人生の一本に!?映画『ヤンヤン 夏の想い出 4Kレストア版』
KBCシネマで1/9金より公開となった『ヤンヤン 夏の想い出 4Kレストア版』。RKBラジオ『田畑竜介GrooooowUp』に出演しているクリエイティブプロデューサーの三好剛平さんが、これまでその過去作のレストア版が一本ずつ公開されていく度に繰り返し取り上げてきた台湾の映画監督エドワード・ヤンだが、今回は2000年に発表された彼の遺作にして集大成と評される一本がいよいよ4Kレストアを施されたかたちで再上映される。本作はアジア映画そして世界の映画の歴史において、その流れを変えた歴史的最重要作とも言える一作であるだけでなく、三好さん自身この作品を高校3年生のときに見たことがその後の映画人生を決定づけたと感じている「人生の一本」で、新年1発目から三好さん自身が本作を紹介することに心底慄いているほどの特別な作品だとのこと。その魅力を語った。
台湾映画とエドワード・ヤンについて
まずは改めて、エドワード・ヤン監督について簡単におさらいをしたいと思います。
エドワード・ヤンは1980年代から映画活動を開始し、特に1980年代から90年代にかけて台湾の若手映画監督を中心に展開された「台湾ニューシネマ」を代表する映画監督として知られています。「台湾ニューシネマ」とは、従来の商業ベースでの映画作りとは一線を画して、台湾固有の文化や風景、社会をより深く掘り下げることで新たな視点とオリジナルな映画表現を生み出したムーヴメントで、エドワード・ヤンや侯孝賢(ホウ・シャオシェン)などその後世界の映画界に多大なる影響を与える作家たちが牽引した、きわめて重要な文化運動でもありました。
そんなエドワード・ヤンですが、残念ながら2007年59歳で癌の合併症で亡くなるまで長編映画はわずか7本のみしか残さなかった寡作の映画監督でした。しかし『恐怖分子(86)』『牯嶺街少年殺人事件(91)』『恋愛時代(94)』『カップルズ(96)』そして今回の『ヤンヤン夏の思い出(00)』と、どの作品も各国映画祭や映画メディアはもちろん、現在も世界中の映画人たちに多大なる影響を与え続ける大傑作群として、今も評価を揺るがせにしないものとなっています。
なかでも今回紹介する『ヤンヤン夏の思い出』はその年のカンヌ国際映画祭での監督賞受賞を皮切りに複数の映画賞を受賞したほか、現在に至るまでBBC やニューヨーク・タイムズが選ぶ「20 世紀の映画ベスト」にもたびたびランクインするなど、アジア映画という枠組みを超えた映画史に刻まれた屈指のマスターピースとして支持されています。日本でも濱口竜介監督や黒沢清監督などはじめ、同時代の、そしてそれ以降の映画作家たちに決定的な影響を与えた映画です。しかし日本では2001年の劇場公開時以降、作品の複雑な権利関係から長らく劇場再映が困難となっており、一時はもう二度とスクリーンでは見られないかも、とまでうそぶかれた作品となっていましたが、この度無事に4Kレストアを施されたかたちで、25年の時を経て再び劇場で上映される運びとなりました。
見えるものと見えないもの
それでは、作品のあらすじをご紹介します。
8歳の少年ヤンヤンは、コンピュータ会社を経営する父NJと、会社勤めの母ミンミン、高校生の姉ティンティン、そして母方の祖母と一緒に台北のマンションで暮らしています。しかしミンミンの弟アディの結婚式の日、祖母が突然病に倒れたのを機に、一家の生活は大きな変化を迎えます。
昏睡状態に陥った母の介護をするうち自分の人生に虚しさを感じ始めたミンミンは、やがて宗教に傾倒し、尊師がいる山に篭ってしまいます。一方のNJは、アディの結婚式で初恋の人シェリーと数十年ぶりに再会する傍ら、深刻な経営危機を迎えていた自身の会社の命運をかけて有名なゲームソフト開発者の日本人・大田と契約すべく東京へ向かいます。そこでNJはシェリーと落ち合い、20年ぶりにデートをすることに。
そして高校生の姉ティンティンは、祖母が倒れたのは自分のせいではないかとひとり苦悩する日々を過ごしていましたが、マンションで隣に住む同世代の女の子リーリーと親しくなり、徐々に明るさを取り戻していく。ティンティンはリーリーとその恋人のようすを憧れのまなざしで見つめていましたが、徐々に3人の関係は変化し、ある事件が起きます。そのようにしてそれぞれが問題を抱える家族の物語がパラレルに進行する中、末っ子のヤンヤンは父からもらったカメラで、無邪気に人々の後ろ姿ばかりを映してまわるが…。
本作の魅力をここからの時間で全て取り上げることは不可能なので、まずは三好の映画紹介屋人生を賭けて一言。この『ヤンヤン 夏の思い出』という映画は、脚本、撮影、演技、演出などおよそ映画を構成する全ての要素が完璧に機能した傑作というほかない一本です。本作を劇場で鑑賞できる機会を逃す手はありませんので、絶対に絶対に劇場でご覧ください。ということをまず三好の全身全霊を込めた推薦としてお伝えします。
そのうえで、少しだけ詳細に踏み込むと、この映画は台湾の都市に生きる人々を描いた作品なのですが、不思議なほどに国籍も年代を問わない「私たちの人生のすべて」が映画のなかにあると信じられるような作品になっています。そしてそこで提示される人生の真実は、驚くほど単純で、しかしだからこそ普遍的なものになっています。
特に今回見返していて改めて心に沁みたのは、物事には常に自分から見えている側面と、自分だけでは決して見ることのできない側面がある、という命題です。これも一聴するとごく当たり前で単純な命題に思えますが、この映画では無数に張り巡らされた脚本や設定、そして印象的な場面が見事に連鎖していくことで、痛切でかけがえのないメッセージとして観客に手渡されるはずです。
例えば(これは小ネタ程度のものですが)登場人物のほとんどがヤンヤン、ミンミン、ティンティンと同じ語を2回反復する名前が多いのはそれぞれの二面性を暗示するものになっているのではないか、ということだったり、無邪気な少年ヤンヤンはなぜ人々の後ろ姿ばかり撮影していくのか、というようなことだったり。それらはやがて、それぞれが切実な状況に置かれた登場人物たちが「自分が信じたいものしか見られなくなる」状況と、それでも「見えないものを見ようとすること/見えるものにしていくこと」をめぐる問いへと結ばれていくようで、僕はそのことがついには「映画とは何か」「なぜ私たちは映画を見るのか」ということにまでつながるような大いなる問いかけにも思えたのでした。
このような具合で、映画が投げかけるシンプルな問いかけひとつひとつが、私たちひとりひとりの人生の普遍な部分にまで届いていく、驚くべき傑作です。『ヤンヤン 夏の想い出 4Kレストア版』はKBCシネマで1/9金より公開されています。絶対にお見逃しなく、というご紹介でした。
※放送情報は変更となる場合があります。
