松尾潔「勇気ある告発に失望感を与えないで」匿名の誹謗中傷に警鐘

音楽プロデューサー・松尾潔氏

元タレントでフードコーディネーターの大塚里香さんが、週刊文春で18年前の松本人志さんとの宴席で性被害を受けたとの主張を実名告発した件で、SNS上では心ない誹謗中傷が相次いでいる。音楽プロデューサー・松尾潔さんは1月29日に出演したRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で「勇気ある告発に失望感を与えないで」と匿名による誹謗中傷に警鐘を鳴らした。

実名・顔出しの大塚里香さんに対する誹謗中傷

2023年の暮れに飛び込んできたダウンタウン・松本人志さんの性加害疑惑は、芸能界のみならずメディア全体を揺るがすような大きなニュースでした。ほぼ1か月が経って、僕がきょう話したいのは、週刊文春に実名・顔出しで被害を訴えた元タレントの大塚里香さんに対して、主にSNSで心ないコメントや誹謗中傷が相次いでいるということについてです。

この図式は既視感があります。言うまでもなく、昨年のジャニーズの性加害問題のときにも見られたことです。

ファンの反応と心理

実名で訴えた人に対して、ネット上で匿名の人たちが、俗にセカンドドレイプと言われているような行動をとってしまっています。どういう心理でそういうことをやってしまうのか、というところから考えなければいけません。

(事務所の創業者が加害者だった)ジャニーズ問題の場合は、ファンの人たちが自分のお気に入りのタレントにこれまで通りの活動を続けて欲しいから、という気持ちが余ってのことだと推察できます。しかし、今回の松本さんの場合、よくネットで見られるのは「私達の松ちゃんを返せ」みたいな、ファンというより身内に近いようなスタンスです。

それぐらい松本さんは、ある世代以上の人にとっては長きにわたって、しかも深いところで「日常の一部」になっているような気がします。これだけ高いところで、しかも長期にわたって人気を維持している例は、戦後の芸能史でもそうないんじゃないでしょうか。

松本さんはもう60歳。いったい何歳のときからスターだったんだろう? と今回の一件をきっかけに考えてしまいます。しかも、一度もスターの座から転落していません。非常に希有な存在のテレビスターですよね。

自分自身のお笑い感だけではなく、物の見方とか価値観に大きな影響を与えた「恩人」だと思っている人もたくさんいます。そんな人の名誉が失墜しようとしているのを見て、いたたまれない気持ちになるのでしょう。場合によっては自分の思春期や青春を傷つけられたような気分になるのかもしれません。

もちろん中には「我らの英雄・松ちゃん、なんてことしてくれたんだ」「あんなにあなたの芸に対して、心から笑い、心から救われた思いになったあの時間を返せ」って言っている方もいます。僕からすると、そういう気持ちの方がまだまっとうに感じるのですが。

一部の人の鋭角的な気持ちの行く先が被害者に向かい、心無い言葉を浴びせる。大塚里香さんも実名・顔出しされたということは、そんな事態をある程度は予想していただろうし、その覚悟を持っての行動だったと思うんです。ですが、その度が過ぎているということで、弁護士と協議の上で法的措置を講じていくという発表もされています。

「言論の力」使い方を間違えないで

僕が言いたいのは、シンプルに「もうやめましょう」ということ。大塚里香さんだけでなく、この後も実名で証言する人が出てくるかもしれません。匿名だと「虚偽じゃないか。言っていることを信じられるか」と言われ、実名になった途端、今度は「売名だ」って言われる。

「もうとにかくうざいよ。そんな絡み方やめなさいよ」と言いたいです。しかしだからといって「静かにしなさい」というような、僕自身が言われて一番嫌な表現を、ここで口にするつもりはありません。もし言論の力を信じるのであれば、そういう個人攻撃という力の向け方はやめてほしいと思います。

権力犯罪につながりかねない閉鎖空間

松本さんと何があったのか、という事実関係に関しては、まだまだブラックボックスなので、慎重にならなければなりません。けれども、どうもこれは彼一人の問題だけではなく、その周辺の芸人、さらにそのシステムを知りながらも放置していたといわれている吉本興業、あるいはその他の関係者たちの長年にわたる組織的な性加害があったのではないかという疑いが大変濃厚になってきています。

これはもはや社会問題だと言っていいと思います。ジャニーズ問題と今回の問題の間にも、宝塚や歌舞伎、日大の問題もありました。いわゆる老舗とされるところは、どうしても権威が可視化された閉鎖的な空間になっています。そんな空間でのコミュニケーションは、上から下へ、高いところから低いところへ一方的に、ダーッとすごい圧で水が落ちてくるような形になってしまうことが多いんです。それが権力犯罪の温床になってしまっているのだと思います。

勇気ある告発に失望感を与えてはならない

今回の問題の本質は人権の話だと僕は思います。性の問題だとか「売名だ」とかで、本質が矮小化してしまうのも非常に危惧しています。勇気を持って告発しても「こんな目に遭ってしまうんだったら」と、先回りしたところで失望感を与えるようなことを、第三者がしてはいけません。

そして、被害に遭ったかもしれない人たちが声を上げられないだけではなく、こういうやり取りを見ている子供たちに「この国で勇気を持って名前を出して声を上げるのは、リスクばかりだ」という諦めの気持ちを与えるのはもうやめましょう。

田畑竜介 Grooooow Up
放送局:RKBラジオ
放送日時:毎週月曜~木曜 6時30分~9時00分
出演者:田畑竜介、橋本由紀、松尾潔
番組ホームページ
公式Twitter

出演番組をラジコで聴く

※放送情報は変更となる場合があります。

補欠選挙の結果を分析。「保守王国」と呼ばれる島根に変化が?

4月29日「長野智子アップデート」(文化放送)、午後4時台「ニュースアップデート」のコーナーでは政治ジャーナリストの角谷浩一さんに、4月28日に行われた補欠選挙の結果を解説してもらった。この記事では島根1区に関する部分をピックアップする。

長野智子「選挙区ごとに分析などいただければと思います。まずは唯一の与野党対決となった島根1区です」

角谷浩一「亀井(亜紀子)さんは一度現職もやられていたので返り咲きということになりますが、島根が『保守王国』といわれますよね。1区はずっと細田(博之)前衆議院議長が地盤を守っていて」

長野「小選挙区制度の導入以降、ずーっと。勝ち続けた」

角谷「2区は、もう亡くなりましたけど竹下亘さんがずっと議席を持っていた。つまり保守王国というより、細田さんと竹下さんがずっとやっていたと。ある意味で当たり前だった。それがお二人ともご存命でなくなって、時代が変わってきて、新しい人が。それも自民党の人が引き継ぐものだと思っていたら、こんなことに、と。細田さんがお亡くなりになったための選挙ということで、自民党も候補者を立てました」

長野「はい」

角谷「ただ細田さんは(旧)統一教会との関係が取り沙汰されたり、じつはセクハラ問題というのがあったり。それに安倍派を細田さんはずっと守っていた、ということも。いま問題になっていることを全部抱えていた、みたいな問題があった。お亡くなりになったので自民党は候補者を立てたけど、そんなに簡単ではなかった、ということ」

長野「きちんと説明されないまま、亡くなられてしまったわけですね」

角谷「今回負けたけど、次はもう有権者は自民党に帰ってくる、という声も地元にはあるんだと思います。今回も県会議員がほとんど動かなかった、という話もありました。一方で世論調査、事前のいろんな調査ではかなり引き離されていて、亀井さんが強かった。でも(岸田文雄)総理は2度入ったんですね。最後の土曜にも入られると。総理が最後に入るのは、逆転できそうなとき、というのが不文律でした。数字の差が既にあるのに、総理は入った」

長野「はい」

角谷「これは岸田さんの独特なやり方というかな。突然、政倫審に出ると言う、派閥を解散すると言う……。岸田さんは誰かと相談して揉んで決めるというよりは、直感的に決められるんですね。島根1区は自民党が唯一出していたところだから、小渕(優子)選対委員長はずっと張り付いていました。国会開会中でしたけど、ずっと」

長野「はい」

角谷「岸田さんは2度も入った。茂木(敏充)幹事長は入らなかったんですね」

長野「それはなぜですか?」

鈴木純子(文化放送アナウンサー)「岸田さんとの仲が微妙だという話も……」

角谷「ただ選挙に勝てば微妙どころか、戦うところで『茂木さん、よくやった』となりますよ。一生懸命、入らなかったというのは、幹事長自らが諦めていたんじゃないだろうか、とか。もっと言うと第一声。泉健太立憲民主党代表は、初日に島根で第一声、声を上げているんですね。ところが茂木さんは行かなかったと」

Facebook

ページトップへ