リスナーによる「音楽が印象的な映画といえば?」選ばれたのは『蜜蜂と遠雷』
RKBラジオ「田畑竜介GrooooowUp」で月一恒例コーナーになっている、クリエイティブプロデューサー三好剛平さんによる「リスナー名作劇場」。11月は「音楽が印象的な映画といえば?」というテーマで募集。三好さんに選ばれたのは、美しいクラシック音楽と熱い物語が繰り広げられた名作だった。
リスナーさんのご推薦作品
まずはいわゆる音楽映画の定番をご推薦くださったのは あゆみよりさんの『サウンド・オブ・ミュージック』と『ブルース・ブラザーズ』、 tuchiya_kasa(つちや・かさ)さんは『グレイテスト・ショーマン』、そして、お名前なしのリスナーさん でしたが『ラ・ラ・ランド』を挙げてくださった方もいらっしゃいました。
映画音楽が大好きだという ☆のらりん、くらりん☆ さんは、1983年の名作『フラッシュダンス』をご推薦。小学生の頃にご覧になってから主人公アレックスに憧れて、なんとご自身もブレイクダンスを練習されたエピソードもお寄せいただきました。「三好さん、テーマ曲の〈what a feeling〉、最高ですよね!」ですって。そしてこのコーナーではもはやおなじみの nekochamicarp(ねこちゃみかーぷ) さんは『ウエストサイド・ストーリー』『クレイマー・クレイマー』『卒業』の3作品。いずれも納得のセレクトですね。
さらにこちらもおなじみの ビタミンKさん 。今回はなんとご夫婦でメッセージをお寄せいただきました。旦那様は『フォレスト・ガンプ/一期一会』からジャクソン・ブラウンの〈孤独なランナー〉、そしてビタミンKさんは1968年の映画『白い恋人たち』からフランシス・レイ作曲による同名曲をご推薦。中学生の時に、喧嘩していた映画好きの同級生が「これ良いよ」とこの曲のEPレコードを貸してくれたことをきっかけに仲直りされたエピソードとともにお寄せいただきました。
さらには既存の楽曲が映画によって特別な1曲になってしまった方々も。あいだ桃太郎 さんは『2001年宇宙の旅』からシュトラウスの〈ツァラトゥストラはかく語りき〉。映画は難解だったけど「この曲を聴くと、時間と空間の無限の広がりを感じる」とのこと。算数ノートさんは映画『惑星ソラリス』からバッハの〈主イエスよ、私はあなたを呼ぶ〉をセレクト。映画では滅多に泣かない鋼鉄の涙腺をもつ算数ノートさんもこの作品を見て以来、これを聴くだけで目がうるんでしまうとメッセージもお寄せくださいました。
老婆の休日 さんは映画『小説家を見つけたら』のラストに流れる「サムウェア・オーヴァー・ザ・レインボウ」のハワイアン・ヴァージョンをご推薦。映画の見どころに寄せた熱いご推薦文をいただきました。
そして ユーエンミー さんは2010年の日本映画『ソラニン』からASIAN KUNG-FU GENERATIONの同名曲を「映画を見終わった後も何度も聞いてしまう」とのこと。
「人生で初めてメールを送ります」とお寄せいただいたのは からあげ さん。ご推薦は『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の劇中BGM。「人生で初めてサウンドトラックCDを購入」されたとのこと。 やはたの・ともこ さんは『劇場版 銀河鉄道999』からラストで流れる「終曲-別離(わかれ)そして新たなる出発」。 にっこりえくぼ さんは映画『砂の器』から、冬の荒れた浜辺を強風にさらされながら歩く父子のシーンで流れる楽曲を、とのこと。タイトルがお分かりにならないとのことでしたが、これ菅野光亮(かんのみつあき)さんの「宿命 映画版1」というタイトルで見つかると思います。ぜひチェックしてみてください。最後に おてあらい・かわやこ さんは映画『プレデター』。たまにラジオやCMからこの曲が流れると、プレデターが来た!となるそうです笑。
今回もたくさんのメッセージどうもありがとうございました。
映画「蜜蜂と遠雷」
そんななか三好がセレクトしたのは みんみ さんが「クラシック音楽のすばらしさ、音楽家の苦悩」が伝わるとお寄せいただいた2019年の日本映画『蜜蜂と遠雷』です。
まずは映画のあらすじから。ピアノの天才たちが集う芳ヶ江国際ピアノコンクールの予選会に参加する若き4人のピアニストたち。母の死をきっかけにピアノが弾けなくなって以来7年ぶりにコンクールに出場するかつての天才少女・栄伝亜夜。音大出身だが現在は楽器店で働きながら家族の応援と共に、コンクール年齢制限ギリギリ最後の挑戦に臨む“一般人代表”の高島明石。名門ジュリアード音楽院在籍中で完璧な演奏技術と感性を併せ持つ優勝候補・マサル・C・レビ=アナトール。そして、先ごろ亡くなった世界最高峰のピアニストからの推薦状を持って現れた、超絶技巧の謎の少年・風間塵。4人は熱い戦いの中で互いに刺激しあい、それぞれ葛藤しながらも成長していくが——。という物語です。
原作は、本作で直木賞と本屋大賞のW受賞を果たした恩田陸さんの同名小説。監督は『愚行録』『ある男』などで日本アカデミー賞などで高い評価を集め続ける石川慶さん。主演を松岡茉優さん、松坂桃李さん、森崎ウィンさん、鈴鹿央士(おうじ)さんが務め、それぞれ4人4様に素晴らしい演技を披露しています。
僕がこの作品を推したいと思ったのは2点。まずは映画のなかで、登場人物ひとりひとりの演奏する音楽そのものが台詞以上の感情やストーリーを伝えるものとして配備されていた点です。どんな映画でも、物語のなかで“素晴らしい演奏”として出てくるものを実際にそう観客に届けることはかなり困難ですが、なかでもこの映画の初盤のハイライトになる「春と修羅」という課題曲を、一般人代表の高島が“生活者の音楽”として演奏するシーンとその後の展開は、映画ならではの達成があった場面だと思います。
そしてもうひとつは、この作品が終盤に向かって「音楽とは何か?」そして音楽を演奏する「演奏者とはこの世界でどのような役割を果たす人たちなのか?」というところに向かっていく点です。僕自身、今回の特集が改めて映画のなかの、そしてこの世界のなかでの「音楽」ってどういうものだろう?と考える機会となったのですが、そんななかでこの映画は大いにその対話相手になってくれたように感じています。
世界そのものが奏でる音にじっと耳を澄ましてみれば、そこに人の数だけ新しいメロディ、新しい物語が生まれてくる。その奇跡の連続を譜面に落としていけばそれはやがて「音楽」となって、それは誰かの心を動かすものとして未来へと残っていく。そんな体験として「音楽」と出会わせてくれるのがこの『蜜蜂と遠雷』という映画です。
単純にひとつの青春群像劇、あるいは音楽スポ根映画としても楽しめる作品でもあります。空気が凛と澄んできたこの季節に、美しいクラシックと熱い物語が展開する本作をご覧になってみてはいかがでしょうか、ということで今回のリスナー名作劇場は『蜜蜂と遠雷』をご紹介いたしました。
※放送情報は変更となる場合があります。