米中首脳会談を見据えた中国外交と“ドイツの悩み”とは?

飯田和郎・元RKB解説委員長

3期目がスタートした中国・習近平政権は、11月に入り外交に重点を置いた動きが続いている。ベトナム、パキスタンのトップが相次いで中国を訪問した。こうした一連の動きについて、東アジア情勢に詳しい飯田和郎・元RKB解説委員長がRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で「米中首脳会談から逆算している」とコメントした。

米中首脳会談から逆算して外交をスタート

習近平氏は新型コロナウイルスが猛威を振るい始めた2020年春以降、冬の北京オリンピックは例外として、外国首脳と対面での会談をほとんど行なってこなかった。だが、今回の一連の首脳会談で本格的に再スタートを切った。

その相手に選んで招いたのが、ベトナム共産党書記長、続いてパキスタンの首相だ。ベトナムも、パキスタンも、中国と国境を接する隣国だ。実は、先日の共産党大会の政治報告にも「周辺諸国との友好、相互信頼関係、利益の融合を深化させる」との言及がある。まずは、周辺国を重視しようとする習近平氏の外交姿勢の表れといえる。

こうした一連の動きは、インドネシアで11月中旬に予定される米中首脳会談から逆算しているようにみえる。もちろん、来週行われるであろう3年ぶりの日中首脳会談も無関係ではない。

政権内部からも批判が起きたドイツ首相の中国訪問

周辺国の首脳に続いて招待したのが、EU(欧州連合)の盟主・ドイツのショルツ首相だ。新型コロナウイルスが流行して以降、先進7か国(G7)の首脳が訪中したのは、ショルツ首相が初めて。それ以前に、G7で中国へ行った首脳を調べると、ほぼ3年前の2019年12月の安倍晋三首相(当時)が最後だった。

EUで一番の経済大国でもあるドイツにとって、中国は6年連続で最大の貿易相手国。このほか、ドイツの自動車メーカーが中国国内で生産し、中国でクルマを走らせるケースもある。ヨーロッパの首脳が中国を訪問する際、よくあるケースだが、今回もドイツからは、自動車大手やスポーツメーカー大手の幹部らが同行した。

ただ、ショルツ政権は中道左派の社会民主党を中心に運営されている。融和的な対中政策を取り、実利を重視した保守系のメルケル政権時と比べると、一般的に中道左派の対中認識は厳しい。

実際、ほかの欧米諸国同様に、ドイツ国内では、新疆ウイグルや香港をはじめとする中国の人権問題への非難の声が高まっていた。ウクライナ問題で、ロシアへ曖昧な態度を取る中国への嫌悪感も広がる。

そんな中で、習近平氏が異例の3期目政権をスタートさせた直後の首相訪中は、連立与党の内部からも批判が出ている。ドイツとしては、最大の貿易相手国として経済的な結びつきが強まる現実がある一方で、中国に対する融和路線を修正するかどうか――。ドイツのトップとして、他の国に出遅れないよう、自国の実利を取りつつ、中道左派が掲げる価値観との両立を図るというバランス外交に腐心している。

ショルツ首相の訪中とほぼ同時に、ドイツでG7外相会合も開かれた。ここでは、中国とインド太平洋地域をテーマに意見を交わすセッションが設けられたが、その中でもショルツ氏の訪中に疑問の声もあった。

もちろん、ショルツ氏にも考えがあってのこと。ドイツは12月までG7の議長国であり、11月中旬のG20サミットを前に、このサミットに出席予定の習近平氏と会談しておく必要があると判断したのだ。コロナ禍以降、初めて訪中したG7首脳として、G7の立場を直接、習近平氏に伝えた意義は小さくない。

ヨーロッパとの関係を修復したい中国の思惑

腐心するドイツの首相を、習近平氏はどう迎えたのだろうか。わかりやすい、習近平氏の首脳会談の冒頭挨拶を紹介しよう。

「あなたは、中国共産党大会のあとに、中国を訪れた最初のヨーロッパのリーダーであり、あなたにとってもこれが就任後、初の中国訪問です。中国とドイツの関係を次の段階に発展させるため、この訪問は、相互の理解と信頼を深め、様々な分野において、協力を増進させられる。そう確信しています」

さらに習近平氏はさまざまな好意的な姿勢を示した。

国際社会ではいま、ロシアがウクライナに、核兵器を使うのではないかという懸念が強まっている。習近平氏は会談で、ウクライナ情勢を巡り「国際社会は核兵器の使用や脅しに対し、共同で反対すべきだ」と強調した。ロシアへのけん制と取れる発言を、ロシアと敵対するヨーロッパ首脳に行うのは異例。ヨーロッパに寄り添う姿勢を示したといえる。

首相の訪中に合わせ、中国の航空会社は欧州エアバスとの間で、旅客機計140機の購入契約を結んだ。エアバス社は、ドイツも経営に参画している。ドイツ首相に、お土産を持たせることを忘れない。

コロナ禍で対面式の首脳会談ができなかったこともあり、中国とヨーロッパの関係はひびが入ったままだ。中国もこれを改善したいと考えている。経済的結びつきが特に強いドイツとの関係修復に乗り出すのは、そこを足がかりに、ヨーロッパがアメリカに過度に同調しないよう、G7の対中包囲の突破口を探る意味もある。

「外交の11月」は見どころが多い

一方、ショルツ首相訪中と同じ時期、ドイツのシュタインマイヤー大統領が日本を訪れ、11月1日に岸田首相と首脳会談を行った。また11月3日には、2プラス2=「外務・防衛閣僚会合」がドイツで開かれ、中国や北朝鮮をにらんで、防衛協力を深化させる方針を確認した。

また、11月中旬のG20首脳会議では、米中首脳会談が実現する。中国からすれば、国内向けには、発足したばかりの習氏の3期目政権の晴れやかな外交舞台になる。一方のアメリカは、今週行われた中間選挙の結果も、外交に影響してくるだろう。さまざまな意味において、「外交の11月」は見どころがたくさんある。

飯田和郎(いいだ・かずお) 1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。

田畑竜介 Grooooow Up
放送局:RKBラジオ
放送日時:毎週月曜~木曜 6時30分~9時00分
出演者:田畑竜介、田中みずき、飯田和郎
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EV市場に変調……アクセルをふかしはじめた日本勢への影響は?

政策アナリストの石川和男が5月19日、自身がパーソナリティを務めるニッポン放送Podcast番組「石川和男のポリシーリテラシー」に出演。米EV(電気自動車)大手テスラが、減収減益や人員削減に追い込まれるなど変調をきたすEV市場について専門家と議論。今後の日本がとるべきEV政策やメーカーの戦略について提言した。

※画像はイメージです

米EV大手テスラは4月15日、世界で従業員の10%以上を削減すると発表。同社の今年1-3月期の決算は、前年同期に比べ4年ぶりの減収減益となったほか、EVの販売台数も9%減となった。一方、安値攻勢をかける中国メーカーBYDの今年1-3月期決算は、純利益が前年同期に比べ11%増、販売台数は13%増となったものの、伸び率は減少した。

この現状について、ゲスト出演した自動車業界に詳しい経済ジャーナリスト井上久男氏は「中国では今、景気低迷を背景にした価格競争からEVの値引き販売が起きている。今年3月に中国のスマホ大手シャオミが出したEVが、かなり評判がよく、まさに走るスマホ。テスラより安い価格で市場投入してきており、中国のEV大手BYDが“シャオミ潰し”に動くなど、中国勢同士で競争が起きていて第二のEV競争が始まっている。テスラはそれに巻き込まれている」と解説した。

日本勢について井上氏は「まだ商品をほとんど出せていない。値引き競争したくてもできない。それが不幸中の幸いで、値引き競争に巻き込まれずに済んでいる」と指摘。あわせて「EVが新しいもの好きな人たちの間である程度一巡して、いわゆるキャズムのような状態になっている。充電環境の悪さや、補助金がないと高くて買えないなどの理由から、再び世界でHV(ハイブリッド車)が売れ始めている」と明かした。

一時はEVに関して出遅れが指摘された日本メーカーだが、井上氏によると「テスラやBYDが引っ張ってきた、この4年くらいのスピードが早すぎた」とのこと。井上氏が取材した大手国内自動車メーカーの経営陣は「(EVが)想定内の普及スピードに戻ってきた」と話したという。

井上氏は「中国では“賢い車”、車のスマート化が加速している。日本メーカーは中国勢に比べると、まだスマート化に関するノウハウは少ない」とも述べ、トヨタと中国SNS大手テンセント、日産と中国ウェブ検索大手バイドゥが提携したように、車のスマート化技術の強化が重要だと指摘した。

そのうえで、今後日本メーカーが世界のEV市場で勝てる価格について聞かれた井上氏は「市場によって違うと思うが、アメリカであれば補助金なしで400万円くらい(1ドル150円程度を想定)のEVを出せば売れると思う」と述べる一方、「日本国内では150万円くらいだと思う。国内は軽自動車が中心のマーケットになっていて、可処分所得も伸びず、高齢者も増えるなかで国民の足となっている。地方に行けば一人一台。ガソリンスタンドも減少する中、軽自動車のEVでもう少し安いものが出れば爆発的に売れると思う」との見通しを示した。

最後に石川は「(今のEV価格競争を)日本が傍観者として見ているのは、実はいいこと。日本メーカーは、競争を見極めたうえで売っていくことができる。最終的に日本メーカーが大事にしなければならないのは価格戦略。いいものが売れるのではなく、売れるものがいいもの。メーカーが価格戦略を立てられるよう、国も支援策をふんだんに出して、国策として日本のEVメーカーを育てていくべきだ」と持論を述べた。

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