山梨県内に伝わる歴史や文化を図書館に残す「記憶遺産プロジェクト」

渡辺麻耶が木曜日のDJを担当するFM FUJIの番組『Bumpy』(毎週月曜~木曜、13:00~18:50)内のコーナー「CLOSE UP TODAY」(第2・第4・第5木曜、17:35~)。1月11日のオンエアにフリージャーナリストの松田宗弘さんが出演し、山梨ふるさと記憶遺産プロジェクトについて解説しました。

松田:今日は山梨県が昨年度から取り組む「山梨ふるさと記憶遺産プロジェクト」のお話です。県内に伝わる歴史や文化について、各市町村の古老(高齢)の方から口伝――口伝え、言葉で伝えていただいたものを、当該市町村の図書館などに、記録として残す事業です。歴史文化の伝承とともに図書館の付加価値を高める狙いがあります。県内には27市町村ありますが、今年度は北杜市と富士河口湖町の2つの市町について10テーマずつ取り上げます。県からの委託で山梨新報が図書館の協力を得て取材、撮影、編集、制作を担当、私が取材した各市町のテーマの一部を、発行に先駆けて紹介します。

麻耶:それでは北杜市から、市全体のテーマから教えていただけますか。

松田:はい。「名水の里」と「開拓の歴史」です。「水」では山梨県側の85の「八ヶ岳南麓高原湧水群」を訪ね歩き調査した元建設省技官の山本茂弘さんのお話を、「開拓」は、“清里の開拓の父”と言われたポール・ラッシュ博士が有名ですが、実はもう一人の“開拓の父”といわれる農林省技官の「安池興男(おきお)」さんのお話を紹介します。

麻耶:では水のお話からですが、湧水調査は労力も知見も必要で、簡単ではないですね。

松田:はい、山本さんは今の国土交通省の前身の建設省で河川行政にかかわっていた方です。2012年からCD版、2018年に製本版の調査報告書を作成しました。調査項目は所在地、管理者、現況と周辺状況、湧水の用途、水温や水量、水質のほか、まつわる伝説など。藪をかき分け辿り着いた湧水もあったそうです。

湧水は地域でまず、農業用の灌漑用水に使われました。八ヶ岳南麓には大きな河川がなく、昔から上流側と下流側との「水争い」が絶えず、水は貴重だったからです。また、湧水には「水神様」が祀られ、地域信仰の対象でもありました。歴史を辿ると水に関係の深い「白蛇」の伝説が、「大滝湧水」「三分一湧水」などで伝えられています。湧水の多くは今も飲料水や灌漑用水として利用されていますが、流域開発に伴う水質悪化や、放置されている湧水もあり、山本さんは「定期的な水質調査は必要」と言われていました。

麻耶:なるほど、水質保全は大切ですよね。安池さんの清里の開拓史を教えて下さい。

松田:太平洋戦争開戦の5年前、1936年に2人の開拓の父が偶然、「山梨の北海道」とも言われた「清里」を訪れました。農林技官だった安池さんは、ダム建設で移住を強いられた「丹波山村」など28戸(約200人)の入植者の先頭に立ちました。公務としての赴任でしたが、通算4年、安池さんは入植者と一心同体となり、役人の領域を超えたのです。

 森林を伐採し開墾し、イモやトウモロコシ、大根、キャベツを作付けし、国鉄小海線清里駅から出荷する一方、「千円の家」という住宅を整備しました。開墾・農作業に加わった安池さんの情熱は入植者の心を動かし、「義理と理想を超えた『人間愛』」だったそうです。入植者の子どもが通う学校「八ヶ岳分教場」の建設では、安池さんの情熱が、丹波山村や東京市を動かし資金援助につながり完成。その慰労会で安池さんが述べた「貧困こそ発展の原動力」という言葉。この金言は今も、地域で語り継がれています。

麻耶:「人間愛」「貧困が原動力」。心に響きます。富士河口湖町の全体テーマを伺います。

松田:「観光地に導いた産業の変遷」です。この中から2つのお話をご紹介します。まず、「甲州郡内ザル」に代表される「スズ竹細工」。江戸時代からの技術で手作りの「ザル」や「籠(かご)」など。最後は、明治中期の1894年に来日、日本に帰化したイギリス人で富士五湖観光の開拓者である「ホイット・ウォーズ」さんのお話です。

麻耶:スズ竹細工とはどのようなものですか。

松田:河口湖南岸の勝山、船津など5村で伝承されてきた技術で、富士山の2合目でしか採取できない「スズ竹」というしなやかな竹を1~3㍉㍍に細く割って編んでいきます。農閑期などに現金収入がなかったことが発祥といわれ、昔は町外へ行商もしていました。野良仕事用の大きな籠から、買い物籠、飯ビツ、そば・うどん用のザルまで現在も18品目あります。戦時中は兵隊さんの暑さを凌ぐためのヘルメット「防暑帽体」(ぼうしょぼうたい)をこの技術で生産していましたが、戦後は住民の仕事が多様化し、単価の安いザルづくりは衰退しました。その後、1998年、県の「郷土伝統工芸品」に認定され、現在は、ふるさと納税の返礼品にもなりました。今も町民の16人の制作者が伝統技術を継承していますが注文が殺到。「長く使うとべっ甲色に変わり、40~50年使える」そうです。

麻耶:ぜひ、使ってみたいですね。ありがとうございます。では、ホイット・ウォーズさんのお話をお願いします。

松田:ウォーズさんは精進湖畔の高台に、当時としては珍しい洋式の「精進ホテル」を開業した元外国航路の船員で、開業だけでなく富士五湖観光の魅力をさかんに外国へ発信したといわれます。一方で、自然や村人との融和を重視し52歳の若さでお亡くなりになった後を引き継いだ、妻・キミさんの時代には、宿泊客は外国人からやがて日本人にも広がり、1922(大正11)年には皇太子だった昭和天皇も宿泊、俳優や作家など著名人から愛されました。口伝は湖畔在住でウォーズさんが眠る龍泉寺の檀家の渡邊イヨ子さんから祖母や父から聞かれた話として伺いました。イヨ子さんも中学のころ、父に連れられホテルに行き、そこから見る所々が紅葉した様は絶景だったそうです。郷土史によると、ウォーズさんは≪英語を教えたり、ソロモン諸島などの航海話をして“ソロモンさん”の愛称で呼ばれ、人気のある変な外人だった≫とあります。興味深い歴史秘話ですね。

麻耶:面白い方だったいうことが、ほうふつとされますよね。県によりますと、これらのテーマ記事を収録した冊子はオールカラーA4判32ページで2月の発行予定となっており、両市町の図書館や小中学校のほか、県立図書館などにも配布予定とのことです。図書館にお寄りの際は、ぜひ、一度手に取ってみてはいかがでしょうか。松田さん、今日はありがとうございました。

松田:ありがとうございました。

Bumpy
放送局:FM FUJI
放送日時:毎週月曜~木曜 13時00分~18時50分
出演者:鈴木ダイ(月)、上野智子(火)、石井てる美(水)、渡辺麻耶(木)
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