簗和生氏の辞任劇から読み解く「政治家とカネ」と議員の資質とは

地元自治体の道路予算を「カットした」などと発言して国会で追及された簗和生議員が一昨日、高市早苗首相に辞表を提出し、農林水産大臣を事実上更迭されました。在任からわずか28日で大臣の座を追われたもので、高市政権では初めての閣僚不祥事での辞任となります。政界の汚職や不祥事の取材経験が豊富な毎日新聞出版社長の山本修司さんが10月16日放送のRKBラジオ『立川生志 金サイト』に出演し、この一連の騒動について「『政治家とカネ』を根底にした議員の資質の問題」という視点から解説しました。

「政治とカネ」ではなく「政治家とカネ」

私は以前から、政治家を巡る資金の不透明さや、それに伴う資金処理や利益誘導、汚職などの不正を「政治家とカネ」の問題と言っています。多くの報道では「政治とカネ」という言葉が使われていて、確かに政治というシステムにかかるカネの問題はあるのですが、自民党の裏金問題をはじめ、政治システムというよりも、政治家個人の資質に関わる問題だということで、私はあえて「政治家とカネ」という言葉を使っています。今回の簗議員の問題の根源は、まさに「政治家とカネ」の問題です。

裏金事件の「起訴猶予」と有権者の意思

はじめに指摘しておかなければならないことは、簗議員は自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件で、1746万円を政治資金収支報告書に記載していなかった、つまり裏金にしていたということで、これはノルマ以上に売りさばいたパーティー券代が積み上がったものです。

この事件では、政治資金規正法違反の疑いで東京地検特捜部の捜査対象となり、起訴猶予となっています。起訴を猶予されているということで不起訴なのですが、不起訴には3種類ありまして、容疑事実がないという「嫌疑なし」と、容疑が不十分だという「嫌疑不十分」、そして「起訴猶予」です。起訴猶予というのは検察が犯罪事実を認めながらも、裁量で起訴を見送ったということです。

当時の捜査を振り返りますと、特捜部は容疑者が多く不記載の金額も様々だったことから、立件するラインを「3000万円以上」に置いたという事情がありますから、起訴されなかったといっても、それはある意味便宜上のことなのです。

高市改造内閣では初めて、裏金事件で不記載が判明した議員が2人入閣しましたが、それは簗氏と文部科学大臣に就任した関芳弘議員で、いずれも旧安倍派です。高市さんは2回の衆院選を経たこと、要は「みそぎは済んだ」として起用したということで、「過去に行ったことが“なかったこと”にされるわけではないが、襟を正して重責ある公務に臨んでほしい」と述べていましたが、簗氏は小選挙区では落選して比例区で復活当選したので、有権者からは「ノー」の意思を示されているのです。

予算カット発言に表れる「議員の資質」の欠如

さらに、簗氏は不記載について納得のいく説明をしていません。裏金事件で起訴されてもおかしくない人が、小選挙区で落選して、説明責任も果たしていないのですから、私は前々から簗氏については「議員としての資質がない」と認識していましたし、まして閣僚につくことには大きな疑問を持ちました。

結局、予算カット発言、さらには、今年2月の衆院選で支持者を無料シャトルバスで送迎した公職選挙法違反の疑惑も出て、一昨日の辞表提出に追い込まれたということです。

私は最初に、資金の不透明さ、それに伴う資金処理や利益誘導、汚職などの不正を「政治家とカネ」の問題だと言いましたが、地元自治体への道路予算をカット発言、これはその中にある利益誘導の真逆にあたり、より悪質だと考えています。

予算というのは国のお金で、事業に応じて公平に分配されるものですから、これを地元のために取ってくることでさえ我田引水で問題ですが、逆に「カットするぞ」というのは、公のお金と票を引き換えにした恫喝です。

ですから、自分を応援しなかった自治体予算のカットを国土交通省に働きかけたとしたら大問題ですし、何もしていなければ有権者に自分を大きく見せようとした(高市首相は「ダサい」と言っていますが)ということですが、発言した時点、その発想そのものが「議員としての資質」がないことを裏付けていることになります。

簗氏にはそもそも、閣僚はおろか「議員としての資質」がありませんし(実際、小選挙区では落選)、予算カットの発言が発覚した時点で、高市首相は更迭すべきでした。高市首相は無料シャトルバスの公選法違反を事実上の更迭の契機にしていますが、これは遅すぎたといわざるを得ません。

たった28日の在任でしたが、そもそも農相に就任すべきではなく、また28日も在任すべきではなかったというのが、私の考えです。高市首相の任命責任とはまさにこのことだと思っています。

「推定有罪」の覚悟で政治家の事件に向き合うべき

もう一人、いわゆる「裏金議員」で入閣したのが文部科学大臣に就任した関芳弘議員です。この人も旧安倍派ですね。衆議院が会館内でのパーティー開催を禁止しているにもかかわらず、2024年6月と20年12月に政治資金パーティーを開いていたということですから、これも資質の問題ですね。裏金事件で不記載の額は836万円で、簗氏とともに起訴猶予でした。

日本では、容疑者の年齢や犯罪の軽重、酌むべき事情などを考慮して、起訴するかしないかを判断する「起訴便宜主義」を採用していますので、起訴猶予処分ができるわけです。一方で、ドイツではこうした裁量を認めない「起訴法定主義」を取っています。

大半の国では「疑わしきは罰せず」の推定無罪を原則としていますが、一部の国では、汚職事件などで公務員が持っている資産の出所を合理的に説明できない場合、立証責任が検察から被告の側に転換し、それを覆す証拠を出せない限り有罪となるという制度を採用しています。これは説明責任の最たるものです。

私は記者時代に長年にわたって政界事件を担当しましたが、その後も含めて説明責任が果たされたことはほとんどありませんでした。それで私の中では、政治家の事件は「推定有罪」というくらい厳しくあたっていかなければならないと思ってきましたし、検察も「起訴法定主義」くらいに厳しく対処していく必要があるとずっと考えてきました。今回の問題でもそれを強く感じています。

国会議員は国民の代表ですから、その身分が守られるのは当然で、国会開催中には逮捕されないという特権もありますし、出処進退は自身で判断するものだと思います。しかしながら、疑惑などに対してあまりにもずさんな対応をし(簗氏は当初、予算カット発言を「大臣就任前の一議員の問題」として説明を避けました)自浄作用が発揮されないのであれば、今でさえ失っている政治への信頼は地に落ちると思います。

高市首相がなんと強弁しようと、「裏金議員」の入閣はその後の経過を見ても分かるように明らかに誤りでした。ここで「政治家とカネ」の問題と「議員の資質」について、現政権、政府・自民党をはじめ政界は改めて考えていかなければなりません。

◎山本修司(やまもと・しゅうじ)
1962年大分県別府市出身。86年に毎日新聞入社。東京本社社会部長・西部本社編集局長を経て、19年にはオリンピック・パラリンピック室長に就任。22年から西部本社代表、24年から毎日新聞出版・代表取締役社長。

立川生志 金サイト
放送局:RKBラジオ
放送日時:毎週金曜 6時30分~10時00分
出演者:立川生志、田中みずき、山本修司
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※放送情報は変更となる場合があります。

20歳で全米1位の快挙!YouTube発『バックルームズ』監督が明かすヒットの仕掛け

映画監督・ケイン・パーソンズが、ネットミームから映画へと広がった『バックルームズ』の背景を語った。

この内容をお届けしたのは、9月15日(火)放送のJ-WAVE『MIDDAY LOUNGE』(火曜ナビゲーター:市川紗椰)の「PICK OF THE DAY」。各曜日のナビゲーターの個性に特化した特集をお届けする。

ネット発の作品が若い世代を劇場へ

今回は、9月4日に公開され、話題を集めている映画『バックルームズ』に注目。同作が注目を集める理由のひとつが、ケイン・パーソンズ監督の存在だ。19歳で同作を撮影し、20歳で長編映画デビュー。アメリカでは初登場1位を記録し、史上最年少の全米ナンバーワン監督となった。

大ヒット上映中!映画『バックルームズ』本予告

<あらすじ>
家具販売員のクラークは、ショールームの地下で不気味に輝く異空間への入り口を発見する。その先に広がっていたのは、見覚えのある部屋や廊下が無限に続く巨大な迷宮だった。
異様な空間に魅了されたクラークは、同僚たちとともに調査を進める。しかし、静寂のなかに響く奇妙な音とともに、突然消息を絶ってしまう。
セラピストとして働くメアリーは、クラークの行方を追って「バックルームズ」へ足を踏み入れる。そこは、自らの心の奥底に封印していたトラウマまでも暴き出す、出口のない底なしの悪夢だった。


『MIDDAY LOUNGE』では、ケイン・パーソンズ監督へのインタビューを実施。本作について語ったコメントを交えながら、その魅力に迫る。


市川:冒頭の雰囲気が似ているのは、『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』のようなファウンド・フッテージもの。誰かが見つけた古い映像を通して物語が展開します。ただ、従来のホラーのような「暗闇に何かがいる」「何かが出てくる」といった怖さではなく、明るくて誰もいない、何も起きないのに帰れない、というのが恐怖なんですよね。黄色い壁紙と蛍光灯、安っぽいカーペット。普通なら恐怖映画の美術としては地味すぎるものが延々と反復されることで、かえって恐ろしく感じる作品です。

『バックルームズ』は、ケイン・パーソンズが16歳のときにYouTubeで発表した短編『The Backrooms(Found Footage)』をもとにした作品。総再生数2億回を突破する大ヒットとなり、インターネット上で大きな注目を集めた。

The Backrooms (Found Footage)

その人気は劇場版にも引き継がれている。北米では、『バックルームズ』のヒットが若年層を映画館へ呼び戻した現象として報じられている。調査では、18歳から24歳の観客が43パーセント、18歳から34歳が76パーセントを占め、35歳未満の観客が86パーセントから88パーセントに上っている。

「見覚えがあるのに何かがおかしい」空間の恐怖

Z世代の“映画館離れ”が叫ばれるなか、インターネットから生まれた作品が、若い世代を劇場へ向かわせるきっかけとなっている。そこには、本作を語るうえで欠かせない「リミナルスペース」という概念が関係している。

ケイン:リミナルスペースは広い意味を持つ言葉で、以前から使われてきたものです。ある空間が、何かと何かのあいだにある、移行のための場所を表します。『バックルームズ』との関連で、特に人々を惹きつけてきたのが、リミナルスペースを写した写真です。こうした写真の多くは、幼いころの記憶や、1990年代から2000年代初頭にかけての人生の、ある瞬間を思い浮かべるような特徴があります。実際、多くの写真が撮られたのもこの時代です。

ケインは、リミナルスペースを写した写真には、いくつかの共通した特徴があると指摘する。まず挙げられるのが、写真を撮った人物の存在を感じさせないことだ。人が写り込んでいることはほとんどなく、無機質で、個人的なものを感じさせない。

一方で、そこに写されているものは非常に具体的だという。ケインによれば、それらは多くの人、とりわけ欧米の人々にとって、子どものころの記憶を強烈に呼び起こすものだと語る。


ケイン:こうした写真の多くは、アメリカ、カナダ、メキシコから来ています。だから、このジャンルには、おそらくそうした地域に偏った傾向もあると思います。

市川:私の感覚で少し補足すると、「リミナルスペース」はインターネット発の美的概念です。たとえば、深夜の学校や無人のホテルの廊下、閉店後のショッピングモール、夜のプールなど。ポイントは、単に怖い場所ではなく、「見覚えがあるのに、何かがおかしい」なんですよね。そこに懐かしさや安心感、不安、孤独が同時にやってくる。その曖昧な気味悪さが魅力で、『バックルームズ』はまさに、このリミナルスペースの感覚をホラーへと発展させています。

ネットミームから映画へ広がった『バックルームズ』

なぜ、インターネット世代とリミナルスペースは、これほど相性がよかったのか。ケインは、この現象が「オンライン上のインターネット文化、特にインターネットとともに育ってきた人たちが多く集まるコミュニティを中心に広がってきた」と説明する。

さらに、リミナルスペースの写真には、フィルムではなく低解像度のデジタルカメラで撮影されたものが多いという。インターネット上で共有される文化との親和性が、こうした写真の質感にも表れている。

一方でケインは、こうした現象は特定の世代だけに限られるものではないとも指摘する。「同じような現象は、年齢に関係なく、世界のどんな場所でも、どんな人々の集まりのなかでも見つけられると思います」と語った。


ケイン:もし、これをトレンドと呼ぶのであれば、2000年代初頭のアメリカ、広く言えば西洋の建築やインテリアのディテールから生まれてきたものなんだと思います。おそらく、それがこの現象の大きな出発点になったのだと思います。

市川:先ほどの答え合わせ的なお話もありましたが、特定のネットコミュニティ、多くの人が集まるところで広がったということですね。もうひとつ、その背景を説明します。アメリカの匿名のネット掲示板に1枚の写真が投稿され、そこに短い文章が添えられたことから「バックルームズ」が始まっています。1枚の写真がネットミームになり、それを監督が映像化してYouTubeシリーズに。そして、それが長編映画になったという流れです。ネット発のホラーを映画化した作品ということで、低解像度のデジタルカメラから生まれる映像のエモさと怖さが、まさにピンポイントな時代に響いたのかもしれません。

『バックルームズ』が映すインターネットの現在

ケインは、『バックルームズ』の撮影や編集だけでなく、劇中の効果音やサウンドトラックなど、音楽も自ら手がけている。

ハリウッド発ではなく、インターネットから生まれた作品が全米ナンバーワンのヒットを記録した『バックルームズ』。その作品を手がけた現在21歳のケイン・パーソンズ監督は、この反響をどのように受け止めているのだろうか。


ケイン:私は、インターネットというのは何か特別なキャンバスではないと思っています。単なる流通システムに過ぎないんです。つまり、インターネットが登場して普及する以前から存在していた従来型のメディアも、それまでとまったく同じ形で存在し続けることができます。ただ、インターネットは物事が非常に早く広がる近道になっていて、ある種の文化的なショートカットが生まれやすくなっているのだと思います。

『バックルームズ』のヒットについて、ケインは、オンライン上で発信してきたものや、それに人々が夢中になったこと自体は、以前から存在していたものと大きく変わらないと話す。一方で「インターネットによって、そうしたものがものすごく速いスピードで広がり、短期的にどんどん積み重なっていくことが可能になったんです」と語り、インターネットが作品や文化の広がり方を大きく変えたことを指摘した。

ケイン:広がりは今まさに成長し、変化している途中です。最終的にどこに行き着くのかは、私にもわかりません。でも、世の中の一部の人が言うほど、これまでのものと大きく異なる現象ではないと思います。

市川:YouTubeから誕生した20歳の監督がなぜ全米ナンバーワンを記録したのか。みなさんも観て、体験してみてください。

『バックルームズ』の詳細は公式サイトまで。

J-WAVE『MIDDAY LOUNGE』はグローバルなルーツを持つ国際色豊かなナビゲーターたちが、リスナーと一緒に「新しい自分、新しい世界と出会う」3時間のプログラム。ナビゲーターは、月曜 ハリー杉山、火曜 市川紗椰、水曜 クリス・ペプラー、木曜 ジョン・カビラが日替わりで担当している。

『MIDDAY LOUNGE』のコーナー「PICK OF THE DAY」は、それぞれのナビゲーターの個性に特化した特集をお届けする。放送は月曜~木曜の15時25分ごろから。

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