化学物質過敏症の実態調査の「小さな流れ」今後はどのようにすべきか
渡辺麻耶が木曜日のDJを担当するFM FUJIの番組『Bumpy』(毎週月曜~木曜、13:00~18:50)内のコーナー「CLOSE UP TODAY」(第2・第4・第5木曜、17:35~)。12月14日のオンエアにフリージャーナリストの松田宗弘さんが出演し、化学物質過敏症に関する実態調査について解説しました。
松田:本日は、だれしもがある日突然なりうる「化学物質過敏症(CS)」の3回目、最終回です。1回目の「入門編」、2回目の「山梨編」に続き、国内では国も自治体も実施していない「化学物質過敏症患者の実態調査」の意義についてお話します。11月10日付の山梨新報の2面で提言報道した内容を解説します。
麻耶:今日、初めて聴くリスナーもいるかと思います。まず、改めて、化学物質過敏症はどんな病気なのでしょうか。
松田:健常者の許容量の数万から数十万分の一の超極微量の化学物質に接しても、頭痛、めまい、咳、粘膜の炎症、関節・筋肉痛、疲労・倦怠感が常態化する「神経系の機能障害」で、突然発症。発症するかしないか、発症した時の症状は個人差が大きいのが特徴です。アレルギー疾患との合併や、呼吸困難、アナフィラキシーショックになることもあります。
原因物質は農薬や除草剤、接着剤、溶剤など多様な揮発性有機化合物(VOC)。新築・増改築の室内VOCで発症する「シックハウス症候群」は、CSとともに1990年代から顕在化し、どちらも保険適用されています。2010年代には、合成洗剤、柔軟剤、芳香剤・香水、除菌・消臭剤のVOCで健康被害を起こす「香害」が急増しています。香りの害と書いて「こうがい」と言います。シックハウスも香害もCSの「入口」で、より重度のCSに発展し得る関係です。CSとシックハウス症候群は「病気」ですが、香害はその手前の「健康被害」と位置づけが違います。なお、CSは障害者年金の給付対象にもなっています。
麻耶:医療、年金の対象ということで、患者数が多いと思われますが、国内でどのぐらいなのでしょうか。
松田:化学物質過敏症の専門医療機関や患者とNPOなどでは「国内100万人以上(120人に1人以上」と言われていますが、環境省の2016年の報告書には未受診の人も含めると人口の7.5%(900万人)という数字もあり、100万人の数倍の可能性があります。
100万人だとしても、山梨県の人口は約80万人ですから、県内の患者数は6600人。もしかしたらその数倍。この患者さんたちは山梨県内に専門の医療機関がなく、一般の医療機関では対応できないため、診断・治療ができる東京など県外の専門医療機関に行っています。
麻耶:たくさん患者さんがいるようなのに実態調査が行われないのはなぜなのでしょう。
松田:厚生労働省の難病対策課に聞いてみると、「診断基準がないから調査をしていません」という説明でした。ですが一方で、数は少ないものの全国に点在する専門医療機関では、専門の医師が「中枢神経障害」などと書かれた診断書を書き、治療していて、その診断書が保険医療や障害者年金の給付条件になっているのです。「これは明らかな矛盾ではないですか」と突っ込むと、答えられないのです。国民に説明できないような行政は改めるべきです。
麻耶:山梨新報の記事で松田さんはどのような提言をされたのですか。
松田:記事中にも登場しますが、9月中旬、山梨県に「化学物質過敏症や香害などの患者・健康被害者の実態調査」を求める要望を個人の立場で出された、香害被害者・支援者による市民団体「カナリア・ネットワーク全国」の共同代表の深谷桂子さんという、県内在住の軽度の患者の方がいらっしゃいます。その深谷さんが提案されたのが、化学物質過敏症の国際標準の問診票「QEESI」(クイージー)」の活用です。
麻耶:どんな問診票ですか。
松田:質問がQ1~5の5テーマで各10問計50問あります。Q1(反応する発生源)だと「車の排気ガス」、「殺虫剤・除草剤」、「ガソリン臭」、「香水・芳香剤」など10問。Q3(症状)だと「筋肉・関節・骨」、「粘膜・呼吸器」、「心臓・胸部」、「神経・末梢神経」、「皮膚」など10問。各問で0「全く反応なし」、5「中等度の反応」、10「動けなくなるほどの症状」などと、1~10点で自己採点し、合計点を算出します。
「化学物質過敏症対策」というタイトルの医師など向けの本は、《クイージーは患者か否かの識別に有用で、問診票として非常に優れたもの》と評価しています。そこで、私が山梨県にクイージーの活用について確認すると「これから考えます」という答えでした。
麻耶:松田さんは、化学物質過敏症への今後の行政の対応はどうあるべきだと思いますか。
松田:国も自治体も同じですが、問題や課題があれば、まず、調査して現状把握。そこから 分析・評価 → 対策の立案 → 実行と周知という流れが基本です。だから、「現状把握」は喫緊の課題なのです。ただ、化学物質過敏症の入り口である「香害」では数年前から、日本消費者連盟や化学物質過敏症支援センターなどで構成する「香害をなくす連絡会」や、シャボン玉石けんという北九州の企業が調査を開始。今年5月、兵庫県宝塚市教育委員会が「香害と化学物質過敏症に関するアンケート」を実施し、「体調不良起こした」子どもが約8%。「不快を感じた」は約28%。山梨県内では北杜市の9月市議会で高見沢市議が、「患者の実態調査の実施が必要」と質したが市は明言を避けました。ただ、患者実態調査の小さな流れは確かで、一刻も早く大きな流れにすべきです。そこが対策の入り口なのだから。
Twitterハッシュタグは「#ダイピー」(月)、「#ばんぴーのとも」(火)、「#てるぴー」(水)、「#ばんまや」(木)
※該当回の聴取期間は終了しました。