松尾潔「声を上げ、それを許容する社会に」新著に込めた思い語る

音楽プロデューサー・松尾潔氏

音楽プロデューサー・松尾潔さんの新著「おれの歌を止めるな ジャニーズ問題とエンターテインメントの未来」が今月発売された。コメンテーターを務めるRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』での発言と、それによって所属事務所から契約を解除されるにいたった真相などが綴られている。そこに込めた思いを、1月22日に出演した同番組で語った。

番組でジャニーズ事務所の謝罪動画について発言

新著「おれの歌を止めるな ジャニーズ問題とエンターテイメントの未来」が講談社から1月11日に発売されました。この番組の中で話したことに多くのページが割かれていて、何度も田畑竜介アナウンサーの名前と、この番組のタイトルが出てきます。

僕が番組で話したことは毎週、RKBのスタッフの手で書き起こされて記事化され、それがヤフーニュースなどにも掲載されています。だから、今こうやって話していることが、全世界に発信されているということになります。

その影響の大きさに気づかされる出来事がいくつかありました。その筆頭が昨年5月のことです。のちに「ジャニーズ性加害問題」として繰り返し報じられることになった件で、当時ジャニーズ事務所のトップだった藤島ジュリーさんが謝罪動画を公開したことがありました。そのことについてこの番組で「それでは不十分ではないだろうか」とコメントしました。

それは、ジャニーズというカルチャーを全面的に否定したわけではなく、音楽プロデューサーとしてジャニーズに関わってきた自分自身のキャリアを踏まえて「才能あるタレントを守るためにも、こうしましょうよジェリーさん、こうしましょうよジャニーズ事務所さん」と呼びかけたつもりだったんです。

けれども、それが大変な反響を呼び、さらに記事がネットニュースで拡散されたことで、東京の音楽業界でもざわつきました。

事務所から契約を解除される

当時僕が所属していたのは、スマイルカンパニーという音楽事務所でした。山下達郎さん、竹内まりやさんを擁することで知られている事務所ですが、ここがジャニーズ事務所とも深い関わりがありました。僕はそういうことを特に認識しないまま、居心地がよかったので15年ほど所属していました。

会社の経営陣とも良好な関係でしたが、先ほどの発言後、社長から呼び出しを受けました。そこで「ジャニーズについて、あるいは藤島さんについて口を開くのは控えてほしい」「それができないようであれば、この事務所を辞めてもらうしかない」と言われ、契約期間途中での解除を申し渡されたんです。

僕はその場で社長に「達郎さん、まりやさんの意向も確認してください」と言いました。達郎さんとは、事務所に入る前から親交があり、事務所へも達郎さんに誘われて所属したからです。しばらくして「二人も松尾さんが辞めることに賛成されています」と連絡がありました。

「音楽も社会も政治も同じ口で語ろう」

山下達郎さんって、僕が福岡で少年時代を過ごしていたときからヒーローとして崇めていた方で、芸能界からも距離を置いているミュージシャンの代表のように見えていました。それなのに、どうしてジャニーズ事務所に対して気を遣った言動をする人になってしまったのだろうかと、いろいろ考えをめぐらせました。

その結果、達郎さんが悪いとか、ジャニーズ事務所が悪いとかではなく、そういったシステムを良しとしている人たちが、この国の芸能界を動かしてきたんだと。もっというと、その芸能界のあり方が、不動のシステムであるかのようにガチガチに固められて回っているんだという考えに至りました。そんな芸能界が存在する日本社会のあり方そのものも考えました。

でも僕がこういう話をすると必ず「音楽プロデューサーは音楽のことだけやってろ」と言う人がたくさん出てきます。今日も出てくるかもしれません。「いやいや、音楽も芸能も社会も政治も地続きじゃん。同じ口で言いましょうよ」という提案も当時、この番組で語り、あるいは別の媒体で文章にしました。

もちろん、僕はいつもこういう話ばかりしているわけではないし、この番組を毎週聴いている方にとっては「松尾さん、こういう話をするときもあるんだな」ぐらいの感じだと思うんです。

でも、たとえば5回のうち1回、音楽プロデューサーが社会や政治のことについて触れると、「あいつはもう音楽を捨てて、政治のことばかり言っている」という印象を与えるものなんだと痛感しました。そしてその口封じをさせたいという気持ちになる方がたくさんいることも、この1年で身をもって体験しました。そういったことを忌憚なく綴ったのが「おれの歌を止めるな」です。

声を上げる。そしてそれを許容する社会に

僕はこの本で問題の解決ができるなんて、もちろん思っていません。批判だけをしているのではなく、批判的提言、すなわち「こういう意見ありますけど、皆さんどうですか」という呼びかけの書です。

声を上げても今のガチガチのシステムが変わらないんだ、という無力感を、子供たちに与えたくないんです。不動のもの、岩盤的なものと思っていたものが、実はほんの少し前に権力を持つ立場の人たちによって与えられたフィクションだということが、わずか何年間かでわからなくなります。

だから、常に疑いを持ってほしい。こういう言い方をすると、けしかけているような、煽動しているような印象を与えるかもしれませんが、この視点を持つことは、人として当然のことだと思っています。

今、自分が置かれている状況が、まるで神様に与えられたものであるかのように信じ込むことは本当に恐ろしいし、御しやすい人になってしまうという意味では、権力を行使する人たちにとって、こんなに好都合なことはありません。だから疑問を持ったときに声を上げて、さらにそれを許容する寛容な社会を目指しましょう、と僕は言いたいんです。

「おれの歌を止めるな ジャニーズ問題とエンターテインメントの未来」

田畑竜介 Grooooow Up
放送局:RKBラジオ
放送日時:毎週月曜~木曜 6時30分~9時00分
出演者:田畑竜介、橋本由紀、松尾潔
番組ホームページ
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補欠選挙の結果を分析。「保守王国」と呼ばれる島根に変化が?

4月29日「長野智子アップデート」(文化放送)、午後4時台「ニュースアップデート」のコーナーでは政治ジャーナリストの角谷浩一さんに、4月28日に行われた補欠選挙の結果を解説してもらった。この記事では島根1区に関する部分をピックアップする。

長野智子「選挙区ごとに分析などいただければと思います。まずは唯一の与野党対決となった島根1区です」

角谷浩一「亀井(亜紀子)さんは一度現職もやられていたので返り咲きということになりますが、島根が『保守王国』といわれますよね。1区はずっと細田(博之)前衆議院議長が地盤を守っていて」

長野「小選挙区制度の導入以降、ずーっと。勝ち続けた」

角谷「2区は、もう亡くなりましたけど竹下亘さんがずっと議席を持っていた。つまり保守王国というより、細田さんと竹下さんがずっとやっていたと。ある意味で当たり前だった。それがお二人ともご存命でなくなって、時代が変わってきて、新しい人が。それも自民党の人が引き継ぐものだと思っていたら、こんなことに、と。細田さんがお亡くなりになったための選挙ということで、自民党も候補者を立てました」

長野「はい」

角谷「ただ細田さんは(旧)統一教会との関係が取り沙汰されたり、じつはセクハラ問題というのがあったり。それに安倍派を細田さんはずっと守っていた、ということも。いま問題になっていることを全部抱えていた、みたいな問題があった。お亡くなりになったので自民党は候補者を立てたけど、そんなに簡単ではなかった、ということ」

長野「きちんと説明されないまま、亡くなられてしまったわけですね」

角谷「今回負けたけど、次はもう有権者は自民党に帰ってくる、という声も地元にはあるんだと思います。今回も県会議員がほとんど動かなかった、という話もありました。一方で世論調査、事前のいろんな調査ではかなり引き離されていて、亀井さんが強かった。でも(岸田文雄)総理は2度入ったんですね。最後の土曜にも入られると。総理が最後に入るのは、逆転できそうなとき、というのが不文律でした。数字の差が既にあるのに、総理は入った」

長野「はい」

角谷「これは岸田さんの独特なやり方というかな。突然、政倫審に出ると言う、派閥を解散すると言う……。岸田さんは誰かと相談して揉んで決めるというよりは、直感的に決められるんですね。島根1区は自民党が唯一出していたところだから、小渕(優子)選対委員長はずっと張り付いていました。国会開会中でしたけど、ずっと」

長野「はい」

角谷「岸田さんは2度も入った。茂木(敏充)幹事長は入らなかったんですね」

長野「それはなぜですか?」

鈴木純子(文化放送アナウンサー)「岸田さんとの仲が微妙だという話も……」

角谷「ただ選挙に勝てば微妙どころか、戦うところで『茂木さん、よくやった』となりますよ。一生懸命、入らなかったというのは、幹事長自らが諦めていたんじゃないだろうか、とか。もっと言うと第一声。泉健太立憲民主党代表は、初日に島根で第一声、声を上げているんですね。ところが茂木さんは行かなかったと」

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