麻生氏の失言は「毒舌キャラだから」で許されるのか…お笑いブームが社会に与えた影響【武田砂鉄×津田大介】

J-WAVEで放送中の番組『JAM THE WORLD』(ナビゲーター:グローバー)のワンコーナー「UP CLOSE」。2月4日(月)のオンエアでは、月曜日のニュース・スーパーバイザーを務める津田大介が登場。この日は時代の空気や気配を的確に捉え、鋭い論評に定評のある、ライターの武田砂鉄さんを迎え、津田と「ポスト平成を生きるうえで必要な視点」をテーマに考えました。


■「平成の終わり」こじつける風潮

今、「平成が終わる」ことに、何でもこじつけるような風潮があります。武田さんは疑問を抱いているそうです。

武田:新聞記者の方などに「この出来事は平成の終わりだからですか?」と訊かれると「いや、違うと思いますよ」と言うけど、「いやいや武田さん、これは平成の終わりだからでしょ」と言われてしまう。でも、そこでうなずいたら、フリーライターの武田砂鉄が「平成の終わりだ」と言った、となっちゃうので。

武田さんが「平成の終わり」という言葉を避けるのは、どうしてなのでしょうか。

武田:先日、橋本聖子議員が国会で「平成を生きてきた私たち」という入り口から「新しい時代を迎えようとする今、時代の変化に応じた国の姿である憲法はどのようにあるべきか、ということについて議論することが必要です」と言っていました。今まで安倍首相が「東京オリンピックにあわせて」と言うことも「?」と感じたけれど、今度は「平成」というキーワードが機運を高めるものとして使っていきたと。
津田:メディアが「平成」を主語として大きく使いすぎた結果、議員もそこに乗っかってきたということですね。
武田:そうですね。メディアが「流行ってんじゃね?」というノリであっても、政治家など何かを決める人たちは、もっと緊張感を持って使えるかもしれないですから、慎重になっています。


■「ああいうキャラだから」という考え方…お笑いが一般社会に与えた影響

武田さんの視点で平成を振り返ってもらったところ、「SNSなどで、物事のスパンが短くなった」とコメント。

武田:僕は中高生のころ、ナンシー関さんや小田嶋隆さんなどが書く週刊誌のコラムで今の世の中の流れを把握し、モノの味方を取得した感覚がありました。ある種、斜に構えるというか。でも今は、物事に対する評定が1週間も持たずに、「今日起きたことは今日の夜に議論して終わって、明日には忘れる」というような状況ですよね。
津田:SNSの炎上がコラムニスト殺しみたいなところもありますよね。
武田:そうですね。週刊誌で「この人が何を言うだろうか」までを考えて、そこでこの人がこう話して、それを受けてどう考えるかというスパンの長さみたいなものが、あらゆる場所で収縮してしまっている。たとえば政治家の失言も、そのときは大きくバッシングを受けるけど、一晩、二晩寝ると、みんな次の話題に移ったりするわけですよね。

今、麻生太郎財務相が「子どもを産まなかったほうが問題なんだから」と発言したことがバッシングを浴びていますが、これも次第に忘れ去られてしまうのかもしれません。

津田:ああいう発言が許されるのは、「毒舌キャラだから」というところがあるんじゃないか。個人的に平成という時代は、お笑いブームの影響が大きかった気がしますね。お笑いがメディアを席巻し、芸人がニュース番組でコメントをするようになった。そんな中で、「あの人は、ああいうキャラだから」という扱い方が世の中に蔓延した。昔は「キャラだから」という話にはならなかったと思うんですよね。
武田:昨年、麻生さんが失言を重ねていたとき、読売新聞が「止まらない麻生節」という見出しで報じていました。“節”として、メディアが認めてしまった。「ああいうキャラだから」という話法が、政治にも、一般社会にも浸透してきているのかなと思いますね。


■怒りを表明する若者が少ない

37歳の武田さん。中年の目線も、若者の目線もわかる年代と言えます。津田に「若者についてどう思いますか」と問われると……。

武田:怒ることが恥ずかしくなり、怒りを表明する人が少ない気がしますね。
津田:強い批判に引いてしまうところがありますよね。
武田:ただ、一方で、『週刊SPA!』に掲載された「ヤレる女子大学生ランキング」の問題は、大学生が有志で立ち上がりました。東京医科大学で女子受験生たちを不利に扱っていた問題でも、学生が署名運動をはじめたりしていた。怒れる学生たちがいるんだと、勝手に励まされたところもありました。
津田:私も武田さんと同じ意見です。『週刊SPA!』の問題に立ち上がった女子大学生はアメリカンスクールに通って海外の経験もあり、国際基督教大学(ICU)に進学したとありました。
武田:彼女は議論することに慣れていたわけですね。
津田:裏を返せば、危機感を覚えるような学生とは違い、優しく多様性を認める学生を増やしているのが今の日本の教育だと思います。
武田:「怒ったところで何か変わるんですか?」という彼ら、彼女らのあり方と、政権を握る人たちが「俺はべつに関係ないから」と逃げてしまう今の日本の政治のあり方が合致しているから、そこが心配ですよね。


■内閣が倒れないのは「騒ぎ声が小さすぎる」から

平成を振り返ると、社会党の土井ブームや細川政権誕生、自社さ連立政権など、政治の世界も大きく動いた時代でした。

津田:平成は政治に対する興味・関心が高く、投票率も高かったんですけど、徐々に国民の「脱政治化」が進んでいるように感じます。
武田:先日、亡くなった橋本 治さんの著書『思いつきで世界は進む』で、「内閣が倒れないのは与党がだらしないからだ、と言う人がいるけど、それは違う。私は騒ぎ声が小さすぎるからだと思う」とシンプルに書いていました。「なんであの人は騒いでいるんだろう」「なんであの人は声のボリュームを張り上げて怒り続けているんだろう」ということに対する軽視や嘲笑する風潮が、政治家の所作としてもベースになってしまっている。それを見ていると「こうやって怒っていてもしょうがないな」というふうに思ってしまう人が増えてくると思うので、それは危ない気がします。
津田:この問題について、国民がどうやって解決すればいいのかすらわからず、「しかたないか」というムードになってきていますよね。
武田:最近の政治家の手癖としてあるのは、「どうやって忘れさせるか」ということですよね。「今は騒いでいるけど、あと2、3週間すればほとぼりが冷めるんじゃないか」という状況を、いつまでも冷めさせずに、グズグズ言っていきたいなと思っています。

武田さんの話を受けて、政治などの問題について怒りを持続させるような報道をしようと試みても、それが支持率や国民の意識の変化につながっていかない徒労感もメディア側にあるのではないかと津田は指摘します。

津田:こういう時代だからこそマスメディアの重要さも増していると思うんですけど、これからの報道のあり方をどう考えたらよいでしょうか。
武田:その処方箋は、なかなかないと思います。津田さんも私も日々徒労感が増していると思うので。「これをやったらこうなる」という特効薬みたいなものをメディアが求めると、わかりやすく明後日には結論が出るものだけを報じなくてはいけなくなるわけなので、徒労感を抱えながらも即座に結果を出すだけではなく、調査報道などを地道にやっていかないといけない気がします。

次回、2月5日(火)の『JAM THE WORLD』は『銃』『教団X』などの作品で知られ、近年、社会問題に対しても積極的に意見を発信している芥川賞作家の中村文則さんを迎え、ジャーナリストの青木理と、今の日本、今後の日本について徹底議論します。お聴き逃しなく!

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【番組情報】
番組名:『JAM THE WORLD』
放送日時:月・火・水・木曜 19時−21時
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/jamtheworld/

鈴木おさむ“小説SMAP”メディアでの取り上げられ方に言及「テレビの本ですが、やはりテレビでは紹介しにくいわけです」

科学者の茂木健一郎がパーソナリティをつとめ、日本や世界を舞台に活躍しているゲストの“挑戦”に迫るTOKYO FMのラジオ番組「Dream HEART」(毎週土曜 22:00~22:30)。 4月13日(土)、4月20日(土)の放送ゲストは、ベストセラー作家への道を歩んでいる、元放送作家の鈴木おさむさんです。20日(土)の放送では、著書である“小説SMAP”こと『もう明日が待っている』(文藝春秋)の内容や、出版前の裏話などについて伺いました。


鈴木おさむさん



1972年生まれ、千葉県出身の鈴木さん。19歳で放送作家としてデビューし、それから32年間、さまざまなコンテンツを生み出してきました。
2024年3月末をもって放送作家・脚本家を引退。現在は、「スタートアップファクトリー」を立ち上げ、スタートアップ企業の若者たちの応援を始め、コンサル、講演などもおこなっています。
3月27日(水)に刊行した著書『もう明日が待っている』は、発売2日で累計発行部数15万部を突破。同著の著者印税は、すべて能登半島地震の義援金として寄付されます。

またTOKYO FMでは現在、THE RAMPAGE from EXILE TRIBEのリーダー・陣さんとともに音楽チャートラジオ番組「JUMP UP MELODIES」(毎週金曜13:00~14:55)のパーソナリティもつとめています。



鈴木:(『もう明日が待っている』には)「黒林さん」というプロデューサーも出てきます。(本名は)黒木(彰一)さんと言って、54歳でお亡くなりになられた方です。ずっと一緒に番組を作っていて、この(小説の)なかでもマイケル・ジャクソンを(SMAP×SMAPに)引っ張ってきた、すごくファニーなキャラクターの人です。

茂木:あれもすごいことでしたね。

鈴木:そうです。マイケル・ジャクソンを呼んでね。「まぁ、小説だからいいか」ということで、呼んだ金額まで書いているんですけど(笑)。その黒木さんがご病気で、「もしかしたら危ないかも」と思って。だから今回、よりスタッフの話を残したんですよ。

ちょうど、この本のゲラ(※誤字・脱字などのチェックをおこなうために仮に印刷した印刷物)が全部出てきたときに、黒木さんのご病気が少し悪くなって、「会いたい」と言われて会ってきたんです。

それが金曜日だったのですが、(出版元の)文藝春秋に頼んで、ゲラをまとめて表紙を付けて仮の本にして渡すことができたんですよね。たぶん読んでくれて、その夜に「おもしろかったです。ありがとうございます」というメールが来ました。シンプルな文でしたが、メールを打つのもしんどかったと思います。なぜなら、金曜日に読んでいただいて、月曜日の夜にお亡くなりになられましたから。それぐらい体力的にも限界のなかで(本を読んで、メールをくださった)。

茂木:でも、間に合ってよかったですね。

鈴木:そうなんです。それでお葬式に行ったら、娘さんが「うちの父は本を読むのが本当に好きな人で、最後の本がこの本になりました」と言ってくれて。だからそこも含めて、僕らスタッフのなかでも本当に最後に「〇(丸)」を付けることができたというのもあります。

でも僕がおもしろいなと思うのは、テレビのためにずっとやってきて、言ってみれば(『もう明日が待っている』は)テレビの本なんですけど、やはりテレビでは紹介しにくいわけですよ。

茂木:いろいろな事情でね。

鈴木:はい。テレビのランキング番組の“(小説売上)ランキング”に入っているのですが、(紹介されるのはタイトル名と僕の名前)「『もう明日が待っている』鈴木おさむ」だけで、SMAPの「ス」の字も言わない。

それは仕方がないんです。だけど、放送作家が最後にテレビの本を書いて、それがテレビで紹介されないというのもおもしろいし、だからこそ絶対にミリオン(100万部)売れてほしいと思います。

番組では他にも、鈴木さんが今後の目標について語る場面もありました。


(左から)鈴木おさむさん、茂木健一郎



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4月20日(土)放送分より(radiko.jpのタイムフリー)
聴取期限 2024年4月28日(日) AM 4:59 まで
※放送エリア外の方は、プレミアム会員の登録でご利用いただけます。

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<番組概要>
番組名:Dream HEART
放送エリア:TOKYO FMをはじめとするJFN全国38局ネット
放送日時:毎週土曜22:00~22:30
パーソナリティ:茂木健一郎

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