ニュースの価値は「速さ」だけではない―いま求められる報道のカタチ

現在のニュース・報道は、速報至上主義が蔓延している。事件や事故がすぐに報じられると、たしかに役に立つこともある。しかし、速さを優先することには問題点もある。スローニュース株式会社代表取締役の瀬尾 傑とグローバーが、問題を指摘するとともに、良質なニュースについて考えた。

【8月19日(月)のオンエア:『JAM THE WORLD』の「UP CLOSE」(ナビゲーター:グローバー)】
http://radiko.jp/share/?sid=FMJ&t=20190819202050


■速報至上主義の問題点

ニュースはもともと、速さを競う側面があった。裁判の判決後、裁判所から有罪・無罪を知らせる記者がテレビカメラに走り寄ることからも、それがわかる。

瀬尾:誰よりも速く情報を伝えることに価値があると考え、そのために記者は一生懸命に走るわけです。
グローバー:情報が速いと、それを伝える新聞は購買者が増え、テレビでは視聴率が上がる、そういうことですか?
瀬尾:そうですね。速い情報が人の目を引きつける要素があります。

事件や事故の場合は、情報の速さによって身の安全を確保できたり、知人の安否を確認したりといったメリットがある。

ただし、問題点もある。ひとつは、「情報を間違える可能性がある」こと。例えば、事件で犯人とされた人が、実は違った場合がある。

瀬尾:ビジネスの観点でも問題があります。速報至上主義のニュースは他社との差別化ができませんし、0.1秒差とかで同じ情報が次々と出てくるので、すぐに価値がなくなります。しかもネットの時代になり、事件や事故だと、現場にいた一般人が撮影した動画やドライブレコーダーの記録の方が、ニュース媒体の情報より迫力がある。そうすると、取材記者が得た情報よりも、ツイッターやフェイスブックにある情報の方が価値があることになる。専門記者がいる意味がなくなってしまいます。不毛な競争なのです。

同じ情報で競争すればするほどその価値は低下し、安価な情報となってしまう。この情報を瀬尾は「ファストニュース」と呼ぶ。速い・安い・うまい……そんなファストフードのような情報だ。「ニュースの価値はそれだけではないだろうと私は考えています」と瀬尾は話した。


■スローニュースにお金と時間をかけるべきだ

これまでの新聞社や雑誌社、テレビ局にはファストニュースを追うだけではなく、時間をかけた取材をもとに新しい情報を取るスクープ記者や、独自の分析ができるプロの記者など、フリーランス記者を含め活躍する調査報道があった。しかし、ここ10年、20年の間に変化が起こっている。

瀬尾:理由のひとつは、読者の意識が変わったことです。高齢化によって若い年代は雑誌を読まなくなった。また、いろいろな情報がネットで入ってくるようになったことで、雑誌などは売り上げ不振に陥り、ノンフィクションや調査報道を扱う書籍も売れなくなっています。それらを扱うフリーランス記者も減ってきてしまった。つまり、「スローニュース」を作る人たちがどんどん減ってきています。

スローニュースとは、お金と労力をかけて取材や調査を行って報じる、ファストニュースの対極にあるものだ。

瀬尾:ファストニュースに比べてスローニュースは信頼性が高く、希少性も高い。高い価値を持つニュースとなり、それを高く評価する尺度を作れば、その情報は高く売れます。
グローバー:世界的に見ると、スローニュースに立ち返って発信しようという流れがあるんですか?
瀬尾:ありますね。イギリスのBBCもだし、他にもオランダではスローニュースを支えるようなプラットフォームも出ていたり、調査報道を支えるような取り組みが海外では出てきています。ただ、残念ながら日本ではそういった仕組みができていないので、それを作ろうと思い、スローニュース株式会社を立ち上げました。

スローニュース株式会社は、調査報道をやろうと考えるジャーナリストやメディアに資金提供やアドバイスを行い、優良なコンテンツ作りを目指している。

最後にリスナーに向けて瀬尾は「ニュースは作り手だけではなく、読み手もゆっくり読んで欲しい」と話し、「見出しだけではなく、記事を最後まで読み、中身を吟味して自分なりに判断することが大切」とアドバイスを送った。
 

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J-WAVE『JAM THE WORLD』のコーナー「UP CLOSE」では、社会の問題に切り込んでいる。時間は20時20分から。是非チェックしてほしい。

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【番組情報】
番組名:『JAM THE WORLD』
放送日時:月・火・水・木曜 19時−21時
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/jamtheworld/

 

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「あんな歌5回も聞いたら悪夢になる」280万枚の大ヒット曲『帰って来たヨッパライ』秘話

4月26日の『大竹まことゴールデンラジオ』は大竹まことがお休み。ザ・フォーク・クルセダーズのメンバーとして一世を風靡し、現在は精神科医の、きたやまおさむさんをお招きし、著書『「むなしさ」の味わい方』について、青木理さん、金子勝さん、室井佑月さんの3人でお話を伺った。

青木「僕、きたやまさんのお名前はもちろん知ってるんですけど、金子さんは深夜放送のラジオで聞いたとか」

金子「『帰って来たヨッパライ』が、高校生の頃に深夜放送で流れてきて、もうびっくり仰天。こんなものがあんのかという感じで(笑)。これはフォークソングか?とか思いながら、すごい驚いた。そしたら『イムジン河』って歌が発禁になったんですよ。昔は、発禁なんてかっこいいんですよ。なんかこうビートルズとかあの世代が権力に抵抗してるみたいな。その後、サトウハチローさんが作詞した『悲しくてやりきれない』っていう歌がバーンと出て。『あの素晴らしい愛をもう一度』って知ってる人いる?」

室井「知ってる! (歌い出す)」

金子「あれが、きたやまおさむさんの作詞。(作曲した)加藤和彦、きたやまおさむっていうのは、日本のポールマッカートニー、ジョンレノンみたいな感じだった」

きたやま「(笑)いやいや、ちょっと買い被りすぎ」

室井「ええっ、金子先生より年上でいらっしゃるの?」

きたやま「年上ですね」

室井「うそー!」

青木「きたやまさんの経歴を拝見すると、医学部の大学在学中にザ・フォーク・クルセダーズに参加したので、もともとは医学の道を目指そうとしていたんですか?」

きたやま「まあ、もともとはね」

室井「医大生なんて忙しくないですか?」

きたやま「でも、名前を出すのは不遜なのかもしれないけれども、手塚治虫さんとか、西野バレエ団の西野皓三先生とか、北杜夫先生とか、みんな精神科医であったり、医者だったりしてるんですよね。だから、大学の管理がそんなに…あえて言うなら緩かった。学生運動で締め付けがひどくなるんだけど、僕たちはその前だったんよね」

室井「精神科の先生はものづくりに向いてますよね。病んでる人が多いですもんね」

きたやま「それは確かに。この「むなしさ」の本を書いたのは、やっぱり音楽活動からなんですね。例えば『帰って来たヨッパライ』は280万枚売れたというんです。でもそれってなんか、むなしいことだったんです」

室井「えーなんで?」

きたやま「やっぱり早回転で、口パクで合わせなきゃいけない。あんな歌、これやれって言われて5回も聞いたら、もう悪夢になってくるっていうかね。僕らはアマチュアだったから、あっちこっちで好きな歌を歌える状態だったのに、今度はこれ一曲をテレビ番組に出て歌わなきゃいけなくなった時に、もうみんながしらけていったのを覚えてるんですね。だから相当悩みましたよ。こんな口パクで、みんな喜んでくれるんだけれども、マスコミに関わってることそのものも「むなしく」なったんですよね。だから引退したんです。僕ら1年でやめてしまったんですよ。えらい長くご記憶に残っていますけど、でも「すごかった」って言われると、どんどん「むなしく」なってる。(笑)」

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