山梨県北杜市の景観規制緩和に異論

渡辺麻耶が木曜日のDJを担当するFM FUJIの番組『Bumpy』(毎週月曜~木曜、13:00~18:50)。5月8日のオンエアにフリージャーナリストの松田宗弘さんが出演し、山梨県北杜市の景観規制緩和について解説しました。
松田:今日は八ヶ岳南麓など北杜市の山岳景観を守ってきた市の景観規制の緩和についてです。4月21日、約1年半の市の審議を経て、北杜市が「市景観計画」を改訂したのを受け、急きょ、この番組で取り上げます。
麻耶:山岳景観を守ってきた「北杜市景観計画」とは、どのようなものなのですか。
松田:国の景観法と北杜市の景観条例に基づき、山岳景観や自然環境を保全するなど、良好な景観形成に関する方針を定め、さらに、地域住民の住環境や、地域観光の価値を低下、景観を破壊させかねない開発の規制などを盛り込み市が2010年に策定したものです。今改訂の論点は2つ。「15年間続けてきた景観規制の一部緩和の是非」と、「改訂の審議プロセスの問題」で、改訂計画には市民や市議、専門家から異論が出ています。
麻耶:まず、規制緩和の経緯と内容について伺えますか。
松田:規制緩和の対象エリアは、市景観条例が定める「山岳高原景観形成地域」のうち、八ヶ岳南麓の小淵沢町の約半分と、甲斐駒ヶ岳方面の白州町の一部です。従来の市景観計画では、このエリアに建てる建築物の高さは≪13メートル以下(3階建て)≫に規制。一方、改訂計画は、≪景観に及ぼす影響が極めて小さく、かつ、公益性等が大きい場合、市長が「まちづくり審議会」の意見を聞いた上で、やむを得ないと認めるものはこの限りでない≫とし、判断基準として、100億円以上の事業で、事業者と市の連携協定の締結などの条件を示しました。
麻耶:市長が「必要」と判断するなどで、13メートル以上の建物が建てられるのですか。
松田:そうです。たとえば、市のまちづくり条例が規制する高さ20メートル以下までを、市長が認めれば、小淵沢では5階建てホテルが建てられ、「13メートル規制」は有名無実となります。昨年1月には地域住民や市民から3273筆の反対署名が上村前市長に提出されましたが、4月公表の市の「改訂景観計画」には反映されていません。今の大柴市長は、昨年11月の市長選で上村氏を破って当選しましたが、今年2月、高さ規制を緩和の答申案をそのまま受けました。3月、答申案には111の反対意見が市民から寄せられ、修正を検討する余地があったにもかかわらず、答申案は「答申」として先月、確定し、民意は反映されませんでした。
麻耶:論点の2つ目。審議プロセスには、どのような問題があったのでしょうか。
松田:改訂計画の審議は、市が2023年12月、前市長が、新設された第三者機関の「まちづくり審議会」に諮問しスタートしました。委員会会長の山梨大准教授を含め11人。公募市民の委員3人、北杜市の区長会長、山梨県立大教授、公益財団の幹部、県幹部2人など。問題は11人の中に前副市長で、規制緩和を主導した小林氏が委員に入ったことです。取材では、委員人選も委員会を運営する市事務局人事も「小林氏主導」との証言が複数ありました。前市長は審議開始時に、「大企業を誘致したい。高さ13メートル以上20メートル以下の建築物の建築ができるようにしたい」とし、1年余の審議の結果、これを認める答申案が出されました。
麻耶:最初から、20メートルに緩和するという結論が決まっていた感じなのでしょうか。
松田:はい。地方政治に詳しい大正大学公共政策学科の江藤俊昭教授に、副市長が委員として入っていた審議会のあり方を伺いました。江藤先生は「こういうことは論理的にあり得ない。諮問する方が、自身の手下を入れては、中立的な審議になりませんから。審議結果である『答申』が、景観形成の政策決定に大きく影響することを考えても、あり得ない」と問題点を指摘されました。江藤先生によると、国の場合は、「研究会に中央省庁の幹部が構成員として入るケースもあるが、それでも批判がある。研究会も審議会ほどではないが政策の方向付けはしますから」とのことでした。市を取材すると、公募の市民委員からは、「規制緩和という結論ありきの答申」。複数の市議からは「前市長らが、条例改正でなく、市議会の議決案件ではない『景観計画の改訂』という手法をとったので、議会審議ができなかった」との恨み節が聞かれました。「民意を勘案した形跡がない、非民主的な審議プロセスは問題ではないか」と、取材を通じ感じます。来月は改訂計画の中身についてお話します。
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