映画産業の中心地が「新しいロック」を産んだ理由とは

毎週、金曜日の朝8時30分からお送りしている金曜ボイスログ(TBSラジオ)。
パーソナリティのシンガーソングライター、臼井ミトンによる音楽コラムの書き起こしです。

「アメリカ映画産業の中心地で生まれた新しいロックミュージック」

9月の「ジェーン・スー 生活は踊る」にゲスト出演させていただいた時に、高橋芳朗さんと楽屋で話していて、「ミトンくん、普段はどんな音楽聴いてるんですか?」なんていう話になって。その時に僕の挙げたアーティストっていうのが、ジェームス・テイラーが一番のアイドルで、あとはボニー・レイットとか、ヴァン・モリソン、リトル・フィート、ドゥービー・ブラザーズ、というような70 年代のアメリカのロックなんですけど。これ、僕最初は意識してなかったんですけど、アナログ・レコードでこういったアーティストのレーベル面を見ると、必ずヤシの木の並木道のイラストのレーベルなんですよ。「あれ、自分が好きになるアーティストって全部このレーベルから出てるんだ」って思って。で、いろいろ調べて意識するようになったら、このヤシの木の並木道のイラストが描かれてるレーベルっていうのは、要はワーナー・ブラザースというレコード会社なんですね。


ワーナー・ブラザースっていうのは、もう皆さんご存知の通り、もともとは映画の会社じゃないですか。で、ワーナー・ブラザースとその傘下にある別レーベルのリプリーズというところ。このリプリーズからは例えば、ライ・クーダーとかランディ・ニューマン。あとはニール・ヤングとか、ジョニ・ミッチェルも出していて。

このワーナー・ブラザースが 60 年代終わりから 70 年代にかけてリリースした一連の作品っていうのが、「バーバンク・サウンド」なんていう風に、ひとくくりに呼ばれたりするわけなんですね。

で、バーバンクっていうのは、ハリウッドのちょっと北にある街なんです。ハリウッドとかロサンゼルスの市街地から、ハリウッドサインって見えるじゃないですか。丘の上にある、「HOLLYWOOD」って白文字で書かれた大きな看板があって。そのハリウッドサインの山の向こう側がバーバンクなんですよ。

バーバンクってどんな街かっていうと、ワーナー・ブラザースの本社があって、ウォルト・ディズニーの本社もあって。映画スタジオだらけ。映画産業のまさに中心地オブ中心地っていう感じなんですよね。そのちょっと南にあるステュディオ・シティ(スタジオ・シティ)っていう所も、テレビ局のスタジオがすごく多いところで、やっぱり映像関連の会社がぐっと集まっていて。

で、ワーナー・ブラザースっていうのは、やっぱりもともと映画で儲かってる会社だったので、60 年代にロックミュージックの取り扱いを開始するときに、"ロックなんてどうせお金にならないし自由にやっていいよ"みたいな感じで、わりと大きな会社なのに若者たちにレーベルの運営とかを任せてたんですよね。なのでやっぱりすごく自由な気風で。当時のルーツミュージック、アメリカの戦前からある古いカントリーだったり、ブルースだったり、ゴスペルミュージックみたいなものに熱心に取り組み始めた当時の若者たちが、色んな実験的なことを自由にやらせてもらえてたっていう、そんな土地柄なんですよね。


先週はこの音楽コラムでザ・バンドについてちょっと喋ったんですけど、60 年代終わりから 70 年代にかけて、サイケデリック・ロックのブームがちょっと下火になっていくにつれて、アメリカに昔からある音楽をちゃんとやろうよ、っていうような若者たちが現れて。そういう意味では、ザ・バンドの姿勢と同じなんですよ。

「東のウッドストック」と「⻄のバーバンク」

では何が違うかっていうと、やっぱりバーバンクって映画産業で栄えた街なんで、映画音楽のためのノウハウが蓄積されてるんですよね。

要はもう、ストリングスというかオーケストラがちゃんとそれぞれの会社にあって、つまり楽団があって、すごい腕利きの編曲家・作曲家っていうのもいて。それこそ、さっき曲をかけたモンキースであったりビーチボーイズ、あるいは古くはフランク・シナトラまで、アメリカの良質なポップミュージックっていうのは、ハリウッドの街で作られてますので、映画の音楽だけでなく良質なポップミュージックを作るノウハウや、腕利きのミュージシャン、編曲家、音の良い、設備の整ったスタジオ・・・

そういったアメリカの豊潤なポピュラーカルチャーを作り上げるための、ありとあらゆるものが完璧に整っているっていうその環境の中で、ルーツミュージックを再現する若者たちがそれを自由に使わせてもらえる、そういう素晴らしい環境だったんです。

その一方、先週紹介したザ・バンドっていうのは、スタジオは自分たちの家を改造して地下に作った、みたいな手作り感があるんですよ。なのでサウンドのイメージも、結構荒削りっていうか素朴、生地の生成り感みたいなものがあって、すごくザラっとしてる感じなんですね。

なので、この⻄海岸のバーバンク側にいたミュージシャンの音楽は、同じルーツミュージック回帰、古い音楽を掘り起こしてやってはいるんだけど、やっぱりどことなく 50 年代のアメリカが一番経済的に豊かで文化的にも成熟していた頃の、フィルムのスコアリングの手法だったり、ミュージシャンの使い方だったり、とにかくものすごくリッチなんですよね。

そういうノウハウが、ロックミュージックにフルに投入されているという意味で、良くも悪くも土着のルーツミュージックのエグみやアクみたいなものが結構きれいに濾過されちゃって、聴き触りが良くなって、ドリーミーに、ポップになってるっていう。でも僕はそれがすごく大好きなんです。

それじゃ、ちょっと曲を聴いていただきたいと思います。
バーバンクサウンドを代表するアーティスト、リトル・フィートというバンドですね。
これはニューオリンズ的なフレーバーを散りばめた曲ですが、やっぱりどこかドリーミーでポップ。聴きやすい感じっていうところに注目して聴いていただければと思います。。
リトル・フィートで「ディキシー・チキン」

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