「食欲を刺激される映画」で選ばれたのは…「南極料理人」!

RKBラジオ「田畑竜介GrooooowUp」で毎週、注目の映画やイベントを紹介しているクリエイティブプロデューサーの三好剛平さん。毎月1回、「リスナー名作劇場」と題して、番組が提示したテーマについて思い浮かぶ映画をリスナーから募っている。9月19日のリスナー名作劇場のテーマは「食欲を刺激される映画は?」選ばれたのは、あの名作だった。
みんなの「食欲が刺激される映画」は?
ということでまずは、皆さんからお寄せいただいた色んなメールをご紹介します。
tatsuo2525さんは2014年の映画『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』をご推薦。キューバサンドのフードトラックを始めるシェフを主人公にした一本で「食欲」テーマでは欠かせない一作ですよね。劇中登場するどの食事も美味しそうだし、これ以降世界的にキューバサンドの流行をつくった映画でもあります。
na_kananaさんは『ハリー・ポッターシリーズ』。「ロンの食べるシーンはどれも印象的です」とのコメントも。わかります!
そして続いてyagi_._._changさんは、スピルバーグによる1991年のピーターパン映画である『フック』から「口げんかのあと、食べ物が見えるようになるところが好きでした!」とのこと。ロビン・ウィリアムズ扮するおじさんピーターパンが、最初はこどもたちが空っぽのお皿にがっついているようにしか見えなかった食事の場面で、彼自身が童心と想像力を取り戻した瞬間から目にも鮮やかなご馳走の数々が見えるようになり、子どもたちと心を通わせるきっかけにもなる、とてもわくわくする良いシーンです。
続いてタグさんからは3本まとめてご推薦いただきました。『ダーティハリー』のホットドッグ、『ゴッドファーザー』のパスタ、そして『幸せの黄色いハンカチ』からは高倉健さん演じる島勇作が刑務所から出所して食堂に入り一気に飲むサッポロビール、そしてむさぼり食らう醤油ラーメンとかつ丼!!わかるーーー!いずれも映画ファンなら場面が鮮明に思い出される名場面の数々。僕も昨日見直してラーメン食べたくなりました笑。
naminamaiさんからは2020年の邦画『フードラック!食運』から、土屋太鳳さんが召し上がる焼き肉を見てご自身も「生まれて初めて一人焼肉に挑戦された」とのこと。映画はこうやって私たちの世界を広げるものですね!
みしゅましゅ さんは『ALWAYS 続・三丁目の夕日』から、劇中にて親戚の美加ちゃんが預けられるシーンに出てくる「豚すき焼き」をご推薦いただきました。牛じゃなくて豚であることがポイントなんですって。
brq_sさんは2021年に映画にもなった『きのう何食べた?』。そして 伏せっぱなしの山伏 さんからは映画ではないけど『アルプスの少女ハイジ』の「白パン、チーズ乗せ」を!とのこと。どちらも納得のご推薦です。
そしてビタミンKさんはテーマ以外の熱いメッセージと合わせてお送りいただきました。ご推薦はイタリアのネオリアリスモ映画の傑作『自転車泥棒』から劇中に登場する一場面を。男と少年がレストランでピザを頼むのですが「ここはピザ屋じゃないのでありません」とつっかえされると、子どもが隣の席の人が美味しそうに糸をひかせて食べているモッツァレラチーズを見つめ、それをふたりで頼むというシーン。ビタミンKさんは小学校三年生のときにこの場面をご覧になり、忘れられない憧れが残ったというエピソードをお寄せ下さいました。
最後にnekochamicarpさんからは2023年のフランス映画『ポトフ美食家と料理人』をご推薦。これ、ベトナムとフランスを拠点に活動する(「青いパパイヤの香り」「夏至」そして「ノルウェイの森」実写版を撮った)トラン・アン・ユンが2023年のカンヌ映画祭で監督賞も受賞した一本で、確かに注目の「食」映画でもありますね!
今回も皆さん、素敵なメッセージの数々本当にありがとうございました!!
すばらしき『南極料理人』
さぁ、ということで本日ご紹介するのは何の映画になったかと言いますと、ラジオネームna_kanana(ナ・カナナ)さんとカナさんというお二人に加え、今朝この放送直前にもかけこみで、リスナーのやはたの・ともこさんからもこの同じ作品へのご推薦を集めた人気作。2009年の日本映画『南極料理人』をご紹介したいと思います。
本作は実際に南極観測隊員として南極で調理を担当した経験のある西村淳さんのエッセイ「面白南極料理人」を原作に、 監督・脚本は沖田修一さんがつとめた2009年の日本映画です。その後『横道世之介』や『さかなのこ』など日本映画界を代表する名作を数多く手がけることになる沖田さんの、記念すべき商業映画デビューとなった映画でもあります。
あらすじはこんな具合です。氷点下54℃、家族が待つ日本までの距離14,000kmの南極の観測基地へ究極の単身赴任。堺雅人さん演じる主人公の西村は、ドームふじ基地へ南極観測隊の料理人としてやってきた。彼の仕事は隊員の毎日の食事を作ること。遠く離れた日本に妻と8歳の娘と生まれたばかりの息子を残し、8人の隊員たちで悪戦苦闘しながら、次第に絆を深めていく一年半が始まる——。
映画はそんな内容ですから、冒頭から結末まで美味しそうなご飯の乱れ打ちです。映画は目にも美味しそうなお刺身が切れ味鋭い包丁で切り揃えられていく様子に始まり、じゅうじゅうサクサク仕上がってく魚フライにてんぷら、おひたし、しゃけおむすび、豚汁、エビフライに中華料理、にカニにフォアグラに牛の塊肉の丸焼きにラーメンに…と視覚と聴覚を通してこれでもかと観客である私たちに飯テロを繰り出してきます。本作を紹介するYoutube動画のコメント欄にも「食欲ない時に観るべき映画No.1」「深夜に観てはいけない映画No.1」「邦画としても最高だし、飯テロとしても最高です。」などなど熱いコメントが並んでいます。
番組にメッセージを寄せてくださったやはたの・ともこさんは劇中におにぎりと豚汁が登場するシーンが大好きだったそうで「しばらく真似しておにぎりと豚汁をつくった」というエピソード。そしてカナさんはといえば「劇中で出てくる伊勢海老のエビフライが印象的です。豪華な伊勢海老だからおつくりの方が美味しいのに、無理やりエビフライを作らされる堺雅人。作ってと頼んだ割に微妙な反応をする隊員たち…これがシュールで面白いんです」とのお声。そして「エビフライを食べるたびに、いつか劇中で登場する"伊勢海老"のエビフライも食べてみたいな〜と思います。そもそも伊勢海老を食べたことがないのですが…」。そのコメントに続けて、実はカナさんちょうど今週末にはお兄様の結婚式に参列されるとのことで「伊勢海老が出てくるか楽しみにしています」とのこと。カナさん、ぜひ初の伊勢海老体験が実現したか否か、またメッセージお待ちしています!
さて映画に戻ります。僕はといえば、2日前にカフェプロントの端っこでPCで見たのですが、途中からはもう笑いと涙をこらえるので大変でした。自分の映画メモにも「頼むからプロントで泣かせんでくれよ…」と書いています笑。というのもこの映画。今月のテーマである「食欲を刺激する映画」であることはもちろんのこと、もうひとつ、この枠で紹介すべきとても大切な理由を持った映画でもあります。それは、この映画が「私たちにとって『ご飯』って何だっけ?」ということを豊かに問うてくる映画にもなっているからでした。
たとえばそれは、空腹を満たすもの。誰かを喜ばせるもの。バラバラなみんなを同じ食卓に集めるもの。互いの会話を誘い出すもの。なんでもない日を特別な日に変えてしまうもの。「元気出して」という気持ちや思いやりを相手に伝えるもの……。
映画はそうした「ご飯」の性質をどれかひとつと断言するでもなく、むしろそのすべてであるとでもいうような豊かなありさまを見せてくれる。これきっと、観客それぞれが鑑賞する日の自分の心持ちやコンディションによって刺さる場面が変わってしまうでしょうし、そのどれもが「そうだった。ご飯ってこういうものでもあったはずだよね…」と特別な実感となってしまう映画にもなっているのが魅力です。「調理して/振る舞う」という、思えば人類しか持っていないすごく特別な「ご飯」という行為と時間に宿る「何か」を、これほど可笑しく美味しそうに沁みる物語として、豊かな幅を持ってもう一度実感させてしまうのがこの映画なんですね。
だからもし、あなたがいま「食欲がない」「自分が何食べたいかもわかんない」みたいなことであれば、この映画のことを思い出してほしい。見ればきっと食べたいものが見つかるはずです。そしてまた、あなたが「もうご飯作っても何も楽しくない」とモチベーションを失ってしまっているならば、やっぱりこの映画を見てほしい。それはきっとあなたのなかに「ご飯をつくる喜び」を取り戻させる特別な体験になる。この映画にはそういう、生きる力を湧き上がらせるような不思議な魅力があります。
おかげで僕はこの映画が本当に大好きになりましたし、ぜひみなさんにも全力でおすすめしたい特別な一本になりました。
ということで、今月の「リスナー名作劇場:食欲を刺激する映画」は『南極料理人』でした。各種配信サイトなどですぐに見られる作品ですので、今週末、ぜひご覧になって、笑って泣いて、そして皆 美味しいご飯を召し上がって下さい!
※放送情報は変更となる場合があります。