山梨県が開始する卵子凍結保存への助成 そもそも卵子凍結保存とは?
渡辺麻耶が木曜日のDJを担当するFM FUJIの番組『Bumpy』(毎週月曜~木曜、13:00~18:50)内のコーナー「CLOSE UP TODAY」(毎週木曜、17:35~)。2月9日のオンエアにフリージャーナリストの松田宗弘さんが出演し、卵子凍結保存について解説しました。
松田:今日のテーマは、働き盛りの女性が出産時期を遅らせることを支援する「卵子凍結保存」です。3月8日付の山梨新報で報じた記事の解説です。80万人を切った山梨県人口の減少対策として、県が12年連続で減り続けている「出生数」を増やそうと、今年度からスタートする「卵子凍結保存の助成事業」についてお話します。
麻耶:働き盛りの女性を支援する施策ですね。まず、「卵子凍結保存」とは、どのようなものなのでしょうか。
松田:県の「子育て政策課」によると、卵子凍結保存は、現在も行われているものです。主にがん患者の女性が治療前に行い、将来、妊娠できる可能性を残しておこうという場合などに行われています。卵子を取り出す「採卵」までは県内の産婦人科医で対応できますが、その後、数年間、長期で卵子を凍結保存できるのは県内では「山梨大学医学部附属病院」だけといいます。
麻耶:医療技術がすでに確立されている中で、今回は目的が異なるということなのでしょうか。
松田:はい。出産時期を遅らせる卵子凍結保存は、「子どもは産みたい。でも、今は仕事が忙しく、すぐには産めない」「今はパートナーがいなくても、年齢とともに質と量が低下する卵子が元気な今のうちに冷凍保存し、将来の妊娠・出産に備えたい」など、健常者の女性が対象なのです。
麻耶:県の助成はどのような内容ですか。
松田:まず、助成対象は、県が主催する「妊娠・出産に備えた健康管理」――プレコンセプションケアといいますが――この研修会の参加者です。ここで卵子凍結保存についてまずよく理解していただこうというわけです。それから、費用ですが、卵子凍結保存は、健常者対象だと医療行為ではないので、保険が適用されません。ということで、全額が実費負担なのですが、「採卵」と「凍結」に40万~50万円がかかり、別途、「保存管理費用」が年間3万~5万円必要です。かなりの負担になるので、県は最大20万円(1回)を、できるだけ健康な卵子を多く確保できるように最大2回まで助成します。県外の医療機関で行った場合は最大10万円。そして、数年後に凍結を解除して体外受精させた「受精卵」を子宮に戻し、妊娠・出産を目指す場合(43歳未満)1回12万5000円を上限3回まで助成します。それと、卵子凍結保存の前にとても重要な検査があり、希望者に対しですが、卵子の数から妊娠できる可能性を予測する「AMH検査」の費用も併せて助成します。
麻耶:このような助成は全国で例があるのでしょうか。
松田:都道府県レベルでは、東京都が調査を兼ねた支援事業を昨年度始めたのが全国初です。山梨県は東京都に続く取り組みですが、調査を兼ねてはいません。東京都の調査では、本格的な将来の助成を念頭に、2023~28年まで申請者約2800人を対象に協力してもらい、約60の登録医療機関で、卵子凍結後の生活状況の変化を毎年、調べます。対象年齢は18~39歳で、卵子凍結時に20万円を助成し、その後の調査協力費として調査1回当たり2万円を支給します。その後、卵子凍結を解除し体外受精を経て妊娠・出産する際は25万円を助成します。
麻耶:まだ、試行錯誤の部分もあるのですね。山梨県は今月から利用できるのですか。
松田:県は今、山梨大医学部附属病院ほか県内産婦人科の医療機関・団体に協力を仰ぎ、「助成対象者の年齢」「卵子凍結期間」などの詳細を決めていく作業をしています。実際の利用まではもう少し時間がかかりますが、今年度内に始めます。
麻耶:子どもは産みたいけれど今は、仕事やキャリアアップ形成を中断させたくないから産めない。また、今はパートナーがいないが、将来の妊娠・出産のために元気な卵子を今から確保しておきたい――という女性は大勢いると思います。ただ、東京都の取り組みを考えると、課題もあるのですね。松田さんはどうお考えですか。
松田:実はこの記事を書いた直後、知り合いの20代の女性何人かに記事を読んでもらったら結構、反響がありました。「関心があるテーマで、詳しく知りたかった」から、「卵子凍結保存は安全なのですか」など、などです。取材の過程で、「日本産科婦人科学会」がネット上で公表している見解を確認したところ、課題について数々の指摘や示唆がありました。卵子凍結は「将来の妊娠・出産を希望する女性の選択肢の一つになりうる」とした上で、日本に先行する海外の状況を紹介しています。それによると、卵子凍結する女性の80%以上が35歳以上で、平均は37歳。卵子凍結した女性のうち、その後妊娠した人は約20%で、半数以上は、凍結卵子を使わずに通常の妊娠をしているとのことです。学会は、凍結卵子による将来の妊娠・出産の成功率は高くはなく、妊娠・出産を約束・保証するものではない、としています。また、妊娠時期が高年齢になることにより生じる「母体側のリスク」を軽減できるわけでもない、ともしています。こうしたことを理解した上で、いつ妊娠・出産したいかという自身のライフプランとともに、未来の自分にとって卵子凍結保存が必要なのかどうかをじっくり検討いただきたい――と結んでいます。卵子凍結保存は、妊娠・出産を希望する女性の選択肢の一つであるのは確かだが、必ず妊娠できるものではないこと、凍結保存した卵子を使わないケースも多いこと、また、社会の変化に合わせ、国全体、男女が共に考えるべき“深いテーマ”であること――を改めて考えさせられました。
Twitterハッシュタグは「#ダイピー」(月)、「#ばんぴーのとも」(火)、「#てるぴー」(水)、「#ばんまや」(木)
※該当回の聴取期間は終了しました。