映画『ある男』のバイプレーヤー・カトウシンスケに注目

妻夫木聡、安藤サクラ、窪田正孝――。公開中の映画『ある男』では、有名俳優が素晴らしい演技を見せている。だが、この映画をRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で紹介したRKB報道局の神戸金史解説委員が注目したのは、バイプレーヤー(脇役)の一人、個性派俳優のカトウシンスケだった。

映画『ある男』とは

公開中の映画『ある男』は、平野啓一郎さん(北九州市出身)の同名小説を原作にした映画です。主演は妻夫木聡さんに、安藤サクラさん。魅力のある役者さんなので、期待して観に行きました。

妻夫木さん演じる弁護士「城戸」は、“亡くなった夫の身元調査”という奇妙な相談を受けます。頼んできたのは、妻(安藤サクラさん)。彼女は離婚して子供を連れて故郷に戻り、そこで出会った「大祐」さんと再婚します。

新たに生まれた子供と4人で幸せな家庭を築いていたんですが、ある日突然、夫が不慮の事故で命を落としてしまいます。ところが、その「大祐」という名前は全くの別人で、愛した人は名前も何も分からない人だった。それでタイトルは「ある男」。

窪田正孝さんが演じていて、妻夫木さん演じる弁護士が謎を探っていくストーリーです。原作も非常によかった。よく、原作と映画のどちらがいいか、で議論の分かれるところです。役者さんの力だと思いますが、「映画もかなりいいな」と思いました。

眉毛が強烈な印象のカトウシンスケ

この「ある男」が過去、一緒の時間を過ごした男がいました。ボクシングのトレーナーでした。演じたのは、カトウシンスケさん(41歳)。どちらかと言うと、「濃い顔」をした方です。眉毛も立派。身長172センチ、62キロで、東京都出身。

あまり多くの人に知られている俳優さんではないと思うんですが、私が東京に単身赴任した2016年、放送作家の松崎まことさんの紹介で出会って友達になりました。当時は35歳。「ここまで眉の太い人はあまり見たことがない」と思いました。

印象的なルックスですが、演技にも定評があります。映画『ケンとカズ』(2016年)に主演、高崎映画祭で最優秀新進男優賞を取った人です。この映画は、アウトローの悪友2人が自動車修理工場を隠れみのにして覚醒剤の売買をしている、という設定です。

悪いことばかりしているんですけど、恋人の妊娠をきっかけにしてケン(カトウシンスケさん)が足を洗おうとしていろいろなトラブルが起き、どんどん追い詰められていくという、なかなかハードな映画。でも主人公たちにだんだん感情移入してきちゃう、非常にいい映画でした。この映画をきっかけに、彼はいろいろなところに出てくるようになったそうです。昨日、電話をしてみました

神戸:「メジャーなテレビに出るよ!」というから、大河ドラマのどこに出ているんだろうと思ったら、ちょい役だったり(笑)

カトウ:ははは、そうですね。いただける役について、そんなにジャッジをしているわけではないんです。大小にあまり関わらず、面白いと思ったところには飛び込んでいくシステムでやっていますんで、「ちょっとだけ」という時も多々あるかな。

神戸:今回(『ある男』)も見に行ったけど、まさかこんなにいい役だとは思わなくて。

カトウ:「キーになるところ」と言うか、話の中で1つの転換が起こるようなシーンだったので、うれしかったですね。

神戸:日本を代表するような名優、妻夫木さんとか、そういった方々と一緒に演技をするチャンスはなかなかすごい、と思って見ていたんです。

カトウ:妻夫木さんとも窪田さんとも向き合って芝居をするシーンは、作品の中でも数少なかったので、刺激的でしたね。お二人ともすごく誠実にシーンを作ってきまして、「この役って、こんな風に立ち上がってくるんだ!」という驚きがありました。脚本で読んでいたものより深く、より豊かに時間が出来上がっていく……やっぱりお二方ともすごく刺激的でした。

演じるにあたっては脚本を読んでイメージを膨らませていきますが、実際に撮影する時に役者が役者ならではの演技を見せていくと、彼は「人物が立ち上がってくる」という言い方をしていました。「豊かさに驚いた」「やっぱりすごいんだな」と。

特に窪田正孝さんとのやり取りが濃密に展開されていきますが、カトウシンスケさんの濃い顔のキャラが親しみを持てる感じで、役者同士の距離が近づいていくのもよくわかります。見ている私たちも感情移入していく。主人公に自分が近くなっていくような感覚を得られたのでびっくりして「いい演技をしているな」と思いました。

「主人公を豊かに立ち上げる」介添え役のバイプレーヤー

この映画にはいろいろな方が出ています。安藤サクラさん、いいですね! 本当に魅力的です。妻夫木さんも福岡県にも縁がある方。窪田さんも「朝ドラの時よりいいな」という感じ。切なく、陰ある男を演じて、非常に心を打つ役割を果たしました。

その窪田さんを盛り上げる脇役、バイプレーヤーのカトウさんがいることによって、主人公が際立っていく。カトウさんは「主人公たちが豊かに立ち上がっていく」とおっしゃっていましたけど、立ち上がる横で介添えをしているのが、脇役の役者さんたちなんだなあと感じました。

どちらかと言うと、カトウさんは主人公を張るタイプではないかもしれません。だけど、いい役者になっていろいろな映画の裾野を広げてくれるんじゃないかという気がして、期待しているんです。

カトウ:役が大きかろうが小さかろうが、メインだろうがワンシーンだろうが、向き合えるもの、自分の人生を注ぎ込める役に出会えるのが幸運だな、と思います。それがワンシーンでも、よくも悪くも目立つ顔かもしれなくて。「ある男」みたいな大手配給会社の大きな作品にもお声掛けいただけることも増えてきたし、インディーの作品も多いですし、ありがたい状態です。

カトウ:顔のインパクトで覚えられるけど、(役柄を)決め付けられないでいられるのは、すごい得。「あの人、怖い役やらせたらすごいよね」とか、「演技派だよな」「誠実な役ならすごいよね」とか、「陰がある役といえばカトウシンスケだよね」とかではなくて、どれをやってもハマるし、強烈なインパクトを残すけど、どれにも染まれるというか。そこまで自分の芝居というか、身体が高められ深められたら、それは面白いかもなって思ったりしていて。何か、捉えられきれない者になっていけたらいいなと、ゆくゆくは。

学生の時から、演劇サークルに入っていたそうです。「何か表現する者になりたい」と思って、勤めていた会社を辞め、劇団に入ったりしながら、僕が会った35歳くらいまではほとんどアルバイトという世界だったそうです。

映画『ケンとカズ』で知られるようになって、ちょこちょこ出られるようになって、今ではほぼ俳優で暮らしていけるようになってはいるそうです。無名のころから見ていると、こういう大きな映画に出てくるのはすごくうれしい。「カトウシンスケ」という、個性派の俳優。これからいろいろなところで活躍していくかもしれないですよ。

 

映画『ある男』

日本映画史に残る「愛」と「過去」をめぐる珠玉の感動ヒューマンミステリー

https://movies.shochiku.co.jp/a-man/

俳優カトウシンスケ公式HP

◎神戸金史(かんべ・かねぶみ)

1967年生まれ。毎日新聞に入社直後、雲仙噴火災害に遭遇。福岡、東京の社会部で勤務した後、2005年にRKBに転職。東京報道部時代に「やまゆり園」障害者殺傷事件を取材してラジオドキュメンタリー『SCRATCH 差別と平成』やテレビ『イントレランスの時代』を制作した。

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田畑竜介 Grooooow Up
放送局:RKBラジオ
放送日時:毎週月曜~木曜 6時30分~9時00分
出演者:田畑竜介、武田伊央、神戸金史
番組ホームページ
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※放送情報は変更となる場合があります。

10年間で5兆円投資“国産旅客機”再挑戦 「技術におぼれるな。いいものが売れるのではなく、売れるものがいいものだ」石川和男が指摘

政策アナリストの石川和男が4月20日、自身がパーソナリティを務めるニッポン放送Podcast番組「石川和男のポリシーリテラシー」に出演。経済産業省が3月27日、次世代の国産旅客機について、今後10年間で官民あわせて約5兆円規模の投資を行うと公表したことについて「いいものが売れるのではなく、売れるものがいいものだ」という認識が必要だと指摘した。

スペースジェットの開発状況を視察した際の赤羽国交大臣(当時)令和2年1月19日  ~国土交通省HPより https://www.mlit.go.jp/page/kanbo01_hy_007313.html

経済産業省は3月27日、大臣の諮問機関である産業構造審議会の会合で航空機産業戦略の改定案を示した。そのなかで、次世代の国産旅客機について、2035年以降の事業化を目指し、今後10年間で官民あわせて約5兆円規模の投資を行うと明らかにした。国産旅客機の開発をめぐっては2023年2月、約15年かけて国産小型ジェット旅客機「三菱スペースジェット(MSJ/旧三菱リージョナルジェットMRJ)」の事業化を進めていた三菱重工業が事業からの撤退を表明している。

MSJの事業撤退表明から約1年、一部では「唐突」との声もあがるタイミングで政府が官民あげての国産旅客機事業化を掲げたことについて、ゲスト出演した元桜美大学客員教授で航空経営研究所主席研究員の橋本安男氏は「私は唐突とは思わない。(MSJの開発は)8合目まで行ったと言われているが、開発費を使い過ぎて事業性のめどが立たなくなって、撤退を余儀なくされた。ただ、それまでに獲得したノウハウや技術を無駄にするのはもったいない。放っておくと無くなってしまうので、残っているうちに糧にして次のステップに進むべきだ」と、今回の政府の戦略案を評価。一方で、世界では脱炭素を目指し、水素燃料電池を使った航空機の試験飛行が始まっているとして「日本にはスピード感が足りない。国が支援してでも、早くローンチ(販売や提供の開始)しないといけない」と指摘した。

また、約15年かけて事業化を進めたMSJが撤退を余儀なくされた背景について橋本氏は「市場の見極めに疎かった。ものづくりはすごいが、インテグレーション能力=事業を可能にする能力が足りなかったのだろう」と述べ、原因のひとつとして「最初に作った『M90(旧MRJ90)』が、アメリカのパイロット組合が設ける重さ39トン、座席数76席という“スコープ・クローズ”(航空会社とパイロット組合の契約の一部で、リージョナル航空機の機体重量や座席数などの制限値を定めたもの)の条項を見誤った」と言及。「製造過程で、この問題が解消されたと勘違いしていたことが大きかった。新たにこの条項に適合した『M100』を設計しなおしたが、『M90』の製造にかかった5000~6000億円と同等のコストが再度かかるという負担が重く、頓挫した」と経緯を詳細に述べた。

石川がアメリカの型式証明取得をめぐって、当局に「いじわるされたのでは?」との見方を指摘すると、橋本氏は「それはうがちすぎだし、負け惜しみ。謙虚になるべき」ときっぱり。「ブラジルやカナダのメーカーは、アメリカのボーイング社と競合するような機体でも、ちゃんとアメリカの型式証明を取っている」と指摘した。

石川は、今後の国産旅客機開発の再挑戦について「日本は技術的に素晴らしいものがたくさんある。航空機以外にも、携帯電話やスマートフォンも本当は技術的にはすごいのに、技術におぼれてしまってコストをかけすぎてしまって、“こんな高いもの、高いレベルの機能はいらない”となってしまう。いいものが売れるのではなくて、売れるものがいいものだ」と持論を述べた。

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