し早くできなかったのかということは思います。どういう理由でそうなったかは聞かされていないのでわからないですけど、悔やまれるところですよね。韓国は日本と日にちを変わらずして300人近く脱出しているので、そこは交渉力の差なのか、たまたま彼らのほうが運がよかったのかは、今になってみると何も言えません。

誰がタリバンに迫害されるかわからない現状

タリバンは、表向きは静かでジェントルだが、本質的な部分は変わってないと安井さんは言う。

安井:タリバンは未知の部分が多く、口ではすごく甘い言葉を言うんですね。「あなたの財産を奪うことはしない」とか「この国はあなたのためにあるから、私たちと一緒にいい国作りをしましょう」とか。でも(現地の)日本の方などいろんな人にインタビューすると、やっぱり「変わっていない」と言われますし、私自身もカブールにいたときはそう思いました。政権が努力して国民が政権をよしとするのであれば、それをサポートして報道することが大切だと思いながらも、いろいろ見ているとやっぱりそういったいい部分は見当たらなかったですね。かたやジャーナリストがめちゃくちゃに撃たれてけがをしていたり、女性人権家の家にいきなりタリバンが来て暴力をふるわれたり、そういうことを聞くと、言ってることとやってることが違うんじゃないかと思います。

現在、日本人や日本に関係する人たちが500人ほどいると言われている。安井さんによると今の情勢では誰がタリバンに迫害されるかわからないため、国外に出たほうが賢明だと判断をする人が多いという。

安井:迫害されるかもしれないし、されないかもしれない。そこがわからないんですよね。全てが日本とつながるのかはわからなくて。どういう人たちを対象に処罰を与えるのかはタリバンだけが知っているので、今の段階では私たちはわかりません。

歌謡、娯楽番組も禁止。市民感情は?

タリバンの取り決めでは、音楽や絵など芸術を否定するような部分があるが、藤原はそういったイスラム的な発想は初めて聞いたと言う。

藤原:音楽を禁止するようなかなり過激な意識は、タリバン独特のものなのでしょうか? イスラムの教えに、そのような記述があるのでしょうか?
安井:音楽を禁止するっていうのは極端な解釈で、どちらかというとタリバン政権独自のものですね。極端な原理主義的な思想を受け入れるグループにいる。でもそれが必ずしもイスラム全体に関わっているということではないと思います。今は前政権ほど表立って芸術を否定するようなかたちではないけど、すでに歌謡番組とか娯楽番組もなくなっているし、ドラマとかも消えていますからね。
藤原:いわゆる人間の快楽を誘発するものは一切禁止しているということですよね。
安井:タリバンは正式に政策として発表していないですけれど、自ら店の前に貼ってあった女性の写真を外したり、ペンキで塗ってしまったりなど、(20年前にタリバンが行っていたような)そういうことも起こってます。アメリカ大使館前の交差点に(アフガニスタンで人道支援活動をしていた医師の)中村 哲さんの壁画とかもあったんですけど、それも全部消されてスローガンみたいなものが書かれたり、アメリカ大使館の入り口のところにあるコンクリート塀ももともと学校に行く子どもの姿が描かれていたけど、全部塗り消されてタリバンの国旗とエンブレムが描かれていたりする状況です。
藤原:アメリカが入って資本主義化していったアフガニスタンの風景が一瞬で消えたわけですね。

安井さんは、アフガニスタン市民もこの状況を難しく思っていると話す。

安井:この20年は民主制を掲げた政権で、(市民は)今までは経験してなかったいろんなことを見たり聞いたり知ったりすることもできたのに、それを全部否定されるようになってしまった。だから国民感情はとんでもないと思います。アメリカの飛行機だけで(タリバンの報復を恐れる外国人や協力者のアフガニスタン人)12万人くらいが退避して、それ以外に陸路で国外に出ている人もいて。数十万人がアフガニスタンを逃げ出しているということは、国民がこういう状況を受け入れたくないことを表していると思います。

混乱が続く状況のなか、藤原は安井さんに「またアフガニスタンに戻りたいか?」と質問する。

安井:もちろん帰りたいと思っています。夫も残っていますし、かわいいペットたちもカブールにいますから。
藤原:旦那さんはアフガニスタンの方ですか?
安井:そうです。できればここ数週間の間には動きたいなと思っています。

インタビューの模様は、SPINEARでも3回に分けて配信。ポッドキャスト版では、地上波で紹介しきれなかった内容を余すところなくお届けする。

・「SPINEAR」の番組ページ
https://spinear.com/shows/shin-tokyo-hyoryu/
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アメリカで“タトゥー”を認める企業が増加 ニューヨークZ世代が「最近のビジネスファッション事情」を語る

ジャーナリストでZ世代専門家のシェリーめぐみがパーソナリティを務めるinterfmのラジオ番組「NY Future Lab」(毎週水曜日18:40~18:55)。ニューヨークのZ世代の若者たちと一緒に、日本も含めた激動する世界をみんなで見つめ、話し合います。社会、文化、政治、トレンド、そしてダイバーシティからキャンセルカルチャーまで、気になるトピック満載でお届けします。

今回のテーマは「タトゥーもOK? ニューヨークのビジネスファッション事情」。「NY Future Lab」に所属するアメリカZ世代が、アメリカのビジネスファッションについて語り合いました。

※写真はイメージです


◆アメリカではタトゥーOKな企業が増えている?

近年はオフィスファッションのカジュアル化が進み、アメリカではタトゥーを入れた肌を見せても問題のない職場も増えています。

ビジネスファッションに関しては、日本よりアメリカのほうがずっとカジュアルなことは想像がつくと思いますが、近年ではアメリカのZ世代自身でさえ驚くほど、カジュアル化が進んでいます。まず、ニューヨークのFuture LabのZ世代から見て、アメリカのビジネスファッションがどれくらい自由かを聞きました。

ミクア:地下鉄で学校に行くときに、スーツやネクタイをしている人ってあまり見かけないかも。だいたい、ビジネスカジュアルな服装が多いような気がする。母が働いている保険会社のオフィスに行くと、みんなきちっとしているわけではないけれど、すごくカジュアルでもなくて、ちょうどその中間くらいの感じ。

驚いたのは、病院にボランティアとして行ったとき。病院には厳しい服装規定が必要なのは理にかなっていると思う。たとえば、長い爪をしていると、仕事に影響するでしょう? でも、私が驚いたのは服装ではなく、多くの医師が普通に目立つタトゥーをしていたこと。

私も医者を目指しているけど、タトゥーなんか入れていたらインターンにはなれないんじゃないかと思っていたんだよね。でも、病院で見る限りは服装規定に関して、少しずつゆるくなっている気がする。

ノエ:たしかにそうかも。まあ、ここがニューヨークというのもあるかもしれないけどね。僕も気付いたことがあるよ。病院に行くとわかるけど、以前よりもずっとカジュアルな雰囲気になって、人種的にもすごく多様になったよね。10年前くらいには、医者といえばスーツや白衣を着た年配の白人男性という感じだったのが、今では若い医者や男性看護師もすごく増えているよね。

アメリカのビジネスファッションで最近注目されているのは、個性と多様性を大事にする傾向。Z世代評論家のシェリーは「タトゥーやピアス、カラフルなヘアスタイル、伝統的でない服装は、プロ意識がないのではなく、むしろアイデンティティ、自分らしさの表現だと考えているわけです」と説明します。

こうした意識の変化は、特に人種民族やジェンダー的に史上もっとも多様なZ世代ならではの影響と言えます。ラボメンバーでも話題になったタトゥーですが、少し前までは「タトゥーはシャツなどで見えないように隠す」というのがこれまでの方針でした。

ですが、ここ数年、目に見えるタトゥーを許可する大手企業が増えています。人種ジェンダーを含め、ダイバーシティを受け入れるインクルーシブな社風を作り上げることで、入社希望者増につながっているのです。

◆髪の色で就ける仕事が左右される日本社会

では、日本のビジネスファッションはアメリカZ世代からはどう映っているのでしょうか? 日本が大好きで何度も旅行の経験があるメアリーが、率直な感想を述べました。

メアリー:このあいだ、東京で初めてホストクラブに行ってみたんだ。そのとき私はヘアを紫に染めていたんだけど、会社で働いていると言ったら「その髪の色でよく働けるね!?」とホストのみんなはびっくりしていた。

彼らの髪もブロンドやグレーなどさまざまな色で素敵だったけど、「会社では誰も雇ってくれない」って言っていた。もともとの自然な髪の色の人しか雇われないだろうって。だけどそれって、服装とは関係のない話でしょう? ただの髪の色なのに仕事を得ることさえできないなんてクレイジーだと思った。その瞬間、とても悲しくなっちゃった。

たしかに、(日本の)その考え方はわかる気もする。会社を代表する立場として、個性をアピールしてほしくないというのは理解できるよ。会社があなたの考え方や個性を受け入れない可能性もあるものね。でも、その人が優秀な働き手であれば、どんな服装をしていようと関係ないと思う。

自由になっていく一方のアメリカから見ると、日本のビジネスファッションは不自由に見えるようです。一方で、アメリカの自由には、人種差別を禁止するのと同じように、その人の人種や民族的な特色を職場で禁止するのは違法とされている背景があります。

「肌の色だけでなく、髪型や髪の質、色なども含まれています。多様な人種民族がいれば、金髪はもちろん赤い髪の人もいるわけで、そうなると髪の色や身だしなみをプロ意識と結びつける意味もなくなってきますよね」とシェリーは補足。移民が増えて多様化する日本も、アメリカと同じ流れになるのではないかと推測します。

(左から)ミクア、シェリー、ヒカル、ノエ、シャンシャン、メアリー/©NY-Future-Lab


◆アメリカZ世代が「日本の入社式」に思うこと

SNSなどで論争になってきているのは日本の入社式。全員同じように見える黒のリクルートスーツで参加する日本の若者に対して、「多様性を重視する時代に画一的すぎるのでは」と批判の声があります。リクルートスーツ、入社式がないアメリカZ世代は、日本の入社式の写真を見て、どのような反応を示すのでしょうか?

ミクア:リクルートスーツって面接に行くときに着る服でしょう? 面接で受かりたいと思ったら目立つように相手の印象に残そうとするし、「面白い人材だ」と思ってもらわなければならないよね? みんなが同じ服を着るということは、あえて目立たないようにするのが目標ってこと?

アメリカは日本と真逆で、目立つことがよしとされる考え方。日本で同じような服を着るのは、「周りと同じで目立たないほうがリスクが少ないからでは」とラボメンバーは指摘しました。

シェリーは「これから社会に出て、日本の未来のために新しいアイデアをどんどん出してもらおうという人たちに、そんな風な考えをさせるのって、そちらのほうが社会にとってリスキーではと思います。普段から目立たないように、人と同じようにやってきた人に対して、突然イノベーティブな発想をしろというのも随分と勝手な話ですよね」とコメントし、話題を締めくくりました。

<番組概要>
番組名:NY Future Lab
放送日時:毎週水曜日18:40~18:55放送
出演:シェリーめぐみ
番組Webサイト: https://www.interfm.co.jp/sensor/
特設サイト:https://ny-future-lab.com/

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