松尾潔「松任谷由実の楽曲の数々は創刊50年の“ユーミン新聞”だ」

音楽プロデューサー・松尾潔氏

ユーミンこと松任谷由実の50周年記念アルバム「ユーミン万歳!」がオリコン1位となり、70年代から6つの年代で1位を獲得した初のアーティストとなった。時代を切り取ってきたユーミンについて、音楽プロデューサー・松尾潔さんは出演したRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で「創刊50年の“ユーミン新聞”というメディアだ」と評した。

1970年代~2020年代、6つの年代で1位獲得

このほど発売されたユーミンの50周年記念ベストアルバムは3枚組の大作ですが、これがオリコン週間アルバムランキングで1位を獲得しました。2位に10倍ほどの差をつけてのぶっちぎりの1位です。このアルバムがどういう意味を持つかというと、6つのディケイド、つまり、1970年代、80年代、90年代、2000年代、2010年代に続いて、2020年代でも首位を獲得し、前人未到の6つの年代で首位を初めて記録したということです。

それに際して、ユーミンが公式コメントを出しています。

松任谷由実コメント

「今回の6年代1位というのは、長きに渡っての一つの証明にはなると思って誇りに思っています。前人未到の記録というものはとても嬉しいものなんですけど、嬉しさ2割、あとは人生って儚いという切ない気持ちが今、心を占めています。だからこそ輝きたいと思ってやってきました。振り返るとつくづく多作だったと思います。多作であるということはアーティストにとって大事な要素の一つだと思っています。いろいろな角度で世の中を切り取るっていうことが、やはりたくさん作品を出すことでできたんじゃないかと思っています。作品の内容だけではなく、ジャーナルな視点というのも含まれてここまでやってきたと思っています」

もはや「ユーミン新聞」

ユーミン自身で答えを全て言っちゃっている感じですが、ユーミンの魅力って、常に儚さ、切なさといった、ひとはけの悲しみのようなもが、プロダクツにしっかりとコーティングされているところです。こんなにエッジイな女性ってなかなかいないんですが、どの時代でも、誰にでもわかりうるような、切なさとか儚さという、この国に生まれ育った人であれば、取説不要のような魅力が彼女の曲には必ず施されている気がします。

あとジャーナルな視点が含まれているっていうこと。つまり極端に言うと「ユーミン新聞」とか「日刊ユーミン」という名の定期刊行物のような。新聞の名物コラムじゃないですが、世の中である出来事が起こったときに「定点観測している人は何と話すかな?」って見ることで、自分の気持ちの落ち着きどころを探すことが、新聞や週刊誌の読者にはあると思うんです。

ユーミンのファンが、ずっとファンでい続けるって、割とそういうことなんじゃないかなという気がします。「ユーミンなら何て言ってくれるだろう?」と確かめることで、自分が1人じゃない。自分はこの時代にいろんな人と息を合わせながら生きているっていうことを確認できる。そういうメディアとして成立してきた感じですね。

365日合わない曲がない

ユーミン自身が、多作だからこそジャーナルという表現領域まで達成できたと言っていましたが、それを四字熟語で言うと、春夏秋冬、東西南北、喜怒哀楽、冠婚葬祭、森羅万象…。もうこのぐらいにしておきますけど、とにかくユーミンの曲は全てを描いている。しかも2周か3周ぐらいしたようなところもあります。

365日、合わない曲がない。生活のBGMにならない曲がない。海外旅行に行ったとき、ユーミンだけ聴いて帰ってきたっていう人がいますからね。ユーミンははじめヨーロッパに目を向けて、もちろんアメリカは当然として、西アジア辺りにも目を向けたのも早かったです。

ユーミンの曲は、まだ海外旅行が一般的ではなかった頃の、舶来帰りの人の話を聞くような楽しみもありました。そして今ではメタバースを使ったプロモーションもやっています。ユーミン、68歳ですよ。それなのに、どんどん更新していく感じが止まらない。“ノンストップユーミン”が凄まじいなと思います。今回のアルバム「ユーミン万歳!」ってタイトルですが、これ自分で言えちゃう人ってどれぐらいいるんだろう。

CDが売れなくなる時代を予言

ユーミンが90年代こういうこと言っていました。

「自分のCDが売れなくなることがあるとしたら、それは日本の都市銀行が破綻するようなときじゃないか」

って。そうしたら実際、都銀が破綻する時代がきたわけですよ。そういう意味では炭鉱のカナリアというか、優れた予言者、優れたジャーナリストであるということも証明しています。

では、ユーミン自身は、CDが売れない時代にどう対応したか? 次の価値観に移ればいい、というのをいち早く準備して、モノ消費からコト消費に世の中が移行していくのに素早く対応して、コンサートツアーをどんどん増やしていったんですね。

苗場のミュージックツーリズムのようなものも先駆けてやってますし、とにかく優良企業ですね。パートナーの松任谷正隆さん含め、チームユーミンっていうものの偉大なる所業がこの50年だったのかなと思いますね。

署名性の高さ故の「詠み人知らず」

きょういちばん紹介したい曲は「あの日に帰りたい」です。これ、日本におけるボサノバの浸透に、すごく大きな役割があったんじゃないかなと思いますね。ユーミンは日頃、自身の作品が「詠み人知らず」のような形で生活にも溶け込んで、剥がれないぐらいの感じに埋め込むことを望んでいるそうです。

でもその言葉とは裏腹に、僕らはユーミンの特徴のある、誰とも似ていないこの歌声とともに記憶していくんだろうなってことも今回思いましたね。その署名性の強さに自信があるからこそ、「詠み人知らず」になるだけの覚悟もあるということかもしれません。松田聖子さんをはじめとして、いろんな方に曲を提供しているユーミンならではの、説得力ある言葉でもあると感じました。

田畑竜介 Grooooow Up
放送局:RKBラジオ
放送日時:毎週月曜~木曜 6時30分~9時00分
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マンガ原作者・稲垣理一郎が「おとなりさん」に登場!

10月19日の「おとなりさん」(文化放送)「10時のおとなりさん」のゲストに、『アイシールド21』『Dr.STONE』『トリリオンゲーム』など人気マンガの原作者・稲垣理一郎さんが登場! 数々のヒット作を生み出した稲垣先生が語る、人気マンガに必要なこととは?

鈴木おさむ「答えにくいかもしれませんけど、マンガって『ストーリー』と『絵』っていう両方の武器があると思うんですけど、稲垣さんはどっちが大事だと思いますか?」

稲垣理一郎「もう圧倒的に『絵』ですね。やっぱり絵で見せるものなので」

坂口愛美アナ「そうなんですか。いや、でもストーリー大事じゃないですか?」

稲垣「僕、絵も自分で描いていた時期があるので分かるんですけど、最終的に人が見るのは絵なので」

鈴木「『Dr.STONE』なんてストーリーがすっごく衝撃的なんですけど、やっぱりあの絵があることで、稲垣さんの頭のなかにあるストーリーの衝撃さを伝えられるんでしょうね」

稲垣「“この作家さんにこんな感じの絵を入れて欲しい”ってイメージがあって、それを期待してるんですけど、それを上回ってくるんです。みなさんプロの絵描きさんだから。それを見ると“自分で描かなくてよかった~”って思いますね」

鈴木「しかも『トリリオンゲーム』の作画は池上遼一先生ですよ。数々の伝説のマンガを作っている方とやる、ということじゃないですか。しかも、池上遼一先生っぽくもあり、池上遼一先生っぽくないところもあって。だから読んでいてすごく楽しいです」

稲垣「ありがとうございます! 池上先生って、過去には『サンクチュアリ』とかハードな作品を描かれていた方なんです。今回の『トリリオンゲーム』はふざけたノリが多いので、最初“池上先生に怒られるんじゃないか?”とすごくドキドキしながら渡したら喜んでくださって。編集者の人も、“池上先生が新境地を開くところが見たい!”と言っていたので、容赦なくふざけよう!と思って描いてます」

稲垣理一郎先生は、『アイシールド21』『Dr.STONE』など週刊少年ジャンプで連載してきた。

鈴木「『少年ジャンプ』って、アンケートの結果で人気がないと掲載順が下がっていくじゃないですか。僕は子供心に、あんなに大人気だった『キン肉マン』がどんどん真ん中以降になってきたとき、なんとも切ない気持ちになっていたんです」

稲垣「うわ~コメントしづらい!(笑)」

鈴木「『アイシールド21』はいきなりヒットしたじゃないですか」

稲垣「アンケートはすごくよかったです」

鈴木「最初からずっと良かったですか?」

稲垣「アンケートの数字って社外秘だと思うので細かいところは言えないですけど、『アイシールド21』に関してはすごく良かったですね」

鈴木「でも最初良くて途中から中だるみとかも、よくあるパターンじゃないですか」

稲垣「やっぱり増減はありました。どんなに人気のある作品でもつまらない回があると人気落ちるんですよ」

鈴木「マンガってある程度ストーリーが進んでくると、物語が変わるときあるじゃないですか? そういうときって、どうやって物語を考えるんですか?」

稲垣「最近の読者はものすごくストレスに弱い、と言うと上から目線みたいで嫌ですけど。自分でも、ツラい映画を見るのがツラくなってるところがあるので。なのであまり激しい障害を出しちゃうとツラくて読めなくなっちゃうので」

鈴木「『トリリオンゲーム』とか読んでると、“痛快さ”が早いですよね」

稲垣「サイクルが早いです。そうはいっても、気持ちいいことばっかりだと面白くないですから」

鈴木「成功するまでのハードルがないと」

稲垣「そうです。僕は“バネ”って呼んでるんですけど、最近はバネのコントロールが肝というか、すごく難しくなってますね」

鈴木「9週くらい引っ張って、10週目で! っていうところがありましたけど、最近はそこまで耐えきれない?」

稲垣「耐えきれないので様子を探りながらですね。最近だと、『Dr.STONE』っていうマンガでバネのスパンを短くとっていたんですけど、あるとき“ここはそうはいかないだろ”と思って長めにバネをとったことがあったんですよ。“やばいな”と思いつつやっていたら、人気が下がらなかったんです。不快なことをやっているのに人気が下がらないので、ぐいぐい押し込んで最後にパンッ!とバネを開いて決着させたらバカみたいに人気とったんです。ビビッてばかりじゃダメなんですよね」

鈴木「なるほど! “3~4週で解決!”だけじゃなくて、押し込むことも大事なんですね!」

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