松尾潔・BBC『捕食者の影』の東山紀之社長の言葉に「耳を疑う」と苦言

3月30日、ジャニーズ性加害問題を報じた昨年のイギリスBBCの番組『J-POPの捕食者』の続編が放送された。この問題について早くからメディアでコメントしている、音楽プロデューサー・松尾潔さんは、4月1日に出演したRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で、この続編でインタビューに応じたSMILE-UP.の東山紀之社長の言葉に「耳を疑う」と、苦言を呈した。

BBCが『J-POPの捕食者』の続編を放送

3月30日、イギリスBBC放送が、旧ジャニーズ性加害問題を告発した『J-POPの捕食者 秘められたスキャンダル』の続編『捕食者の影 ジャニーズ解体のその後』を放送しました。

1年前『J-POPの捕食者』が放送された直後に、僕もこの番組でコメントをしました。それがきっかけで、旧ジャニーズ事務所と近い関係にあるスマイルカンパニーとのマネジメント契約が、不本意ながら終わりました。ただ、その後も提言を続けてきたので、僕としてはリスナーの皆さんと一緒にこの問題について考えてきたという自負もあります。

今回、BBCは続編『捕食者の影』で、被害者への補償を担当するSMILE-UP.の東山紀之社長がインタビューに応じています。昨年秋の記者会見以来となる公の場での発言でした。聞き手は、前回もドキュメンタリーの語り手になったBBCのモビーン・アザー記者です。

番組は30分足らず。いくつかの構成に分かれていて、その大半が東山社長のインタビューに割かれていました。その番組の中で収まりきれなかった部分も含めて今、YouTubeで30分以上の動画を見ることができます。

被害者救済より身内の心配?

僕は今回の番組を見て、大きく3つのことが気になりました。

まずは東山氏の、社長としてのスタンスです。BBCの編集にどれほどの意図があったのか、発言は時系列に沿ったものなのかどうかは分かりません。ですから、あくまでも一視聴者の立場から言いますが、「SMILE-UP.の責任者を務めることについて社会は信用しているか、あるいは信用すべきだと思いますか」と訊かれて「(責任者は)僕しかいない。(旧ジャニーズの)タレントやスタッフを路頭に迷わすわけにはいかない」と即答するところに、違和感がありました。被害者補償に特化した新会社のトップにまず求められるのは、当然ながら被害者を救済したいという強い意思と専門知識、社会常識であるはずです。アザー記者が東山氏に一般的な意味での企業トップのリーダーシップや心構えを問うているわけではないことは明白。ここでは何をおいても「被害者救済」を熱く語ってほしかったです。

東山氏は、2月に行われたこのインタビュー当時、被害申告をした約1000人のうち、200人近くと面会をしたと話していました。一方で、自分には社会福祉士としての資格もなく、カウンセリングを行うための正式な訓練を受けた経験はないことも正直に認めています。にもかかわらず「僕が聞くことで少しでも心が癒されれば、それが自分の役割」と平然と言える人なんですね。「こんな僕には話しづらいこともあるでしょうが」という発想にはならないのかなという違和感を抱いてしまいます。

「性加害をしたスタッフの通報は考えない」

次に僕が気になったのは、旧事務所スタッフの性加害です。故ジャニー喜多川氏以外にも、スタッフ2人による性加害があったことを認めました。これに関して「名前を公表したり警察に報告したりすることは積極的には考えていない」と言い切っています。一方で「被害者が告訴すれば、自分たちも警察に情報提供します」と述べています。

2017年に、強制わいせつ罪などの性犯罪が、それまでの親告罪から非親告罪になりました。つまり、被害者自身の告訴が必要だったものが、刑法の改正によって不要となったわけです。もしかして、東山社長にはその認識がないのではないでしょうか。これは明らかな失言に聞こえましたし、逆に何らかの意図があるのだろうかと深読みしたくなるほどです。

「誹謗中傷」も言論の自由?

もうひとつは「誹謗中傷」です。メディアに名乗り出た被害者に対して、誹謗中傷が甚だしく、中にはそれを苦にして自ら命を絶った方もいました。その家族のことも番組では報じられ、アザー記者は東山社長に「このことをどう思いますか」と質問したんです。

その答えに僕は耳を疑いました。「言論の自由というものもある」と言うのです。「別に誹謗中傷を推奨しているわけでもないけれど、その人にとっては正義の意見なんだろうなと思うときもある」と。

念頭に「組織防衛」があると思えてならない

「東山社長の心の中をきちんと見てみたい」という、モヤっとする気持ちが湧いてしまうドキュメンタリーでした。大きく3つの点が印象に残ったという話をしましたが、僕が最も気になったのは「誹謗中傷」についてです。

誹謗中傷を受けて自ら命を絶った被害者のことを踏まえて、BBCの記者から誹謗中傷する人への認識を問われたのに対し、東山氏は「言論の自由もある」「その人にとっては正義の意見」と答えています。

これは「被害者を名乗る人の中には偽者もいるから注意しましょう」と言っているに等しい。旧ジャニーズ事務所がホームページ(現在は閉鎖)で「被害者でない可能性が高い方々が、本当の被害者の方々の証言を使って虚偽の話をされているケースが複数あるという情報にも接している」と注意喚起を呼びかけていたことを思わせます。

たしかに、そういうこともあるのかもしれません。いや、きっとあるんでしょう。1000人もの人から連絡があれば、いたずらのような人たちも含まれているのだろうとは思います。ただ、被害者への補償を前面に出している会社で、「人生を賭けて」とまで言ってトップに就任した人物の言葉として、「軽いな」と僕は思いました。

東山氏の頭の中は、真っ先に被害者の救済、というのではなく、旧ジャニーズ事務所の「組織防衛」というのが、まず念頭にあるように思えてなりません。

空疎さに「何を見せられているんだろう」

リスナーの中には「またBBCか」「日本のメディアはどうなっているんだ」という意見を持っている人もいるでしょう。でも、僕が聞いたところによると、日本のメディアも再三取材の申し込みをしていて、SMILE-UP.側が全て断っているようです。

では、なぜBBCの取材は断らなかったのか? 推測ですが、1年前の『J-POPの捕食者』で「BBCの記者が事務所を訪れて、門前払いを受ける」というシーンが流されていて、「今回もまたそこを撮影されるよりは」ということで受けることになったのかもしれないですね。

ただ、東山氏の話しぶりが、組織のトップとしては考えられないくらい緩く、ともすれば牧歌的で、「弁護士は立ち会っていなかったのか」という素朴な疑問が浮かぶぐらいでした。

しかも、誰もが知るあの声で語るので「すごくいい音の出る楽器で、つまらないメロディーを奏でるミュージシャン」みたいな空疎さもあり、「僕は今、何を見せられているのだろう」とすら思いました。

話しぶりは時代劇のような重々しい雰囲気なのに、話の内容が論理として脆弱すぎて「あぁ、こういう人をトップに戴く組織だから、いろんなことが起きてしまったんだな」と妙な説得力ありました。皮肉を込めて言っていますが。

次は日本のメディアの前で話を

誹謗中傷に関して付け加えますが、3月25日に、元「忍者」のメンバーだった志賀泰伸さんをSNSで誹謗中傷したとして、高松区検が高松市内の58歳の人を侮辱罪で高松簡裁に略式起訴していたことが明らかになりました。この一件からもわかるように、明らかな誹謗中傷は、言論の自由とは違うものです。

今さら言うまでもないことですが、言論の自由は憲法で保障されています。憲法は、我々が自由に生きていけるための後ろ盾となるもので、その精神を踏まえて、ことの大小にかかわらず悪事を取り締まるものは、法律です。(憲法と違って)法律は柔軟に変わっていくべきものです。だからこそ、2017年に性犯罪の非親告罪化が実現したわけです。

そういった、基本中の基本を心得ていない人物をトップに頂く組織は大丈夫なのかと心配になります。一方でこの4月と、3か月後の7月とで、旧ジャニーズのタレントがメインを張るテレビ新番組が、合わせて10本近くスタートすると聞いています。

日本のメディアは、またもやイギリスBBCから大きなものを突きつけられたと感じました。東山社長は、次こそは日本のメディアに対してつまびらかに語る、そういう局面にあると思います。それを待っています。

田畑竜介 Grooooow Up
放送局:RKBラジオ
放送日時:毎週月曜~木曜 6時30分~9時00分
出演者:田畑竜介、橋本由紀、松尾潔
番組ホームページ
公式Twitter

出演番組をラジコで聴く

※放送情報は変更となる場合があります。

補欠選挙の結果を分析。「保守王国」と呼ばれる島根に変化が?

4月29日「長野智子アップデート」(文化放送)、午後4時台「ニュースアップデート」のコーナーでは政治ジャーナリストの角谷浩一さんに、4月28日に行われた補欠選挙の結果を解説してもらった。この記事では島根1区に関する部分をピックアップする。

長野智子「選挙区ごとに分析などいただければと思います。まずは唯一の与野党対決となった島根1区です」

角谷浩一「亀井(亜紀子)さんは一度現職もやられていたので返り咲きということになりますが、島根が『保守王国』といわれますよね。1区はずっと細田(博之)前衆議院議長が地盤を守っていて」

長野「小選挙区制度の導入以降、ずーっと。勝ち続けた」

角谷「2区は、もう亡くなりましたけど竹下亘さんがずっと議席を持っていた。つまり保守王国というより、細田さんと竹下さんがずっとやっていたと。ある意味で当たり前だった。それがお二人ともご存命でなくなって、時代が変わってきて、新しい人が。それも自民党の人が引き継ぐものだと思っていたら、こんなことに、と。細田さんがお亡くなりになったための選挙ということで、自民党も候補者を立てました」

長野「はい」

角谷「ただ細田さんは(旧)統一教会との関係が取り沙汰されたり、じつはセクハラ問題というのがあったり。それに安倍派を細田さんはずっと守っていた、ということも。いま問題になっていることを全部抱えていた、みたいな問題があった。お亡くなりになったので自民党は候補者を立てたけど、そんなに簡単ではなかった、ということ」

長野「きちんと説明されないまま、亡くなられてしまったわけですね」

角谷「今回負けたけど、次はもう有権者は自民党に帰ってくる、という声も地元にはあるんだと思います。今回も県会議員がほとんど動かなかった、という話もありました。一方で世論調査、事前のいろんな調査ではかなり引き離されていて、亀井さんが強かった。でも(岸田文雄)総理は2度入ったんですね。最後の土曜にも入られると。総理が最後に入るのは、逆転できそうなとき、というのが不文律でした。数字の差が既にあるのに、総理は入った」

長野「はい」

角谷「これは岸田さんの独特なやり方というかな。突然、政倫審に出ると言う、派閥を解散すると言う……。岸田さんは誰かと相談して揉んで決めるというよりは、直感的に決められるんですね。島根1区は自民党が唯一出していたところだから、小渕(優子)選対委員長はずっと張り付いていました。国会開会中でしたけど、ずっと」

長野「はい」

角谷「岸田さんは2度も入った。茂木(敏充)幹事長は入らなかったんですね」

長野「それはなぜですか?」

鈴木純子(文化放送アナウンサー)「岸田さんとの仲が微妙だという話も……」

角谷「ただ選挙に勝てば微妙どころか、戦うところで『茂木さん、よくやった』となりますよ。一生懸命、入らなかったというのは、幹事長自らが諦めていたんじゃないだろうか、とか。もっと言うと第一声。泉健太立憲民主党代表は、初日に島根で第一声、声を上げているんですね。ところが茂木さんは行かなかったと」

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