松尾潔“世界のサカモト”を悼む「僕たちは坂本龍一の時代に生きている」

音楽プロデューサー・松尾潔氏

世界的音楽家・坂本龍一さんが3月28日に亡くなっていたことが明らかになった。YMOや映画音楽での輝かしい功績に加え、脱原発、非核を訴えるなど社会活動にも力を入れていた“教授”。「坂本龍一の時代」に思春期を過ごした音楽プロデューサー・松尾潔さんが4月3日に出演したRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で“世界のサカモト”を悼んだ。

坂本龍一とビートたけしの時代を生きた

きのう(4月2日)坂本龍一さんの訃報が入ってきました。僕は音楽業界に身を置いているから、同じ場に居合わせたことはありますが、坂本さんと個人的な面識があったわけではありません。(娘の)美雨さんとは一緒に仕事をしたことがあります。

僕自身、ちょっとへそ曲がりなところがあって「坂本さん世代の力を借りずに仕事をしたい」と、反骨精神めいたものがあって、坂本さんの作品や仕事から身を遠ざけていたようなところもあります。まぁ、そう言っている時点で、坂本さん世代の人たちを意識しすぎなんですが。

一方で、小学校から中学・高校、思春期に触れていた音楽は「坂本龍一の時代」というものから逃れられなくて、大きな影響を受けていますし、それを無意識のうちに浸透していたんじゃないでしょうか。「戦場のメリークリスマス」も、僕は映画の封切りのときに見ましたし。

当時住んでいた福岡市内の映画館で“戦メリ”を観たことは、今でも自分の人生を変えた映画体験の一つとしてよく覚えています。もう「坂本龍一とビートたけしの時代」を生きたことは間違いないんだなって。

インストゥルメンタルミュージシャンの“言葉”

教授の存在を最初に認識するようになったのは、YMOとしての顕著な活躍でした。でも、その後は教授の名前が前面に出ていないもの、例えば矢野顕子さんの作品や、山下達郎さんの作品にキーボード奏者として参加していたこと、あるいはサーカスの「アメリカン・フィーリング」をはじめとする歌謡曲、ポップスの名アレンジャーとしても注目していました。

いろんな職業作曲家、職業音楽家がたくさんいる中で、坂本さんがアーティスト性と作家性をどんどん高めていったということは、坂本さんのメディア戦略がすごく長けていたからだろうということは、今になって思います。

もっとも、彼は作曲家でありピアニストであり、編曲家でもあるけれど、たまにボーカル取ることはあるにせよ、歌い手ではありません。でも、抽象画ほどタイトルの付け方が重要であるのと同じように、インストゥルメンタルミュージシャンほど、どんな言葉を持っているかが問われてきます。

クラシックにおける小澤征爾さん、あるいはジャズにおける山下洋輔さんといった、名文家と呼ばれるミュージシャンが、インストゥルメンタルの世界に多いというのは、興味深い現象だと思います。坂本さんもまた「言葉の人」でもありました。

父は伝説の編集者・坂本一亀

坂本龍一さんの父親は、福岡県朝倉市をルーツとする坂本一亀さん。同業者の間ではワンカメさんと呼ばれた伝説の編集者です。僕が学生時代によく読んだものだと、三島由紀夫さんの「仮面の告白」や、小田実さんの「何でも見てやろう」を手がけた、河出書房の名物編集者でした。

その小田実さんが「九条の会」の呼びかけ人になって、行動する文化人として社会運動をやっていきました。後に坂本龍一さんも護憲のスタンスを明確にしていきますよね。こういう面は、父親の影響が強いんじゃないかと思います。

坂本龍一さんの発案で、坂本一亀さんの弟子筋に当たる編集者の田辺園子さんが「伝説の編集者 坂本一亀とその時代」という本を出しています。これを読むと、一亀さんの伝記でありながら、坂本龍一さんの音楽と、彼の音楽的人生の謎を解いていくような面白さがあります。

「スリラー」に入らなかった「BEHIND THE MASK」

YMOの「BEHIND THE MASK」という曲を、マイケル・ジャクソンがカバーしています。ところが、このカバー曲は、あの世界的にヒットしたアルバム「スリラー」に入りかけて入りませんでした。つまり、坂本さんの作曲によるYMOの曲は、世界的な広がりを持つチャンスを1回逃しているんです。

しかし、坂本さんはその後、YMOではなくソロとして、映画音楽の世界を切り口として世界進出を果たすんですね。僕たち後続の日本の音楽業界人にすごく力を与えてくれたし、ロールモデルとしても存在感が大きい。今に例えると、大谷翔平さんのような、生きながらにしてレジェンドっていう感じが、当時教授に関してあったと思います。

映画音楽の巨匠に

メキシコの映画監督アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥが撮った『バベル』という映画に、坂本龍一さんが作った「美貌の青空」等が使われています。イニャリトゥ監督は、元々ラジオDJだったってこともあって、坂本さんの熱狂的なファンでした。

「美貌の青空」は映画のために作られたものではありませんでしたが、その後『レヴェナント』というレオナルド・ディカプリオ主演で、アカデミー賞を獲った映画では、坂本さんを音楽担当として招聘しています。

自分より上の世代にあたる大島渚さんと始まった映画音楽の関わりが、自分より若い世代、しかも海外の映画監督にまで影響を与えて、コラボレーションをたくさん残した。こんな例は、そうそうないかなと思います。

今年5月には、そのイニャリトゥ監督が選んだ坂本龍一さんのベスト盤が出る予定で、そのリリースを待たずしての逝去ということで本当に残念です。また、6月に公開される是枝裕和監督の最新作『怪物』では、坂本龍一さんが音楽を手がけています。

日本映画でも大島渚さん、山田洋次さんから、是枝さんとも組んでいる。そしてテレビの世界でもたくさん活躍していました。坂本龍一さんの作品をいろんな場面で聴くことができるというのは、今を生きる者としてラッキーでしょう。

坂本龍一さんの平和へのメッセージも、今さまざまな形で確認できます。残念な機会ではありますが、改めて坂本龍一さんの功績を振り返ってみたいと思います。

田畑竜介 Grooooow Up
放送局:RKBラジオ
放送日時:毎週月曜~木曜 6時30分~9時00分
出演者:田畑竜介、武田伊央、松尾潔
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※放送情報は変更となる場合があります。

鈴木おさむ“小説SMAP”メディアでの取り上げられ方に言及「テレビの本ですが、やはりテレビでは紹介しにくいわけです」

科学者の茂木健一郎がパーソナリティをつとめ、日本や世界を舞台に活躍しているゲストの“挑戦”に迫るTOKYO FMのラジオ番組「Dream HEART」(毎週土曜 22:00~22:30)。 4月13日(土)、4月20日(土)の放送ゲストは、ベストセラー作家への道を歩んでいる、元放送作家の鈴木おさむさんです。20日(土)の放送では、著書である“小説SMAP”こと『もう明日が待っている』(文藝春秋)の内容や、出版前の裏話などについて伺いました。


鈴木おさむさん



1972年生まれ、千葉県出身の鈴木さん。19歳で放送作家としてデビューし、それから32年間、さまざまなコンテンツを生み出してきました。
2024年3月末をもって放送作家・脚本家を引退。現在は、「スタートアップファクトリー」を立ち上げ、スタートアップ企業の若者たちの応援を始め、コンサル、講演などもおこなっています。
3月27日(水)に刊行した著書『もう明日が待っている』は、発売2日で累計発行部数15万部を突破。同著の著者印税は、すべて能登半島地震の義援金として寄付されます。

またTOKYO FMでは現在、THE RAMPAGE from EXILE TRIBEのリーダー・陣さんとともに音楽チャートラジオ番組「JUMP UP MELODIES」(毎週金曜13:00~14:55)のパーソナリティもつとめています。



鈴木:(『もう明日が待っている』には)「黒林さん」というプロデューサーも出てきます。(本名は)黒木(彰一)さんと言って、54歳でお亡くなりになられた方です。ずっと一緒に番組を作っていて、この(小説の)なかでもマイケル・ジャクソンを(SMAP×SMAPに)引っ張ってきた、すごくファニーなキャラクターの人です。

茂木:あれもすごいことでしたね。

鈴木:そうです。マイケル・ジャクソンを呼んでね。「まぁ、小説だからいいか」ということで、呼んだ金額まで書いているんですけど(笑)。その黒木さんがご病気で、「もしかしたら危ないかも」と思って。だから今回、よりスタッフの話を残したんですよ。

ちょうど、この本のゲラ(※誤字・脱字などのチェックをおこなうために仮に印刷した印刷物)が全部出てきたときに、黒木さんのご病気が少し悪くなって、「会いたい」と言われて会ってきたんです。

それが金曜日だったのですが、(出版元の)文藝春秋に頼んで、ゲラをまとめて表紙を付けて仮の本にして渡すことができたんですよね。たぶん読んでくれて、その夜に「おもしろかったです。ありがとうございます」というメールが来ました。シンプルな文でしたが、メールを打つのもしんどかったと思います。なぜなら、金曜日に読んでいただいて、月曜日の夜にお亡くなりになられましたから。それぐらい体力的にも限界のなかで(本を読んで、メールをくださった)。

茂木:でも、間に合ってよかったですね。

鈴木:そうなんです。それでお葬式に行ったら、娘さんが「うちの父は本を読むのが本当に好きな人で、最後の本がこの本になりました」と言ってくれて。だからそこも含めて、僕らスタッフのなかでも本当に最後に「〇(丸)」を付けることができたというのもあります。

でも僕がおもしろいなと思うのは、テレビのためにずっとやってきて、言ってみれば(『もう明日が待っている』は)テレビの本なんですけど、やはりテレビでは紹介しにくいわけですよ。

茂木:いろいろな事情でね。

鈴木:はい。テレビのランキング番組の“(小説売上)ランキング”に入っているのですが、(紹介されるのはタイトル名と僕の名前)「『もう明日が待っている』鈴木おさむ」だけで、SMAPの「ス」の字も言わない。

それは仕方がないんです。だけど、放送作家が最後にテレビの本を書いて、それがテレビで紹介されないというのもおもしろいし、だからこそ絶対にミリオン(100万部)売れてほしいと思います。

番組では他にも、鈴木さんが今後の目標について語る場面もありました。


(左から)鈴木おさむさん、茂木健一郎



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4月20日(土)放送分より(radiko.jpのタイムフリー)
聴取期限 2024年4月28日(日) AM 4:59 まで
※放送エリア外の方は、プレミアム会員の登録でご利用いただけます。

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<番組概要>
番組名:Dream HEART
放送エリア:TOKYO FMをはじめとするJFN全国38局ネット
放送日時:毎週土曜22:00~22:30
パーソナリティ:茂木健一郎

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