宇多丸、『悪人伝』を語る!【映画評書き起こし】

ライムスター宇多丸がお送りする、カルチャーキュレーション番組、TBSラジオ「アフター6ジャンクション」。月~金曜18時より3時間の生放送。


TBSラジオ『アフター6ジャンクション』の看板コーナー「週刊映画時評ムービーウォッチメン」。ライムスター宇多丸が毎週ランダムに決まった映画を自腹で鑑賞し、生放送で評論します。
今週評論した映画は、『悪人伝』(2020年7月17日公開)です。

宇多丸:
さあ、ここからは私、宇多丸がランダムに決まった最新映画を自腹で鑑賞し評論する週刊映画時評ムービーウォッチメン。今週扱うのは、7月17日に日本で公開されたこの作品、『悪人伝』。

(曲が流れる)

『新感染 ファイナル・エクスプレス』でブレイクし、MCU作品『エターナルズ』でハリウッド進出も決まっているマ・ドンソク主演のバイオレンス・アクション。ヤクザの組長チャン・ドンスはある夜、何者かによって襲撃を受ける。ドンスを襲撃した男が、密かに捜査をしている連続殺人事件の犯人と確信したチョン刑事は、ドンスと手を組み、対立しながらも犯人探しを始める……ということです。共演はマ・ドンソク主演の『犯罪都市』にも出演していたキム・ソンギュなど。監督・脚本を務めたのはイ・ウォンテさん、ということでございます。

ということで、この『悪人伝』をもう見たよ、というリスナーのみなさま、<ウォッチメン>からの監視報告(感想)をメールでいただいております。ありがとうございます。メールの量は、「多め」。やっぱりこの番組ね、マ・ドンソクをいっぱい扱ってましたしね。この『悪人伝』自体もいっぱい話題にしてましたからね。ありがとうございます。

賛否の比率は、褒める意見が8割近く。主な褒める意見は、「今回もマ・ドンソクが最高。警察とヤクザが共闘して殺人鬼探しに奔走するという設定が超上がる」「格闘アクションやカーチェイスシーンも良かった」などがございました。また、「武井壮もいい」という声も多かった(笑)。これ刑事役を演じたキム・ムヨルさんのこと、ということです。

一方、批判的意見としては「主人公の刑事、ヤクザに比べて殺人鬼のキャラの掘り下げが浅い。ヤクザ同士の内輪もめなど、本筋と関わらない部分がダルい」「脚本はもうちょっと何とかなったのでは?」などがございました。まあ全面的にダメだと言っている、つまらなかったという方もいなかった、ということですね。

■「『今作はかわいいマブリーではなく怖いマ・ドンソクだ』」byリスナー
感想メール、ご紹介しましょう。ラジオネーム「トムトム」さん。「今や飛ぶ鳥を落とす勢いのマ・ドンソクの『悪人伝』、ウォッチしてきました。こういう“普通に面白い”エンタメ作品を撮らせたら、韓国は今、世界で一番だと感じました。『今作はかわいいマブリーではなく怖いマ・ドンソクだ』と観客に分からせる、序盤の恐怖のサンドバック打ちと人力抜歯のシーンが素晴らしかったです」という。

これね、「以前、宇多丸さんが仰っていた」ってこのトムトムさん、書いていただいているんですけども、これは僕の発言じゃないんです。これ、誰が言ったのかが……でも、誰かがたしかに言っていて。発言元が特定できたらぜひ皆さん教えてください。宇垣さんかな? 西森さんかな? 「『マ・ドンソクは最初のアクションで作品内のマ・ドンソクの強さのラインを引く』というこの番組に出た誰かの言葉通りに( ※宇多丸補足:トムトムさん申し訳ありません! 調査の結果、マ・ドンソク特集の延長戦トークをやった放課後ポッドキャスト内で、なんのこたぁない、結局やっぱりわたくし宇多丸がしていた発言でした! 訂正してお詫びいたします!)、殺人鬼に襲撃される場面で、『今作のマ・ドンソクはナイフで刺されたり車で轢かれるくらいまではセーフ』という、1人だけ狂ったパワーバランスも最高でした。

鈴木亮平と武井壮を足して2で割ったようなキム・ムヨル演じる刑事との“変化球バディムービー感”も楽しく、本格的に彼らが協力して捜査を始めるシーンが最高にアガりました。フード理論に基づいたヤクザと刑事の食事シーンや、連続殺人犯がケーキを食べるシーンも良かったです。鑑賞中は、法廷パートに入った時には少し冗長かなと思いましたが、ラストのニヤリと笑うマブリーにガツンとやられました。近年の韓国映画界のあらゆる方面のジャンルの充実を示す一作でした」というトムトムさんでございました。

一方、批判的な方。代表的なところをご紹介しましょう。「ゆか吉」さん。「『悪人伝』、見てきましたが、ストーリー的に主人公3人の行動原理の説明が薄く、最後までモヤモヤしてしまいました。もう少ししっかりと、メンツを潰されたヤクザの惨めさだったり、出世をしないといけない理由だったり、殺人欲求に対する起因とかがストーリー上にあれば、もっと主人公たちに感情移入ができたのにと思いました。難しいことを考えず、マ・ドンソクが人をぶん殴るシーンが好きな人のための映画だったのかと。自分もそうなので結局は楽しめましたが、ストーリー的にはもったいないと思いました」ということです。フフフ、「自分もそうなのかい!」っていう感じがいいですね(笑)。

■マ・ドンソクが立ち上げた会社「チーム・ゴリラ」による作品
ということで皆さんね、楽しまれたは楽しまれたという『悪人伝』。皆さん、メールありがとうございます。私もシネマート新宿で2回、見てまいりました。あと、この番組では、特に火曜パートナーの宇垣美里さんが最近マ・ドンソクの大ファンになって、話題になることが多かったタイミングで、私もちょっと一足お先に『悪人伝』を見ていたので。何回かは見てますね。7月14日にはね、ライターの西森路代さんをお招きして、「マ・ドンソクから始める韓国の名脇役特集」なんかもやったりしましたけど。

一応改めておさらいしておきましょう。マ・ドンソクさん。これを聞いてる方で、どういう人かイメージできない方もいらっしゃるでしょうからね。まあ韓国生まれのアメリカ育ち、国籍も実はアメリカの、現在49歳。とにかく、脇役時代がすごく長かった方ですね。僕自身そうなんですけど、いろんな作品でちょいちょい見かけて……で、着実に印象に残る、顔とかはもうとっくに覚えてる感じの「あの人」ということで、いろんな作品で印象を残す脇役をやって、評価を積み上げていって。で、先ほども言ったように、2016年の『新感染 ファイナル・エクスプレス』で、もう一気に、非常においしい役で大ブレイク、ということですね。

ムキムキ、まんまるのマッチョボディーに愛くるしいキャラクター、顔立ち、ということで。ハードなノワールからキュートなコメディーまで幅広くハマる、今や韓国を代表するスター俳優の1人、ということですね。で、これがマ・ドンソクのざっくりとしたプロフィールなんですけど、実は役選び、作品選びなど、非常にクレバーに、戦略的にキャリアを重ねている方でもあるなという感じがあって。2014年には「チーム・ゴリラ」っていう……このネーミングがすごいですけどね(笑)。チーム・ゴリラという会社を立ち上げて、脚本のデベロップメントであるとかコンテンツ製作なんかにも乗り出したりしてるという。

で、そのチーム・ゴリラから、さらに2017年『犯罪都市』、これも傑作でした。そして2018年の『ファイティン!』などなど、要するに自分自身が最も効果的に輝く傑作群を次々に送り出している、という。で、この『悪人伝』も、まさにそうした中で作られた、チーム・ゴリラ作品、ということですね。ちなみに脚本・監督のイ・ウォンテさん。映画監督作品としては2017年の『隊長キム・チャンス』っていう、僕はこれ、今回は見れてないんですけど、チョ・ジヌン主演で、実在の独立運動家を扱った作品を撮っているぐらいで。

あとは、テレビシリーズなどのプロデューサーとかもやってきたような形で、業界にかかわってきた方で。要はこのチーム・ゴリラが、そのマ・ドンソク回りの人材をうまくフックアップして……というような方、と言っていいと思うんですけど。

■韓国ノワール映画の全部乗せな「韓国ノワールの幕の内弁当」
今回の『悪人伝』……英語タイトルがかっこよくて、『The Gangster, The Cop, The Devil』っていうね、「ギャングと警官と悪魔」っていう。要は、『続・夕陽のガンマン』(の英語原題「The Good, the Bad and the Ugly」)風のタイトルなわけですけどね。そういえばマ・ドンソクも、その韓国版リメイク『グッド・バッド・ウィアード』に出てたよな、みたいなところもありますけど。

中身も本当にタイトルそのままですね。ヤクザと刑事と悪魔、つまりそのサイコキラーが、三つ巴の戦いを繰り広げる、という。これ以上でもこれ以下でもない、という話ですけども。で、これがまた、パンフレットでライターの加藤よしきさんが書かれている通りで、韓国ノワールの過去の傑作群のいいとこ取りというか、全部乗せというか、みたいな作品でして。

これ、西森路代さんも特集で指摘されていた通り、韓国ノワールというそのジャンル的充実と、マ・ドンソクに代表されるような一目見たら忘れられない名バイプレーヤーたちの活躍、というのがですね、相乗効果的に上がってきたものというか、要するにノワールジャンルが充実するほどに、バイプレイヤーたちも輝く場が増えたという。で、ついにはその名バイプレーヤーたちが堂々、主役を張っての大ヒット作も連発されるようになった、というのが昨今だという西森さんのご指摘。

で、そうした流れを踏まえるならば、そういう流れのまさにパイオニアであり、その象徴的存在、一身に体現をする存在と言えるマ・ドンソクが、自身が主演する、まごうことなき「スター映画」ですね。スター映画として、こうした韓国ノワール全部乗せな一作を送り出し、やっぱりきっちりとヒットさせている、っていうのはですね、改めて考えてみれば、韓国映画界の成熟ぶりを示すものと言えるかもしれないですね。

マ・ドンソクが主演で、そして韓国ノワールのいろんな要素が集大成されたようなやつがきっちりとヒットするっていう、よく考えるとなかなかな……要するに、一朝一夕にいきなり出てくるような作品じゃない、ってことですね。

ということで、ある意味で韓国ノワールの集大成、というよりは、より正確な言い方をすると、「幕の内弁当」ですね。「韓国ノワールの幕の内弁当」的な本作。幕の内弁当というものがそうであるように、いろんな種類の、確実においしいものが詰め込まれていて、サービス満点! 満足度が高いわけです。ただし、1個1個のおかずを取り出すと、たとえばそれ専門の名店とかと比べると、それはもちろんある程度分かりやすく、味つけは簡略化されています。はい。

■サイコキラーの内面について深掘りしてないのは、おそらく狙いのうち
それは良い悪いとかどっちが偉いとか偉くないではなくて、幕の内弁当というのはそういうもんだ、っていうことなんですね。ということで、だいたいそんぐらいの塩梅の作品だと思ってください! 『悪人伝』、幕の内弁当です。冒頭で、実はその連続殺人鬼である青年を乗せた車を、最近非常に多いですね、ドローンを使って、真上から、ちょっと幾何学的な画角で撮ったソウル市内のショットっていうのがまず、風俗店のそのけばけばしい看板、その明かりが非常に人工的で……毒々しいその色合いっていうのが、僕的にはギャスパー・ノエの『エンター・ザ・ボイド』なんかも連想させて、非常にわくわくする、という。

で、彼は車に乗ってるんですけど、獲物を探していて。それでおっさんが乗った車に追突しては、降りてきたところをめった刺しにしている、という青年なわけですね。まあ、帽子を目深に被ったサイコキラー青年というのは、たとえば2008年のあの大傑作『チェイサー』のね、ハ・ジョンウが演じたあのサイコキラーなんかもちょっと想起させるような感じもあるかもしれませんけど。とにかくまあ、たぶんなんでおっさんばっかり狙ってるかという、その後のセリフとかいろいろな説明によると、どうやらその幼少期のお父さんによる虐待というのがベースにあるらしい、っていうのがほのめかされる。一応、動機はある。

ただ、ぶっちゃけですね、この『悪人伝』におけるこのサイコキラー、後半に行くにつれて、犯行スタイルがどんどんどんどんブレていくというかですね……ブレていくし、あとはニーチェだのキルケゴールだのを読んで、その不気味な部屋に住んで、キモいノートをつけているサイコパスっていう、このキャラクター造形も、正直2020年現在すでに、ここの部分に関しては、新鮮味は全くないと言えるし。

なので、そういう意味ではマイナスっていう風にね、そこはマイナスだっていう風に書かれているメールもありましたけど、ただ、それゆえに、犯行自体の残酷さ、無情さに対して、後味が重くなりすぎない……サイコキラーのその内面とか、そういうところを掘り下げすぎないことによって、本作のようなあくまでも娯楽作にとっては、後味が重くなりすぎない、というプラスの面もある。で、恐らくこれは、狙いのうちだと僕は思います。

とはいえ、演じてるキム・ソンギュさん。三白眼と、まさしくその鋭利なお顔立ちの骨格。あの、ちょっと骨格が……顔立ちが、ハッキリしているのに平らっていうか、殴られた時に顔が平らになったように見えるっていうか(笑)、そんな感じで、まさしく存在感自体に、それこそ一目見たら忘れられない強さがあるので、少なくとも本作に関しては、これはこれでいいバランスなんじゃないかという風に僕は思います。ということで、そんなおっさん狙いのサイコキラーがですね、うっかり獲物として選んでしまったのが、よりによってマ・ドンソク! という。

■この映画の影のMVPは、マ・ドンソクに見劣りしないキム・ムヨルさん
「ナメてた獲物がマ・ドンソクだった!」というね。ここの、あのいざ2人が対峙した時の、「お互いに驚いてる」感じがすごくいいですよね。マ・ドンソクは当然、いきなり刺されて驚いてるし、そのサイコキラー側も、「あれ?」っていう。「こいつ……あれ?」っていう感じがすごく面白い。ちなみにこの、雨が土砂降りの中で、ヒョロヒョロの、ちょっと病んだ感じの青年が、割とマッチョな感じの男に挑みかかっていく、っていう絵面は、僕は日本映画の、松田優作さんの『野獣死すべし』のオープニングなんかもちょっと連想しましたけどね。

で、要はこの映画、サイコキラー側の存在感がちょっとだけ軽いのは当たり前で。このキム・ソンギュさん演じる殺人鬼は、ある種の「お宝」なわけです。で、そのお宝を、マ・ドンソク演じる暴力団ボスと、キム・ムヨルさん演じる刑事の、どっちが最終的にゲットするか?っていう。そういうゲーム性を持った話でもあるので。なので、重要なのはむしろやっぱり、暴力団のボスと刑事の2人。その意味で非常に重要な、一番重要なのは、マ・ドンソクはもちろんスターだからね、ドンと真ん中にいればいいんですけど、この刑事の役柄が実は大変ですよね。

もちろん本作における絶対的中心、スターとしてのマ・ドンソクのおいしさを損ねない程度に、しかし観客が一目でそう納得できる程度にはきっちり対等に、画面内でマ・ドンソクと張り合わなきゃいけないわけで。これ、なかなか難しいバランスなんですが、その点、本作のキム・ムヨルさんは、本当に素晴らしいと思っていて。なんでもこの役のために15キロ増量して、筋肉を鍛えてきたということなんでね。で、その肉体のたたずまいや表情の作り方など、皆さんは武井壮さんっておっしゃいますけど、僕はもうズバリ、マーク・ウォールバーグだと思います。

で、恐らくたぶんキム・ムヨルさん自身も、マーク・ウォールバーグ的な造型と、あと表情というか、演技の方向も、マーク・ウォールバーグを僕ははっきり意識してるなと思って見てました。とにかく彼がスクリーンに登場するたびに、それこそマーク・ウォールバーグ級の、「男臭い華」というべきものが増して。ともすると、感じが悪いだけにもなりかねない役なわけですね、これ。暴力的な刑事だから。そんな暴力的な刑事役を、マ・ドンソクに見劣りしない、かと言って悪目立ちもしない、理想的なバランスで演じられているんじゃないかなと。僕はもう、キム・ムヨルさんが実は、この映画の影のMVPだ、という風に思います。

■感情移入を妨げない範囲で、「この人だけは敵に回したくない」と思わせる悪人バランス
で、序盤ね、違法遊技場のその換金係と、原付で2人乗りして現場に乗り付けて。で、その換金係をバイクに手錠で繋いで……っていう、これがずっとワンショットの流れで見せるんですけど。ここのワンショットで、じゃあ今、その手錠で繋がれた換金係がどうなっているのか、一旦カメラが振り返ると……とかね。めちゃめちゃこのショットとかも、おかしくていいですね。これはあの、こういう娯楽映画の序盤としては、申し分ない感じですね。

とはいえ当然ね、さっきから言っているようにこの『悪人伝』という作品の最大のキモは、もう言うまでもなく、スターのマ・ドンソクをどうおいしく輝かせるか? これは当然チーム・ゴリラ、そこを一番に考えてるわけですから。そのキム・ムヨルさん演じる刑事と、マ・ドンソク演じる暴力団ボスのチャン・ドンス。2人が並べば、やはりそのチャン・ドンスさんの方が明らかに格上、ということが示されなければいけない。

たとえばあの『犯罪都市』に続いて、僕はもはやマ・ドンソクの強さを示す演出の十八番のひとつだと思うんですけど、携帯電話で通話しながら……つまり文字通り「片手間」で、つかみかかってくる相手をあしらう、っていうあのくだりとかもあるし。あと、飲み会でね、思わずそのチョン・テソク刑事がですね、韓国における目上の人を前にした時の飲み方をうっかりしてしまう、とかですね。そういう描写もあったりなんかして。

ということで、事程左様に今回のマ・ドンソク、一応悪役というか、悪人役なので。もちろん、あくまで観客の感情移入を妨げない範囲で……つまり暴力を振るうにしても、観客が「ああ、こいつじゃしょうがねえな」っていう風に思えるような悪人、しかも、生理的嫌悪感を催すような悪人、という。たとえば……やっぱここでフード演出が出ましたね! きっちり食い方が汚い、嫌な音を立てまくっているやつとかに対して暴力は振るわれる、っていうことで、周到にバランスは取られているんですけども。

それと同時に、やっぱり圧倒的に印象に残る、バイオレンスな振る舞いをする。具体的には皆さん……キーワードだけ言っておきます。「サンドバッグ」「前歯」「張り手」という(笑)。「サンドバッグ」「前歯」「張り手」、この3つが今回のハイライトです! で、要は「この人だけは敵に回したくない」という、その強さ、怖さ……もちろん強さ、怖さはそういうバイオレンス描写で示しつつ、根本にはその、筋とか信念のようなものっていうのがあるな、というのもあるから。「こいつに敵だと思われたくない」っていう風に、感情的にも観客に思わせる、というバランスがちゃんと取られている。

■お話としてはまとまってないところもある、しかし見ている間は気にならない
特に後半、その彼の、弱きを助け、強きをくじくスタンスというのが明確になる、あるエピソードが出てきます。後半で。しかもこれはですね、同時に、完全に『殺人の追憶』オマージュだと思いましたけど、ポン・ジュノの『殺人の追憶』を思わせる悲惨な事態と、彼が完全に自己の利益を超えて決断をする……言うても暴力団のボスなんで、自分の利益に従って動いていた彼が、最終的にはちょっと、自己の利益を超えて行動をするわけですけど。

そのラスト周辺の展開は、やっぱりその、とある悲劇が起こったからなわけで。そこが大きな転機にもなっているわけで。そういうくだりが来る。ということで、強烈にね、その記憶に残るバイオレンスシーンを含みつつ、やはり最終的にはやっぱり「気は優しくて力持ち」じゃん!っていうね、要は僕らが求めているマ・ドンソク像にきっちりと収めてみせる、という。これ、チーム・ゴリラ、セルフプロデュース能力が非常に高い、という風に言えるんじゃないかと思います。

ということでですね、警官とアウトローが必要に迫られてバディ化していくという、これ自体は一種、定番的なジャンルとも言えるんですけど。この『悪人伝』が面白いのは、手下チーム……そのバディ化が、全体に、「グループ交際」に及ぶという(笑)。ここが特に楽しいあたりですよね。ぶっちゃけですね、途中の、たとえば誘拐のエピソードが出てくるんですけど、誘拐のエピソードのところの犯人の行動が、ちょっとここ、意味不明すぎるっていうか。何のためにこれをやったのかが分からない上に、この誘拐エピソードはちゃんと回収もされない、とか。

ここが一番ちょっと気になるところですけど、そことか諸々、いろいろ詰め込みすぎて、よく考えるとお話としては上手くまとまってないな、っていうところがまあ、よく考えると結構ある作品ではあるんですが。ただこの『悪人伝』ですね、やっぱりこれは美点なんですけど、見てる間はあんまり気にならない。そのぐらい、やっぱり速い、勢いがあって、テンポがすごくいいので、見てる間は少なくとも気にならない。これ、娯楽映画としてはそこは合格ラインかな、という風に思いますし。

■最後の対決は「マ・ドンソク力」をもって勝つ
で、いろいろあって、たとえばクライマックス。いろんなアクション見せ場があるんですけど、たとえばクライマックスの、あのソウルの街中、特に狭い路地の中を突っ切るカーチェイス……最初のそのカーチェイスが始まるところの、グーッと溜めて溜めて、待って待って待って、始まるぞ! ドーン!っていうあの、スタートのところの緊張からの、パンッ!と始まるあの緩急のつけ方も含めて、このカーチェイスなんかもめちゃめちゃ頑張ってると思いますし。

あと、あのクライマックスですね、ついにその殺人鬼とマ・ドンソクがタイマン勝負をするという場面……あのカラオケボックスのところのね、どこにいるかを見つけ出すっていう、一旦通り過ぎて戻るっていう、『サスペリア2』風じゃないですけど、なんか、あの感じも面白かったし。ラストのそのタイマン勝負で、僕はここが素晴らしいと思うんだけど、マ・ドンソク映画として。

殺人鬼VSマ・ドンソク。マ・ドンソクのその勝ち方が、マ・ドンソクでしかあり得ない勝ち方っていうか、「マ・ドンソク力」をもって勝つというか。この描き方もやっぱり、さすがチーム・ゴリラ作品。これはもう、求められてるものに200パーセント応えてくれているな、っていう感じで。ここも、拍手!っていう感じでございました。

あと、主要キャスト3人以外の脇役も、やっぱりちゃんとみんなイイ顔。やっぱりね、脇役出身のマ・ドンソク、そういうところもちゃんと、きっちりとたぶん気を遣ってるんだと思います。彼らが怒鳴ったり、ニヤついたり、殴られたりするたびにですね、また愉快さが画面を満たしていく、という。そういう感じなんですけども。個人的に印象に残ったのはですね、あの、マ・ドンソクが手を焼く友人暴力団ボスの、右腕役。ホ・ドンウォン(Heo Dong-won・허동원)さんという方ですね(※宇多丸補足:ここ、放送上では、ハングルの読み方がわかってなくて非常に変な言い方をしてしまってます。こちらも訂正してお詫び申し上げます!)。

これ、パンフレットとかに全くクレジットがなくてね、調べるのに大変苦労したんですけど。ホ・ドンウォンさん。この方、『犯罪都市』では、そのマ・ドンソク演じる刑事チームの一員として、また全く違った雰囲気で、非常に目立っていた方です。なのでたぶん、マ・ドンソクお気に入りのバイプレイヤーなんだと思います。ホ・ドンウォン。おそらく他もいろんな役をこなせそうで。よく見るとなんか結構ハンサムなんですよ。

ホ・ドンウォンさん、今後も注目です。この名前、覚えておいて。あと、あの鑑識係。「チャ・ソジン! チャ・ソジン!」「名前で呼ぶな!」なんて。「名前で呼ぶな!」っていうだけで、「ああ、この 2人は過去に何かあったのかな?」って、そういうちょっとバックストーリーも想像をさせるみたいな。これも非常にうまい脚本だなと思いましたけど。チャ・ソジンっていうあの鑑識係を演じている、キム・ギュリさんという女優さん。

今回、特別出演という扱いになっておりますけども、あの、ほとんど唯一の主要女性キャラクターでもあるし……最後にきっちり彼女がチームとして、あの晴れの舞台に上がっている、っていうところも、何か僕は爽快感を増してるかなと思いましたね。

■80点満点中、85点から90点。娯楽作品として申し分なし
といったあたりで、世の中にはですね、「80点満点」の映画というのがありまして。まあ『悪人伝』はそういう意味では、明らかにこれ、80点満点の映画なんですね。なんだけど、この『悪人伝』に関しては、その80点満点中、85点から90点は確実に出してるわけですよ。

要するに、求められるものに対して、でもプラスアルファ……で、そのプラスアルファってなにか?っていうと、やっぱりこういうマ・ドンソクさんのスターとしての魅力でもあるし、僕はやっぱり、その刑事役のキム・ムヨルさんが、相当これは大健闘したな、という風に思います。まあそんな感じで、80点満点中85点から90点を出しているので、これはもう大満足、と言わずして……ねえ。「幕の内弁当にしてはこのフライ、美味しいな!」みたいな。そういう感じですよね。はい。

ちなみにこの『悪人伝』、マ・ドンソクさんですね、憧れの……要するに彼に憧れて俳優業を始めたという、あのシルヴェスター・スタローン製作で、しかもですね、アメリカ版リメイクが決まっているんですけども、これ、アメリカ版リメイクでも同じ役を演じることが決まってる、ということで。これはですね、当然この番組内でもいずれ、見比べる日は間違いなく来るわけで。スタローンとマ・ドンソクですから。

そういう意味で皆さん、『悪人伝』は当然、オリジナルとして見比べる日も確実に来るのですから、絶対そういう意味でも必見でございますし。ということで、適度に濃い味付け、しかし後味は意外とさっぱりしている、という意味で、娯楽作品としては本当に申し分ない楽しさではないでしょうか。ぜひぜひ劇場でウォッチしてください!


(ガチャ回しパート中略 ~ 来週の課題映画は『アルプススタンドのはしの方』です)

以上、「誰が映画を見張るのか?」 週刊映画時評ムービーウォッチメンのコーナーでした。

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【1位】射手座(いて座)
あなたらしく、自由に振る舞えそうな運勢です。好きなことに時間を使うように、スケジュールを工夫してみましょう。すでに頑張った分の成果が出始めているのではないのでしょうか? 今日は、怖がらず前向きにガンガン進んでいけると最高の日になりそう。周りに合わせるより、自分の好みに忠実でいましょう。

【2位】獅子座(しし座)
恋愛運が急上昇中! 何もしなくても、好きな人との接点や、その前のキッカケとなる展開が訪れるかもしれません。今日はぜひおしゃれを楽しんでみてください。メイクをワンポイント変えるだけでも、人目を引くでしょう。好きな人に会ったときは、素敵な笑顔を向けてみて。あなたの表情から、内面の美しさもあふれ出すでしょう。

【3位】牡羊座(おひつじ座)
勉強運が上がっています。資格取得を目指している人は、今日は集中して、学習のための時間をとりましょう。特に目指すもの、勉強することもない人は、読書をすると、今日の運気の恩恵を存分に受け取ることができるでしょう。気分転換に映画やドラマを観るのがオススメです。作品を観た際は、「ここがすごい!」というポイントを探してみて。

【4位】水瓶座(みずがめ座)
あなたが指揮をとったり、みんなの中心になったりすることでうまくいく日です。簡単に言うと、あなたが主役のような日ですが、目立つのが苦手な場合は、自分の考えや意見をはっきり言うだけでもOK。さまざまな人たちの協力を得られそうなので、あなたの叶えたいことのために、みんなの力を借りましょう。

【5位】双子座(ふたご座)
前に行く意識が大切です。引っ込み思案で居るともったいない1日。勝負をするのにも向いている日です。自分の好きな色、もしくは赤色のアイテムを身に着けてみてください。一対一のコミュニケーションが向いている日。使い方によって相手との距離が縮まる日ですが、詰めるようなことをすると、しっかり距離が空いてしまうでしょう。

【6位】天秤座(てんびん座)
「雑学」がテーマの日。小さな面白い知識をいっぱい吸収できそうな1日です。誰かを教えたり育てたりする立場の人は、手をかけているその人から学ぶことも多そうです。受け取った情報がどう自分の学びになり、どうやって身に着けていくのかを言語化できるようにしましょう。

【7位】蠍座(さそり座)
金運が上がっています。財テクやマネーリテラシーを学んで、これからの資産作りについて考えてみましょう。先の計画や目標を決めて、あなたがそこに納得できたのなら、それはしっかり現実になっていきそうです。大きな買い物をする場合は、お得にゲットできる方法がないか、先に調べてみましょう。

【8位】魚座(うお座)
物事が達成できるか不安になるような、少々プレッシャーのかかる日です。今まで通り、やるべきことをやってください。今日はちょうど良い成長の機会です。自分を信じて進みましょう。やや難しいことを言われるかもしれませんが、落ち着いて取り組めば大丈夫です。がむしゃらにがんばるよりは、的を絞ったほうが効果的なようです。

【9位】山羊座(やぎ座)
思い通りにいかない日だと思って過ごしましょう。今日は、臨機応変に対応していくような運勢です。イライラしてしまうかもしれませんが、予定が変わったほうが、あなたにとって実りの多い展開になると考えてください。神社仏閣に行くと気が整って、肩が軽くなりそうです。今日は、なるべく早く家に帰りましょう。

【10位】乙女座(おとめ座)
今のあなたの立場によりますが、あれもこれも自分の責任だと思って背負いこみすぎるか、自分のせいではないと逃げ回ってしまうかのどちらかになりそうです。しなくても良い言い訳や責任逃れは、あなたの信頼にかかわるので、面倒でも対処しましょう。とらなくて良い責任については、きっぱり釈明してください。

【11位】蟹座(かに座)
視野が狭くなりやすい1日です。ついカッとなって勢いで発言してしまうと、相手との距離が開いてしまいそうです。感情的になってしまったときは、一旦深呼吸をしてみましょう。イライラは体を動かすなどして発散させると◎ つまらない争いごとには、首を突っ込まないように。

【12位】牡牛座(おうし座)
気分の浮き沈みが激しくなりそう。今日の運気のせいだと割りきって、深く考えすぎないようにしましょう。また、今日の決断は空回りしやすいので、何かを決めたり、思いを巡らせたりするのはやめておきましょう。誰にも言えない恋をしている人は、さらに秘密を抱えてしまうかも?

【今日の一言メッセージ】
自分をどのように扱っているかで、他人からどう扱われるかが決まります。不思議なものですが、自分に優しくすればするほど、周りはあなたに優しくなるでしょう。まずそのためには、あなたがどれだけ自分を認めているかがポイントになります。

■監修者プロフィール:玉木佑和(たまき・ゆな)
池袋占い館セレーネ所属。声優、脚本家としても活躍する異彩の占い師。「言葉で未来を照らす」をモットーに、カードや星からのメッセージを愛ある言葉で相談者に届ける。アプリや雑誌記事の監修など、さまざまなメディアで活躍中。
Webサイト:https://selene-uranai.com/
オンライン占いセレーネ:https://online-uranai.jp/



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