中露がタッグ?中国代表団の北方領土訪問とロシア極東で渦巻く思惑

日本の固有の領土でありながら、戦後から現在に至るまでロシアに不法占拠されている北方領土。近年、この北方領土を巡る周辺の動きが慌ただしさを増しています。ロシアによる軍事演習やプーチン大統領の訪問に加え、極めて異例となる中国代表団の視察、さらにはロシア極東サハリンでの日本人記者拘束事件まで。このエリアで一体何が起きているのでしょうか。東アジア情勢に詳しい、元RKB解説委員長で福岡女子大学副理事長の飯田和郎さんが、10月19日放送のRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』に出演し、北方領土を舞台に絡み合う中露の思惑と対日戦略について読み解きました。

「すぐ目の前にある日本の領土」の理不尽

この夏、私は北海道を4日間回りました。学生時代以来、40数年ぶりに根室を訪れました。根室市街からさらに車で30分程度東へ走ると、日本の本土の最東端である納沙布岬に至ります。ここから北方領土の一つ、歯舞群島の一部である貝殻島(かいがらとう)まではわずか3.7キロ。貝殻島のシンボルである灯台は肉眼でもよく見えます。その先にある水晶島(すいしょうとう)までは約6キロです。

根室から今度は北へ走り、知床半島へ回りました。知床峠へのドライブウェイを登ると、オホーツク海に国後島が横たわるような姿で見渡せます。「すぐ目の前にある日本の領土なのに、不法に占拠され、今は日本の主権が及ばない」――ここを訪れる者だれもが、そんな現実と理不尽さを考えさせられます。

いわゆる「北方四島」と呼ばれる島々の中で、最大の島が択捉島です。その択捉島を巡り、気になる動きがありました。

極めて異例となる中国代表団の択捉島視察

まずは先週飛び込んできた、このニュースから紹介しましょう。

「ロシア極東サハリン州政府は13日、ロシアが不法占拠する北方領土の択捉島を、中国の代表団が訪問したと発表しました。外国の代表団が北方領土を訪問するのは極めて異例なことです」

ロシア以外の外国代表団による北方領土訪問は、極めて異例です。訪れたのは、中国で最も北に位置する黒竜江省からの代表団でした。黒竜江省がロシアと接する国境は2900キロに及びます。福岡市と北海道札幌市の直線距離が約1400キロですから、その2倍に相当する長さです。これは中露国境全体のほとんどともいえる距離であり、当然ながら黒竜江省はロシア極東との交流が深い地域です。

その活発な交流の延長線として、中国人が北方領土にまでやってきたというわけです。ロシアメディアによると、訪れたのは黒竜江省の政府職員や実業家たちで、択捉島内のウニやナマコなど海産物の養殖場を見学したほか、ロシア極東観光に向けて開発候補地を訪れたといいます。択捉島への投資誘致ツアーの一環です。

ロシア政府は、北方領土という僻地に対して税制の優遇措置などを講じ、外国からの投資を呼び込み経済発展につなげたいと考えています。しかし、多くの国々は日本が領有権を主張するこの地への進出をためらうはずです。そんな中で、中国の一地方とはいえ黒竜江省の代表団が「極めて異例」にも北方領土を訪れたのは、現在の中国とロシアの密接な関係、そして対照的に厳しい日中・日露関係を映し出していると言えるでしょう。

北方領土問題を舞台にタッグを組む中露

今年8月にはプーチン大統領が北方領土の一つである択捉島を初めて訪問し、日本政府が抗議しました。同じ択捉島では、10月13日から17日にかけてロシアが爆撃演習を行ったようです。国後島、色丹島、歯舞群島の空域もほぼ同じ時期に閉鎖しました。これらをわざわざ日本政府に事前通告したため、当然日本側はロシアに抗議しています。

自ら仕掛けたものの、長引くウクライナ戦争でロシアは影響力を失いかねない状況です。プーチン大統領は自ら北方領土の土を踏むことで、国内外で権威を保ちたいのでしょう。そして、ロシアだけではなく、中国もこの北方領土問題に引き込みたいのだと思われます。今回、黒竜江省の代表団が択捉島を視察したのも、中露の友好関係を見せつけるという思惑を感じます。

では、中国は北方領土をどう位置付けているのでしょうか。気になるのは、プーチン大統領が択捉島を訪問した時の中国の反応です。大統領訪問直後、中国外務省のスポークスマンはこうコメントしました。

「中国側は一貫して、世界反ファシスト戦争の成果は、適切に尊重し、擁護されるべきだと主張してきました」

世界反ファシスト戦争とは第二次世界大戦のことであり、中国にとっては日中戦争を指します。「ロシアの北方領土支配は反ファシスト戦争の成果」と強調することでロシアに肩入れしつつ、「反ファシスト戦争で敗れたから日本は北方領土を失った」という意味合いが込められています。これは「日本は過去の歴史を顧みない、新たな軍国主義が台頭している」という最近の対日非難とも連動しているようです。

中国はかつて、日本の北方領土返還要求に対し理解を示した時期がありました。中ソ対立と日本への接近という背景があったからです。しかし、中露関係の改善や日中対立を経て状況は変わり、ロシアによる北方領土支配を問題視しない立場、さらにはロシア寄りの立場を鮮明にしてきました。

ロシアは北方領土問題に中国を誘い入れ、一方の中国も対立関係にある日本をにらみ、ロシアに呼応する。北方領土が、中露がタッグを組む舞台の一つになっているわけです。同時に、海洋進出を進める中国にとって、太平洋への出口でもある北方領土周辺は戦略的な価値を持ちます。互いに日本を牽制する材料として、北方領土問題を活用しているようです。

記者拘束事件にも絡む「北方領土」の影

ここで、冒頭で触れた北海道新聞の記者が拘束された件に戻ります。この記者はサハリンの中心都市ユジノサハリンスクに駐在していました。ここに支局を置く日本のメディアは北海道新聞とNHKだけです。

ロシア情報当局の発表によると、この記者は「日本政府の情報機関と連携して、ロシアの安全保障を脅かす目的で防衛能力に関する情報を集めていた」と主張し、具体的にこう説明しました。

「クリール諸島から、ウクライナ戦争に参加した兵士や志願兵の情報を集めていた」

クリール諸島とは、千島列島と北方領土を指します。ここでも、記者拘束事件に北方領土問題を絡めようとする意図を感じます。ロシアは「日本の情報機関と連携して」と言いますが、高市総理は15日、ロシア側の主張に対し「そのような事実はない」と明確に否定しました。

記者は今後2カ月間勾留され、有罪になった場合は10年から20年の拘禁刑になる可能性もあるといいます。ロシア当局の意向が色濃く反映され、スパイ容疑がかけられたとみて不思議ではありません。逮捕されたのが、多くの特派員が駐在する首都モスクワではなく、日本に近いロシア極東に駐在する日本人記者だった点も気になります。

さまざまな要因と大国の思惑が今、極東の島々で渦巻いています。

◎飯田和郎(いいだ・かずお)
1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。2025年4月から福岡女子大学副理事長を務める。

田畑竜介 Grooooow Up
放送局:RKBラジオ
放送日時:毎週月曜~木曜 6時30分~9時00分
出演者:田畑竜介、橋本由紀、飯田和郎
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