宇多丸、『劇場版「鬼滅の刃」 無限列車編』を語る!【映画評書き起こし】

ライムスター宇多丸がお送りする、カルチャーキュレーション番組、TBSラジオ「アフター6ジャンクション」。月~金曜18時より3時間の生放送。


『アフター6ジャンクション』の看板コーナー「週刊映画時評ムービーウォッチメン」。ライムスター宇多丸が毎週ランダムに決まった映画を自腹で鑑賞し、生放送で評論します。
今週評論した映画は、『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』(2020年10月16日公開)です。

宇多丸:
さあ、ここからは私、宇多丸がランダムに決まった最新映画を自腹で鑑賞して評論する週刊映画時評ムービーウォッチメン。今週扱うのは、10月16日に公開されたこの作品……『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』。

(曲が流れる)

週刊少年ジャンプで連載されていた、吾峠呼世晴さん……ちょっとまだプロフィールが謎に包まれているというか、あんまり表に出ていらっしゃらないという、女性の方なんですよね? 吾峠呼世晴の大ヒットマンガをアニメ化した、『鬼滅の刃』の劇場版。大正時代の日本。主人公の炭治郎は、鬼に変わってしまった妹の禰豆子を人間に戻し、家族の敵を取るために、鬼殺隊に入隊。鬼殺隊最強の剣士の1人、煉獄杏寿郎たちと、「無限列車」に潜む鬼たちと戦う任務に臨む。声の出演は花江夏樹さん、鬼頭明里さん、日野聡さんなど。テレビ版に続き、外崎春雄さんが監督を務めるという……ufotableという制作会社が作っております。

というところで、この『鬼滅の刃』。もちろん皆さんご存知の通り、目下記録的大ヒット。日本のみならず、この期間に世界中で劇場公開された全ての映画の興行収入よりも、日本の『鬼滅の刃』の興行収入が多い!という。どうかしてるぜ!っていうことになってますけどね。それぐらい今、世界の映画館がストップしちゃっている、ということでもありますからね。(映画館で映画を)見られるということは、ありがたいことです。

ということで、この『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』をもう見たよ、というリスナーのみなさま、<ウォッチメン>からの監視報告(感想)をメールでいただいております。ありがとうございます。メールの量は、「多い」。今年最多とまでは行かず、という感じです。『TENET テネット』とかよりは少なかったようですが、多い。賛否の比率は、褒める意見が半分ちょっと。その他は、「いいところもあるが、よくないところもある」「よくないところもあるが、それでも好き」という声が目立った。

褒める意見の主な内容は、「丁寧な作画、迫力のある音楽、声優たちの熱演がよかった」「原作はあまり知らなかったが、それでも楽しめた」などがございました。たしかに、知らないで行ってもちゃんと楽しめる作りですよね。原作やテレビシリーズのファンも、ほぼ知らないという人も、どちらもそれなりに満足できた様子。全然つまんない、っていうことはまずないんじゃないかな? また、「これだけ活気のある映画館は久しぶり」という喜びの声も多かった。

一方、批判的な意見としては「何でもかんでもセリフで説明しすぎ」「原作通りだが展開が唐突だし、ギャグのせいでテンポが損なわれている」などがございました。

■「『鬼滅の刃』の残酷さ、美しさを映画内で語り切ることに100パーセント成功している」byリスナー
代表的なところをご紹介しましょう。ラジオネーム「HK」さん。「『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』をウォッチいたしました。原作は既読で、映画の感想は『賛』です。『心情を吐露しすぎ、同じことを繰り返し言いすぎ』といった正論はこの映画に対してはご容赦いただけないでしょうか」というね。

で、いろんなことを書いていただいて。「一見、続き物の新参お断わり映画に見えても、原作にはない墓参りの場面を冒頭に追加したり、中盤の夢パートを少し長くすることで各登場人物の人柄説明に時間を割くなど、独立した映画として成り立たせるための工夫が行なわれており、無限列車での戦いが3分の2、残り3分の1が本当の大見せ場と、映画自体の構成も計算されたものになっております。展開を知らない方にとってうしろ3分の1が唐突なのは否めませんが、圧倒的熱量でカバーできてると思います」と。

で、いろいろまた書いていただいて。「何より『鬼滅の刃』という作品において、『無限列車編』を長編映画にすることを選択し、語られる物語の本質に向きあい、正しく映画化してみせたことに脱帽です。鬼に通ずる『無限』という言葉。列車という舞台。夢で描かれる死への向き合い方。そして不可逆的にやってくる夜明けでの決着における、人間と鬼の見事に対局な結末。原作の持つこれらの要素を劇的にスクリーンで展開することで『鬼滅の刃』という作品の持つ残酷さ、美しさを1本の映画内で提示し語り切ることに100パーセント成功しているのではないでしょうか?」「この映画に関わった全ての方々と、20歳の若き青年、煉獄杏寿郎が、日本のシネコンも守ってくれた。これは誰が何と言おうと揺るがない事実だと思います」という。

一方、よくなかったという方もご紹介しますね。ラジオネーム「Peco」さん。「『鬼滅の刃』は、漫画は全巻持っていて、この映画がどのようなストーリーになるかをわかった上で鑑賞しましたが、結論から言うと『否』です。劇場版ということで、作画や各キャラクターの技の演出など、テレビアニメ版よりもさらにクオリティーが上がっていましたが、様々な足し算をしていくことで、1本の映画としてはマイナスになっていったのではないかと感じました。

テレビアニメと劇場版で違うことは、作品のクオリティだけではなく、鑑賞側の作品を見る姿勢がそれこそ『全集中』して作品に臨む形になるので、状況説明のセリフや感動のシーンでの音楽の使い方などが過剰に感じるな、とノイズの部分が目立つように感じました。原作を忠実に再現しているので、ストーリーについては何とも言えない部分ですが、やはり後半の唐突さは気になりました。内容も『鬼になれ』『断る』のやり取りが冗長に続いているだけに見えましたし、全てのキャラクターがそれぞれ泣いたり悲しんだりする部分が長く、カラスまで涙しているシーンはさすがに笑ってしまいました」。

これね、原作も確かめましたけども、さすがに原作漫画ではカラスは泣いてないので(笑)。これは『宇宙戦艦ヤマト 復活篇』、あるいは『ブッダ』第一部冒頭等における、ちょっと行きすぎた動物描写……まあでも、あの(『鬼滅』劇中の)カラスは知性があるからさ。でも私も、「えっ?」って思いましたけども(笑)。「今、オレが見たものは……?」って一瞬、思いましたけども。

「そもそも、週刊連載でのストーリー展開と1本の映画としてのストーリー展開は合わない部分があると思っていますが、オリジナルストーリーではなく、原作の途中から始まって途中で終わる、というストーリーで映画にできてしまうのは、逆に『鬼滅の刃』がすごい、ということなんでしょうね。だらだらと書いてしまいましたが、『劇場版「鬼滅の刃」』は様々なものがきっちりと詰め込まれだった映画だと思いますが、見る側に想像する余地も与えないほど全てが説明された映画だったと思います。それが個人的にはすごく窮屈に感じてしまい、思ったほど楽しめなかった、というのが感想です」というご意見。

あと、ちょっとこれは長いので読みきれないのですが、ラジオネーム「ミューオタ」さんという保育士の方から、教育的観点からの批判的意見。これ、要するにですね、『鬼滅の刃』、今回の映画に限らず作品自体に関して、「死を美化する内容である点は大きな問題点です。死を美化する、死が温かいものであるかのように美化し描かれること。これははっきり申し上げましてサイアクとしか言いようがありません」。教育者として、というようなことを書いていただいている。

あと、「この映画がR-指定ではなくPG指定であるという点。どうしてこのグロさでPG12なのか?」っていう。ちょっとこのレーティングに関しても疑問を呈されている、というメールでございました。


■まったくの『鬼滅』門外漢が一週間で最大限『鬼滅』を履修して臨んだ、その結果は?
といったあたりで皆さん、いっぱいメールをいただき、ありがとうございます。非常に熱量高いものがあって。ありがとうございました! 私も、『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』、TOHOシネマズ日比谷にて、2回、見てまいりました。さすがに平日の昼は落ち着いてはきてますが、でも昼にしてはやはり、結構いる感じでしたかね。

ということで、先週までは全く何も知らない状態でしたけど、知らない状態で1回見て、アニメ版を全部見て、原作漫画を読んで、もう1回劇場に行って。それでもう1回、原作漫画を最後まで読んで……というような感じで、私のできる限りのことをしてまいりました。

昨日、木曜パートナーの宇内梨沙さんともしみじみ話していたんですけど、ここまで老若男女、全方位的に巻き込んでの一大ブームって、ちょっと記憶にないっていうか、久しぶりというか、かなり稀有なことだと思いますね。たとえば『エヴァンゲリオン』が流行ったって言っても、それはやっぱり青年的な年齢以上、というところになるでしょうしね。それは本当にすごいことだと思います。で、今日はその国民的大ヒット作品について、僕なりに理解して、楽しんだり、あるいは興味深く考えたあたり、というのをちょっとお話させていただこうかと思います。なので、ちょっとディープな、本当にファンとしてのディープな話、みたいなことを期待してる方は、ちょっとそれは私の役目ではございませんので、ご容赦くださいませ。

個人的には特にですね、やっぱり週刊連載漫画~テレビアニメシリーズ~劇場用映画という、それぞれのメディアの違いというのが非常に際だっている、という意味で、改めていろいろ考えさせられる、いい機会にもなった作品でした。まず、全ての土台となる原作漫画。2016年から2020年、週刊少年ジャンプで連載されていました。話としては、かなり残酷さやおどろおどろしさを含むような、いわゆる「伝奇ロマン」っていうことでいいと思うんですよね。

限りなく時代劇的なニュアンスで、大正時代を舞台にしているけども、具体的な大正時代性みたいな……たとえば関東大震災が出てくるとか、そういうものは描かれない。まあ、「なんとなくちょっと前」的な、「時代劇寄りな近代」的な大正、を舞台にした伝奇ロマン的なもの。もちろん、残酷さやおどろおどろしさがあったりするんですが、事前にその設定などから想像していた、いわゆるその劇画タッチ的なイメージからすると……もちろんそういう濃い、圧が強い、ハードで重たい、っていう見せ場もあったりはするんですが、全体的には僕、事前のイメージからすると意外なほど、ポップ、コミカル方向にデフォルメされたところが多いのが、すごく印象的でした。結構コメディなんだなっていうね。

■事前の想像よりははるかに「スポ根漫画的」だった原作コミック
で、実際に声を出して笑っちゃうぐらい、そこは一番楽しんだあたりでしたね。特にやっぱり、みんな大好き善逸くんとかね。彼をはじめ……ちなみにこの善逸くん、人気投票で1位だったそうですけど、僕、個人的にはですね、この善逸のキャラクター、言わば「逆ギレ潔癖サイコキャラ」的な面白みはですね、ご存知Creepy NutsのDJ松永と、すごい近いものを感じて(笑)。余計に親しみを感じてしまって笑ってしまった、っていうね。「あーっごめんなさい! はーいわかりました、はい降ります降りまーす!」とかさ。「はーいもう死ぬ! ああもう死んだはい死んだはい死んだ!」みたいな。ああいう感じが、すごい松永っぽいっていうね(笑)。逆ギレ潔癖サイコキャラ(笑)。

まあ、そんなみんな大好き善逸くんをはじめ、やはりクレイジーなレベルで野生児すぎる伊之助くんであるとか、そして突き抜けたイイやつっぷりが……先ほどもね、ちらっと山本さんとお話ししましたが、やっぱりちょっと天然というか、ほとんどサイコ的な、その常人離れした領域に入っている、主人公の炭治郎くん。この3人の少年を中心とした……要するに、それぞれにヤバい面も持っている。

あるいは、ちょっと暗い過去、バックグラウンドも持っていたりする。つまるところ「キャラが立っている」この少年3人および、その周りの人物たちの、そのワチャワチャした人間関係とか、ワチャワチャした青春コメディ感、というのが実はとても楽しい。多幸感!っていう、そこが非常に大きな魅力、人気の源になってるっていうのは、遅まきながらわかったあたりですね。やっぱり彼らのキャラクターそのものが好きになっちゃう、というかね。彼らと一生ワチャワチャしてたい!っていう感じになるっていうかね。

だからこそ、特に(原作漫画)終盤。ラスボスが本拠としている「無限城」というところで延々と続く、敵味方双方の、もう本当に「削り合い」の決戦が、痛々しくもドラマチックに盛り上がったりもする。このクライマックスの、なんというか、非常にお互いキャラ立ちしまくった最上級忍者チームの総力戦!みたいな感じは、僕、白土三平の『忍者武芸帳』終盤を彷彿とさせて。これはたしかにめちゃめちゃ燃えるし、盛り上がるな!という感じで。すごく楽しく読みました。

それで、今言った青春コメディ感とも通じる部分ですけど、味方チームも敵チームも、組織構成、ヒエラルキー、あるいはその中でのルール、というのが、ものすごく分かりやすく図式化されていて。言っちゃえば「スポーツ的」なのもこれ、『鬼滅の刃』の魅力として大きいな、と思いました。要は、地区予選から全国大会、プロ2軍から1軍、そしてメジャーリーグ……的にですね、お話全体の進むべき方向とか、今どのぐらいに主人公たちがいて、なにが争われているのかっていうのが、スポーツ的、ゲーム的に、非常に焦点が常に明確に絞られてる、っていうことですね。

で、その戦いと戦いの間には、「休息~訓練」期間というのがきっちり挟まれて。あるいは、その少年たちならではの、憧れとか焦りであるとか。「自分はまだこれしかできていない」っていう焦り、あるいはコンプレックスみたいなのも、その間に描かれる、っていう。あるいは、戦いの最中も、「こういう敵だからこう攻める、こう守る」というようなロジックが、割としっかり積み重ねられていて。ファンタジー的なチートは、意外と少なかった。

これ、だからすいません。昨日、木曜日に話してた私の予想……すいません! 失礼千万な……ファンタジー的なチート(『なんかビカーッと光って全解決!』的な決着)は、あんまりしてませんでした。だから、それだけに、地道な削り合い、みたいなことをしていくような話で。要はわりとストレートに、「スポ根漫画」的な作りだな、ということですよね。で、加えてもちろんその、伝奇ロマンというジャンルならではの、特に敵方の、奇想あふれる、奇っ怪なアイデアあふれるギミックの数々も、楽しい!っていう感じですね。もちろん、『ジョジョ』的、っていう言い方もできると思うけど。

■王道少年向けエンターテインメントの構造を分かりやすく整理・再構築して今風にポップにコーティング
まあ、それこそ山田風太郎とかさ、伝奇ロマンの歴史で。そのさっきの『忍者武芸帳』とかもそうですけども、これは連綿とあるものですよね。たとえば今回のその『無限列車編』で言うと、まあかなり『インセプション』っぽいことをやっているわけですよね、もうはっきりと。なんだけど、こっちのその前の方の話でも、たとえばあの、鼓を叩くと部屋が回るっていう、響凱という鬼の技であるとか、あるいはラスボス、さっき言った鬼舞辻無惨……ちなみにこの「鬼舞辻無惨」とか、この独特の漢字多めのネーミングセンスも、やっぱり面白いあたりですね。これも『ジョジョ』的って言ってもいいかもしれないけど、まあその、伝奇ロマンっぽいところですよ。

その鬼舞辻無惨の本拠の、さっきから言っている無限城っていうのとかも、要はすごく『インセプション』っぽい、重力が上下自由になっちゃってる感じとかもあったりして。あとは、今回の劇場版に出る、その魘夢っていう鬼の、手だけが歩いて……とか、手に口が生えてる感じとか、あれはすごい、デル・トロっぽいな、と。特にやっぱり『パンズ・ラビリンス』っぽいな、っていうね。

あとは、後半の機関車と鬼が融合……肉と機械が融合、みたいなのはまあ、ギーガー的、もしくは、わかんないけどデヴィッド・クローネンバーグ的、あるいは『遊星からの物体X』的だったり、ということで。とにかく、いろんな過去のエンターテイメントのいいとこ取り、っていうのも当然していて。あと、敵が倒された後にね、やや同情的に描かれる、なんなら主人公に感謝さえする、っていう……先ほどメールでちょっと批判的に書かれていた部分ですけども。それもまあ、少年漫画では昔からある傾向ではあるわけですね。まあ、たしかにちょっと「いい気なもんだな」傾向だけど、ある。倒された敵さえ感謝、みたいな。なんだけど、特にこの時代……不信と分断のこの時代には、タイムリーに響く、というのもたしかにあったりするかな、という風に思いました。

ということで、まあ王道少年漫画、王道ジャンプ漫画、もっと言えば王道少年向けエンターテインメント全般、その構造を、改めてしっかり、分かりやすく整理し直して再構築、なおかつ、今風のキャラクター造形であるとかギャグセンスで、ポップに仕上げてコーティングしてみせた、という感じで。

あと、人気週刊漫画にしては珍しく、きっちり……要するにジャンプにしては珍しく、きっちり、風呂敷を完全に畳んでみせた、というところまで含めて、なるほどそれは面白いし、大したもんだっていうか。素直にめちゃくちゃ楽しみました。原作漫画、本当に。ジャンプの人気漫画をきっちり読みきったのってすごい久しぶりでしたし、これはやっぱり、『鬼滅』だからこそ僕は……要するに、古典的な少年漫画のよさ、みたいなものをものすごく再構築した漫画だからこそ、僕も読みやすかった、っていうところがあったと思っています。あと、ご多分に漏れずというか、主人公たちの成長とシンクロするかのように、画力がみるみる上がっていく、というね。これも本当に連載漫画ならではのダイナミズム、すごく堪能しました。

■原作に濃い目の味付けをしたテレビアニメシリーズ
で、それをさらにアニメ化した、2019年のアニメシリーズですけど……お話の展開、セリフなどはもちろん、漫画ではあくまで息抜き的な 1コマのみとか、コマの隅っこに描かれているような、要は小ボケみたいな、ちっちゃな小ネタみたいなものも、ほとんど全て、余すところなく拾い上げて、「アニメ化」してるわけです。

プラス、その声優陣たちの熱演も相まって、要はよりコメディ色が強いっていうか、ちょっと、言っちゃえばクドいほど笑わせてくる作りになってるわけですね。コマの隅に書かれたようなギャグも、大映しでアニメになっている。それに加えて、ここは多くの方も指摘されている通り、アクションシーン、バトルシーンが、より具体的な動き、振り付けに置き換えられている。あるいは、「水の呼吸、○○!」みたいに技を繰り出す決めの画は、その「水の呼吸」であれば、浮世絵風のタッチでグワーンと波が動いたりする、という、ケレン味たっぷりな見せ場になってたりする。

とにかく戦闘シーンが、より分かりやすく躍動感ある、まさにアニメならではの見せ場になっている。あの、着物の柄ひとつ取ってもこれ、描くの大変だと思うんですけどね。また、やはり漫画版では比較的あっさりと描かれていたような、グロテスクな描写、人体破壊とかが、ギャグ同様、丁寧に余すところなく拾われていて、バトルシーン同様に、アニメならではの具体的な動きの画として提示されるために……所々その太さの異なる、筆圧を感じさせる輪郭線のタッチも相まって、原作以上に、エグみ、ホラーみ、残酷さが、前面に出たような作りになってる。あるいはその、さっき言ったようなギミック的な見せ場の迫力も、増している。

つまり、全て「原作通り」でありながら、笑いも戦いもグロさもスペクタクルも、全てが増幅されて、より味が濃い目になっている、っていうのが、このテレビアニメ版だと思いますね。要は非常に巧みにバランスが考えられた原作のアニメ化だな、という風に思います。これ、制作を手がけられたufotableという会社が、演出、作画、CG、美術など、諸々全てを社内でまかなえる体制があればこそのこのクオリティー、という。これ、僕はもちろんアニメは専門外ですけど。

たとえばこれ、『AREA JAPAN』というところに載っていた、デジタル映像部・撮影監督の寺尾さんという方、あるいは3D監督の西脇さんという方のインタビューなどを読むと、なるほどこのufotableという会社の総合力、チームワークの賜物なんだな、というのがすごくよくわかったりします。さっき言った「水の呼吸」表現がどういう風に出来上がってきたか、とか書かれていて、非常に興味深いインタビューでしたけど。

ともあれ、この非常によく練られ、実際に出来がよかったこのテレビアニメ版。主人公・炭治郎がある種「覚醒」するその序盤の大見せ場を、さっき言ったような、ダイナミックなケレン味あふれる、これぞ日本アニメ!なアクション表現で見せる。あるいはロトスコープまで駆使してですね、その踊りの部分を見せるとかですね、非常に贅沢に仕上げてみせた評判の第19話、以降はですね、プロフェッサーX……じゃなかった、「御館様」率いる、その「柱」軍団の全貌。要するに、ここで改めてもう1回、「全体のルール説明」をした後で、さっき言ったそのスポ根的サイクルで言うと、「休息~訓練」のターンに当たる、わりとほんわかしたエピソードを並べてみせて。

それで最後に、さあ、じゃあここからはプロ初戦に出陣だ!というところで、アニメは話が終わっているわけですね。要は、もちろん今回の劇場版を作ることありき、で終わらせているアニメシリーズなわけですよ。で、先ほどのメールにもあった通り、この『無限列車編』を映画にする、というこの判断。僕もすごく的確だと思います。まず、間違いなく制作陣も重々意識していることだと思うんですけど、単純に「列車」っていうのは、ものすごーく、要するにそれだけで「映画的」になる装置、舞台なわけですね。

■「青春大河ストーリー第2部・第1話」として申し分なし。ただし……
この間の『TENET テネット』評で言ったことにも通じますけど、(列車というレール上を走る乗り物の)「一直線かつ一方的な時間・空間体験」というのは、まさに映画というメディアの構造そのままでもあって。だからこそ、映画史と列車は、切っても切れない関係にあるわけです。だから列車はすごく映画的だし、加えて、先ほどモロに『インセプション』と言いましたけど、今回、メインモチーフとなっている「夢」というのもまた、「当人にとってはリアルな、一方的な没入体験」ということで、これも『TENET テネット』評でも言った通り、映画そのもののあり方とも重なるもの、という感じでございます。

ということで、『無限列車編』を映画にする、というのは非常に狙いとして的確だと思います。さらに、ストーリー的にもですね、少年3人にとっての、いわばプロデビュー戦。その中で、目指すべきロールモデル……ここでは快男児、その快男児が行きすぎてやっぱりサイコみ漂う快男児・煉獄杏寿郎さんを、魅力たっぷりに描いた上で、いわばそのプロの世界の厳しさ、「上には上がいる」という現実、今後の道のりの険しさ、というのを示すところに着地していく。あの、「煉獄さん……!」っていう連呼が泣かせる……僕はあの、「マチルダさーん!」をちょっと思い出しましたけども(笑)。

まあ、「青春大河ストーリー第2部・第1話」としては申し分のないものだという風にも思います。少年たちに、その己の至らなさ、己のその成長途中ぶりっていうのを見せつける、という意味でも、非常に、古風なまでに教育的な着地だとすら思いますね。もちろんその、大スクリーンを前提に、緻密にスケール感を増して描き足されたその物語世界……特にやっぱり列車という、巨大でありながらも閉鎖空間でもある、というこの舞台立てであるとか、あるいは、原作が割とあっさりめに省略しているところを具体的なアクション見せ場として、テレビシリーズ以上のダイナミックさ、ケレンで提示してみせる、バトルシーン。鬼のシーンも増えて、サービス満点だし。

細かい部分で言うと、列車最前にいた機関士を、炭治郎が一旦、その石炭置き場までよけるとか、そういうことで、要するに原作まんまにやると(空間的に)ちょっとおかしいところを、足していたりして。要するに、「原作に忠実」に見えるけど、映画用のチューニングもすごく細かくしている。それはすごくわかるんです。ただ一方、テレビアニメでは気にならなかった部分というのが、映画にすると気になってしまう、という部分があって。

■「原作に忠実」が、映画版では枷になってしまった感も
個人的に一番気になったのは、周囲の一般人、モブキャラとの、リアリティライン的なすり合わせがまちまちというか……映画だと、特にこの無限列車戦は、一般人と隣り合わせて戦ってる話なのに、たとえば列車が転がり切った後で、後ろにいる一般人の存在感が、全く見えない。なのに、たとえば鬼が登場した時には、一応驚いてみせる、とか。とにかくその一般人の描き方というのが、ちょっと突き詰めきれていないというか、言っちゃえば書き割りっぽい感じが、すごく際立っちゃっている。

こういう、結局は主人公たちのためだけに奉仕する物語世界、っていうところが、映画だとちょっと際立っちゃう。やっぱりちょっと子供向けっぽい感じだな、っていう風に、こういうところで見えちゃうんですね。あるいはですね、これは『鬼滅』に限った話ではないのは、やっぱり全ての設定、展開、感情……物語内の全てが、「言葉によって説明」されるっていうこと。これはもちろん、元が漫画なので……漫画でね、言葉とかセリフの比重が大きいのは、日本の漫画の文法の進化の流れ上、それはいいと思います。

ただ、それを忠実に映像化した場合、やっぱりテレビアニメの集中度ではなく、まさに先ほどのメールにあった通り、映画館での「全集中」だと、これはちょっといくら何でもクドすぎる、ということがある。なので、要は「原作に忠実」というのが、今回の映画版ではちょっと枷になってる、という感じがしたんですね。あるいは、映画にするのであれば、列車を使ったアクション……たとえばカーブを使う、トンネルを使う、原作にはたしかにないんですが、そういう見せ場として展開するということが、可能だったはずなのに。

やはりこの場合は「原作通り」(の展開しか起こせないという縛り)が……原作の(まま)、一種抽象(的な)空間というところでしか機能していない、というのはちょっともったいないんじゃないかという風に、映画ファン的には思ってしまいました。ただし、やっぱりこれ、テレビシリーズを作った上でのこの劇場版、ということで、コストとのバランスを考えると、このクオリティコントロールはやはり非常に上級というか、高度なものと言えるでしょうし。

いろいろ言いましたけど、非常に『鬼滅の刃』というお話自体、今回「履修」して、めちゃめちゃよかった。ファンになりました! これから劇場作品が出れば、かならず見に行きますし。ここから先、非常に期待もしております。特に個人的にはやはり、終盤の無限城内の縦横無尽の戦いを、どう映像化するのか? 1本にはたぶん収まり切らない気もしますが……といったあたりで、ちょっと駆け足になってしまいましたが、『鬼滅の刃』、私はこんな感じで見ました。あなたもぜひ、この国民的大ヒット作品、劇場でウォッチしてみてはいかがでしょうか?

(ガチャ回しパート中略 ~ 来週の課題映画は『ザ・ハント』です)

宇多丸:あ、ちょっと言わせて。『劇場版「鬼滅の刃」』ですけども、映画の方がよかったやつ……劇伴がすごい迫力を増していて。部分的に『クリード』的なところがあったりして、ものすごいそれがアガる!っていう。よかったです!

以上、「誰が映画を見張るのか?」 週刊映画時評ムービーウォッチメンのコーナーでした。

 

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SUPER BEAVER「ステージからだと案外見えている」「音楽の力って偉大」ステージから届けるもの、受け取るもの

SUPER BEAVERがパーソナリティをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「SCHOOL OF LOCK! ビーバーLOCKS!」。5月3日(金・祝)の放送では、リスナーから届いたライブの感想を紹介しメッセージを送りました。そのなかから、3月23日、24日に開催された『SUPER BEAVER 都会のラクダ TOUR 2023-2024 ~駱駝革命21~』さいたまスーパーアリーナ公演についての2件のコメントを紹介します。



――リスナーのメッセージを紹介

◆絶対目が合いました!

【たまアリは、アリーナAブロックだったんです!! 絶対私が会場の中で一番泣いた自信ある、ってくらいほんとにすごかったです……感動しました! リーダー側にいたんですけど、私絶対目が合いましたよ!! 人生で一番楽しかったです。ライブ終わってほしくないなあと思いながら終始泣き笑いしてました(笑)。次のツアーも絶対行きます!】(16歳)

全員:ありがとう!

上杉研太(Ba.):目合わせたよ! 目合わせた!

渋谷龍太(Vo.):本当に、マジでよく見えますからね。

柳沢亮太(Gt.):そうだね。

渋谷:私はどのライブハウスでも、一番後ろまで行ったり真横に行ったりして、全客席がどんなふうに見えてるのかな? ってチェックするんですけど……特にアリーナ公演では、客席からだとめっちゃ遠く見えたりするよね。ただ、ステージから見た感じとフロアから見た感じは全然違うのよ!

柳沢:印象が違うよね~。

渋谷:全くってぐらい違う! ステージからだと、案外見えているものなのよ!

上杉・柳沢:そうなんだよ!

渋谷:だから「見えてるよ!」って言うじゃん? 実際、本当に見えているんですよね。

藤原“35才”広明(Dr.):見えています!

渋谷:だから、全然勘違いじゃないです! 嬉しい書き込みでございました!

◆音楽の力って偉大
【ビーバー先生こんばんは! ツアーお疲れ様でした! 私は2/22の日本武道館と、3/24のさいたまスーパーアリーナのツアーファイナルに行きました! ツアーファイナル、私は2曲目の「ひたむき」で、アリーナ全体に響く音と渋谷さんの歌声に涙が止まらなくなりました。

1月ごろ、私は教室にいるのもつらくて、学校に行くこともままならなくなってしまいました。高校生になってから、文理選択だったり、どこの大学を目指すか、どんな仕事をしてどんな大人になりたいか、ということを具体的に考えなければならなくなりました。人生の決断を今、自分の意思があやふやなまま迫られて精神的に重圧を感じ、自信もどんどんなくなっていきました。そして、この先も勉強や仕事など、努力は一生続いていくものだと目の当たりにして、野心や、これからの希望、目標を失ってしまいました。

そんなとき救ってくれたのは、ビーバーの音楽でした。特に柳沢さんの歌詞は、いつも私に生き方を導いてくれて、奮い立たせ、前進しようと思わせてくれます。今は目標も具体的になってきて、将来に対して少し前向きに考えられるようになりました。「素晴らしい世界」の『心配しないで 大人は楽しいよ』という歌詞を聴いて、さらにそう感じられるようになりました。

私の経験したこの気持ちは私の中では曲の一部になって、聴く度に思い出して頑張ろうと思えます。音楽の力って偉大だとあらためて感じました! 大好きです!】(16歳)

上杉:感動しちゃうわ……!

渋谷:すごく長い文章じゃん? これを書いてくれているって、すごいことだと思うよ。

藤原:嬉しいね。

上杉:気持ちがこもっているもん。

渋谷:16歳って、本当にいろんなことが大変な時期だと思うのね。我々は36、7歳でございますけど、思い返しても大変だった。気持ち的にね。

上杉:そうだね。

柳沢:「大きくなったら……」と言っていたぼやっとした未来が、初めて現実的になってくるじゃん? 「これからどうしよう」とか。

上杉:タイムリミットを感じ出すよね。「大人になっちゃう……」とか“社会”とかさ。

柳沢:小学校とか中学校は、遊んでいたらよかったんだよね。

上杉:もっと無邪気にね。

渋谷:「人参になりたいです!」でも、大丈夫だったもんね。

柳沢:まぁまぁまぁ……極端なことを言ったらね。そんなやついなかったけど(笑)。きっと高校受験を考えるころから……公立にずっと行っていた場合ね。それぐらいから具体的になるからさ。ちょっと不安になっちゃうけどね。

上杉:「具体的に考えなさい」って空気も出してくるしね。

藤原:いきなり言ってくるからなぁ。

柳沢:これだけ重圧に感じるってことは、きっと真面目にちゃんと考えているって証拠だよね。いいことだと思うんだよな~。

上杉:立派ですよ!

渋谷:そういういろんなことを考えていくなかで、SUPER BEAVERの楽曲であったり、ライブであったりが原動力……! 「これから頑張っていこう!」っていう気持ちの後押しになっているっていうのは、やっぱり光栄だなって思います。『音楽の力って偉大だなとあらためて感じました!』って言ってくれているけど、こういうメッセージをもらうと、我々もそんなふうに思うよ。

柳沢:そうですね!

渋谷:音楽を介してこんなふうに思ってもらえるのは、とっても嬉しいなって思いました!

全員:ありがとうございます!

渋谷:今回は(たくさんの投稿のなかから)抜粋して読ませていただいてるわけだけど、本当にその気持ちを受けながら、我々も音楽をしっかりやれているなって自覚がありますので。本当に「いつもありがとう!」の気持ちでございます!

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5月3日放送分より(radiko.jpのタイムフリー)
聴取期限 2024年5月11日(土)AM 4:59 まで
※放送エリア外の方は、プレミアム会員の登録でご利用いただけます。

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<番組概要>
番組名:SCHOOL OF LOCK!
パーソナリティ:こもり校長(小森隼・GENERATIONS from EXILE TRIBE)、COCO教頭(CRAZY COCO)
放送日時:月曜~木曜 22:00~23:55/金曜 22:00~22:55
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/lock/

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