名曲『また逢う日まで』は、尾崎紀世彦のために書かれた曲ではなかった

番組スタッフが取材した「聴いて思わずグッとくるGOODな話」を毎週お届けしている【10時のグッとストーリー】

きょうは「このサビ大好き! リクエスト」にちなみまして、サビが素晴らしい曲の代表・尾崎紀世彦さんの『また逢う日まで』の作曲をめぐるストーリーをご紹介します。この曲の歌詞については以前、番組でご紹介しましたが、今回は曲の話を中心にしたお話です。

尾崎さんが歌い上げるあの印象的なサビは、どうやって誕生したのでしょうか? 実は、この曲が世に出た背景には、ある人物の「諦めない情熱」がありました。

尾崎紀世彦『また逢う日まで』

1971年、尾崎紀世彦さんが歌って大ヒット、この年のレコード大賞を受賞した『また逢う日まで』。

尾崎さんはこの曲でトップシンガーの仲間入りを果たし、作詞の阿久悠さん、作曲の筒美京平さんにとっても、ヒットメーカーとしての地位を確立する代表作になりました。ところが……この曲はもともと、尾崎さんのために書き下ろされた作品ではなかったのです。

当時、エアコンのCMソングを依頼された筒美さん。候補曲として何曲か書き上げたなかの1つが、この曲だったのです。イントロとサビが印象的なのは、CM用に書かれたからでした。

『アンパンマン』の生みの親で、作詞家でもあるマンガ家のやなせたかしさんが詞を付けて完成しましたが、スポンサーの意向が変わり、この曲はお蔵入りとなってしまいました。

しかし、いい作品には必ず“拾う神”がいます。「せっかくいい曲なのに、もったいないな……」と考えたのが、この曲を管理していた音楽出版社・日音のプロデューサー・村上司さんでした。

日本の音楽出版ビジネスの先駆けでもある村上さんは、当時、レコード会社の枠を超えて活躍するフリーの作詞家・作曲家たちと付き合いがあり、筒美さんが書いたCM曲を阿久さんに渡しました。

「阿久さん、この曲に新しい詞を付けて、世に出してやってくれませんか?」

こうして筒美さんが書いたCMソングは、阿久さんの手によってまったく違うポピュラーソングに再生。完成したのがこの曲です。

ズー・ニー・ヴー『ひとりの悲しみ』

1970年、ズー・ニー・ヴーというグループによってリリースされた『ひとりの悲しみ』。村上さんも阿久さんも筒美さんもヒットを期待していましたが、なぜかセールスは伸びず、またしてもこの曲は埋もれてしまったのです。

それでも「絶対にこの曲は当たるはずだ」という確信があった村上さんは、諦めませんでした。再び世に出す機会を窺っていた、ちょうどそのころ……村上さんがプロデュースを手掛けていた歌手が、尾崎紀世彦さんでした。

尾崎さんはハワイアンやカントリーバンドを経て、1967年、3人組コーラスグループ「ザ・ワンダース」を結成。村上さんがプロデュースを担当していましたが、なかなかヒット曲に恵まれませんでした。

特に尾崎さんの歌唱力を高く評価していた村上さんは、ソロシンガー転向を勧め、他の2人は裏方に回ることを提案。1970年、尾崎さんは『別れの夜明け』という曲でソロデビューします。ワンダースのメンバーの1人がディレクターに転向して、尾崎さんをバックアップ。

ところが……デビュー直後、尾崎さんはタクシー乗車中に、衝突事故に巻き込まれて入院。プロモーションがほとんどできなかったことも災いして、デビュー曲はヒットしませんでした。

「あんなに実力のある歌手が売れないのは絶対おかしい」と悔しがった村上さん。第2弾として閃いたのが、筒美さんが書いたあの曲を再生することでした。実は尾崎さんも、ズー・ニー・ヴーの『ひとりの悲しみ』を聴いて気に入り、「この曲を俺に歌わせてくれないかな」と思っていたのです。

村上さんは阿久さんへ、尾崎さん向けに詞を書き直してほしいと依頼。最初は渋った阿久さんですが、村上さんの熱意に折れ、「わかった! 尾崎君にふさわしい詞に書き直すよ」と承諾してくれました。

出来上がった新しい歌詞は、別れを決意した男女が2人で表札の名前を消し、それぞれ新しい道に進むという、これまでの歌謡曲になかった価値観の詞でした。レコーディングには、ワンダースの元メンバー2人もコーラスで参加。尾崎さんと一緒にサビを歌っているのは、苦楽を共にした仲間です。

こうして生まれた『また逢う日まで』は大ヒット。「3度目の正直」でこの曲が売れたのは、村上プロデューサーの「いい曲、いい歌手を埋もれさせてはいけない」という、熱い思いがあったのです。

八木亜希子 LOVE&MELODY
FM93AM1242ニッポン放送 土曜 8:00-10:50

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