【ラジオな人】浜松から全国へ!K-mix の大人気番組『ピンソバ』バカボン鬼塚さん、高橋茉奈さんにインタビュ ー!【後編】

番組開始から僅か1年半にして、今や全国にファンを持つ番組『K-mix FOOO NIGHT ピンソバ』。番組の魅力について、バカボン鬼塚さんと高橋茉奈アナウンサーにお聞きしました。今回は後編の模様をお届けします。

――前編はこちら

――『ピンソバ』で繰り広げられるトークは、一度聴き始めるとずっと聴き続けてしまうのですが、FMの番組としてはオープニングが長めですよね。

バカボン鬼塚(以下:バカボン):オープニングは16分あるんです。

高橋茉奈(以下:高橋):それも、長いから短くしてくれって言われたんですよね。

バカボン:最初の頃は30分ぐらい喋ってたんですよ。昔、『オールナイトニッポン』(ニッポン放送)で喋ってたことがあるんですけど、オールナイトは25時台の、最後のCMを入れる時間さえ間違えなければ大丈夫なので、オープニングで長く喋って25時台の後半でまとめてCMを流していました。コッチでは決まりがあって、その限界が16分なんです。

――ギリギリを攻めてるわけですね。

高橋:一応、時間は確認してるんですよ(笑)。

バカボン:だから、CMが明けてからまた喋って、もう1回CMを入れてまた喋ったりして、19時台はあっという間に終わります。

高橋:私は『ピンソバ』が始まる前に担当していた『K-mix みんなの19HR!』は、オープニングで話す内容を簡単に打ち合わせしてたんです。それが『ピンソバ』になってから、打ち合わせは一切ないし、放送が始まる直前まで、もらったお菓子とかを食べてたりして(笑)。

バカボン:『パペポ TV』(読売テレビ)(※1)の時、上岡さんと鶴瓶さんは本番で出て行くまで、楽屋もスタジオに入るところも別々で、本番が始まってカメラの前に出て行って初めて顔を合わせてたんです。僕はそれに憧れていて、『おに魂』(NACK5)(※2)の時も、その日に話す内容は一切事前に言いませんでした。始まってから仕掛けるほうが面白いから、聴き始めると離れられなくなる“中毒性”が生まれるんです。何が出てくるか分からないから。

高橋:今、放送直前ですけど、今日も何を喋るか決めてませんから。

――番組を聴いていると、2人が突然叫ぶことがあって、「何をやってるんだろう?」と思います。 

高橋:笑ったり泣いたり、叫んだり愚痴を言ったりしてますから、情緒が安定しないように聞こえるかもしれません(笑)。

バカボン:あれは、ラジオに耳を向けさせる目的もあって、急に叫んだり、急にテンションが上がったり、急に歌い出したり、全く似てないものまねをし始めたりとか、そういうことをちょくちょくと入れてみたら、それまで聴き流してた人が「ん?」ってなるわけです。この効果を狙ってますね(笑)。

2-2

オンエアする曲へのこだわり

――『ピンソバ』は、放送される曲にも定評がありますよね。

バカボン:番組を始めるにあたって、かける曲の趣旨を決めました。何をかけてもいいけど、基本的に普通の番組でかからないような曲や、センスのいい曲をかけようということにしました。簡単に言うと「聴いていて気持ちがいい曲」です。 最初に僕が『ピンソバ』用にオムニバスのCD「ピンソバクラシック」を何枚か作りまして、ディレクターに「こういう曲がかかる番組がいいな」っていう思いを込めて配りました。

――トークの時はワイワイ喋って、話が脱線してても、良い曲がかかると「この番組、良い番組だな」と思いますよね。

バカボン:まさにそうなんです。おしゃれで耳馴染みの良い洋楽を中心にかけています。フュージョンとかインストルメンタルとか、BGMになるような曲も関係なくかけます。とんでもなくレアな曲をかけることもありますよ。(※3

2-3

バカボン気持ちがいい曲と脱線トークがあるのが理想で、僕が聴きたいラジオの真骨頂なんです。昔、たくさんの人がラジオの深夜放送を楽しんでいた時代があって、あの時間帯がどんどん浅い時間になってるんです。だから今の19時なんて、僕らから言わせると深夜です。

高橋:だから時々下ネタが……(笑)。

バカボン面白いと思うのは、下ネタを使わずに、“下ネタっぽいことを言ったこと”を面白がる番組です。下ネタを言って盛り上がっても、引かれてしまう部分があるので、そこに品を持たせてます。別に避けてるわけじゃないけど、子どもが聴いているというのもあるし、この番組に合うのはふんわりとした下ネタ。だから、下ネタとは関係なさそうなトークをしていて、どちらかが「これ下ネタですよね」って言って「ん?」っていう(笑)。このやりとりが良いんです。そういうのでふんわり包むと、聴いている人も安心して楽しめます。奥の奥に含む意味を汲み取り、子ども達は“おしり”や“おっぱい”で喜ぶっていうことです。

高橋:そういうことなんです。下ネタを正当化できて満足です(笑)。

バカボン:もちろん、下ネタばかり言ってるわけではないから、「品のある下ネタ」も話している番組、ということです(笑)。品格って大事だから。以前、茉奈ちゃんが「“のどちんこ”って言うのが恥ずかしい」って言って、“のどおちんちん”って言ったんです。「そっちの方が下ネタっぽい」って言ったら、「赤ちゃんのおちんちんは可愛いから、“のどおちんちん”でいいんじゃないですか」って言ってきて(笑)。「逆に生々しいから、“のどちんこ”でいいんじゃない」という論争が起きたんですけど、こういう感じで19時台は特に上品にしているわけです!

高橋:21時を過ぎたあたりからフリーダムですよ。

バカボン:いや、21時を過ぎたら2人とも疲れ切って、普通にしてるからね。オープニングの19時台が一番毒々しいっていう(笑)。

2-4

「高橋茉奈」は“二重人格”!?

――以前は、バカボンさんが高橋さんの手綱をさばいていたように思ったんですけど、いつしかその手綱が切れて、今は高橋さんが自由に走っているような気がします。

バカボン:そうそう(笑)。

高橋でも、Bluetoothで繋がってますからね

バカボン:まさか手綱をBluetoothで表現するなんて!(笑)僕は子どもが自転車の練習をする時に、子どもに「持っててよ、持っててよ!」とか言われながら、そっと手を離すイメージだったのに。例えがBluetoothって!

高橋:スイマセン、平成生まれで(笑)。でも『ピンソバ』は“ホーム”っていう感じで、バカボンさんが何を言っても返してくれるので安心感があるんですけど、最近はイベントが増えてきて『ピンソバ』として2人で行く時もあれば、私がひとりで行くこともあるから、そういう時に「私、自分ひとりじゃ何もできないんだ」って思ってしまいます……。

バカボン:でも、そこから上がっていけばいいから。伸びしろがある証拠ですよ。

――ニュースをきちんと読めていれば、大丈夫ですよ。15時から放送されるニュースは、高橋アナウンサーが読んでいますよね。“『ピンソバ』で壊れている人”と同一人物とは思えないほど、丁寧に読んでいます。

バカボン:“二重人格”と呼ばれていて、高橋茉奈は2人いるんじゃないかって思われてます。

高橋:サイコパスですよ。

バカボン:そういう部分は本当に必要なんですよ。僕は、色々な放送局でやってきたんですが、局アナが担当してる番組って、基本的にそこまではハネないんですよ。なぜかというと、そこに限界を迎えるからなんです。局アナは会社員なので、パーソナリティとは相容れない。パーソナリティは、自分のパーソナルな部分を出してなんぼ。局アナは会社の方針に従わないといけないから、そんな中で面白いことが喋れる人は、自分の中で線引きがしっかりできる人、心の中で会社員が捨てられる人です。ただし、ニュースを読む時に会社員(アナウンサー)に戻れる人は生き残りますね。ラジオの中ではハチャメチャでも、ニュース原稿はしっかり読むと、茉奈ちゃんみたいになるわけです。だから“二重人格”みたいという評価を聞いて「やった!」って思いました。それほど、茉奈ちゃんの落差が生まれてるわけですから、大成功ですよ。

高橋:(ニヤニヤ)

バカボン:だいたい、みんな悩むんです。ラジオでもっとはじけたいけど、アナウンサーだからそれができないって。壁を越えられずに、なんとなくハネないまま終わっていく。その点、茉奈ちゃんは好例です。バラエティの時とニュースを読む時とで、自分の中で棲み分けられる人が、番組で振り切れますね

2-5

高橋アナの才能、まだまだ開花中

――高橋さんご自身が作った曲「ラジオって」が好評ですよね! 制作に至ったいきさつを教えてください。

バカボン:出会った頃、K-mixのサイトの茉奈ちゃんのプロフィールに「バイオリン」って書いてあったんです。聞いてみたら「浜松のバイオリン教室に通いたい」と「思って」いるだけで、まだ「通ってないと」(笑)。

高橋:母がピアノと声楽をやっていて、バイオリンを持っていたので、「趣味でバイオリンをやろうかな」と思ってたんです。グループレッスンを申し込んでいて、グループの人数が集まったら開始されるんですけど、未だに集まらないからレッスンが開かれないんです。

バカボン:「弦楽器をやりたい」と言っていたから「じゃあ、ギターでもいいんじゃない?」って言ったら「ギター、良いですね」と。ディレクターの村上くんが「かかし」(※4)のギタリストなんですけど、一緒に「かかしギター」を作って、販売したことがありました。その時、作ってくれた韓国のメーカーにインタビューに行ったら「なんでも1本持って行っていいよ」と言われて。その時もらったセミアコのカッコいいギターが、倉庫に眠ってたんです。そこで茉奈ちゃんに「ギターをあげるから、やってみない?」って言ったら、この子が素直な子で……。普通はもらったとしても、心の中では「やっぱり、バイオリンでしょ」って思ってやらないだろうと思ってたら、速攻でバイオリン教室を断りにいって、ギターを始めたんです(笑)。

高橋:そうなんです(笑)。

バカボン:早速、コードを教えてあげたら、ちょっとだけ弾けるようになったんです。そこから3ヶ月くらい、ずっとギターの虜。一番最初は「地上の星」とか「ハッピーバースデー・トゥー・ ユー」とかを演奏していました。

高橋:ある程度、コードを覚えたんで、バカボンさんに「知ってるコードで作ってみれば?」って言われて、作ってきたのが「ラジオって」という曲でした。それを「マインシュロス」(※5)で開催された『ピンソバ』のイベントで披露したんです。

バカボン:そしたら意外と好評で。「何か形にしようという話になって、B.O.K.(※6)を作ってるスタジオで音をつけて「ラジオって」が出来上がりました。

高橋:私のプロフィール欄に「趣味:バイオリン」って書いてあったのは、線で消されています。(笑)

2-6

――初めての作詞・作曲は、いかがでしたか?

高橋:実は、使ったコードは6つぐらいしかないんです(笑)。

バカボン:普通は教本とかを買って、コピーするとことから練習し始めると思うんですけど、茉奈ちゃんは完全に自分の耳だけです。「ココとココを押さえたら、どんな音が出るんだろう」っていう感じで、“鳴り”だけでコードを見つけてくるんです。

高橋:「鳴りが気持ちいいです。このコード何ですか?」って聞く感じで。

バカボン:「それに近いのはこれ」って教えてたんです。だから「コードを覚えよう」という気が全くなくて。

高橋:感覚でやってます。

バカボン:コード表が書いてある中に、「?」って書いてあるところがあるんです。

高橋:あとでバカボンさんに聞こうと思って。

バカボン:「かかし」も最初はそういう感じだったんです。楽譜はなくてコード表しかありません。余談だけど、僕らは「かかし」は 97年にデビューしたから、スガシカオともTRICERATOPSとも同期です(笑)。その後、何枚か発売させていただきました。今はB.O.K.の方の活動が中心になっています。せっかく地元に帰ってきたんで、今後はB.O.K.でグイグイいきます。地元の清水を舞台にした曲が多いし、基本的に静岡をメインに着想しているので。

浜松を“ラジオの首都”へ!

――全国のラジオ関係者で『ピンソバ』を聴いている人は多いらしく、高橋さんは羨ましがられることがあるそうですね。

バカボン:『ピンソバ』は僕らがやりたいような番組をやってるので、例えば噛んだとしても 「今、噛んだ」みたいなことをあまり気にしないようにやっています。もしも変なことを言っちゃたらマイクの前で「ごめんなさい」って言えばいいし、間違えた情報を言っちゃったら「先程の話は間違いです」って言えばいい。ラジオはそういうメディアだと思うんです。今は間違えたらいけなくて、正しいことしか言っちゃいけない風潮が、それぞれを追い詰めて檻に閉じ込めてしまう……そういう意味で、ボーダーラインのない番組にしたいと思っています

2-7

――『ピンソバ』は各地にファンがいて、浜松を“ラジオの首都”と呼んでいるのも、すごくいいですよね。

バカボン:「浜松は“ラジオの首都”です」って言い出したのは僕なんです(笑)。僕はK-mixを1位、2位を争うような放送局にしたいと思ってます。例えば、ラジオ関係者の中には、NACK5の業績を羨ましい目で見ている人もいるけど、僕がNACK5で喋り始めた頃は、バラエティ的な内容の番組はあまりやっていませんでした。「音楽を知らない人は、パーソナリティじゃない」みたいな感じもありましたから。そんな中で、僕が敢えてバラエティをやり続けていったら、ある時期からバラエティ要素のある番組が増えていって、今では僕が音楽を紹介する番組をやる側になってます(笑)。

――バカボンさんは、現在は地元の静岡に拠点を移したこともあり、番組では静岡の話題がよく出ますが、地元の話題を取り上げることは、放送で意識されていますか?

バカボン:静岡の県民性として、良い部分は何でも受け入れるところがあるから、静岡のものも美味しいけど、他の地域のもので美味しいものがあったら、そちらも紹介するという感じで放送しています。静岡は僕の故郷だから、地元のトークをしやすいけど、必ずしも常に地元トークをしようとはあまり思っていません。茉奈ちゃんは北海道出身だし、目線は全国区にしているところもあって、他の都道府県のことであろうと話題にします。そうすることで、逆に静岡が際立ってくれるといいなと思います。

――ますますたくさんの人に愛されて、スタジオ前に遊びにくる人も増えそうですね。

バカボン:色々な人が浜松に遊びに来てるから、『ピンソバ』が経済を動かしてますよね。

高橋:そうですね(ニヤニヤ)。

2-8

浜松への突撃取材でお送りした、今回の【ラジオな人】インタビュー。お2人の魅力、お伝えできたでしょうか? 浜松からうねりをあげ、まだまだ熱く盛り上がる K-mix『ピンソバ』。全国のみなさん、“リスナー”もとい“バナナー”になるなら、今ですよ!

2-9

※1:『鶴瓶・上岡 パペポ TV』。1987年4月から1998年3月まで放送された人気トーク番組。

※2:バカボン鬼塚と玉川美沙のコンビで『The Nutty Radio Show 鬼玉』として 2003年にスタートした番組。(その後『おに魂』に改題)。

※3:放送された曲目は、K-mixのサイトと、番組のTwitterで確認できる。

※4:バカボンさんが活動しているバンドのひとつ。

※5:浜松にあるビールレストラン。2017年8月に初めて『ピンソバ』の公開生放送を行って以来、番組の公開イベントの会場として使用している。

※6:「かかし」、「YOUNGER GENERATION」とともに、バカボンさんが活動しているバンドのひとつ。B.O.K は“バカボン.鬼塚.公仁”の頭文字。

番組概要

20180109145448

■放送局:K-MIX SHIZUOKA
■番組名:『K-mix FOOO NIGHT ピンソバ』
■放送日時:月曜日~木曜日 19時~22時
■番組サイト:https://www.k-mix.co.jp/pinsoba/

インタビュー

YMgrdfKa

やきそばかおる

小学5年生以来のラジオっ子。ライター・構成作家・コラムニスト。

「BRUTUS」「ケトル」などのラジオ特集の構成・インタビュー・執筆を担当するほか、radiko.jp、シナプス「I LOVE RADIO」(ビデオリサーチ社)/ J-WAVEコラム「やきそばかおるのEar!Ear!Ear!」/otoCoto「ラジオのかくし味」/水道橋博士のメルマ旬報など連載や、番組出演を通じて、ラジオ番組の楽しさを発信。

ラジコプレミアムを駆使しながら、全国のユニークな番組を紹介するツイキャス番組「ラジオ情報センター」(水曜日 21時〜22時)も放送。全てを合わせると、年間でのべ800本のラジオ番組を紹介している。

Twitter:@yakisoba_kaoru

カメラマン

やきそばかおる / ラジコ編集部

ラジコでラジオを聴こう!

▼スマートフォンで聴くなら
http://m.onelink.me/9bdb4fb

▼パソコンで聴くなら
http://radiko.jp/

▼プレミアム会員登録はこちらから
http://radiko.jp/rg/premium/

『ラジコプレミアム(エリアフリー聴取)』なら、全国のラジオ番組を楽しむことができます。

周防正行「サイレント映画について大変な勘違いをしていました」

黒木瞳がパーソナリティを務める番組「あさナビ」(ニッポン放送)に、映画監督の周防正行が出演。最新映画『カツベン!』の題材となったサイレント映画について語った。

ニッポン放送「あさナビ」

黒木)今週のゲストは映画監督の周防正行さんです。周防監督の5年ぶりとなる最新作映画『カツベン!』が全国公開中です。『カツベン!』は、映画の始まりの時代を駆け抜けたスーパースターである、活動弁士の話なのです。

周防)日本に初めて映画が入って来たときに、「Motion Picture」という言葉をそのまま訳して「活動写真」と呼んだのですね。そのときは、まだ映画に音がなかったのですよ。スクリーンの横に人が立って、写っているものの説明を始めたのです。最初は物語映画ではなかったから、何が写っているかとか、どうして動くとか、まさに“写真が動く”ということは始めてのことだったので、世界中で流行るわけです。当時、日本ではそのように説明する人が、最初の日の上映からいたのです。

黒木)つまりは紙芝居みたいに「こういう物語ですよ」と、ト書きも言えばセリフも言うという…。

周防)最初は単なる出来事が写っていました。駅に列車が到着するとか、工場から人が出て来るとか。それがやがて物語を持つようになって、弁士は物語をきちんと説明することを始めました。こういう文化が根付いたのは日本だけなのです。アメリカやヨーロッパでも説明する人が立った記録はありますが、職業としては説明していません。アメリカ、ヨーロッパは生演奏の音楽だけで魅せていたのです。

黒木)『カツベン!』はオリジナルの作品ですが、どうしてこれを映画にしようと思われたのですか?

周防)僕が浅はかにも、ずっと無視をして来たから。

黒木)え?

周防)大学生のときに、サイレント映画をたくさん観ていました。そのときはサイレント映画だから音がない状態で、活動弁士の説明も音楽もない、まさに無音の動く画を観るというのが、サイレント映画の見方だと思っていました。活動弁士がいることも、音楽があることも知っていたのですが、それを無視していたのです。サイレント映画なのだから、サイレントで観ないと監督の意図は伝わらないのだと、ずっと思って生きて来た。でもつい最近、僕の助監督をして下さっていた片島章三さんが「こんな本を書きました」と、この映画の元になる台本を読ませてくれたのですね。

黒木)いつも周防監督は、ご自分でシナリオをお書きになりますよね。

周防)自分のシナリオではないのは、今回が初めてです。

黒木)そのシナリオを読まれてどうだったのですか?

周防)「僕はなんて勘違いをしていたのだろう」と思いました。当時、明治の終わりから大正昭和の始まりにかけて、無声映画をサイレントで観ていた人はいなかったのです。当然、映画監督は自分の作ったものが上映されるときに、生演奏があり、誰かの説明が入るとわかって撮っていたのですね。要するに、監督がサイレントで観てもらうことを前提に撮っていなかった。それを僕はサイレントで観ていたのですよ。「これはいけない」と。それも僕は映画監督なのに、なぜ日本映画史の重要なことを無視して来たのだと思って、大反省です。音がない状態で物語をつくり上げるというのは、映像を作る人間としての最高のテクニックだ、技術だと思っていたのです。それこそが映画の基本と言うか、映画の本質だろうと。

黒木)それが180度変わったわけですね。

周防)変わりました。

黒木)活動弁士という方々がいて、初めてサイレント映画は成り立つのだと。

撮影・下村一喜

周防正行(すお・まさゆき)/映画監督

■東京・目黒区出身。1956年生まれ。
■立教大学在学中に、高橋伴明監督の助監督を務めるようになり、以降、若松孝二監督や井筒和幸監督の作品に助監督として携わる。
■1984年に小津安二郎へのオマージュを含んだピンク映画で監督デビュー。
■1989年に『ファンシイダンス』で商業映画初メガホン。
■1992年の『シコふんじゃった。』で、日本アカデミー賞最優秀作品賞をはじめ、最優秀監督賞、最優秀脚本賞を受賞。
■1996年には大ヒット作『Shall We ダンス?』公開。日本アカデミー賞で作品賞・監督賞・脚本賞など13部門を総なめ。
■2006年には痴漢の冤罪裁判を描いた『それでもボクはやってない』、2011年にはバレエ作品を映画として収めた『ダンシング・チャップリン』、2012年には終末医療を題材にしたヒューマンドラマ『終の信託』、2014年には花街で成長する舞妓の姿を描いた『舞妓はレディ』を監督。
■最新作は、2019年12月13日公開の『カツベン!』。大正時代に全盛だった無声映画を個性豊かな語りで彩った「活動弁士」が主人公。活動弁士を志す青年・俊太郎を成田凌が演じ、ヒロインを黒島結菜が演じる。

ENEOSプレゼンツ あさナビ(12月9日放送分より)
FM93AM1242 ニッポン放送 月-金 6:43-6:49

radikoのタイムフリーを聴く

Facebook

ページトップへ