フィリピンで自衛隊員が事故死…「医療体制の不備」が放置されている実態

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J-WAVEで放送中の番組『JAM THE WORLD』(ナビゲーター:グローバー)のワンコーナー「UP CLOSE」。1月31日(木)のオンエアでは、木曜日のニュース・スーパーバイザーを務める堀 潤が登場。東京都立広尾病院・前院長の佐々木勝さんを迎え、自衛隊の医療体制について訊きました。


■フィリピンでの訓練中に重症や事故死が発生

2018年10月、フィリピンで行われたアメリカ軍とフィリピン軍の合同訓練に、日本の自衛隊が参加しました。このとき、訓練予定地へ移動する自衛官が乗る車が事故を起こし、ひとりはあばら骨を折る重症、ひとりは病院へ搬送されて4日後に亡くなりました。

この事実から佐々木さんは「自衛隊の医療体制には不備がある」と訴え、2018年12月には、元・東京都知事の石原慎太郎さんとともに、日本外国特派員協会で記者会見を行ないました。

佐々木さんはこの事故を以下のように解説します。

佐々木:10月2日にフィリピンで陸上自衛隊が訓練をしています。そのときに、フィリピン人運転手の車が事故を起こし、乗っていた隊員が亡くなってしまいました。この事故は訓練外のケガでした。今回の訓練は災害救助の能力向上のための救急救助訓練で派遣されているので、それも含めてしっかりとした医療をしていかなくてはいけないのではないかということで、「フィリピンでそのケガをどう見たのか」「そのとき、医者は絡んでいたのか」「救急医療体制はどうだったか」などをちゃんと調べたほうがいいと防衛省に言いました。

しかし、「現地で適切な医療を受けたから、あなたの出る番ではない」と、その意見を聞き入れませんでした。その対応から「これはおかしい」と考え、今回の問題提起につながりました。

防衛省の高橋憲一事務次官にも話を聞いた佐々木さんは、「救急救助訓練に行ったが、隊員の命へのセーフティネットが何も張られていなかった」と指摘します。

:本来、航空自衛隊には「空飛ぶICU」と呼ばれる「機動衛生ユニット」があるそうですが、今回は活用されたのでしょうか?
佐々木:事務次官の話によると、今回の事故は民間の人に頼むも、けっきょく搬送には至らなかったので、「機動衛生ユニット」の出動要請はまったくなかったと考えています。「機動衛生ユニット」は航空自衛隊が装備するもので、フィリピンで訓練をしていたのは陸上自衛隊でした。そのため、セクショナリズムがあったと言えると思います。
:そもそも現場に医療班が派遣されていなかった可能性もありますか?
佐々木:推測にはなりますが、それなりの医療班が現場にいなかったため、結果として現地の医療に任せてしまったことが、最大の問題だと考えます。


■今回の事故はどのような対応をするべきだったのか

海外派遣された自衛隊員が亡くなったケースは今回が初めてです。これまでスーダンやジブチなどで、万が一負傷した場合、日本への送還は民間機を依頼することになっていました。この体制で、そもそもよかったのでしょうか。

佐々木:これも問題があります。自衛隊はPKO(国際連合平和維持活動)で海外派遣されることはわかっていたので、何かあった場合にどうやって本国へ返すのか、自衛隊機をどう利用するのか、と考えるべきだったのに、その訓練も行われていない。
:今回、亡くなった隊員は頭部外傷だったと伺いました。この場合に医療従事者は本来どのような対応をするべきでしたか?
佐々木:フィリピンと日本の医療レベルを考えると、重傷であったならば、日本に帰国させたほうがよかったと思います。文化や風習が違う国で治療するより、日本で治療するほうがいい。また、助からないとなっていたとしても家族が看取れるようにすることも必要なのに、まったくそれを考えなかったことが私からすると不思議でしょうがないです。


■自衛隊の医療職員は、臨床経験が不足している

今後、自衛隊の医療体制はどのように整備する必要があるのでしょうか。

佐々木:まずは教育体制の見直しです。防衛医科大学校はこれまで45年くらいの歴史があり、これまでに2500人の医者を輩出しました。しかし、ほとんどの医者は民間に流れ、自衛隊に残るのはその中の800人程度しかいません。今の防衛医大はただ医者を作るための医大になっているので、そこから変える必要があります。防衛省の予算を見ると、装備だけでほとんど教育に予算をかけていません。装備を買うだけではなく、装備を使う人の命を考えた展開をしなくてはいけないと思います。

また、佐々木さんは、自衛隊の医療職員の臨床経験不足が問題だと言及します。

佐々木:もともと防衛医大の設立の意義は、隊員の健康管理でした。今までは平和だったので普通の医師で足りていた。裏返すと、自衛隊の病院の医師であればいいという状態でした。その病院では非常に患者が少なく救急も少ない、また閉鎖社会だったため、臨床経験を積めるはずがなかった。
:その状況で海外の医療従事となった場合は、少し物足りないところがありますよね。
佐々木:はっきり言って、今の医療体制だとおそらく外でケガをしてもその人が正しい医療を受けられるとは限らないと思います。


■自衛隊員の命を守るために、何をすべきか

佐々木さんは、2014年から議員に「自衛隊の医療をしっかりやるべきだ」と訴えているにもかかわらず、それを聞き入れてはくれません。

佐々木:みなさん「憲法を改正しないと自衛隊を守れない」というイデオロギーの論議ばかりなんです。でも、それは身分を守ることであって、命を守ることではありません。私が命を守りなさいと言っても、議員は票の獲得につながることがメインになってしまうので、私が意見にみなさんが感銘を受けないというのが本音です。自衛隊の命を考えている議員は私の知る限りではいません。
:それは議員が現場をよく知らないからですか?
佐々木:関心がないからだと思います。以前、元防衛大臣にこのことを伝えましたが、聞くだけで終わり、問題意識は全く持ってくれませんでした。

自衛隊の命に関わる問題がなかなか聞き入れられないという状況を改善するために、佐々木さんはこう提案します。

佐々木:国を守らなくてはいけない自衛隊はとても大事で、その命をわれわれが守っていかないと国は守れません。私が叫んでいるだけではなく、災害時に働く自衛隊の命をどうやって守るのかを考えることも含めて、客観的に問題提起できるデータを蓄積し、みなさんに公表していくことが必要だと思います。

議員はもとより、私たちひとりひとりが自衛隊の医療体制を理解することが必要なのではないでしょうか。

2月4日(月)から7日(木)までの『JAM THE WORLD』は、「ポスト平成をどう生きる」を考える4日間。4日(月)は、時代の「空気」や「気配」を的確にとらえ、鋭い論評に定評のある武田砂鉄さんと津田大介が平成を振り返り、今後を考えます。5日(火)は芥川賞作家・中村文則さんとジャーナリスト・青木理が、「この国はどこに向かっているのか?」を議論。6日(水)はパックンさんが登場し、日本で暮らす中で気づかないうちに囚われてしまう「日本バイアス」を外すと、どんな考え方、生き方ができるのかを語ります。7日(木)は山本寛斎が「ポスト平成」を生きる後輩に喝! 詳しくはJ-WAVEのプログラムインフォメーションをご覧ください。

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【番組情報】
番組名:『JAM THE WORLD』
放送日時:月・火・水・木曜 19時−21時
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/jamtheworld

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補欠選挙の結果を分析。「保守王国」と呼ばれる島根に変化が?

4月29日「長野智子アップデート」(文化放送)、午後4時台「ニュースアップデート」のコーナーでは政治ジャーナリストの角谷浩一さんに、4月28日に行われた補欠選挙の結果を解説してもらった。この記事では島根1区に関する部分をピックアップする。

長野智子「選挙区ごとに分析などいただければと思います。まずは唯一の与野党対決となった島根1区です」

角谷浩一「亀井(亜紀子)さんは一度現職もやられていたので返り咲きということになりますが、島根が『保守王国』といわれますよね。1区はずっと細田(博之)前衆議院議長が地盤を守っていて」

長野「小選挙区制度の導入以降、ずーっと。勝ち続けた」

角谷「2区は、もう亡くなりましたけど竹下亘さんがずっと議席を持っていた。つまり保守王国というより、細田さんと竹下さんがずっとやっていたと。ある意味で当たり前だった。それがお二人ともご存命でなくなって、時代が変わってきて、新しい人が。それも自民党の人が引き継ぐものだと思っていたら、こんなことに、と。細田さんがお亡くなりになったための選挙ということで、自民党も候補者を立てました」

長野「はい」

角谷「ただ細田さんは(旧)統一教会との関係が取り沙汰されたり、じつはセクハラ問題というのがあったり。それに安倍派を細田さんはずっと守っていた、ということも。いま問題になっていることを全部抱えていた、みたいな問題があった。お亡くなりになったので自民党は候補者を立てたけど、そんなに簡単ではなかった、ということ」

長野「きちんと説明されないまま、亡くなられてしまったわけですね」

角谷「今回負けたけど、次はもう有権者は自民党に帰ってくる、という声も地元にはあるんだと思います。今回も県会議員がほとんど動かなかった、という話もありました。一方で世論調査、事前のいろんな調査ではかなり引き離されていて、亀井さんが強かった。でも(岸田文雄)総理は2度入ったんですね。最後の土曜にも入られると。総理が最後に入るのは、逆転できそうなとき、というのが不文律でした。数字の差が既にあるのに、総理は入った」

長野「はい」

角谷「これは岸田さんの独特なやり方というかな。突然、政倫審に出ると言う、派閥を解散すると言う……。岸田さんは誰かと相談して揉んで決めるというよりは、直感的に決められるんですね。島根1区は自民党が唯一出していたところだから、小渕(優子)選対委員長はずっと張り付いていました。国会開会中でしたけど、ずっと」

長野「はい」

角谷「岸田さんは2度も入った。茂木(敏充)幹事長は入らなかったんですね」

長野「それはなぜですか?」

鈴木純子(文化放送アナウンサー)「岸田さんとの仲が微妙だという話も……」

角谷「ただ選挙に勝てば微妙どころか、戦うところで『茂木さん、よくやった』となりますよ。一生懸命、入らなかったというのは、幹事長自らが諦めていたんじゃないだろうか、とか。もっと言うと第一声。泉健太立憲民主党代表は、初日に島根で第一声、声を上げているんですね。ところが茂木さんは行かなかったと」

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