濱口竜介監督最新作!映画「悪は存在しない」

クリエイティブプロデューサー・三好剛平氏

5/3(金)より全国のミニシアターで公開がスタートしている日本映画『悪は存在しない』。2021年の映画『ドライブ・マイ・カー』で、カンヌ国際映画祭4冠をはじめアカデミー賞では外国語映画賞まで受賞し、国際的な評価を確立した濱口竜介監督による3年振りの新作だ。「格の違いを堪能できる素晴らしい一作」と、RKBラジオ「田畑竜介GrooooowUp」に出演するクリエイティブプロデューサーの三好剛平さんは語る。

監督・濱口竜介と映画『悪は存在しない』誕生の経緯

まずは改めて、になりますが、濱口竜介監督が今、映画作家としていかに破格のポジションにいるかについてご紹介していきたいと思います。

映画界にはいわゆる「世界三大映画祭」と呼ばれるカンヌ・ベルリン・ヴェネチア、という3つの国際映画祭があります。その3つの映画祭でそれぞれ主要賞を受賞することは映画人にとって最上級の名誉であり、この世界三大映画祭制覇を達成した監督はこれまで100数十年の映画史のなかでもほんのわずかに限られます。ここ日本においてもこれまでにたった一人だけその快挙を果たした映画人がいますが、それはそう、あの黒澤明監督ですね。

 

濱口監督は2021年の『偶然と想像』でベルリン映画祭の審査員賞にあたる銀熊賞、同年の『ドライブ・マイ・カー』ではカンヌ国際映画祭で脚本賞をはじめ批評家連盟賞など4冠、そして本日紹介する『悪は存在しない』でヴェネチア映画祭でこれまた審査員賞にあたる銀獅子賞を受賞しています。受賞の多くが「審査員賞」によるものであることからも、濱口監督がいかに映画の伝統を踏まえ現代的な更新を続けている作家として評価されているかもわかってきます。

 

そんな監督の新作である『悪は存在しない』ですが、実はちょっと不思議な出自を持つ映画でもあります。というのも、この映画は監督が『ドライブ・マイ・カー』でタッグを組んだ音楽家の石橋英子さんから、ライブパフォーマンス用のオリジナル映像作品の制作を依頼されたことがきっかけで始まったプロジェクトだったといいます。最近、音楽業界では、特に海外などのフェスなどで映像と一緒にライブパフォーマンスをするスタイルが増えており、石橋さんも海外のプロモーターから持ちかけられていたらしく、それを濱口さんに相談されました。それを受けて濱口監督はまず石橋さんの活動拠点である自然豊かな山梨に取材へと足を運び、色んなリサーチを重ねたり試作版をつくったりしながら、徐々に作品の構想を固めていきます。そして2年の月日を重ねてついに完成したのが、当初の発注通り、サイレント映像として石橋さんのライブパフォーマンスと併奏される『GIFT』という作品と、同じ映像素材を使った劇映画である今回の『悪は存在しない』という双子のような2作品でした。このエピソードからも、監督がいかに形式やサイズ感にこだわらず、あくまで自分のもとに訪れる予期せぬインスピレーションを大切に作品作りを手掛けているかがわかっていただけるかと思います。

「悪は存在しない」のか?——世界を単純化せずに向き合うために

さて、ということでここからは映画のあらすじへと踏み込んでいきたいと思います。

 

映画の舞台は東京からほど近く、移住者も多い長野県の架空の町、水挽町(みずびきちょう)です。自然豊かな高原に位置するこの町で代々暮らしてきた巧(たくみ)という男性と、その娘である花は、日々その土地の自然とともに、慎ましい暮らしを重ねていました。しかしある日、彼らの町にグランピング場が建設される計画が持ち上がります。計画は、コロナ禍で打撃を受けた東京の芸能事務所が、政府による補助金めあてに推し進めるものでした。ほどなく、芸能事務所からやってきた男女2人の担当者が住民向けに説明会を開きますが、その開発計画は森の環境や町の水源を汚しかねない、きわめてずさんな内容であることが明らかになり、町民一同は動揺します。そして、その余波は巧たちの生活にも及んでいき——、というお話しです。

 

映画を見る際の見どころ、あるいは指標となるものには、大きく分けると「画面はどのように構成・運用されていたか(撮影・照明・美術・衣装)」「音はどのように鳴らされていたか(音楽・録音)」「どんな物語が、どのように紡がれていたか(脚本・編集・俳優)」、そしてそれらすべてを編み上げて「どのような映画内世界を立ち起こして見せたか(監督・演出)」といったものがあると言えると思いますが、この映画は、そのどの登り口から踏み入ってみても、濱口映画ならではの鮮やかな驚きや挑戦が張り巡らされており、軽やかに別格な仕上がりを見せてくれます。とにかく、本当にすごい。おそらくご覧になった観客一人ひとりに「どこがどう面白かったか」と出口調査してみたとしても、おそらく人の数だけ回答が分かれるんじゃないかというくらい、映画のあちこちに技巧や解読の余白が配備されていて、上映時間の106分間ずっと息を呑むほどスリリングに楽しめる映画になっています。

 

ただその楽しみ方はちょっと専門的だよ、もっと映画を見慣れていない人にもこの映画の楽しみ方を教えてくれ、と求められるとしたら、まず僕はこの映画を見るときに、作品のタイトルを常に重しとしながら映画のなかで起きているものを注意深く見届けてみてください、と提案したいと思います。『悪は存在しない』。これは濱口監督が作品作りを始める際に石橋英子さんのいる山梨などを訪れ、その自然と対峙したときに、ご自身のうちに自然と湧き上がったフレーズだったと言います。監督がそこで得たものは「自然界では、ただ無数の事象が起きているだけであって、そこには絶対的な善も悪も無い」という視点でした。じゃあ、人間界ではどうなのか、と発想を移してみるのが本作です。自社の補助金欲しさにずさんな計画でグランピング施設をつくろうとする連中は悪にも思えますが、果たしてその一人一人の内側までもが絶対的な悪に染まっているのか。日々慎ましい生活を送りながら自然を守ろうとする人々たちのうちには悪の成分は存在せず、ただ絶対的な善なる存在であり得るのか。その顛末を、映画のなかでは主人公の幼い娘である花が、そして森の中の動物たちが、ものも言わずただじっと見つめています。そしてその視線の列に加わるのが、他ならぬ映画の観客である私たちです。

 

しかし、私たちは劇中の子どもや動物とは違って、いつでも物事を善と悪に峻別して、その理解を単純化してしまいます。さらには、一度そうやって善なり悪なりに振り分けてしまった物事への認識をひっくり返すことは容易ではない、という現実もあれば、他方では、一度は悪い連中だと思っていた人たちのなかに「実は憎めない人なのかも」と別の可能性を見出す瞬間は、それ自体が人類の理性の希望であったりもする。『悪は存在しない』。このメッセージをとにかく常に腹に据えながら、映画の最後の瞬間まで、そこで起こる出来事ひとつひとつに問いを立て続けてみてください。世界を単純化せずに、物事を複雑なまま受け止めるレッスン。そしてそれはそのまま、劇場を後にして自分たちの日常や人生に戻ったあとにも、一人ひとりの世界の認識を変えていく経験になるはずです。

 

最後に。この映画は4/26に東京で封切られたあと、その1週間後からは全国のミニシアター限定で一斉公開していく、というちょっと異例の興行スタイルを展開しています。この番組の可聴域でいえば、我らがお馴染み福岡のKBCシネマをはじめ、佐賀市のシアター・シエマや唐津のTHEATER ENYAでも絶賛上映中です。

本作ばかりは配信ではなく、できる限り劇場のスクリーンと音響でご覧になるのがおすすめです。どうかお見逃しなくご覧ください!


 

映画「悪は存在しない」公式サイト

田畑竜介 Grooooow Up
放送局:RKBラジオ
放送日時:毎週月曜~木曜 6時30分~9時00分
出演者:田畑竜介、田中みずき、三好剛平
番組ホームページ
公式Twitter

出演番組をラジコで聴く

※放送情報は変更となる場合があります。

水俣病の患者・被害者団体との懇談。環境相が再懇談を表明 大竹「メディアにはもう一歩踏み込んで欲しい」

5月10日(金)、大竹まことがパーソナリティを務めるラジオ番組「大竹まことゴールデンラジオ」(文化放送・月曜~金曜13時~15時30分)は、「水俣病の患者・被害者団体との懇談でマイクを事務方が切り、環境相が謝罪・再懇談を表明」したニュースを取り上げ、パーソナリティの大竹まこととジャーナリストの青木理がコメントした。

水俣病の患者・被害者団体との懇談で環境省がマイクの音を切った問題で、伊藤信太郎環境相は9日、懇談を再設定すると参院環境委員会で明らかにした。具体的な時期や方法は今後調整するという。

太田英明アナウンサー(アシスタント)「東京新聞の記事を見ますと、議論が止まらないような時はマイクを切るということが代々引き継がれてきた。このように環境省の担当者が8日、立憲民主党の会合で事前に設定した発言時間3分を超過したら音量を切る運用があったと認め、実際に切ったのは初めてだったと明かしましたが、誰の指示かは説明しなかったとあります」

大竹まこと「これはもう昨日も一昨日もこの番組では話題にしてるんだけど、たしかじゃなかったから言わなかったんだけど恒例化してたという話ですよね。前からやってたんだっていうことで、前からやってるとはどういうことかというと、議論が止まらないような時はマイクを切ることが代々引き継がれてきたという話で。今回記事になったじゃない?記事になって環境大臣が謝ったりしてるわけだよ。もう1回やりますとか言ってるわけだよ。記事にならなかったら…ずっとこうか?と。この記事で大事なのは、ちゃんとメディアが伝えないとこういうことはもう現場で恒例化、常態化してるという話だよね。それともう1つ思ったのは、言い訳が飛行機の時間がという言い訳してたよね。飛行機の時間?ちょっと待てと。次の便はないのかと。飛行機の時間ならば、東京にかえって何々することがあるから、この飛行機でないと間に合いませんというならまだ分かるよ。そこは書いてないんだよ。飛行機の時間が早く帰る理由になるんだ。議会の発言を止める理由になる。どう考えてもおかしいよね」

青木理「そうですよね。各メディアで批判がされて当然だと思いますけれども、3分しか時間がなかった。3分で家族が本当に苦しんで、あるいは亡くなったという状況自体が、まあ無茶苦茶ですよね」

室井佑月(パートナー)「議論を避けるなんて民主主義じゃないよ」

大竹「もう1つ、これ事務方が止めたというふうに言ってるんだけど、大臣はどうなんだ。もし事務方が止めたとして、大臣がいやちょっと待てと。まだ聞いてるから止めちゃダメだよって大臣が言ってもおかしくないじゃない。事務方と大臣が一緒という話。時間が決まってるからどうのこうのみたいでパッパッと片付けようとしてる。しかも、飛行機の時間と言うなら東京に帰って何してるんですかと。記者は記者でそこまで突っ込んで欲しいね」

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