ドキュメンタリー映画『だぁほ!!』在日関西人シンガー・パギやん反骨の旅

一貫して反権力・反差別を訴え続ける68歳のシンガーソングライター、パギやんこと趙博(チョウ・バク)さんを3年間追ったドキュメンタリー映画『だぁほ!! ~パギやん、愛(サラン)と怒(プンノ)の遺言~』が完成し、まもなく公開されます。福岡市で開かれた完成試写会を取材したRKB毎日放送の神戸金史解説委員長が、5月20日放送のRKBラジオ『田畑竜介Grooooow Up』で本作を紹介しました。
「ワテらは陽気な非国民」

大阪生まれのシンガーソングライター・役者のパギやんは、本名・趙博。大学と予備校で20年間教員を務めた後、48歳で「芸一筋」の道を選んだ在日2世の男性です。現在68歳となる彼には「浪花の歌う巨人」、反戦・反差別の活動家として「在日関西人」の二つの自称があります。
完成した映画『だぁほ!!』(2025年、118分)は、6月14日から東京・ポレポレ東中野での公開が決定しており、福岡市では5月8日に完成試写会が開催されました。映画の中でパギやんが歌う「反骨」の歌が印象的です。
♪ワテらは陽気な非国民 戦争絶対いたしません 殺さない 殺されない 殺させない♪ (『ワテらは陽気な非国民』より)
本作の撮影・編集を手がけた大須賀博監督は、「舞台で、酒場で、町内で、旅先で、パギやんが繰り広げる“人間曼荼羅”とも例えられる様々な人間関係と心模様をカメラに収め、そこに生まれた“言葉”を綴ったドキュメンタリーです」と語っています。
旅し、歌い、語るパギやん
映画では、北海道から沖縄まで全国各地を巡り、歌い、人々と対話するパギやんの姿が追われています。札幌でのライブでは、金時江氏(札幌「ギャラリー茶門」主宰)がパギやんの反骨精神の根源に「在日」の存在があることを指摘しています。

百年経てば 山河も変わる 国も亡べば人も死ぬ
昨日も今日も 生きてはみたが 幸せそれとも不幸せ
百年経てば 山河も変わる 主権在民 平和主義
人権尊重どこ吹く風で 格差社会の生き地獄♪
(『新百年節』より)
金時江(札幌「ギャラリー茶門」主宰)インタビュー:今日の歌を聴いたって、みんなどこから反骨精神が出てくるのか。何を恐れないで何を伝えるのか。やっぱりその根は、「在日」だと思います。
基地の重圧に苦しむ沖縄でのライブ企画、北海道でのアイヌの人々との交流、さらには韓国・済州島での4・3事件や光州事件の現場を巡る旅は、ロードムービーのような構成で描かれます。沖縄でのライブに共演したフォークシンガーの中川五郎さんとの音楽談義も必見です。

パギやん:うまく歌を歌う人も、もちろん素晴らしいのだけど、そうじゃなくて、歌の伝わり方。伝わってくるものと、「全然お前の歌は伝わらへん」というのがあるんですよね。
中川五郎さん:上手で演奏がうまくても、通り過ぎる。なんで聞かせようとしているのかというその思いが重要だと思うんですよね。自分が人前で歌おうと10代の半ばで僕が思ったのは、アメリカやイギリスのフォークソングを聴いて、「下手でも歌っていいんだ」、歌を歌う人にプロもアマチュアも、玄人も素人もなくって、「歌う気持ちがあればできるのがフォークソングだ」と思ったんです。それが人前で歌う原点としてあるから今も、伝えたいことがあるから歌おうとするんですよね。
巧みな話芸とメッセージ
パギやんの巧みな話芸も映画の魅力の一つです。広島での平和運動に参加する学生たちが、船で向かおうとしたときのことです。
パギやん:けっこうな数の学生が広島におって。おもろいのは、大阪の南港から船に乗るんです。広島に行くのに金がないから。南港で船に乗ったら、妨害に来る右翼も一緒に乗っている。右翼も金ないね。ものすごく丁寧で「また広島でお会いしましょう」。
映画には出てきませんでしたが、創作浪曲『医師・中村哲』という作品では九州の言葉を駆使しながら浪曲を歌い、名作映画を歌と語りで再現する「歌うキネマ」は、映画を一人芝居で演じていく。様々な表現があって、話芸はかなり幅広いです。
旅の途中、移動中の車の中ではこんな会話もありました。
パギやん: 「みなさんが何十年も戦って来たのに感動しました」というから、「バカヤロウ、若いやつが感動するな! 参考にしろ!」と言ったんだ。そしたら「はいっ」とか言って。
「感動するな、参考にせよ」。なかなかかっこいいフレーズを言うのです。
実は、私とも個人的なつながりがあって、津久井やまゆり園障害者殺傷事件の後、障害のある子供を持つ私が書いたFacebookの文章が拡散しました。その文章を歌詞にして、『障害を持つ息子へ』という歌を作ってくれた人でもあります。
※この歌を放送するために、RKBとTBSラジオと共同制作した1時間ラジオドキュメンタリーが『SCRATCH 差別と平成』。https://podcastranking.jp/1512354362
「グーチョキパーの歌」に込められた優しさ
福岡での試写会では、上映後に映画の中で歌った『グーチョキパーの歌』が披露されました。
♪グーよりつよいのは、パー
パーよりつよいのは、チョキ
チョキよりつよいのは、グー
みんな つよくて みんな よわい
みんな つよくて みんな よわい
みんな つよくて みんな よわい
グーよりよわいのは……♪
パギやん:弱いのは言いにくいでしょ(笑)
社会的な不正には「だぁほ!!」と強く声を上げる反骨の人でありながら、子供たちにも愛される歌を歌うパギやんの優しい一面が垣間見える瞬間でした。
この映画は6月14日から東京・ポレポレ東中野で公開されます。福岡での上映はまだ決まっていませんが、パギやんは福岡での上映を強く願っています。東京での反響が待たれます。
♪ひとーりひとーり みんなひと
ひとーでなしでも
(悔しいけどプーチンもトランプも)
ひとはひと
みんな つよくて みんな よわい
みんな よわくて みんな つよい♪
パギやん:『グーチョキパーの歌』でした。この映画が、福岡でも上映されることを祈っています。きょうはありがとうございました!

◎神戸金史(かんべ・かねぶみ)
1967年生まれ。学生時代は日本史学を専攻(社会思想史、ファシズム史など)。毎日新聞入社直後に雲仙噴火災害に遭遇。東京社会部勤務を経てRKBに転職。やまゆり園事件やヘイトスピーチを題材にしたドキュメンタリー映画『リリアンの揺りかご』(2024年)は各種プラットフォームでレンタル視聴可能。最新作『一緒に住んだら、もう家族~「子どもの村」の一軒家~』(2025年、ラジオ)はポッドキャストで無料公開中。
※放送情報は変更となる場合があります。