斎藤幸平「声を上げていく人達が出てくれば社会の価値観は変わっていく」

今回のゲストは、経済思想家の斎藤幸平さんでした。

『アシタノカレッジ』時代に2回ご出演いただき、今回で3回目。

最近では、TBSテレビ『News23』のコメンテーターとしてご出演されたり、MBS毎日放送 / TBS系列局『情熱大陸』でも特集された斎藤さん。
砂鉄さんは『News23』を毎日観ているそう。

砂鉄:「斎藤さんは結構挑発的にいきますよね。アナウンサーに対して。」

斎藤:「アナウンサーに対して?!(笑)ああいう掛け合いも対応していただいてありがたいです。」

また、『情熱大陸』も観ているようで…

砂鉄:「僕の統計では、2人に1人は必ずカメラを嫌がるシーンが出てくるんですよ。ちょっと集中したいんでって。それが出る回か出ない回かっていうのをいつも観ているんですけど、斎藤さんはなかったですね。」

斎藤:「なかったです。家族総動員で(笑)でもプロデューサーの方が”この回が一番大変でした”って。」

砂鉄さんの『情熱大陸』の見方にツッコミは止めておいて…(笑)
なぜ大変だったのかは放送をお聴きください。

経済思想家・斎藤幸平の根幹にあるものとは…?

斎藤さんは今年の夏からドイツ・ハンブルクへ行き、1年ほど研究に力を入れるそうです。

斎藤:「自分の研究内容を一般の社会にどう変えていくか…メッセージを伝えていくことってこのバランスに最近悩んでいたりして。今年はまた研究の方に全振りしてみようかな。」

砂鉄:「ハンブルクってのは我々メタル業界からすると、ジャーマンメタルの聖地というか。Helloweenというジャーマンメタルバンドが生まれた土地ですし、『WACKEN OPEN AIR』という大きなメタルフェスが行われる場所で、ついに斎藤幸平さんも目覚めたかって僕は思ったんですけど、そういうことじゃないんですね。」

斎藤:「そういうことじゃないですね(笑)マルクス・ガブリエルっていう哲学者がハンブルクで色々やっているので、そこに行って研究を。」

残念ながら斎藤さんはメタルには目覚めませんでしたが、学生の頃はパンクロックが好きだったようです。

砂鉄:「2001年の9.11があって、その時にパンクバンドが反ブッシュみたいなアルバムを出していたじゃないですか。ああいうのがきっかけとして大きいんですか?」

斎藤:「当時高校生だった自分は9.11以降の展開を見て、ブッシュ政権のやり方がおかしいし、そこに日本がどんどん自衛隊を派遣していいのかっていうのを疑問に思っている時に、自分が好きだったバンドとかも反ブッシュの反戦ソングとかを書いていたし、そういうのを通じて、エドワード・サイードとかノーム・チョムスキーとかアメリカで声を上げていく知識人に出会って。僕はそれまで理系だったんですけど、こういう人になりたいと思ってアメリカの大学に行くことを決めたし。さらに自分の研究内容を一歩踏み出して、社会に対して何かメッセージを出したいなっていうふうに思って。実は根幹は確かにそこにあるんですよね。」

”ショック・ドクトリン”に気をつけろ

前述にもあった“9.11”『アメリカ同時多発テロ事件』。この事件辺りから一般に広まるようになった言葉が[ショック・ドクトリン]です。その意味は、社会に壊滅的な惨事が発生した直後、人々がショック状態に陥り、茫然自失のまま抵抗力を喪っているときに、その出来事を好機と捉え利用する政策手法のことです。カナダのジャーナリスト:ナオミ・クラインが“惨事便乗型資本主義”という言葉とセットにして論じるようになったことがきっかけでした。令和6年能登半島地震があったばかり。我々は世の中の動きを注視しなければなりません。

斎藤:「例えば今回だと、岸田総理が記者会見でもっと震災の話をするのかなと思ったら、唐突に会見の話をし始めたりだとか。あとはこういう問題が起きたらみんな暗い気持ちになっているから、みんなが明るい気持ちになれるように万博をしましょうみたいな感じで、どさくさに紛れて今まで批判されていたモノとか普段だったら出来ないことをやってしまう。あるいはやっぱり震災のニュースが中心になると、自民党の裏金疑惑とかが報道されなくなって有耶無耶にされていく。こういうのが全部言ってみたらショック・ドクトリンっていうことですよね。」

砂鉄:「これだけ大きな話題になるとスルッと抜けられるんじゃないかとか。あるいは人の気持ちが揺さぶられて不安が高まると、国家がこういうふうにしたいっていう方針に対して、これはみんな一致団結してやるべきなんだっていうふうにまとまりやすくなるっていうのもありますよね。」

斎藤:「反対運動もしにくくなりますよね。目先の対応とかに囚われてしまうし、全然関係ないことでデモとかをやったら不謹慎って言われるかもしれないし。これ逆パターンもあって、祝賀型資本主義っていう。これはオリンピックみたいな楽しそうなイベントをやっている間に、それこそ神宮外苑のようなところを再開発していくための条例の改革とかを裏で進めていくっていう。私が問題だなと思うのは、イベントや災害なんかを利用して、一部の人達がますます有利になるような社会を作っていく傾向が出てきてしまう。これからどんどん地球環境も厳しくなるし日本経済も厳しくなる中で、一部の人達だけが良い思いをするみたいな社会になってしまうんじゃないかっていうことを危惧している感じですね。」

今後の社会に必要な第一歩。“コモンを自治していく”

斎藤さんと6人の共著者が参加した書籍『コモンの「自治」論』。
斎藤さんは“コモン”についてこう紹介してくれました。

斎藤:「例えば道路であるとか水道であるとか、震災の地域でもラジオとかテレビとかの電波っていうものは誰もがいつでも必要とするもの。生きていく上で欠かせない社会的なインフラなわけですよね。プラス、例えば自然環境であるとか公共交通機関、あるいはインターネット、教育、医療とか、文化的な生活を送る上で誰しもが必要とするものが、実は今の資本主義社会で、しかも資本主義がどんどん行き詰まる中で、とにかく何でも商品にして金儲けの道具になるんだったらしてしまおうっていう中で、医療費をもっと上げていこうとか、教育費も国立大学も含めてどんどん上げていこうとか、そういう流れが出てくると、究極的にはお金を持っている人しかちゃんとしたサービスを受けられないみたいな社会になってしまうんじゃないかって。それは資本主義の一番残酷な面だと思うので、誰もが必要とする公共財ですね、コモンっていうのは。それを無償化したりしてみんなで管理していくような形が理想的なんではないかっていうのが一つコモンの根幹部分ですね。」

砂鉄さんは『コモンの「自治」論』を読んでいて印象的だったのが、
「私達は自分達では何も決めることのできない他律的な存在になっている。日々の生活でもこんな状況なのに政治や社会についての重大な決定を私達が責任を持って行うことなど想像すらできない。」
という”自治”が問われている部分。斎藤さんが“コモン”と“自治”という言葉を使った考えとは…

斎藤:「今の私達の社会って自由だなとか便利だなって思っても、実はお金の力でやっていることで、お金で買えるモノに関しては、お金があれば便利だし、何でも手に入るけれども、お金がなければ何もできない。あるいは商品として市場に提供されていなければ、何も自分達では出来ないっていう意味では非常に無力な存在になっていて。でもコミュニティとか自然環境を守るとかボランティアをするとか、これどれも商品でもないしお金でもない問題で、そういう領域が社会では痩せ細っていて、それが今後の危機の時代には危ないんじゃないかなっていう思いで。まずコモンっていう共通の財産をみんなで管理していくようなあり方を通じて、そういう自治、自分達で何かを作り出したり、スペースとか空間・コミュニティを作っていくような力をまず身近な所でもいいから一歩一歩取り戻していくことが…例えばこの本では杉並区長になられた岸本聡子さんが書いてくださっているんですけれども、岸本さんみたいな形で市民が選んだ区長とかを出せるようになっていくための第一歩が“コモンを自治していく”。そうやって社会は最終的には変わっていくんではないかなというふうに期待していますね。」

続けてこんなことも話してくれました。

斎藤:「2~3年のスパンで見るとあんまり変わらないって感じる方もいらっしゃるかもしれないですけど(中略)声を上げていく人達が出てくれば、長いスパンで見れば、実は社会の価値観とかって変わっていくんではないかなと。最近本当にその運動に勇気づけられていますね。」

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経済ジャーナリスト・町田徹が毎週注目すべき国内外のニュースを徹底解剖。日本経済が抱える問題の本質、激動の国際情勢の行方について、時に冷徹に、時に熱く、語ります。

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