イギリスのEU離脱がもたらす日英関係の変化

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(2月5日放送)にジャーナリストの佐々木俊尚が出演。ボリス・ジョンソン英首相について解説した。飯田浩司が休みのため新行市佳が進行を務めた。

英中部マンチェスターでの与党保守党大会で演説するジョンソン首相=2019年10月2日(ロイター=共同) ©共同通信社

ボリス・ジョンソン

イギリスのボリス・ジョンソン首相は3日、EUを離脱して以降初めての演説を行い、EUとの自由貿易協定の交渉について「EUのルールに従う必要はない」と強硬な姿勢を見せた。EU側はイギリスに対して公正な競争条件を担保するよう求めていて、双方の対立が鮮明になっている。

新行)1月31日にEUから離脱したイギリス。今後の焦点は年末までの移行期間に、EUとの自由貿易協定を締結できるかどうかというところです。

パリで握手を交わすフランスのマクロン大統領(左)と英国のジョンソン首相(ゲッティ=共同)=2019年8月22日 ©共同通信社

人前に出るときにはわざと髪の毛を乱してから行く~知的で冷静な人物

佐々木)ボリス・ジョンソン首相は見た目がトランプさんっぽいというか、金髪を振り乱して得体の知れない人という感じなのですが、実はオックスフォードを出ているエリートでインテリです。古代ギリシャ語も話せるという触れ込みで、ホメーロスの有名な叙事詩『イーリアス』を空で話せると言い、テレビで披露したこともあるそうです。インテリなのだけれど、人前に出るときにはわざと髪を乱してから行っているそうです。庶民的な雰囲気を出すためにやっているのです。非常に知的で冷静な人物だという評価もあって、一筋縄では行かないと思います。1月31日にEUからの離脱が行われたのですが、いきなりそこでハードランディングすると混乱するから、1年間の猶予期間としていまの状態が続きます。2021年1月には完全にいまの貿易協定がなくなってしまうから、それまでにEUとイギリスの間で貿易協定を結び直そうということですが、EU側は「1年ではできない」とつれなく言っていて、イギリスはやりたい。

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」

イギリスのEU離脱を広義で見る

佐々木)イギリスとEUの問題なので日本には関係ないですが、これを世界全体の構図で見ることも大事です。例えばアメリカはどう見ているかというと、トランプ大統領は交渉が好きで、TPPのような多国間の枠組みよりも1対1で交渉したいのです。EUとアメリカも自由貿易協定をやろうとしているのだけれど、EUはたくさんの国があってなかなか締結できません。イギリスだけ出たのだったら、イギリスとアメリカで協定を結びたい。トランプ大統領としては、イギリスが出てくれたのはよかったのです。ところがイギリスは最近、中国のファーウェイの5Gモジュールの採用を決めてしまった。

新行)一部の安全保障にかからないところで導入すると。

遠くの国とは仲よくできる~日本とイギリスの関係も近づく

佐々木)これに対してアメリカは怒っているので、なかなか微妙なところです。日本にとってどうかというと、日本とイギリスは戦争していたこともあるけれど、昔から仲がいいのです。イギリスがEUからだんだんと離脱するにしたがって、日本はロンドンに置いていたヨーロッパ支社をフランスやベルギーに移す動きもありました。一方で中国やロシアが怖いから、安全保障的には隣国でないインドやオーストラリアなどと仲よくする方向へ来ていて、その一環としてイギリスとも仲よくしつつあります。尖閣諸島周辺の南太平洋の監視に対し、イギリスが船を出したりして、安全保障的な結びつきも強くなっています。世界中どこでもそうなのですが、近くの国はだいたい仲が悪いのです。イギリスとフランスも仲が悪いし、フランスとドイツも仲が悪く、日本と中国、日本とロシアもうまく行っていません。でも、遠くの国とはだいたい仲よくできるので、安倍外交ではオーストラリアやインドと仲よくしています。そういう流れでイギリスと今後も仲よくして行くことを考えると、EUから離脱したイギリスに近寄って行くのは、重要な外交だと思います。

アメリカ大統領選~トランプ有利である最大の理由

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(2月5日放送)にジャーナリストの佐々木俊尚が出演。アメリカ大統領選について解説した。飯田浩司が休みのため新行市佳が進行を務めた。

3日、米アイオワ州デモインの劇場で始まった民主党の党員集会(共同)=2020年2月3日 ©共同通信社

アメリカ大統領選~アイオワ州で民主党党員集会

11月のアメリカ大統領選に向けた野党・民主党の候補者指名争いの初戦、アイオワ州の党員集会が日本時間の4日に行われ、中間集計を発表した。

新行)最若手の中道候補で前インディアナ州サウスベンド市長のブティジェッジ氏が首位に立ち、左派サンダース上院議員は僅差で2位とのことです。

佐々木)驚きですね。サンダース氏が2位で、バイデン氏はどうなってしまったのかという感じです。とうとうトランプさんの再選なるかという、大統領選がやって来ました。少し前までは支持率も歴代大統領のなかで最低だし、「こんな人を大統領にしてしまって続かないだろう」と言われていたのですが、いまのアメリカのメディアやツイッターなどの空気を見ていると、再選されそうな雰囲気です。それは別にトランプ大統領がいい人になったのではなくて、アメリカの景気がいいということが大きいのです。政治が好きな人になればなるほど、日本では安全保障論議や憲法問題など、いわゆる空中戦という言い方をされる抽象論議をしたがります。政治が好きだと、そういう話題が面白く感じるからです。

民衆にとっての政治は経済と生活ということ

佐々木)でも、政治に関心のない多くの人にとって、結局は目の前の生活がちゃんとできるかどうか、明日に期待できるかどうか、ボーナスが貰えるかどうかなのです。そういう人たちが世の中を動かしているのがいまの民主主義で、これにはいい面もあれば悪い面もあります。悪い面というのは、安全保障や憲法の問題も大事なので考えなければいけないのですが、そこには意識が行かないところです。政治家が政治好きな人たちの世論に引きずられ過ぎて、どんどん空中戦的な論議になれば、民意から離れて行ってしまう。いちばん大事なのは、経済についてだということを考えなければいけないのです。日本でも1960年ごろ、60年安保闘争という大衆運動がありました。あれで当時の岸信介首相が批判されて退陣し、国会前に何十万人と集まるデモが起きたので、自民党が終わるかと思いきや、その後の選挙で自民党は大勝しているのです。これは、次いだ池田勇人首相が「所得を倍増させる」と言ったからです。いつの時代も経済と生活なのですよね。そういう意味で言うと、トランプ大統領はアメリカの景気がよくなっている余勢を駆って、このまま勝つと言われています。あれだけメディアで批判されているにも関わらず、です。

新行)前の大統領選のときには、最初は泡沫候補だという言われ方もされていました。

佐々木)どちらかと言うと、報道されるのもお笑い扱いでした。それがいつの間にか大統領になってしまった。さんざんポピュリズムだ何だと、未だに外交政策もわけのわからないことをたくさんやっているのですが、それでも経済をちゃんと牽引していることは評価すべきだという気はします。

中東和平案を発表し、握手するイスラエルのネタニヤフ首相(左)とトランプ米大統領(アメリカ・ワシントン)=2020年1月28日 ©時事通信

民主党の政権奪還のためには

新行)対する民主党としては、どういうところを打ち出して行くのでしょうか?

佐々木)トランプ批判だけでは、トランプ支持層は動かないと思います。これは日本の野党が安倍政権批判をしているだけで、いつまで経っても支持率が上がらないのと同じです。ポスト・トランプとして、どういう政策を取るのかということを打ち出して行かない限りは、民主党の政権奪還にはならないでしょう。

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