「カンパリソーダとフライドポテト/吉田拓郎」お洒落な女性と垢抜けない男子の例えに費やす言葉数が凄い

アーティストの起承転結を感じる1枚「大いなる人」 ©STVラジオ

ポプコン出身のシンガーソングライターで、"選曲家"の松崎真人がお送りするSTVラジオ『MUSIC☆J』(RCCラジオ同時ネット)。'70~'90年代の日本のポップスを中心に、厳選・フルコーラスでお届けしています。25日(火)は、STVラジオでは21:00までの放送でしたが、RCCラジオだけでオンエアされた21:00台に吉田拓郎のアルバム「大いなる人」をミニ特集しました。(文中敬称略)
 
松崎:吉田拓郎の中でも地味なアルバムを紹介しようと思います。僕の中でも、このアーティストが好き、この曲が好きというところから一歩進んで「アーティストのアーティスト人世の起承転結ってどうなってるんだろう」ということに興味を抱いた最初のアルバムが、1977年作品の吉田拓郎「大いなる人」です。決して、吉田拓郎の幾つかあったピークの時期のアルバムとは言えないと思うんですけど、それでも曲は作り続けていて、キラッと光るモノは常にあると言うのが吉田拓郎たる由縁だなと思っています。

松崎:当時、ラジオで聴いて、全く意味がわからなかった曲を紹介します。敢えて僕も、吉田拓郎が当時しなかったように、最初から歌詞の解説はしないでお掛けします。
 
M22「カンパリソーダとフライドポテト/吉田拓郎」

松崎:いいよねぇ。このアルバム、アレンジは一部を除いて鈴木茂、はっぴいえんどのギタリストの方がやっていらっしゃいます。今でこそ、カンパリソーダっていう飲み物はだいたいの人は知ってますよね。コンビニで缶ドリンクとしても売ってるくらいですから。でも1977年は知らない人の方が多かったと思う。しかも札幌の片隅でラジオを聴いていた少年には、カンパリソーダはお酒だって言うことも判りづらいと思うし。

松崎:吉田拓郎の意図するところは、カンパリソーダって言う飲み物を、ちょっとオシャレな女性に例えて、フライとポテトを男性に例えて、都会的な女性と垢抜けていない男性って言う、決して同じ世界にいない2人でも、もしかしたら1つの道を目指して歩いて行かれるかも知れないね…ということらしいのですが、それにこれだけの言葉数を費やすというのが吉田拓郎の凄いところです。

松崎:今すぐ歌詞カードを見ないでも思い出せるのは「朝日を見たかい、嵐の中にも」とか「懐かしい歌が聞こえてくるだろう」とか、かっこいいフレーズがたくさん散りばめてあるんです。

松崎:1977年のアルバムというと、吉田拓郎はフォーライフレコードを立ち上げて、1枚目のアルバムが「明日に向かって走れ」、「プライベート」っていうカバーアルバムが翌年に出て、そのすぐ翌年に、この「大いなる人」。つまりフォーライフレコードを回して行くために、年に最低1枚のアルバム制作は欠かせなかったんだと思います。そんな中でも、こんな充実した楽曲を含むアルバムを出せているということは凄いと思います。

松崎:あと、吉田拓郎が「新譜ジャーナル」かなにかのインタビュ-で話していたことで、僕が今でも胸に留めている言葉なんですが、「若い頃は『オレは今こう思う』『いま、こう感じた』という瞬発力で歌を書いていたようなことがあるけど、最近は『この3か月、こう思ってるんだよね』とか『この1年くらいの考えがオレはこう変わった』みたいなみたいな長いスパンの曲を書きたいし、書けてきていると思う」みたいなことを語っていました。僕はその頃、自分で詞を書き始めたか始めてないかくらいの時期ですけど、「はあ~ん」って「いつかはそういう境地に達することもあるのかなぁ」くらいの遠い遠い日の話のように思っていましたが、今この「カンパリソーダとフライドポテト」を聴きながら、当時のインタビュ-の一節を思い返すと、とても腑に落ちるところがあります。

松崎:このアルバムは、こういうズシッとした曲だけではなくて、セルフカバーも入っていまして、キャンディーズに提供した「アン・ドゥ・トロワ」に「ばいばいキャンディーズ」というサブタイトルを付けて、自らレコーディングしています。

M23「アン・ドゥ・トロワ(ばいばいキャンディーズ)/吉田拓郎」

松崎:「さよなら、キャンディーズ」って最後に入っているところがオシャレですけど、僕が最初に聴いて「1番なしかよ」って思ったんですよね。でも、作者がやるんだからいいですよねって。やはり(1番の)「あなたの胸に耳を当てれば…」の部分を無くして「優しい言葉、聴いた気がする」の2番から始めると、男歌でも女歌でもあまり関係なくなるという利点もありますし、あくまで「これはサービスね」っていうファンサービス、プラス、辞めていく、芸能界を辞めて普通の女の子に戻りたいって言っていた当時のキャンディーズに対する”はなむけ”という意味があったのかなと思います。

松崎:この当時は本当に世の中が、キャンディーズの解散に向けてのカウントダウンに熱狂していたところがるんです。でも、吉田拓郎は達観していた、ラジオでのおしゃべりとか聴いていても。「まぁ、そう言う気持ちになることもあるだろうね」みたいな感じで。「あ、このクールさ、大人だな」って思いましたね。(中略)

松崎:(2番だけでも)アレンジは手を抜いていませんで、本物のストリングスがガッツリ入っておりまして、1分48秒でも、呼ぶストリングス(奏者)の数は同じですので、スタジオ代はバッツリかかっております。
  
M24「大いなる/吉田拓郎」

※21:00台の放送をお聴きになる際は、RCCラジオのradikoタイムフリーをご利用下さい。

【編集後記】
「雨の一日/とんぼちゃん」  メッセージ性の強い関西フォーク系とは趣を変えたいわゆる「歌謡フォーク」。どんな洋楽の新ジャンルもいつのまにか魔改造して「歌謡○○」化してしまうのが日本歌謡界のマジックだった。アン・ルイスが若き日の桑田さんに言った「日本語で歌っちゃえば全部歌謡曲なのよ!」とは、けだし名言である。そんな歌謡フォークのなかにも名作は多くあって、「雨の一日」はその1曲。マイナー調のメロディーに乗せて70年代後半の若者の恋愛観が伝わってくるという点でも、秀逸。(松崎 真人)

1月28日(金)は浜田省吾&中島みゆきを特集

日本のポップス界を代表するアーティストと言ってもいい浜田省吾と中島みゆき。キャリアの長さ、楽曲の数、幅広い層にファンを持ち、影響を受けたアーティストも多い…この2人を今さら言葉で形容する必要もないかも知れません

1月28日(金)の『MUSIC☆J』は、浜田省吾と中島みゆきを特集します。自身の楽曲はもちろん、カバーや他のアーティストへの提供曲も含め、2人の作品を数多く紹介しながら、その曲が生まれた背景や語り継がれるエピソードを織り交ぜてお届けします。

リスナーの皆さまからのリクエストもお待ちしています。その曲への思い出や聴いたきかっけなど、ひと言メッセージを添えて下さるとベターです。もちろん、中島みゆきと同じ北海道生まれでポプコン出身のミュージシャン・松崎真人がパーソナリティを務めます。

1月25日(火)のプレイリスト M20からはRCCラジオのみOA~広島色濃いめ!

M01「ヴィーナス/長山洋子」
M02「危険な女神/KATSUMI」
M03「もらい泣き/一青窈」
M04「Always/光永亮太」
M05「恋のメキシカン・ロック/橋幸夫」
M06「思い出のカテリーナ/橋幸夫」
M07「小さな日記/フォー・セインツ」
M08「雨の一日/とんぼちゃん」
M09「旅立ち/松山千春」

M10「愛はふしぎさ/米米CLUB」
M11「失恋魔術師/太田裕美」
M12「風のマジック/アメリカ」
M13「おまかせピタゴラス/FairChild」
M14「I love you/河村隆一」
M15「太陽がくれた季節/青い三角定規」
M16「青春の旅/青い三角定規」
M17「夢一夜/南こうせつ」
M18「蒼夜曲(セレナーデ)/尾崎亜美」
M19「素顔/長渕剛」

M20「Teenage Walk/渡辺美里」
M21「炎/西城秀樹」
M22「カンパリソーダとフライドポテト/吉田拓郎」
M23「アン・ドゥ・トロワ(ばいばいキャンディーズ)/吉田拓郎」
M24「大いなる/吉田拓郎」
M25「女ぎつねon the Run/バービーボーイズ」
M26「限りない時の中で/Birthday Suit」

STVラジオ『MUSIC☆J』(毎週 火~金  19:00~22:00) ★RCCラジオ同時ネット

MUSIC★J
放送局:STVラジオ 他1局ネット
放送日時:毎週火曜~金曜 19時00分~22時00分
※放送局によって日時が異なる場合があります。
出演者:松崎真人(まつざき・まこと):シンガーソングライター、選曲家。北海道札幌市出身。1984年ヤマハポピュラーソングコンテストで優秀賞を受賞し、85年「たわいないトワイライト」でデビュー。92年、佐木伸誘とユニット「Birthday Suit」結成。現在はソロでラジオパーソナリティやライブを中心に活動。
番組ホームページ

リクエストメール:mj@stv.jp
twitterハッシュタグ:#musicj 

70年代~90年代の日本のポップス・日本語のポップスを中心に"厳選かけ流し"でお届け。パーソナリティは、北海道出身のシンガーソングライター・松崎真人。音楽への深い造詣と知識に裏打ちされた含蓄あるトーク、選曲の幅広さでリスナーの支持を全国に広げている。松崎の"微妙な滑舌"も病みつきになります!。
★RCCラジオでも同時生放送(~21:50)

※該当回の聴取期間は終了しました。

「あんな歌5回も聞いたら悪夢になる」280万枚の大ヒット曲『帰って来たヨッパライ』秘話

4月26日の『大竹まことゴールデンラジオ』は大竹まことがお休み。ザ・フォーク・クルセダーズのメンバーとして一世を風靡し、現在は精神科医の、きたやまおさむさんをお招きし、著書『「むなしさ」の味わい方』について、青木理さん、金子勝さん、室井佑月さんの3人でお話を伺った。

青木「僕、きたやまさんのお名前はもちろん知ってるんですけど、金子さんは深夜放送のラジオで聞いたとか」

金子「『帰って来たヨッパライ』が、高校生の頃に深夜放送で流れてきて、もうびっくり仰天。こんなものがあんのかという感じで(笑)。これはフォークソングか?とか思いながら、すごい驚いた。そしたら『イムジン河』って歌が発禁になったんですよ。昔は、発禁なんてかっこいいんですよ。なんかこうビートルズとかあの世代が権力に抵抗してるみたいな。その後、サトウハチローさんが作詞した『悲しくてやりきれない』っていう歌がバーンと出て。『あの素晴らしい愛をもう一度』って知ってる人いる?」

室井「知ってる! (歌い出す)」

金子「あれが、きたやまおさむさんの作詞。(作曲した)加藤和彦、きたやまおさむっていうのは、日本のポールマッカートニー、ジョンレノンみたいな感じだった」

きたやま「(笑)いやいや、ちょっと買い被りすぎ」

室井「ええっ、金子先生より年上でいらっしゃるの?」

きたやま「年上ですね」

室井「うそー!」

青木「きたやまさんの経歴を拝見すると、医学部の大学在学中にザ・フォーク・クルセダーズに参加したので、もともとは医学の道を目指そうとしていたんですか?」

きたやま「まあ、もともとはね」

室井「医大生なんて忙しくないですか?」

きたやま「でも、名前を出すのは不遜なのかもしれないけれども、手塚治虫さんとか、西野バレエ団の西野皓三先生とか、北杜夫先生とか、みんな精神科医であったり、医者だったりしてるんですよね。だから、大学の管理がそんなに…あえて言うなら緩かった。学生運動で締め付けがひどくなるんだけど、僕たちはその前だったんよね」

室井「精神科の先生はものづくりに向いてますよね。病んでる人が多いですもんね」

きたやま「それは確かに。この「むなしさ」の本を書いたのは、やっぱり音楽活動からなんですね。例えば『帰って来たヨッパライ』は280万枚売れたというんです。でもそれってなんか、むなしいことだったんです」

室井「えーなんで?」

きたやま「やっぱり早回転で、口パクで合わせなきゃいけない。あんな歌、これやれって言われて5回も聞いたら、もう悪夢になってくるっていうかね。僕らはアマチュアだったから、あっちこっちで好きな歌を歌える状態だったのに、今度はこれ一曲をテレビ番組に出て歌わなきゃいけなくなった時に、もうみんながしらけていったのを覚えてるんですね。だから相当悩みましたよ。こんな口パクで、みんな喜んでくれるんだけれども、マスコミに関わってることそのものも「むなしく」なったんですよね。だから引退したんです。僕ら1年でやめてしまったんですよ。えらい長くご記憶に残っていますけど、でも「すごかった」って言われると、どんどん「むなしく」なってる。(笑)」

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