ベテラン女優がダブル主演!韓国映画『最後のピクニック』の魅力
9/12(金)より福岡はkinocinema天神で公開されている韓国映画『最後のピクニック』。実年齢いずれも80歳を超える二人の韓国ベテラン女優がダブル主演を務めて描かれるのは、晩年期に直面する人生の現実と、二人の女性が育んできた60年来の友情についての物語だ。韓国でもインディペンデント映画として異例のヒットを記録したこの映画について、RKBラジオ「田畑竜介GrooooowUp」に出演したクリエイティブプロデューサの三好剛平さんが語った。
映画について
まずは映画のあらすじからご紹介します。
大都会ソウルでひとり暮らしをしている主人公の女性・ウンシムは、60年ぶりに自身の故郷である海沿いの町・南海(ナメ)に帰郷し、幼少期以来の親友であるグムスンのもとに身を寄せます。そこでウンシムは、学生時代から彼女に思いを寄せていた男性・テホと再会を果たすなど、忘れていた記憶を一つずつ思い出しながら、その懐かしさに心を躍らせます。
彼らは互いに離れていた時間を埋めるように和気あいあいと楽しい日々を過ごしますが、やがて60年前にウンシムが故郷を離れなくてはならなかった16歳の頃のある出来事が明かされ、さらにはそれぞれが向き合うべき家族との問題、そして加齢に伴う現実などが迫ってきます。そして互いに“今の真実”を認め合ったウンシムとグムスンは、美しいハマナスの花が咲き誇る草原へ〈最後のピクニック〉に出かける準備を始め——、というお話しです。
主演を務めたのはいずれも80歳オーバーの韓国ベテラン俳優たちです。主人公ウンシムに大ヒット映画「怪しい彼女」ほか数多くの映画やドラマに出演してきたナ・ムニ、そして親友グムスンを演じたのもNetflixドラマ「イカゲーム」ほか映画やドラマでお馴染みのキム・ヨンオク。さらに主人公ウンシムに少年時代以来ずっと恋心を抱いてきた男性テホを演じたのは、映画「チャンス商会 初恋を探して」の演技も印象的だったパク・クニョン。いずれも数多くの演技賞も獲得してきた名優揃い、韓国ドラマや映画を見たことがある人ならどなたも顔を見れば「あ!この人!」となるお馴染みの俳優さんたちです。
この映画は昨年韓国の単館劇場で公開された、いわゆる「ミニシアター映画」でした。現地にはそもそもこうした映画を上映するミニシアター自体がそれほど多くなくヒットの規模もかなり限られているなかで、本作は主人公たちと同じ高齢世代はもとより、その息子&娘世代、さらには話題が広まり10〜20代の孫世代にまで鑑賞の波が広がり、最終的には国内で35万人を動員、インディペンデント映画としては五年ぶりのヒット記録を更新。全世代に愛される特別な一本となったのでした。
ふたりが向き合う現実と、「最後のピクニック」
そのようにひろく愛されるヒューマンドラマの一本となった本作ですが、その背景には韓国が直面する現実がさりげなく描き込まれています。
映画の冒頭にソウルでひとり暮らしをしているウンシムのもとへ金の無心にやってくる息子が登場しますが、その理由は彼が事業展開していたチキン屋チェーンの不祥事が原因だったり、ウンシムが60年ぶりに帰省する故郷の街・南海(ナメ)でも、街の若年層離れによる地域産業の縮小や超高齢化、そして差し迫るリゾート開発計画といった現実も背景に描き込まれていたりします。さらにはそうした超高齢化社会における地方〜韓国全体における独居老人や子世代との介護の現実、老々介護の問題。そして、主人公たち現・高齢世代がこれまで強いられてきた、当時の社会における女性や妻といった存在たちへの厳しい扱いなども浮き彫りにされており、映画のラストも鑑賞される方によって様々な意見を抱かせるものとなっています。
そう聞くと「なかなかシビアな映画なのかしら…」とひるんでしまう方もいるかもしれませんが、大丈夫です。映画としてはあくまでコメディも交えた明るいタッチで物語が展開していきますし、それこそが本作の魅力でもあります。主人公である老婆たちは、他の映画なら笑い事として扱えないような場面でさえも、互いに笑い飛ばしながら乗り切っていくようなたくましさがあります。
そうした物語を支えるのが、やはり二人の60年来にわたる友情です。韓国社会において「我慢と犠牲の世代」として、自分の人生を生きることさえも十分に寛容されてこなかった時代から長く育まれてきた彼らの人生。そこには、誰にも言えず一人飲み込んできた苦しい記憶や悲しい場面も数多くあったはずですが、いつでもそばで支えてくれたのは互いの親友関係でした。その長い長い歩みを思うと胸が熱くなりますし、さらにそんな彼らが苦しい経験も乗り越えながら必死に守ってきたものとは何だったのか、ということを知ると一層迫るものがあります。そして、実はこのウンシムとグムスンを演じた女優のナ・ムニさんとキム・ヨンオクさんは、私生活でも大親友とのことで、その微笑ましいやりとりの空気感は映画にもしっかり現れています。
この映画は韓国で世代ごとにそれぞれに共感される全世代の映画となって愛されただけでなく、本作がきっかけに現地では高齢者介護や福祉にまつわる討論会やキャンペーンも生み出されていったと聞いています。さらに映画のラストに流れる主題歌は「おばあちゃん世代のBTS」とも呼ばれているらしいイム・ヨンウンという歌手による、歌詞も感動的な一曲でしみじみと劇場を後にすることができます。
映画を見終えた後には、思わず自分の親に連絡を入れたくなるような一本になっていますし、またご年配のリスナーさんにおかれましては、ご自身の人生にも照らし返しながらしみじみと感じ入るポイントを見つけてもらえるに違いない、味わい深い一本となっていました。ちょうど来週のリスナー名作劇場が「シニアが主役の映画」というテーマでもありましたので、是非ともあわせてこちらも楽しんでもらうべく、今週ご紹介差し上げました。
韓国映画『最後のピクニック』は9/12(金)より福岡はkinocinema天神にて公開中です。ぜひご覧ください。
※放送情報は変更となる場合があります。
