全国知事会が国道の通行規制を提言~“日本における制度の限界”について考える

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(4月24日放送)に外交評論家・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の宮家邦彦が出演。全国知事会が政府に提出した、新型コロナウイルス感染拡大防止の提言について解説した。

テレビ会議形式で行われた全国知事会に参加する川勝平太・静岡県知事=2020年4月17日、県庁 ©産経新聞社

大型連休に国道の通行規制を~全国知事会が提言

全国知事会は23日、新型コロナウイルス感染拡大防止の提言をまとめ、政府に提出した。大型連休中に都道府県境を超えた人の移動を最小化するため、国が管理する道路の通行規制や駐車場の利用禁止などの特例措置を講じるよう求めた。

飯田)テレビ会議で国との意見交換会が行われ、飯泉全国知事会長は「国民大移動と言われる大型連休で、人が接触する機会を8割低減するために、国と共に達成して行きたい」と語ったということです。

宮家)まわりくどい言い方ですね。もちろん、知事会がこういう形で提言することが悪いと言っているわけではなく、それは素晴らしいことだと思います。しかし本来であれば、「移動をやめろ」と言っているのだから、要するに「ロックダウンしろ」ということですよね。

飯田)都市を封鎖すると。

集団感染が発生したソウルのオフィスビルで新型コロナウイルスの検査(PCR検査)を行う医療従事者=2020(令和2)年3月10日、韓国・ソウル NNA/共同通信イメージズ ©共同通信社

今回のコロナに対しては、外国のように「補償して主権を制限する」強い政策が必要か

宮家)でも、それはできないわけでしょう。そんな強制ができる国では、命令して私権を制限する、だから補償するというのが普通の流れです。しかし日本では強制ができないから、注意喚起や要請はできるけれど、せいぜい指示しかできない。当然、「私権についての制限はない」という前提になります。そうすると、補償もないというロジックになりますよね。ロジックとしては、役人的には、これは間違っていないのだけれども、そうなると今回のように「強制できないから、国が管理する道路を制限しろ云々…」という話になります。とにかく、もう早く決めましょうよ。危機管理を過去70年間サボって来たと言うつもりはないけれども、これまでは幸いにも奇跡的に上手く行っていたし、民度も高いので、この程度のことで十分対応できていた。でも、その程度で済む相手ならいいのだけれど、今回のコロナは違うかも知れないということを考えると、これで良いのでしょうか。「いまの制度ではこれしかできないのか」ということを私は今回、強く感じました。

飯田)国家権力が私権を制限するということに関して、戦後は一貫して反対をして来た。それは、人権を守るという点ではよかったのかも知れませんが。

24日、外出禁止措置で閑散としたインド首都ニューデリーの観光名所インド門前=2020年3月24日 ©時事通信

必ずしも人権がすべてではない~議会を通して「命令」を出すことの必然性

宮家)戦前のことを考えると、これまで一種のアレルギーがあったのは健全だったのかも知れない。でも、羹(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹くではないけれど、今我々は膾を吹いているのではないか、という気にならないわけでもない。

飯田)人権を守ることが、人命を守ることとイコールだったのが、いまはイコールではなくなって来た。

宮家)人権を守るというのは、公共の福祉とのバランスにおいてです。公共の福祉が維持されることによって、間接的に人命も守られるわけですから。このバランスは非常に難しいところで、必ずしも人権がすべてということではないのです。それは他の民主主義国家を見ても、欧米を見ても同じです。彼らこそ、まさに命令を出していますよね。法律を議会を通して命令をやっているのだから・・・。危機の真最中にこういうことを言うのはよくないと思うけれども、今後ある程度一段落したら本当に、今回こそ、制度設計について議論してくださいと私は言いたいです。

中国・北京の繁華街・王府井。営業を再開する店が増えて買い物客の姿が徐々に戻ってきている=2020年3月13日 ©産経新聞社

短期的には独裁主義の方がいいのかも知れないが

飯田)コロナウイルスそのものは中国の武漢から始まったもので、第2波、第3波が来るかも知れませんが、中国はある程度押さえ込んでいるようにも見えます。一方で、いま死者が多く出て苦しんでいるのは民主主義国家で、先進国です。そこで、強権主義のほうがいいのではないかという言説までが、世界中で出て来ています。

宮家)中国には彼らなりのやり方があるのかも知れないけれど、必ず副作用があります。1100万の都市を、中途半端だったけれども、ああいう形で封鎖して、一般庶民の私権を制限するわけです。それが本当に、長い目で見てよかったのか。あんな中途半端なやり方では中国には必ず第2波、第3波が来るし、その時はいままでのような形で情報を制限したり、隠蔽しようとすれば、もっと状況が悪くなる可能性が十分にあるわけです。我々の自由で民主的で、情報公開に基づくやり方が間違っていると言うつもりは全くないけれど、中・長期的に間違いが少ないということだけなのであって、短期的には独裁主義の方がいいのかも知れない。だけど、そこだけに目を奪われてはいけないだろうと思います。

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新型コロナによる中東の苦悩~ラマダンができず、原油価格も暴落

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(4月24日放送)に外交評論家・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の宮家邦彦が出演。新型コロナウイルスがイスラム教徒のラマダンに影響を及ぼしているニュースについて解説した。

イラクの首都バグダッドでラマダンの準備のため買い物をする人々=2020年4月23日(ゲッティ=共同) ©共同通信社

新型コロナがラマダンにも影響か

イスラム教徒の方々は、4月24日前後からおよそ1ヵ月の断食月(ラマダン)を迎える。通常は日没後に大勢で食卓を囲む機会が増えるようだが、新型コロナウイルスの影響で、現在はセネガルから東南アジアに至るまで各地のモスクが閉鎖されている。大人数による礼拝や集会が禁止されているため、およそ18億人のイスラム教徒の方々は不安を抱えている。

飯田)宮家さんは外務省の時代から、中東も専門でやっていらっしゃいました。ラマダンというのは日の出ている間、水も飲んではいけないのですよね。

宮家)タバコもダメです。言い方は難しいのですが、あえて言うと断食というよりは「暴飲暴食」月です。要するに、昼間は食べるのをじっと我慢する。でも日が沈んだら、ものすごくたくさん食べて飲む。もちろんお酒は飲まないけれど・・・。私に言わせれば運動不足で太るし、いいことはないと思うのだけれども、「いや、そんなことはない。断食は非常に健康にもいい」と言う人もいるので何とも言えませんが、中東のイスラム教徒にとってはそういった意味で年に1度の楽しみであり、お祭りなおです。友だちや一族郎党が日没後集まるのですが、それは完全な「3密」だから、今のままではできなくなってしまう。家に集まることも多いし、レストランに集まるケースもあるだろうけれど、これをどのような形で規制するのかは各国、難しいだろうと思います。これはイスラム教の教えですから、イスラム法学者が宗教的な解釈をする必要がある。各地域の宗教指導者がファトワ(宗教令)を出してそれぞれ指示するのだと思います。日本のコロナの専門家会議と同じように、いろいろな人々の意見を聞いた上で例えば「10人以上で集まるのはやめなさい」などと言うのでしょうね。いずれにせよ、相当大きなインパクトがあることは間違いないと思います。

飯田)もちろん感染症の専門家の意見も聞くでしょうけれども、「クルアーン」の解釈とどう照らし合わせるのかというところも、非常に悩むわけです。

宮家)「コーラン」と言わないところは流石ですね。これはイスラム教だけの問題ではなく、コロナウイルスという観点では、ニューヨークでもユダヤ教のシナゴーグやキリスト教の教会での集まりがクラスターになるケースがあるわけです。宗教的には大事だから行きたいのだけれど、似たようなケースは韓国でもありましたが、そこがクラスターになる可能性が大きい。そういうことを考えると、なかなか難しい問題があります。

ウィーンの石油輸出国機構(OPEC)本部=2020年4月9日(ロイター=共同) ©共同通信社

中東にとってのもう1つの問題~原油価格の暴落

宮家)この関係ではもう1つ、ご存知の通り石油価格が暴落しています。先物はマイナス40ドル。売ろうとしたら「40ドルあげるので買ってください」という、変な話になっている。イスラム圏の産油国にとっては大きな問題です。また石油は出ないけれど、産油国に頼っている貧しい中東の国々にとっても、これは死活問題です。ラマダンでフラストレーションが溜まった上に、石油の値段が下がる。そうすると失業者が出るだけでなく、国民の年金などもカットされるかも知れない。かなり大きなインパクトがあると思います。

飯田)福祉はほとんど国に丸抱えという国が多いなかで、そうなってしまう。アラブの春ではその辺りの不安・不満が噴出したわけです。

宮家)2011年と同じことが起きるとは思わないけれど、例えばイラク政府の収入の大半が石油です。サウジアラビアも80ドルなくては国家予算が成り立たないと言われています。

飯田)1バレルあたり。

宮家)現在の中東はラマダンだけではなく、石油価格暴落も大きなインパクトがあるということです。

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