「イノシシの事故はクマより多い」動物行動学者・新宅広二が“野生の現場”と“ハンターの弟子入り”で知った動物の本気
10月11日(日)の放送では、動物行動学者の新宅広二(しんたく・こうじ)さんがゲストに登場。動物の知られざる習性や動物園の役割について語ってくれました。

(左から)新宅広二さん、番組ファシリテーターの角南篤さん、パーソナリティの関根麻里
◆動物の本能を知るため野生の現場へ
新宅広二さんは1968年生まれ。動物行動学・教育工学を専門としています。大学院修了後、上野動物園や多摩動物公園などに勤務し、国内外で400種を超える野生動物の生態や飼育方法を学びました。その後、大学や専門学校などで20年以上にわたり教鞭をとり、現在は特定非営利活動法人 生態科学研究機構の理事長・研究所長を務めています。自然科学番組や映画の監修、動物園・水族館のプロデュースなども数多く手がけるほか、猟師としても活動しています。
動物行動学とは、さまざまな動物を比較しながら、繁殖行動や求愛行動などを研究する学問です。新宅さんはミツバチの研究からスタートし、霊長類を中心に、これまで400種ほどの動物を観察・研究してきました。
研究者として動物園での飼育にも携わってきた新宅さんですが、動物の行動をより深く知るため、ハンターとして猟師に弟子入りした経験もあります。そのきっかけとして、「野生で一番動物のことを知っているのは猟師さんかなと思いまして」と話します。飼育や実験では分からない、動物が本気を出す瞬間を知るため、自ら猟師になって現場に飛び込んだといいます。
実際に野生動物と向き合うと、これまでの知識が揺らぐような場面にも遭遇しました。動物園の設計にも携わる新宅さんは、動物の跳躍力や破壊力について「これぐらいの強度でやれば大丈夫だろう」「これぐらいの高さだったら跳び越えられないだろう」という想定を超える姿を目の当たりにしてきました。
一方、動物園では、動物の心理や習性を生かした設計が重要になります。新宅さんは、動物が心理的に進みたくない場所をつくる「心理柵」などを例に挙げ、「一つひとつに意味があります」と説明します。できるだけ柵で囲わずに動物を飼育する工夫には、長年の研究や失敗から得られた知見が詰まっているのです。
◆動物園ごとに異なる展示のコンセプト
日本の動物園は、戦後、家族や住まいを失った人々が多くいた時代に、子どもたちのための施設として再出発しました。公立の動物園が子どもたちの心を支える役割を担ったことは、世界的にも珍しい歴史だといいます。動物とのふれあいを通じて命の温もりを感じてもらおうという考えから「ふれあい動物園」も生まれ、やがて世界へと広がっていきました。
角南さんも、幼い頃に上野動物園でパンダを見た思い出がある一方、成長してから娘を連れて訪れた際、かつて抱いていたイメージとの違いに驚いたと振り返ります。同じ都内にある動物園でも、それぞれ展示のコンセプトが異なることに関心を持ったそうです。
新宅さんによると、上野動物園では動物を間近で観察できる展示を、多摩動物公園ではライオンやキリンなどを群れで飼育し、群れならではの行動を見せる「生態展示」を取り入れています。また、動物園を公立で運営することにも大きな意味があるといいます。「経営が傾くとご飯をあげられないというようなことにならないようにする」という考え方も、動物たちの暮らしを安定して支え、子どもたちが動物と出会う機会を守ることにつながっているのです。

(左から)パーソナリティの関根麻里、番組ファシリテーターの角南篤さん
◆知識だけでは身につかない猟師の技術
ハンターとして野生動物と向き合う新宅さんに、関根が「危険な目に遭った経験」について尋ねました。新宅さんによると、事故件数はクマよりもイノシシのほうが多く、中には体重100キロほどに達する個体もいるそうです。そのため、罠にかかったイノシシを仕留める際でも、安易に近づくと反撃を受ける危険性があるといいます。
新宅さん自身も、現場では日々緊張感や恐怖を感じていると明かします。「自分は怖がりで、技術も度胸もありません」と謙遜する一方で、狩猟においては動物の居場所や地形を把握し、状況に合わせて臨機応変に対応する技術が欠かせないと説明します。
また、銃を使えば確実に仕留められるわけではなく、中途半端に撃てば動物を刺激して反撃される危険もあります。そのため、単に知識を得るだけで簡単に実践できるものではありません。新宅さんは「一人前の猟師になるには、私ならあと1,000年くらいかかります」と話し、狩猟の奥深さと難しさを伝えました。
角南さんが狩猟を始める若い世代について尋ねると、新宅さんは「環境省も普及に取り組んではいるものの、ベテランの技術を次世代へ継承する時間が足りていないのではないか」と懸念を示します。
長年の経験を持つ猟師は、高齢になっても山を軽やかに歩き、重いイノシシを谷底から引き上げるほどの体力と技術を備えています。しかし、そうした熟練者が相次いで引退していくなか、若い世代が確かな技術を学べる環境をいかに維持・残していくかが大きな課題となっています。
次回10月18日(日)の放送は、引き続き新宅広二さんをゲストに迎えてお届けします。
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音声版「The Power of Not Knowing」
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<番組概要>
番組名:笹川平和財団 presents The Power of Not Knowing
放送日時:毎週日曜 7:00~7:30
パーソナリティ:関根麻里
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/power/
