マイナカード、トラブル続くなか利用範囲拡大…信頼回復の優先を!

マイナンバーカードに他人の保険証の情報や公金受取口座が登録されるトラブルが相次いで明らかになった中、健康保険証との一体化や、マイナンバーの利用範囲を拡大する法律の改定案が、参議院本会議で可決され、成立した。「カードは作った方が良い」と推進する立場をとる、元サンデー毎日編集長・潟永秀一郎さんも「法改正より、まず総点検」を政府に注文を付けた。RKBラジオ『立川生志 金サイト』で詳しくコメントした。

デジタル化への対応力を高める機会に

私が謝っても何の役にも立たないんですが、マイナンバーカードのトラブル多発、「カードは作った方がいい」と勧めてきた一人としてお詫びします。すみません。まさかこんなに準備不足だったとは、と驚いていますし、私も今は、健康保険証との一体化など法改正は急ぐべきじゃない、この状況でなぜ強行したんだろうと疑問を感じています。

ただ、それでも私は「行政の効率化やデジタル化のためにマイナンバー制度は必要だ」と思っています。でも、法改正より、まず総点検ですよね。この際、自治体や健保組合などカードを利用するすべての組織の末端まで、デジタル化への対応力を高める機会にすべきだと思っています。

今回のトラブルに至る、マイナンバー制度全体について簡単に総ざらいします。

まずは、マイナンバーとマイナンバーカードの違いからです。マイナンバーは、住民票がある国内の全住人に付与される12桁の番号で、これは望むと望まざるとにかかわらず、既に私たちみんなが持っています。国や市町村などの行政機関が、私が私であることを識別する番号です。これ自体はただの番号ですので、入手したからと言って、その人の個人情報にアクセスできるわけではありません。

一方、マイナンバーカードは、この番号のほか、住所、氏名、生年月日、性別などが記載された顔写真付きのカードで、パスポートや運転免許証と同じく、公的な本人証明書になります。加えて、マイナンバーカードだけに付与されたのが「電子証明機能」で、カードのICチップを使って、オンライン上でも本人証明ができるため、役所の窓口に行かなくてもコンビニで住民票が発行できたり、税務署に行かなくても自宅で確定申告の手続きができたりするわけです。

ただ、ICチップはあくまでオンライン上でこうした手続きをするための「カギ」みたいなものですから、チップに記録されているのは、カードに載っているのと同じ=住所や氏名、顔写真など=のデータのほかは、電子証明書と住民票コードだけです。カードを使って確定申告ができてもチップに納税情報が残るわけではありませんし、カードを銀行口座と紐づけても、残高などの口座情報がチップに入るわけでもありません。

対策しないままポイントキャンペーンで申請急増、ミス多発

ではなぜ、こんなにトラブルが相次ぐのでしょうか? それは、一部を除いて技術的な問題ではなく、基本的にヒューマンエラー=人的ミス=だからなんです。事例別に説明します。

システム上の問題は、コンビニで他人の住民票などが発行されたケースなどです。これは複数のコンビニでほぼ同時に交付申請された際、先に申請した人に、後の人のデータが発行されたもので、計14件ありました。登録を抹消した印鑑証明が出てきたケースも9件あって、いずれも同じ業者が開発したシステムのプログラムミスでした。

しかも、デジタル庁は3月の時点でトラブルの発生を知りながら情報を共有せず、対応したのは報道で明らかになった5月になってから。大臣も報道で知ったというお粗末さでした。

一方、7000件以上と多発しているのが、カードを健康保険証として使う「マイナ保険証」に、別人の情報が登録されていたケースです。主な原因は、健保組合が加入者情報を登録する際の入力ミスです。実は入力ミスは以前にもあって、それでマイナ保険証の本格運用が半年延期されたんですが、ちゃんと対策をしないまま、マイナポイントキャンペーンで申請が急増して、ミスも多発した――と。対策の不徹底も含めて、人為的ミスだと思います。

また、公金の受取口座を別人のマイナンバーに登録してしまった例も700件以上分かっています。こちらは役場の窓口でカードを作ってもらう際、担当者が1人の情報登録を終えたのに、終了の手続きをしないまま次の人の登録作業を始めて、情報が上書きされるというミスでした。

メガバンクでは1件でも起きれば経営が揺らぐ

民間でもこんなことが起きるのでしょうか? あるメガバンクの部長に聞いたら、「あり得ない」と言っていました。「銀行は膨大な数の口座情報を持っているが、間違って別人の口座を登録してお金をおろされたりしたら、たとえそれが1件でも経営が揺らぐような大問題になる。だから、入力は極力人為的ミスが発生しないようシステム化したうえで更新を重ね、さらにチェックは二重三重にしている。国の判断をどうこう言う立場にはないが、ミスが発生する可能性を知りながら見切り発車してチェック体制も整えないといったことは、私たちには考えられない」のだそうです。私もその通りだと思います。

さらに、これはミスではありませんが、お子さんのカードに親御さんの口座を登録するといった、本人以外の口座登録は13万件にも上って、これも2月には国税庁からの指摘で分かっていたにもかかわらず、デジタル庁は注意喚起すらしていませんでした。

どれもこれも見切り発車――。コロナ禍での給付金の支給遅れを背景に、カードの普及を急ぐあまり、トラブルの可能性には目をつぶった、としか見えません。

国民の信頼回復を優先すべき

結果、2016年に始まったマイナンバーカードの普及率は、この5年で10倍近くになり、今年5月現在でおよそ8割、1億枚目前の9700万枚に達しました。でも、ここでカードへの信頼を失えば、ポイントがもらえると分かっていても「信用できない」と作ってこなかった残り2割の方々は、いよいよ作らないでしょう。

また、カードを持っている人でも銀行口座との紐づけはまだ半数ほどにとどまっていて、これも足踏みするでしょう。ならば、と強引に法改正して、来年秋には現在の健康保険証を原則廃止してまでカードの普及を図る、というのはおかしいと、カード普及派の私も思います。

以前も言いましたが、私は国際的に立ち遅れている日本の行政のデジタル化は急ぐべきだし、その手段の一つとしてマイナンバー制度とカードの役割は大きいと思っています。個人的にも、コンビニでの住民票交付や自宅での確定申告のほか、コロナワクチンの接種証明書の電子交付でも使っていますし、カードの利用範囲が広がって、引っ越し先での自動車の登録やパスポートの更新などもオンラインでできるようになるのも助かります。

ただ、最大2万円分のマイナポイント付与で一気にカード登録を進めながら、起こり得るミスの可能性や、その報告まで目をつぶってきたやり方と、登録などの実務を担う人たちへのサポートや教育が不十分だったことは、大いに反省すべきです。

本来なら、その総点検と、ミスが起こりにくいシステムへの改善やチェック体制の強化に目途を立ててから法改正するのが筋ですし、市町村など現場レベルでのデジタル人材の育成や配置も不十分です。

順番は逆になりましたが、これら課題に政府を挙げて取り組んで、それでも来年秋までに間に合わなければ、マイナ保険証への一本化は先送りしてでも、マイナンバー制度への国民の信頼回復を優先すべきだと、私は思います。それが、遠回りに見えても、「行政のデジタル化推進」という大目標への近道だと思うからです。

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元サンデー毎日編集長・潟永秀一郎さん

◎潟永秀一郎(がたなが・しゅういちろう)

1961年生まれ。85年に毎日新聞入社。北九州や福岡など福岡県内での記者経験が長く、生活報道部(東京)、長崎支局長などを経てサンデー毎日編集長。取材は事件や災害から、暮らし、芸能など幅広く、テレビ出演多数。毎日新聞の公式キャラクター「なるほドリ」の命名者。

立川生志 金サイト
放送局:RKBラジオ
放送日時:毎週金曜 6時30分~10時00分
出演者:立川生志、田中みずき、潟永秀一郎
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※放送情報は変更となる場合があります。

「中小規模の病院」の力になるために…株式会社ヘンリーが開発したクラウド型電子カルテ「Henry」とは?

笹川友里がパーソナリティをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「DIGITAL VORN Future Pix」(毎週土曜 20:00~20:30)。この番組では、デジタルシーンのフロントランナーをゲストに迎え、私たちを待ち受ける未来の社会について話を伺っていきます。2月24日(土)の放送は、株式会社ヘンリー 共同CEOの林太郎(はやし・たろう)さんをゲストに迎えて、お届けしました。


(左から)笹川友里、林太郎さん


林さんは、一橋大学卒業後、ロンドン大学東洋アフリカ研究学院(SOAS)に留学。学生時代は、アフリカで日本の中古重機をレンタルする新鋭スタートアップで現地リーダーとして活躍。楽天株式会社入社後、楽天カード全体のSEOマーケティング業務や、楽天市場・楽天カードのビッグデータの分析などを担当、2018年に株式会社ヘンリーを起業しました。

◆“医療現場のデジタル化”を目指す

はじめに、ヘンリーが提供している病院向けのクラウド一体型電子カルテ「Henry」について、「『電子カルテ』『オーダリングシステム(医師の指示を各部署にコンピューターで伝達するシステム)』『レセプトコンピューター(診療報酬明細書を作成するコンピューターシステム)』の3つが一体となったクラウド型のシステムで、病院向けに販売しているのは、日本で弊社だけです。クラウドで使えることによって、他にはない大きなメリットが提供できます」と林さん。

これまでの医療システムは、それぞれ別のシステムでそれらを“つなぐ”前提で作られているものが多いのですが、「我々は最後発で作ったこともあり、それらをすべて同じシステムで管理できるように作ってあるところが特徴です。また、紙を使わなくても情報共有ができるシステムを構築しているところもメリットかなと思います」と強調します。

林さんによると、医療業界では長らく“セキュリティ上、医療情報システムはインターネットにつないではいけない”といった制限があったため、「例えば、お医者さんが自宅でカルテを確認するとか、何か緊急の事態があったときに“患者さんの情報を伝える術がない”というようなことがありました。それをクラウドシステムで共有化することにより、自宅で“患者さんが急変した”という情報を具体的に確認した状態で病院に向かえる、というメリットもあります」と話します。

続けて「医療の現場は、すごく情報が多い世界なので、実際にはもっと共有したい情報がたくさんあると思うんですけど、我々の目標としては、この先3~5年のあいだにクラウドのシステムを通して、お薬の情報だけではなく、患者さんの情報の細かいところまで、医療機関や自治体と共有し合える世界を構築できればと思っています」と力を込めます。

◆中小規模の病院向けに特化している理由

「Henry」は中小規模の病院に向けたサービスとして特化していますが、その理由について、「大きな病院では電子カルテの普及率がかなり高くて、おそらく9割以上の病院が導入していますが、中小規模の病院の普及率はまだ50%ぐらいで、残り約半分の病院は紙のカルテを使っています。その大きな理由として、例えば、病院内にサーバーがあって、インターネットとつながない従来型のシステム『オンプレミス』(自社でサーバーを所有・管理)を導入したくても、“価格が高額なために買えない”という病院が今でも多く存在しています」と林さん。

そうした中小規模の病院が抱えている課題を解決するべく、「“クラウドで安価かつスムーズに導入できるシステムを作りたい”という思いで、我々は初めから中小規模の病院に特化して作ったという背景があります」と話します。

そして、「Henry」の今後の展望については、「電子カルテ、オーダリングシステム、レセプトコンピューターはそれぞれ難しいシステムなので、(サービスを導入していただく)病院がより使いやすくなるように、機能を改善していくことが必要になってくると思います」と課題点を挙げます。

そうした部分を一つひとつ解決していき、「より使いやすく、しかも安価で情報共有しやすい電子カルテができれば、今まで電子カルテに踏み切れなかった病院に対しても、自信を持って提供できると思いますので、まずは我々のシステムを使って“業務が改善した”“情報共有ができるようになった”といった事例をどんどん作っていきたい」と力を込めていました。

次回3月2日(土)の放送も、引き続き、林さんをゲストに迎えてお届けします。林さんが思い描く“近未来の医療現場の風景”についてなど、貴重な話が聴けるかも!?

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2月24日放送分より(radiko.jpのタイムフリー)
聴取期限 2024年3月3日(日) AM 4:59 まで
※放送エリア外の方は、プレミアム会員の登録でご利用いただけます。

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<番組概要>
番組名:DIGITAL VORN Future Pix
放送日時:毎週土曜 20:00~20:30
パーソナリティ:笹川友里

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