「学校を管理せよ」――中国“教育強国”の行方をウォッチャーが解説

日本は受験シーズン。一方、隣国・中国では、中国共産党と中国政府が最近、教育に関する新たな通達を出したという。東アジア情勢に詳しい、飯田和郎・元RKB解説委員長は「この通達を読むと、習近平体制の現在の中国が見えてくる」という。2月17日に出演したRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』でコメントした。

受験シーズンの日本と教育改革の進む中国

日本では受験シーズンの真っ只中。国立大学の一般選抜は、来週25日から「前期日程」の試験が始まる。一方、福岡県の公立高校の一般入学者選抜試験は3月5日。受験生は、「最後の追い込み」に向けてラストスパートをかけている。

一方、私は中国における学校教育について考えてみた。なぜこの話をするのかというと、中国共産党と中国政府が最近、教育に関する新たな通達を出したからだ。この通達を読むと、習近平体制の現在の中国が見えてくる。いろいろ考えさせられる内容だからだ。

この通達は日本語に訳すと、「教育強国(=強い国)の建設に向けたガイドライン」となる。このガイドラインは教育現場に向けて指示を出しており、全文は中国の漢字で9000文字を超える。日本語にするとその数倍の量となる。

このガイドラインの総論部分から引用したい。内容は非常にいかめしい。

「教育に対する共産党の全体的な指導を堅持する。そして2035年までに、中国を教育強国に押し上げる」

習近平政権が目指す「教育強国」とは、具体的にどのようなものなのか?まず、クスッと笑ってしまう内容を紹介したい。

「小・中学生は毎日2時間以上、運動をしよう。サッカーができる校庭を造ろう。目の近視、太りすぎを減らしていこう」

こういう項目もある。「生徒のメンタルヘルスに関する早期警告システムを確立する」。受験競争に伴う運動不足や精神的な問題は中国でも日本でも共通の課題だ。また、「教師の地位向上」。具体的には放課後の教員活動をきちんと評価するなど、教師の給与体系を見直すことも盛り込んでいる。このほか、都市と地方の教育環境のレベルの差を是正する目標もガイドラインには含まれている。

習近平思想の教育現場での位置づけ

ただし、中国の次の世代を育成するうえで気になる点も少なくない。思想教育だ。それも習近平氏の政治理念を児童・生徒に植え付けようとする姿勢だ。習近平氏の政治理念は「習近平の中国の特色ある社会主義思想」と名付けられている。

1949年に現在の中国が誕生して以来、指導者の名前が付いた政治理念は「毛沢東思想」、それに「鄧小平理論」がある。この習近平氏の理念は、その先人2人に続くものだ。

2017年の共産党大会で、習氏のこの政治理念、いわゆる「習近平思想」が党の規約に書き込まれた。習氏への権力集中・崇拝が加速した。そして、今回ご紹介した教育強国に関するアウトラインには以下のように述べられている。

「習近平総書記が教育に関して述べた重要な論述を、全面的に実施する」

「学校における新時代の政治思想教育を強化、そして進化させる」

「『新時代の中国の特色ある社会主義思想』によって、絶え間なく人々の魂を形成し、教育する」

中国ではすでに、習近平総書記のこの政治理念を学ぶ授業を小学校から大学まで必修化している。政治理念を学ぶ授業は以前からあったが、教科書の出版は習氏が初めてだ。

中国が進める「教育強国」のゴールである2035年という年は、教育に限らず、総合的な国力で先進国に肩を並べるレベルにしようという目標だ。総合的な国力とは、経済規模だけでなく、国際的影響力、軍事力、国民生活などすべての面において先進国になるという決意である。

標準語の普及と少数民族の言語

ガイドラインには次のような指導も含まれている。

「国家の標準的な話し言葉と書き言葉の普及を促進する」

これは、漢族が使う標準語を徹底させ、少数民族独自の言語を否定する内容だ。少数民族独自の言語は独自の文化の一部であり、文化を否定されたら反発も起きる。たとえば、内モンゴル自治区では2000年、モンゴル族の子供たちが通う小中学校の「国語」の授業を標準語で行う方針が示された。保護者や教員らが抗議したり、授業をボイコットする騒ぎが起きた。

それにもかかわらず、今回のガイドラインは標準語を義務付ける。さらに、それぞれの地域でどのような言語が使用されているか全国調査を実施することも盛り込んでいる。

AIの活用と教育改革

最後に、ガイドラインで目にした今日的な話題を紹介したい。

「教育改革を支援するために人工知能を推進する。人工知能教育の大規模なモデルを構築していく」

中国の生成AIといえば、今波紋が広がっている「ディープシーク」が思い浮かぶ。高性能AIを低価格で開発した中国企業だ。収集された情報が中国国内のサーバーに保存されることや、中国の法令が適用されることなどから、日本を含む各国でこの会社のAIの使用を禁止する動きが広がっている。

ディープシークの創設者、梁文鋒氏は今年40歳を迎えるという若さだ。ディープシークを設立したのは2023年7月だから、会社ができてまだ2年経っていない。

国家が教育現場をしっかり管理して、その国家の戦略に沿った人材が教育現場から育っていく。第二、第三のディープシークが中国の学校現場から生まれていくかもしれない。空恐ろしい話に思えてくる。

◎飯田和郎(いいだ・かずお)
1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。

田畑竜介 Grooooow Up
放送局:RKBラジオ
放送日時:毎週月曜~木曜 6時30分~9時00分
出演者:田畑竜介、橋本由紀、飯田和郎
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